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由樹は酔った頭で、それでも連れてこられたこの場所が、篠崎と住むマンションでもなければ、泊まるはずだったスイートルームでもないとわかっていた。
はっきりと目の前の男が牧村であると認識して、自分に何をしようとしているのかも理解しながら、彼を見上げた。
それでも――。
「俺、篠崎さんのことが、好きだ」
「知ってるよ」
ワイシャツのボタンが外されていく。
その手に、自分の手を重ねる。
「篠崎さん以外とこういうこと、したくない……」
「今更?」
その手を外され、頭の上に押さえつけられる。
抗う手はもう1つあるはずなのに、動かない。
そんな元気もなければ、自分の体に守るほどの価値も感じない。
ただ、今ここにあるのは、誰かに抱きしめてもらいたい空虚な体と心だけだ。
ボタンが全て外され、インナーが引き上げられる。
胸の突起に唇が触れ、チュッと音を立てる。
由樹は目を瞑った。
温かい舌が硬くなったそれを嘗め上げる。チロチロと舌先で刺激しながら、確実にこちらの快感を煽ってくる。
セックスをするんだ。
篠崎さん以外の男と。
そう思うと、抗う気力はないくせに涙が出てきた。
心とは裏腹に上がっていく感度に由樹は諦め荒い息を吐いた。
これ見よがしに牧村がベッド脇に置いた由樹の携帯はまだ鳴らない。
もし鳴ったなら、牧村を突き飛ばしてでも起き上がって飛びついて、篠崎の声を聞ける気がするのに。その弁明がどんなに嘘臭くても、信じられる気がするのに。
由樹は携帯電話から目を逸らすように反対側を向いた。
その顔の向きに合わせて、もう一つの目からも涙が零れ落ちる。
刺激してくる舌はそのままに、もう1つの突起に牧村の指が滑る。
優しく円を描くように刺激されると、由樹は切なさに思わず声を上げた。
「一応聞くけど……」
牧村が突起から唇を外し、由樹を見下ろした。
「お前がネコでいいんだよな?俺はどっちもできるけど」
タチも、ネコも、篠崎から一度も聞いたことがない言葉だ。
当然だ。ゲイじゃないんだから。
そしてこの目の前の人は、
自分と同じ、ゲイなんだ。
振り返っても女性との結婚も、子供を作る未来もない。
目の前の男しか目に入っていない。
ゲイなんだ。
◇◇◇◇◇
散々身体を翻弄されて、目から流れるその涙は、篠崎を想ってのものなのか、快感のために溢れ出したものなのか、わからなくなった。
ここにきて、紫雨の言っていた意味が分かった気がする。
男を抱くテクニック。
“情が込められた愛撫”とは違う。
それはまさに”無駄のない攻撃”だった。
こっちの弱点を探り、ピンポイントで逃げられないように押さえつけられながら刺され、抉られる。
何度も、何度も、何度も。
身をよじっても、「やめて」と懇願しても、けして許してくれないその指は、舌は、唇は、由樹の理性と思考回路を溶かしていく。
牧村の欲を含んだ色気のある瞳がこちらを見下ろす。
彼の雄の瞳を目の当たりにして改めて思う。
牧村は自分に興味などなかった。
自分に汚い欲望などなかった。
言葉通りの叱咤激励しか、彼にはなかった。
そのくらい、自分を可愛がってくれた彼が、肉体を駆使してまで、本気で自分を諭してくれているのだから―――。
もう一度携帯電話を見つめる。
鳴らない。
動かない。
「…………」
ふと思い至って、それに手を伸ばした。
「あ、おい!」
牧村が慌てて取り上げようとするが、サイドボタンを押す。
「……電源が……落ちてる……!」
慌てて長押しをして電源を入れる。
なぜだ。電池は十分に残っていたはず。
「………」
牧村を見上げる。
「……電源、切った?」
聞くと、牧村は2つの由樹の手首をつかみ、頭の上でまとめて押さえつけた。
「あ……!」
手から携帯電話が滑り落ちる。それ牧村が掴み思い切り壁に向かって投げつけた。
壊れたかはわからない。
バスルームの入り口のドアにぶつかって落ち、確認することはできない。
「牧村さん……やめて……!」
身体に力が戻る。
しかしすでにずらされたパンツの脇から、牧村のモノが今にも押し挿ろうと、宛がわれている。
「や……だ……っ!」
閉じようとする膝をグイと開かれる。
「もう遅いって」
牧村の冷静な声が、視線が、由樹を刺す。
「心配すんな。新谷」
入り口に先端が口づけをするように添えられる
「今頃、篠崎さんも、同じことをあの女にやってるよ」
その言葉に生まれた一瞬の隙を狙い、牧村は腰を突き挿した。
『男の気持ちいい場所なんて決まってんだよ』
突かれながら紫雨の言葉を思い出す。
『そこの擦り方も突き方もコツがいる』
「ん……はっ……!あ……ああッ!!」
『だから男に抱かれたことのある男は、抱くのも上手いんだよ』
「ああッ……んん!……はあッ……!!」
由樹は抉られるような快感に耐えながら、左右に首を振った。
手を抑えられているために、逃げられない。
相手の動きを止めたいのに、腰を抑えられない。
一番痛くて熱い部分をピンポイントで抉られる。
苦しくて息ができない。
それが快感だと気付くまでに時間はかからなかった。
先ほどの前戯で痛いほど硬くなっていたソレが、瞬く間に限界を迎える。
「…イ………いっ………!」
「イキそう?いいよ、イッて」
「イキたく……ない……!」
ふっと牧村が馬鹿にしたように笑う。
「篠崎さん以外にはイカされたくないですぅ!みたいな?」
笑いながらも器用に腰を動かしている。
「抗うなよー。どうせ」
その唇が由樹の涙で濡れた耳につけられる。
「1回じゃ終わんないぜ?」
顎を掴まれ唇を強く吸われる。
せっかく手が自由になったのに、力を根こそぎ吸い取られる。
舌が挿入され、口内の空気を全て吸い込まれ、密閉状態になったところで、さらに舌を吸われる。
舌に鋭い痛みが走る。
初めての苦しさと快感に油断したところで一気に体の中心を抉られた。
「んぐ……んんッ、んー!」
舌を吸われたまま達する。
ドクドクと流れ出す液体の温度の高さに自分で驚く。
(………ヤバい。なんだ、こ……れ…)
脱力する身体に絶望しながら由樹が腕で目を覆うと、牧村は体の中心にモノを挿し込んだまま、身体をひっくり返した。
達したばかりで身体に力の入らない由樹は、次に来る痛みと快感に耐えるために、枕に顔を埋める。
「………うっ……」
想像していたよりも何倍も強い刺激が、体内で暴れまくる。
硬度を失う間もないまま、吐き出したばかりのそれがまた硬くなる。
容赦なく牧村の大きな手がそれを握り扱き始める。
「無理……無理だって…え!」
やっとのことで口に出した言葉は枕に吸い込まれていく。
「……今までどんだけ生ぬるいセックスしてきたんだよ」
牧村が、暴力的な快感を与えつつ笑う。
「これからが本番だから。まだ飛ぶなよ…?」
いっそ、意識を飛ばしたい。
それなのに飲んでしまったアルコールのせいで、肝心なところで鈍感になっている脳の一部が、意識を飛ばしてくれない。
由樹はバスルームの前で震えながら光っている携帯電話を眺めた。
もう自分はあの電話に駆け寄れない。
何もなかったように応対なんてできない。
きっと必死になって自分を探してくれている彼の元には、
もう、戻れない。