その恋に未来なんてあるの?
なんて、俺だって奏ちゃんとの関係に100%の自信なんかあるわけないのに余計なことを言ってしまった。
「響、言い過ぎだよ」
あさ美に叱られる。
「あ〜本当に今のはすみません…相沢先輩ごめん、言い過ぎた俺」
俺は謝った。
「別にいいよ…図星つかれて参っただけ…」
相沢先輩は言ったが…。
あー泣かせちゃった。
気まずい、女を泣かせる男は最低だ。
あさ美がハンカチを相沢先輩に渡す。
「でもね逆に聞くけど。響くんはさ、藤村くんが浮気したとしたら諦める?離れられる?」
相沢先輩の反撃が始まった。
涙目の奥には少しの怒り。
そりゃそうだ、俺が悪い。
「俺、浮気とかしないよ」
奏ちゃんが空気を全く読まずに言う。
「コラ!奏ちゃん!」
何故か俺が叱るが奏ちゃんはキョトンとしている。
「…相沢先輩、この2人に聞いても無駄ですよ…」
「そうね、あさ美ちゃん…あたしが間違ってたわ」
俺達だけが特別なんてことはない。
いつだって人の心が変わるのは一瞬だ。
「先輩、もし奏ちゃんに他に好きな人が出来ても俺は諦められないと思う」
「響くんもあたしと一緒じゃない」
「だけどそれを見ないフリをして一緒に居ることは出来ないよ。問い詰めてダメになったとしても、みっともなくても奏ちゃんの心を繋ぎ止められるなら必死で追いすがるよ。俺だけを選んでくれって」
「それでも選ばれなかったら?」
「泣いてすがるよ」
「それで嫌われたら?」
「諦めて一人で生きる」
相沢先輩が黙る。
想像しただけで泣ける。奏ちゃんとの恋に終わりがくるなんて。
自分の気持ちになのか、相沢先輩にもらい泣きしたのか分からないが俺まで涙が滲んできた。
「やめてよ、響。響を一人になんてするわけないじゃん」
何故か奏ちゃんまでが涙目で俺の背中をさすってきた。
「ちょっと3人とも何なのー!泣かないでよぉぉ!
話が脱線してるから!」
ひとり冷静なあさ美がおろおろして言う。
「それでもね、自分を偽ってでもね、私は一緒にいたいの。あの人と」
相沢先輩が目を赤くして言った。
「それずっと苦しいだけだぜ?あんたのそのままを愛してくれるヤツと恋愛しろよ。あんた、顔もまあまあ綺麗だしそこそこ良い女なんだからもったいないだろ!」
俺はつい声を荒げてしまった。
四人とも黙ってしまう。
「響はさ…」
奏ちゃんが話し出す。
いざという時に頼りになるんだ、奏ちゃんは。
「相沢さんのことを綺麗だと思ってるんだ…」
はぁっ!?そこじゃねぇぇぇ!
何聞いてたんだ、奏ちゃん!
「ごめん、奏ちゃん。ちょっと黙ってもらって…」
「あはははは!」
泣いていた相沢先輩が爆笑する。
「ちょっと…面白すぎる藤村くん…お腹痛っ笑い過ぎて…」
「ちょ…あたしもダメです、この2人…結局惚気てるだけだし」
あさ美まで笑い出す。
「藤村くんに至っては、あたしの恋愛話に全く関係ないことしか言ってないんだけど…」
「え?俺そうだった?ごめんね、相沢さん…」
空気読まな過ぎ奏ちゃんが申し訳なさそうにしている。
「まぁ、二人見てたら本当に羨ましくなっちゃった。響くん、ありがとう」
何故か相沢先輩に礼を言われる。
「あたし、ちゃんと話し合うわ。彼と。」
「うん、それが相沢先輩らしいと思いますよ」
俺が言うと相沢先輩は笑った。
「まぁ、完璧に振られたらさ、皆で桃香を励ます会してよ」
「もちろん!でもあたしは全力で相沢先輩を応援してますからね!彼氏さんと上手くいきますように」
「俺と奏ちゃんは遠慮しときます」
「ツンデレだなぁ、響くん!」
「ちょっとトイレ行ってきます」
敵が座っているのは俺達の席から死角。
角を曲がってトイレへ向かう。
相沢先輩の彼氏(仮)と女友達(仮)が座っている席を通り過ぎる。
楽しそうに親しげに話し合う二人。
それ、絶対レポートの話とか嘘だろ。
紙一枚も出てねーじゃねぇか。
これは、桃香を励ます会の準備に今から取り掛からなくてはいけないのかと俺は大きくため息をついた。
「じゃあ、今日はみんな本当にありがとう」
ファミレスを出ると相沢先輩がそう言って、あさ美と二人で帰って行った。
「大変だなぁ、恋愛って」
「奏ちゃん、何でそんな他人事なのさ」
「いや、俺は響と一緒に居て楽しいしかないからさ」
「奏ちゃん…可愛いこと言わないで。帰したくなくなるから…」
「俺もまだ響と一緒に居たい」
「あ、今日母親が仕事の飲み会で帰るの遅いんだ!奏ちゃん、うちにちょっと寄っていかない?」
「いいの?じゃあちょっとお邪魔しようかな」
人けが少なくなったところで俺達は手を繋いで歩く。
公に出来ないこの関係も奏ちゃんに愛されているなら全てが幸せ。
今日も夕日が綺麗だ。