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──三月。
校舎の周りの桜が、淡いピンクの花を咲かせていた。
春の光は柔らかく、校庭を包む風もどこか穏やかだった。
今日は卒業式。
遥人の隣に立つと、少し緊張する。
制服や髪を整えながら、
ふたりで過ごした一年を、ふと思い出す。
遥人と再会したあの日、 夏祭りの夜、文化祭、冬の放課後。
すべての時間が、胸の奥にそっと積み重なっていた。
「紬、桜、綺麗だな」
先輩が小さく笑った。
「うん」
式が始まり、歌や証書の授与の合間、 周りのざわめきの中で、手をそっと握る。
人目を気にしなくてもいい距離で、 一年を共に歩んだ証を、確かに感じた。
式が終わり、校庭に出ると、桜の花びらが風に舞っていた。
「一年間、ありがとう」
「こちらこそ…遥人」
笑い合いながら、肩を寄せて歩く。
花びらがひらひらと舞う中で、
何気ない放課後のように、ゆっくりと時間が流れた。
「来年もまた一緒に歩こうな」
「はい」
春の光の中で、 一年間の小さな思い出が、未来へと続く道を照らしていた。
この一年が終わり、新しい季節が始まる。
だけど、ふたりの時間はまだ始まったばかりだった──