テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「流石にそれは緊張するからいいわ」と断っておいた。ずっと彼女がおらん俺からしたら、金髪美女なんて目の前に現れたら、未経験の高校生並みにしどろもどろになるのは目に見えてるからな。
それにしても、結局呼び出された本当の理由は何なんやろ。
このままふんわりした空気のまま帰るのも、なんか気持ち悪い。
「……今日、もとちゃんは? 仕事やったん?」
ほんまは、くうちゃんとゆうとも誘ったんか聞きたかった。というか、なんであの二人がここに来てへんのかが、気になって仕方ない。
「うん、もとちゃんはちょっと仕事で遅くなるから、多分間に合わんって。で……くうちゃんは、ちょっと体調悪いというか」
「え! どうしたん!? 風邪!?」
なんや、ゆうととのことが原因で気まずくて来られへんわけじゃなかったんや。
良かった……と思いたいけど、体調崩してるなら全然良くない。
「いや、ちゃうねん。……仕事とか色々無茶してたみたいで、身体休めるために有給取ってるらしいわ。『何もやる気起きひんからしんどい』って」
「え、そんなん……大変やん! 俺、手伝いに行ったら迷惑かな」
「え、はんちゃん行ける? 俺らもお見舞い行きたかったんやけど、ほら、俺料理下手やん? 『料理も作れんやつが来て何の役に立つねん!』てくうちゃんに怒られてさ。新も卒業してから疎遠やし、家事とか得意なはんちゃんに頼んだ方がええかなって思っててん」
「……え、もしかして今日呼び出したんって、それが理由?」
「……そう、やねんけど。はんちゃんも仕事とか私生活とか忙しいやん? やから、無理に押し付けるのもちゃうなって。もし行けそうなら、なんとなく頼もうかなと思って」
「え、俺、特になんもないで? 仕事も定時で終わるし、土日きっちり休むし。心身ともに健康やしな!」
「……付き合ってる人は? 怒られへん?」
さっきまでじっと話を聞いていた新が、ポツリと呟いた。
え、そんな真剣な顔して、どうしたん。
「……友達んち行くだけやのに、怒られるも何もないんちゃう?」
なんかおかしくなって、吹き出してしもた。
なんで友達の生活の手助けしに行くのに、恋人の許可がいるんよ。
それに、そもそも俺に恋人なんておらんし。
「……そうやんな。ごめん、おかしなこと聞いて」
「じゃあ、くうちゃんに伝えとくわ。時間が空いてる時でええから、ご飯だけでも作りに行ったって。デリバリーの、味が濃いご飯は飽きたし、破産するって嘆いてたからさ」
「ふふっ、わかった。任せといて」
♢♢♢
帰り道。
嬉しさよりも、後悔が勝っていた。
行くのはいいけど、もしゆうとと鉢合わせたらどうしよう。
ゆうとは土日、絶対仕事やから……その日に合わせて行った方がええよな。
付き合ったばっかりやし、ゆうとに全部手伝ってもらうのも気が引けるんやろうな。二人とも優しい人やから……。
その夜、俺は震える指で、くうちゃんにメッセージを送った。
よかった、今日しゅうたたちに会えて。おかげで、くうちゃんと友達に戻れるキッカケができた。ほんま、俺にとったら秀太が神様やな。新も大吉引いてたし、ほんまにご利益ご利益。神様ありがとう。
『秀太に聞いたよ。体調大丈夫? 土曜にご飯作りに行くわ』
送信してから、心臓の音がうるさくて落ち着かない。十分ほど経って、ようやく返信が届いた。
『ありがとう。でも無理せんでええよ』
……あぁ、そっか。
さっきまで浮かれていた自分が、急に情けなくて悲しくなる。
くうちゃんはもう、俺を求めてないねんな。だって、ゆうとがおるんやもん。夜まで待てば、ゆうとが帰ってくるんやもん。
泣きそうやった。当たり前に友達に戻れると思ってた。でも、もうあの優しかったくうちゃんと、前みたいに笑い合うこともできひんねんな。
そうやって絶望の淵に沈みかけた、その時やった。
ピコン、ピコンピコンと 連続して鳴り響く通知音。え、何? 何連発くんの? スマホバグった?
「……ほんま、くうちゃんは食いしん坊さんやなぁ」
慌ててメッセージを開くと、そこには何枚ものレシピのスクリーンショットが並んでいた。
メインに副菜に、デザートまでしっかり入っている。これ、全部作れってことなんやな。
しゃあないな、親友のために一肌脱いだるか。
鼻の奥がツンとして、嬉しさと切なさが混ざった涙が溢れて止まらんかった。
『任せとけ』
一言そう送ると、あざとい犬が「お願い」って首を傾げているスタンプが一つ返ってきた。
現金なもんやけど、俺はそれだけでも今、ほんまに幸せなんよ。
♢♢♢
「はぁんちゃん。なんかええことあったん?」
翌朝、オフィスに響く陽気な声。
「んふふ、なんも」
「ぜぇったい嘘! 俺、はんちゃんのことならなんでもわかるんやからな!」
今日も朝から上重がうるさい。ああ、なんていい一日の始まりなんやろう。
「そや、俺、土曜にはんちゃんとデートしたい!」
はあ!? 今なんて言うた? デート?
いやいや、俺、その日は何よりも大切な先約があるねん。
「先週も飲みに行ったとこやろ。また今度な」
「いやや、絶対行く! メッセージの意味も教えるから!」
「うぐっ……それは確かに気になってるけども!」
弱みに付け込むような提案に、俺の心は揺れる。今、自分にとってどっちが大切か見極めなあかん。
「……日曜日は? それやったら一日中空いてるけど」
「え!? 俺に一日中くれんの!? うれぴこ!」
「うれぴこ!って……。三十路前が何言うてんねん」
#BL