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「うわ! 悔しい! はんちゃんの方が俺より半分可愛かった!」
「半分てそれ、上重より可愛くないって事やんな?」
二人で笑い合って、張り詰めていた気持ちがふっと和らぐ。
良かった。こっちの友達も嬉しそうで何よりやわ。二人とも、大事にできて良かった。
♢♢♢
『くうちゃん、もうすぐ着くよ』
よし、メッセージは送った。緊張は……してへん。もう、気持ちの切り替えはできた。
もし、くうちゃんの家に何か「ゆうと」の痕跡があったとしても、絶対に動揺せえへん。今はその自信がある。
「……え、何してんの?」
「……待ちきれん過ぎて出てきた」
「ふふっ、なんで? 待つにしても普通、家の玄関やろ」
マンションの前に見覚えのある大きな人影がおるなと思ったら、くうちゃんが立っていた。
スウェット姿で、髪も寝癖がついたまま。この前のパリッとしたスーツ姿とは正反対やけど、そんな姿のくうちゃんにさえ、俺は相変わらずキュンとしてしまう。
「ご飯以外はできてるん? 俺、なんでもやるつもりで来たし、なんでも言うて」
「……まぁ、元々片付けはしてたし、そこまで酷くはないと思う。洗濯もゆっくり時間かけたらできるし。でも、食欲は……ないかなぁ」
少し力なく言ったくうちゃんの横顔を盗み見る。
ほんまや。ちょっとげっそりしてるみたい。会っていない一ヶ月、仕事で無理しとったんやろな。ゆうとに気持ちを伝えたくて頑張って、全部やりきって、疲れ果ててしまったんやろうか。
「そこは任せて。俺、いっぱい練習してきたし」
「……わざわざ練習してくれたん?」
「当たり前やろ。くうちゃんに美味しいもん食べて元気になって欲しいもん」
「えー……なんか泣きそう」
そう言ったくうちゃんの目は、今にも涙が溢れ出しそうで。
ほんまに辛かったんやなと思ったら、こっちまで泣きそうになった。
「冷蔵庫、借りるね」
「うん、……こないだ、もとちゃんが心配して来てくれてんけど、ほんま、あいつなんも出来んくてすぐ追い返した」
「え? せっかく来てくれたのに?」
「でも、見舞い金と食べ物は受け取っといた。優しいやろ? 俺」
「なんか、くうちゃん違う方向に病んでもうてんねんけど。ロックンローラーやな」
「今なら自分勝手な事、なんでも出来る気するわ」
「ほんま、やめとき。くうちゃん、友達以外もなくすで」
ははは、と力なく笑いながら、くうちゃんがベッドに沈んでいく。
きっと、俺が来るから元気なふりをしてくれてたんやな。
そんなしんどい時くらい、ほんまにわがままな性格になったってええんよ。
「……お仕事頑張りすぎたん?」
ベッドの脇に腰を下ろし、くうちゃんの顔をじっと覗き込む。
本当なら、その細い指先を握りしめたり、乱れた髪を優しく撫でたりして、彼が心の底から甘えられることをしてあげたい。でも、今の俺にそれは許されない。せめて話を聞くことくらいしかできないのが、もどかしくて仕方がなかった。
「……うん。ちょっと、色々ありすぎた」
「そっか。よく頑張ったね。えらいえらい」
「……今日は甘やかしてくれへんの? 俺のこと」
そんな潤んだ瞳で見つめられると、胸がぎゅっと締め付けられる。
俺だって、甘やかしてあげたい。彼の沈んだ気持ちが少しでも晴れるなら、なんやって……。
けど、ゆうとがいるなら、それは俺の役目じゃないはずや。
「……美味しいご飯いっぱい作ったるからな。元気出してな」
「……うん。ありがとうね、来てくれて」
真っ直ぐに俺を射抜くような視線。抑えていたはずの感情が、溢れ出していく。
あかん。俺、やっぱりくうちゃんのことが好きや。今すぐ抱きしめたい。ゆうとから、強引にでも奪いたい。
理性が警鐘を鳴らしているのに、体は磁石に吸い寄せられるように、ゆっくりとくうちゃんの方へ傾いていく。
止めな。ただでさえ、くうちゃんの精神状態が不安定な時やのに。弱みにつけ込むような真似だけはしたくない。
「……はんちゃん?」
「あっ……お腹すいたな! 急いで作るわ。くうちゃんはゆっくり寝てて?」
あっぶな!! 今、くうちゃんにキスしてしまうところやった。弱ってる友達相手に修羅場引き起こしてどうすんねん。俺、よう耐えたな!
這うようにキッチンへ向かい、冷蔵庫から野菜を取り出す。体が弱っているからか、リクエストされたレシピには野菜がたっぷり使われていた。そりゃ、こんなに手間のかかるメニュー、デリバリーじゃ無理やな。
「……くうちゃん? 今、包丁使ってるから危ないで?」
突然背中に、ぎゅうっと温もりが伝わる。
……これ、デジャヴか。バレンタインの夜も、こんな感じやったな。
「いやや! 今日ははんちゃんに甘えるって決めててん!」
「ふふっ……もう、甘えん坊さんやなぁ」
胸が苦しい。心臓がうるさすぎて、何度も練習して叩き込んだレシピが頭から全部吹き飛んでしまった。どうしよう。俺、このままやったらほんまに手を切ってしまいそうや。
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ruruha
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