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風が変わったのは、夜明け前のことだった。観音埼灯台はその気配に真っ先に気づいた。
「……何か、変だよ。」
いつもなら潮の匂いに混じって届く仲間たちの声や気配。
それが、この日は――ない。
「神子元島、部埼……ちょっと、来て!」
観音埼の声に、薄明かりの中から神子元島灯台が顔を出す。
部埼灯台も、無言で歩み寄ってくる。
「……やっぱり、おかしいな。烏帽子島も、白州も、剱埼も……全部、いない。」
神子元島は静かに目を閉じ、海の気配を読み取ろうとする。
「消えてる、ね……。風の流れがいつもと違う。島影も、灯りもない。」
「…………」
部埼は黙ったまま、懐中時計を取り出し、蓋を開ける。
針はいつも通りを刻んでいる。だが、何かが、確かに違っていた。
「何が……起きてる?」
観音埼が不安げに呟いたそのとき、空気を裂くような音が響いた。
ドン――――!
遠く、海の向こうから重たい衝撃音が届いた。
「……西からだ。」
神子元島の声は確信に満ちていた。
「何かが、来てる。」
部埼が静かに言った。
「向かわないと……俺らの仲間を、取り戻すために。」