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夢境輪廻
―――夢を見る。
真っ暗な空間に、白い十字架の瞳孔している女性がこちらをじっと見ているだけの画が。そして決まって彼女が炎に包まれ溶けるところで目が覚める。
―――今日もそうである。仮眠程度に寝たらこのザマだ。
もしかしたら、書庫に『夢』に関して何か書いてあるかもしれない。地下室に行こうか。
「―――当主様。お目覚めですか。お召し物はこちらにございます」
侍妾が部屋に入りそう説明する。名は神田だ。
「……ああ、ありがとう…ん?何故礼装なんだ?」
「何故って…お忘れですか?本日は源家に御訪問が入っているはずですが」
「……そういえばそうだったな…ありがとう。私はもう行かなければならないから朝餉の準備はなくて大丈夫だ」
「かしこまりました」
***
「やあ。煌神さん。さっきぶりだね!夢見はどうだった?」
「……最悪だった」
「っはは。そうだろうね。さて今日はそのことについて話そうと呼んだんだ。さ、上がって上がって」
そう言われ中に入る。源家は意外に現代風だ。立花家や神楽坂家よりは。
「光。姫と出かけておいで」
「おう!」
完全に二人きりで話したいらしい。二人が出かけたのを見たあと、話が始まった。
「―――地下室には行ってる?」
「……数回程度しか」
「そっか…じゃあ探すのも面倒くさそうだし、僕から話しちゃうよ」
一体どういうことだろうか。源家は知っていて立花家は知らない…書庫を見れば何かはわかるのだろうが。
「従来の立花家は『夢』というのを見なかった。ところがある大正初期を始め立花家に産まれたものは次々に夢を見ていった。そしてとある立花家当主は『夢境』を繰り返して、死んだ。これはある種の病だと考え、彼らは『夢境輪廻』と名付けた」
「夢境輪廻…」
「そう。今の煌神さんもかつての当主のようになりかけている。まあ、このまま見続ければ死ぬだろうけどね」
「……そうですか」
あまり驚かない。落ち着いて分析してみればこの夢見が良くないことくらいわかる。まあさすがに死ぬまでとは思っていなかったが。
「あんまり驚かないんだね」
「ええ。その夢境輪廻について詳しく知りたいところだ」
「そうだね……詳しくは地下室を探るのがいいんだろうけど在処は分からないからね。僕の方から簡単に説明でもしておくよ」
―――夢境輪廻とは、立花家当主しか表れない症状らしい。
とある昔…立花家は祓い屋ではなかったという。しかし霊力の持った者と結婚してからその『夢境輪廻』は始まったとされている。
見るのは決まって立花家当主のみで、見る夢も元の当主がぽつりといるだけだという。
夢境を見続けると、記憶力の低下、体力の低下、失明、難聴…などたくさんの症状が少しずつ表れるらしい。これを病気と捉え、立花家側近の人々は『夢境輪廻』と名付けた。
「―――と、ここまで話したけど何か気づくことは無い?」
「気づくこと…まさか、私の母のことを…」
「さすが学年三位だね」
ここで嫌な記憶を思い返される。今学期の定期テストはまだなので前回の結果を言われる。何とも最悪なことだ。
「私の母も…よく寝ていた。つまりはその『夢境輪廻』というものなのだろうな」
「ご明察」
「……前々から疑問に思っていたが、何故よそ者であるお前が私の家系について知っている?…裏切り者であれば今すぐここで殺す」
右手が疼いた。つまり、今すぐにでも殺せる合図だ。
「…そんなわけないだろう?僕はただ、少し知っているだけだよ。多くは僕の母から聞いた事だ」
「……本当だろうな」
「もちろん。母親が君たちの両親ととても仲が良かったからね。これくらいは知っているものだよ」
そう、ニコリと笑うがどうもこの笑みだけは怪しさが増す。
「さて、今日はもう終わりにしよう。これから任務が入ってるからね」
「…内容は」
「ああ、君の思ってる異質怪異では無いと思うよ。まあ、でも…そうだね。これを渡しておくよ」
渡されたのはヘッドセットだ。とはいっても霊力が込められているようだが。
「これで会話をすると」
「うん。じゃ、よろしくね」
「はあ…?」
グイグイと押し出されてしまった。仕方がないので家に帰ろうと思ったがその前に水城神宮に行かなければならないのを思い出し先寄ることにした。
「 」
……夢境輪廻とは、想い人に恋情を抱いた故に夢の中ではと作り出した夢の境界のことである。
その張本人はすぐ近くにいるものである―――