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第一章:お揃いの青(凪の視点)
「ほら、怜。これお揃い!」
放課後の柔らかな西日が差し込む教室で、俺はカバンから二つのキーホルダーを取り出した。透き通った青色の、小さなクジラのチャームだ。
怜は一瞬、弾かれたように肩を揺らしたけれど、すぐにいつもの静かな笑顔に戻ってそれを受け取った。
「……ありがとう、凪。綺麗だね」
「だろ? 雑貨屋で見つけてさ。俺たちの名前、どっちも水に関係してるし、ぴったりだと思って」
俺が怜の肩を組むと、クラスの連中が「またお熱いねー」なんて笑いながら通り過ぎていく。うちのクラスは本当にいい奴らばかりだ。怜みたいな大人しい奴も、俺みたいな騒がしい奴も、みんな仲が良い。
「ずっとつけてろよ。俺、絶対なくさないからな」
「うん。……僕も、絶対になくさないよ」
怜の声が少しだけ震えていた気がしたけれど、俺はそれを「喜んでくれているんだ」と信じて疑わなかった。
第一章:踏みにじられた青(怜の視点)
凪が教室を出ていった瞬間、世界から光が消えた。
さっきまで凪の腕が触れていた肩を、冷たい感触が上書きする。クラスの「いい奴ら」の顔が、一瞬にして醜く歪むのを、僕は慣れた手つきで受け入れた。
「おい、見せろよ。光にもらった『お宝』」
さっきまで凪と笑い合っていた主犯の男が、僕の手からクジラを奪い取る。
床に投げ捨てられた青いガラスを、土足のローファーが力任せに踏みにじった。パキッ、と乾いた音がして、僕の心の一部も一緒に砕ける。
「……っ」
「おい、声出すなよ。凪にバレたらどうなるか、わかってるよな?」
わかっている。凪は正義感が強すぎる。もしこれを知ったら、彼は迷わず僕を助けようとして、この歪んだクラスの全てを敵に回すだろう。
凪の居場所を奪いたくない。凪の信じている『綺麗な世界』を壊したくない。
僕は震える手で、粉々になったクジラの破片を拾い集めた。
手のひらに鋭い痛みが走る。でも、この痛みのおかげで、凪の前でだけは「友達」の顔を維持していられるんだ。