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第二章:誘いと拒絶(凪の視点)
「なあ怜、今日うちで新作の格ゲーやろうぜ! 攻略本も借りてきたんだ」
終礼が終わった瞬間、俺は怜の机に駆け寄った。
最近、怜はなんだか忙しそうだ。誘っても「塾がある」とか「用事がある」とか断られることが増えた。幼馴染として、少しだけ寂しい。
「あ……ごめん、凪。今日も、ちょっと……」
怜が言いかけたその時、後ろからクラスの中心メンバーの佐藤たちが声をかけてきた。
「あー、凪。怜、今日は俺らと図書室で勉強する約束なんだよな?」
佐藤が怜の肩に親しげに手を置く。
「なあ、怜?」
「……え、あ。……うん。そうなんだ」
怜の声は小さかったけれど、俺は「なんだ、佐藤たちと勉強か!」と安心した。
佐藤はクラスのムードメーカーで、俺の親友の一人だ。怜がクラスに馴染めていないんじゃないかと心配してたけど、杞憂だったみたいだ。
「なんだよ、水臭いな! 佐藤、怜のことよろしく頼むぜ。あんまりしごくなよ?」
「おう、任せとけって! 凪も部活頑張れよな」
俺は笑って手を振り、部室へと向かった。
あいつら、意外と気が合うんだな。いいことだ、と鼻歌混じりに。
第二章:放課後の図書室裏(怜の視点)
凪が教室から消えた途端、肩に置かれた佐藤の手が、万力のように強く食い込んだ。
さっきまで笑っていた佐藤の目が、蛇のように冷たく、濁る。
「……光くんに甘えすぎなんだよ、お前」
耳元で囁かれた声に、全身の血が凍りつく。
「勉強」なんて、嘘だ。凪に怪しまれないための口実でしかない。
連れて行かれたのは、人気のない旧校舎の裏。
冬の冷たい風が吹き抜ける場所で、僕はコンクリートの壁に叩きつけられた。
「おい、これ。凪にバレないように書き直せ」
渡されたのは、佐藤たちのぐちゃぐちゃなノート。
僕のノートを写すんじゃない。僕が、彼らの代わりに「彼らの筆跡を真似て」全部埋めるんだ。
「凪、あいつ本気で俺たちのこと『仲良し』だと思ってんのな。笑えるよな、お前が裏でこんな顔してるって知ったら、どんな顔すんのかな」
佐藤が僕の顎を、土足のつま先でクイと持ち上げる。
僕は何も言わず、ただ震える手でシャーペンを握りしめた。
「……凪には、言わないで」
「あ? 当たり前だろ。お前が言わな きゃ、凪は一生『幸せな王子様』でいられるんだから。……それとも何? お前がぶち壊すか、あいつの幸せを」
できない。
凪のあの、曇り一つない笑顔を守るためなら、僕はいくらでも「勉強」の代行でも、肉の盾にでもなる。
凪が僕を見て笑ってくれる。その数分間のためだけに、僕は残りの二十三時間を地獄で過ごす。
それが僕の、たった一つの、歪んだ「愛」だった。