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緑谷出久

幼少期、無個性と罵られ続けた結果、精神が耐えきれず心が砕けた。

それを隠すかの様に表情と言う名の仮面を着けるようになり、そんな周りの環境下で育った結果、自分は要らないのだと悟った。

死ぬために図書館へと通いつめ、小2で既に高校生レベルまでの語学力、理解力を身に付けていた。

死柄木弔に拾われ、敵として活動できるようにAFOから個性を譲渡される。

個性【粒子操作】

自身から黒い粒子を生成し変形や硬質化することが出来る。

生成する際に体力の消耗が伴う。

(出久に与えた結果)

硬質化の急激な硬度上昇に加え、粒子を通しての物質干渉が可能になった。

粒子を物質に溶け込ませるため必然的に生成(体力を消耗)することになる。

敵名『ブラッド』

black blood

殺した死体から黒い血が流れ、闇に包まれた様な異常な殺人現場から名付けられた。

精神に異常をきたす者まで出たらしい。


死柄木弔

出久大好き。

妹の様に可愛がる姿が目立つが、ヤるとこまでヤっちゃってます。…ロリコン?


黒霧

緑谷出久を年頃の女性として認識。

好意は持っているので優しく対応してる。

ヤるとこまで(愛割)


AFO

出久を女性として扱ってる。

賢く、信頼度が高いので重要な任務を任せる事が多い。秘書的なポジション。

ヤると(愛割)


爆豪勝己

出久からの幼馴染認定がとれず、気持ちを伝えようとするが日頃の行いから勘違いされまくりw



出久愛され、信頼度抜群。

個性強いけど、他の人だと頭パンクするレベルの個性の使い方してる。

一般人の時→明るい性格で小心者。目が生きてる。

敵の時→サイコパス。目が歪んで濁ってます。








深夜の街中を歩く黒い人影があった。

黒いマスクを身につけ、黒いパーカーに黒いミニスカートの少女。スカートから見える生足にはべっとりと返り血が大量についており、良く見ればパーカーなどの衣類にも血がこびりついていた。

ひっそりと佇む三階建ての建物の一部屋。『open』と書かれている馴染みのbarの扉を少女が開く。

「いっらっしゃいませ。…お疲れ様でした、緑谷出久」

「お疲れ。イズク」

「ありがとう。黒霧さん、弔君。今日は結構有名なヒーローを殺せたよ」

「そっか…じゃあ後で可愛がってやる」

「ふふっ、それは弔君がしたいだけでしょ?」

ソファに寝転んでいた死柄木が起き上がり、通りすがろうとしている出久の腕を掴もうとするが、あっさりとかわされた。

「…いいじゃん」

「はいはい、じゃあ後でお相手しますよ」

まるで拗ねた子供の様にそっぽを向く弔に、出久は苦笑しながらも要望に応じた。

フードを取ると癖っ毛で長髪の黒髪が零れる。

マスクを取りながら出久がカウンターへ座ろうとすると

「緑谷出久、返り血だらけではないですか。先にシャワーでも浴びてきてください。着替えはありますね?」

「…本当ですね。気づきませんでした。じゃあ、ちょっと浴びてきます」

出久は自身を見てから奥の扉へ向かう。

「あー…イズク。先生が呼んでたぞ」

「何の用事でしょうか?」

出久は首を傾げる。それに弔も肩をすくめて見せる。

「さあ…?知らない」


着替えとシャワーを終えた出久は、黒霧に頼んでワープで先生の部屋の前に行く。

黒霧は終わったら呼んでくださいと言ってワープを閉じた。

コンコンコン

「先生、出久です」

「入っていいよ」

扉を開ける。薄暗い部屋の中、一人の男が機械の椅子に座っていた。男の目の前には画面が複数設置されており、その回りには大型の機械。機械からは管が延びており全て一人の男に繋がれている。この機械たちはこの男、AFOこと先生のための治療機器だ。

先生は五年前のオールマイトとの戦いで顔の上半分、目、鼻、耳が使えなくなってしまった。けれど、今は複数の個性を使うことでそれを補っているのだ。

「先生、ご用とはなんでしょうか」

「その前に…」

AFOが手で此方に来るように促す。出久もそれに従い、側に行くと更にAFOは膝へと促す。出久は少し躊躇いながらも、AFOと対面するようにAFOの膝を跨いで腰を下ろす。

「毎回、この姿勢になる意味がわかりません」

少し、恥ずかしがりながら出久が不満を洩らす。AFOはその様子を楽しむように口角を上げて微笑んだ。

「それは勿論、僕が楽しむためさ。それ意外に何がある?」

「……先生はロリコンでしょうか?」

「これだけ長く生きていると、女性が僕より年下になるからロリコンにならざるをえないね」

「…愚問でした。何も言えません」

「ふふっ、今一番好きなのは出久だからね…見た目から判断した結果、ロリコンでも構わないよ。それに、信用も十分してる。可愛い教え子であり、最愛の女性だよ」

「…女性と見てもらえて嬉しいのか、よく分からないです。でも、ありがとうございます。…それで、用件をお話しください」

「ああ、…………、………………………。」

「了解しました。その様にします」

「オールマイトもこの雄英に教師をしに来るようだ。十二分に注意して行くんだよ」

「先生をそんな風にしたオールマイトは憎いですが、殺気を隠すのには自信があるのでご心配なく…」

「やはり、君が一番よく使えるね」

「それは…、どちらの意味でしょうか?」

足から腰へと手を這わせていたAFOの腕を掴む。

そして、その手を自分の顔の近くまで持っていき、頬を擦り寄せる。同時にAFOの膝に挟んでいた太股を動かし、腰を浮かしてAFOと自分の体を近づかせ、意地悪そうな表情を浮かべながらAFOを上から見下ろす。

それに気分を良くしたAFOはゆっくりと出久の顔を近づけさせる。

「……もちろん。『どちらも』だよ」

「ふふっ、後で弔君との先約もあるので程々にして下さいね?」

「…まったく、いけない子だね」




交わる二つの影を画面の光だけが照らした。







……………………………………………………

「ねえ、かっちゃん」

「あ”?なんだよ、デク」

終礼を終えて帰ろうとする爆豪を出久が呼び止める。

「かっちゃん。この間、告白されたのを断ったでしょ」

「なっ!?なんで、てめえが知ってやがる!」

「やっぱり…はぁ、かっちゃんみたいな人には彼女を作って人の大切さを身につけて欲しいんだけど?」

「おい。どういう意味だ」

かっちゃんが、睨み付けてくるが構わない。

「かっちゃんも雄英に行くんでしょ?だったら人を思いやる気持ちは十分ヒーローとして重要なことだし、それを抜いても将来的に素敵なことじゃないか」

「……」

無言で此方を睨んでくる爆豪に呆れる。

「…聞く気がないんだね」

「あるわけねぇだろ!てめえがいるのに女なんかつくるかっ!」

爆豪が怒りながら歩いて帰っていく、その際に教室の扉を乱暴に閉めた。

そんな様子を見ていた出久は「またか」とでも言いたげにため息をつく。

「まったく、僕のせいにしないでよ」

「…出久ちゃんって鈍いって言われない?」

「…?いや、多分言われたことないと思うけど」

「…そっか」

クラスメイトは爆豪にちょっとした憐れみを感じながらも緑谷だからしょうがない、と下校した。

クラスメイトが変なことを聞いてきたけど、重要な話じゃ無さそうだったので直ぐに忘れた。

それよりもさっさと家に帰って宿題を終わらさないと。今夜の敵活動に支障がでてしまう…と言っても今夜は有力な個性の敵をリサーチするだけの簡単な作業だ。

当面の僕の仕事は弔君達のバックアップ。その為に雄英にスパイとして潜り込むように先生から直々に命令された。雄英の信用を落とすための情報の横流し、加え、有力な個性の持ち主を此方側へ出来ることなら引き込んで欲しいとのことだ。ならば潜入先はヒーロー科、雄英が最も力を入れ、未来に期待を寄せる子供達が一クラスに集まる。そんな子供が堕ちれば雄英の教育環境が疑われ、敵としても強力な駒が手に入る事となる。

それまでは雄英に受かる為、勉学に励むしかない。

出久は敵としての行動を再確認しつつ下校した。



「…何?」

下校中の道の下から何か気配を感じるがよく分からない。

気配は移動しているようで地中を潜っているにしては早い。

出久は周りを見待たし観察する。そして、その正体とその移動速度は何故なのか出久は瞬時に理解した。

「下水道かっ!」

分かった直後、マンホールから液体状の敵が飛び出してきた。


液体は面倒なので飛んで距離をとる。

それと同時に敵の姿を目視した出久は汚物感に顔を歪ませた。

「うっわ、ヘドロみたいになってるんですけど…それは、下水道を通ってきたからですか?」

思わず質問する。逃げてきてヘドロみたいになったのだったらちょっと可哀想だなと思ったのだ。

「隠れ…ミノ。Mサイズの隠れミノ…寄越せ!」

「質問に答えて下さいよ…」

体を奪おうとしているであろう敵が勢いよく此方に向かってくる。十分対処できるので個性を使おうとした瞬間。

「…っ!」

とてつもなく嫌な気配が急接近しているのに気づいた。なので攻撃より逃げるにチェンジ。

「私が来た!」

この国のNo.1ヒーロー。オールマイトがヘドロ敵が出てきたマンホールの蓋を殴り飛ばしながら勢いよく飛び出してきた。おそらく、ヘドロ敵を追ってきたのだろう。

オールマイト…。この街に来ることは知っていたが予想よりも早く来ていたらしい。

出久は直ぐ様表情を作る。

幼少期の頃からの癖で他人に対して、表情と言う名の仮面を着けてきた出久。今では既に女優と言うには十分過ぎるほどの演技力を兼ね備えていた。

「…オールマイト!!?」

「もう大丈夫だ、少女!!私が敵を追ってきた!」

驚きつつオールマイトを見ると、一瞬で敵との間合いを詰めたオールマイトが拳を突き出すところだった。ヘドロ敵にSMASHを放って風圧でぶっ飛ばす。そのあとは炭酸飲料が入っていたであろうペットボトルにヘドロを押し込めていた。可哀想。

「お、オールマイトに会えるなんて感激です!いつも応援してますっ!あのっ、どうしてこの街に?」

「暫くの間此方にいる用事ができてね!私がこの街にいる限り悪さはさせないさ!安心しなさいっ!」

「っ!はい!!頑張って下さい!オールマイト!」

「では、私は失礼するよ!」

「はいっ!」

オールマイトが敵入りペットボトルをポケットに入れ、超脚力で飛び立つ。僕は笑顔で手を振って見送る。

出久が目を閉じた瞬間。纏っていた空気が急激に冷え、冷気のような殺気がどす黒く渦巻いた。先程までとは表情が一変し無表情で暗い目で見つめる。

「…相変わらずの力業。さて、どう殺すか…考えものですね」

素に戻ってオールマイト攻略の為の分析を改めて思案する。

暫く考え事をしていた出久はふと我に帰ったかのように、目に光がさした。ずっと立って留まっているのも不自然だとでも思ったのだろう。いつもの表情に戻って出久が帰ろうとすると…

Booooom!!!!

「?」

振り返ると商店街の方から爆音と黒煙が上がっていた。

出久は黒煙を見ながら商店街の方へと足を進めた。

------

「あれ?さっきのヘドロじゃないか」

商店街に着くと大勢の野次馬。前が見えないので人混みを別けながら敵を見ると先程オールマイトが捕獲したはずのヘドロ敵だった。

ヘドロ敵は子供の体を奪おうとしているようだが子供が個性で暴れて上手く取り込めていないようだった。そしてヒーロー達は助けようとしたいが子供の個性が強力+液体状の敵という二重苦で、対応できる個性のヒーローがいない様子。結果、立ち往生しているという現状だ。

というか。捕まってるのかっちゃんだし。運が悪いなぁ。

「幼馴染だから特別だよ。かっちゃん」

出久はそう呟くと行動を開始した。

野次馬から飛び出し、走り出す。ヒーロー達の制止が聞こえるが出久は無視する。

…誰が自殺志願者だ。

出久が走り出るとヘドロ敵が気付いた。

「お前は…さっきの!」

「やあ、ヘドロ君」

軽く返事を返すと同時に個性を素早く発動。回りから見れば武器を生成する個性に見えるだろう。

かっちゃんにも個性の能力は話してない。

生成したのは扇状の物体。それも特大級。

黒い光沢を帯びた硬質の扇を出久が軽々と片手で持ち、ヘドロ敵の前方へ飛翔していく。

素早く、そして力任せに扇を扇ぎ、周りの火が消えるほどの突風を巻き起こす。

「ぐっ…!」

ヘドロ敵が怯んで爆豪から僅かに離れる。

自身が液体状であるが為に風の影響を諸に受けてしまう。

先程のオールマイトがヘドロ敵に対してした対処法を活用したものだ。

「デク!てめえ何で助けに来やがった!!」

「雑魚敵に捕まっといてよく言うね」

叫びながら聞いてくる爆豪の腕を掴み、ヘドロ敵から引き剥がしながら答える。

「隠れミノ!!」

尚ヘドロが追ってくる。

「…しつこいなあ」

黒い霧を生成し、ヘドロ敵の回りを覆う。覆った瞬間に箱に変形させ、要塞にも似た黒い硬質の箱にヘドロを閉じ込めて完了。

野次馬やヒーロー達の声が止み、現場は静まりかえった。

何事かと思って後ろを振り返ると…

……

「「「うおおおおおおーー!」」」「すげぇ!何あの子!?」「ヒーロー達が手も足も出なかったのに!」「女子中学生rt」「何の個性だ!?」「圧倒的強さ(^o^)」「ご覧下さい!突如現れた一人の女子中学生が…」

歓声が商店街に響き渡る。まさに、英雄の登場と言うに相応しい大歓声だった。が。

出久は、特に表情を崩すことなくその場に立っていた。

あぁ。胸くそ悪いなぁ。

彼女が敵でなければ…この場において英雄となったことを喜んだだろう。だが、彼女は敵でヒーロー社会を憎んでいる限り出久は歓声に対して嫌悪感しかない。

「…っ。デク、てめえの個性は何なんだ?」

「ん?…錬成系の一種だよ。だから大抵、道具とかなら何でも作れる」

「初めて聞いたぞ」

「うん。初めて言ったからね。さ、一応病院に行こう、かっちゃん」

「俺に触るんじゃねえよ!クソデクが!」

手を振り払われた。いつも通りだ。

ヒーロー達が駆け寄ってくると、ヘドロ敵を拘束するための機材を持ってくるから暫く個性で捕らえておいて欲しいと頼まれる。

それは、当たり前か、と思い了解した。必然的にその場に留まらないといけなくなってしまうので当然ヒーローやらテレビアナウンサーやらに話しかけられた。ヒーローからは将来自分達の事務所に入って相棒(サイドキック)にならないかと言われたが丁重にお断りして、アナウンサーからは個性や何故飛び出して助けたのか、など色々聞かれたが適当にそれっぽいことを言っておいた。

かっちゃんも相棒にならないかと様々なヒーローに誘われていたようだが顔は何処か思い詰めているようだった。

ヘドロを拘束するための機材が到着したようなので箱を拘束機器の中の入れて貰ってから個性を解除して、ヘドロ敵の捕縛が完了した。

「では、僕はこれで失礼します」

「ありがとう緑谷さん。君のお陰で敵を捕まえることが出来た。後日、感謝状を送ろうと思っているよ」

「ははっ、ありがとうございます。ですが感謝状はいりません。お気持ちだけ受け取っておきますよ」

警察から感謝状なんか貰ったら嫌悪感で吐いてしまう。

「では、君の働きに感謝を送る」

「はい。お仕事頑張って下さい」


やっと、現場から解放された僕は家の前の通りを歩く。

「おい!デク!」

背後からの聞き慣れた声。

幼馴染の声に振り向く。

「どうしたの、かっちゃん」

「お前の個性には色々と言いてえことがあるが、それは後回しにしてやる。…液状型に捉えられちまってなにも、出来なかった…お前が、いなけりゃ…」

彼なりの感謝と言う名の意思表示なのだろう。出久はそれが分かっているようで、爆豪に笑顔を向ける。

「…ううん。無事でよかったよ。どうする?一緒に昔みたいに帰る?」

悪戯混じりの笑顔をかっちゃんに向ける。

爆豪は一瞬だけ目を見開くが、出久が自分をからかっているのだと分かると顔を赤くして怒りだす。

「誰が帰るかっ!!!」

勢い任せに掌を爆破させると、踵を返して帰ってしまった。

「そんなに怒らなくても」

思わず苦笑が溢れる。

出久も帰ろうと歩き出すが足を止める。

それは…

今日感じたばかりの嫌な気配が近づいて来るのを感じたからだ。

超早い。

「緑谷少女!!」

「へっ!?オールマイト!!?」

「君の先程の活躍を見ていたよ!!」

「あ、あぁ。あのオールマイトが回収した筈の敵のことですか?」

「ああ。奴を警察に預けようとしたところで落としたのに気付いてね。不甲斐ない話、急いでいてね。敵を落としたことに気づかなかったんだ。すまない」

「ええっ!?あ、頭を上げてくださいオールマイト!ヒーローだって人間なんですから失敗はありますよ!それに、その事を知っているのは僕だけですし、敵は僕が何とかしました!」

「その事に個人的に君にお礼がしたかったんだ。ありがとう!!」

「うわぁ!だから、顔を上げてくださいっ!誰かに見られたらどうするんですか!」

「心配はいらない、緑谷少女。それより!君はアナウンサー達の質問で『体が勝手に動いた』と言っていたね」

あの適当に受け答えしてたのを聞いてたのか。

オールマイトは応えたことを真摯に受け止めたらしく、笑顔には真剣さが滲み出ていた。

「恥ずかしながら…」

「恥ずかしがることはないさ!いつだって名だたるヒーロー達は皆言うのさ『体が勝手に動いていた』とね」

「…」

「私は緑谷少女、君に…ゲボッ!!」

「うわぁ!?オールマイト!!???」

オールマイトが咳き込んで血を吐き出す。これは普通に驚いた。でも、もっと驚いたのが…。

「…オールマイト。その姿は…」

「ああ、すまない。こんな姿を見せるつもりではなかったんだが…」

蒸気のようなものをオールマイトが噴出したと思った瞬間にいつもの筋肉質な体ではなく、痩せ細り、骨ばった体をした男がそこに立っていたのだ。勿論、オールマイトなのだとは判断できたが、違いすぎた。

「五年前に敵と戦ったときの傷が重症でね」

「…オールマイトに其ほどの重症を負わせる敵がいるんですか」

五年前にオールマイトに重症を負わせた人物を僕は知っている。

逆にそれはオールマイトを恨む理由でもある。

「ああ。そのせいで個性が安定しないんだよ」

「…?」

「んー…そうだね。水泳で力むと通常よりも大きく見える選手がいるだろう?あれと一緒だよ。マッチョのときは個性で力んでいるんだけど、不安定は力みが足りてないって感じだ」

「な、なるほど…」

「そして、単刀直入に言おう。話というのは私の後継者にならないかということだ」

「…へ?」

後継者?いくら五年前の先生との傷が重症であろうとも後継者を残す理由は何だ。…オールマイトは体が壊れかけているが為に個性が不安定。オールマイト(平和の象徴)としての活動に支障。平和の象徴は無くてはならない。その象徴はオールマイト自身では?…後継者…オールマイトの強すぎる個性。

強い“個性”が故の“象徴”?後継者?

…まさか

出久は脳をフル活動しオールマイトが言う意味を解析する。

「君がこの国の平和の象徴になる気はないかい?人々を照らす灯台。緑谷少女、君がその灯台になるに相応しい人物と私は思っているんだ」

「!!」

仮説は確信へと変わる。

やはり、先生と同様にオールマイトの個性も譲渡することができる!

それは『個性を奪い、与える』という個性を知っているからこそ辿り着けた結論だった。

だが、それをオールマイトに知られる訳にはいかない、と出久はしらをきる。

「…なんで、後継者が必要なんですか?他のヒーローが平和の象徴として活躍すればいいじゃないですか」

「…それは。できないんだ」

「…何か事情がおありなんですね。…すみません、オールマイト。憧れの人からの過大なる評価は大変嬉しいんですが…、お断りさせて下さい…」

「理由を…聞かせてもらえるかな?」

「はい…情けなく、簡単な話ですが、僕には荷が重いと判断しました」

「そうか…すまない。いきなりで混乱させてしまったね」

「いえ…。オールマイトからの身に余る光栄なお話し、ありがとうございました」

悲しそうに話しているけど心底ほっとしてるんだよね。一体何を押し付ける気だ。吐き気する。

「あの。オールマイトが雄英の先生になるのだと噂で聞きました。僕も雄英高校を受験する予定なんですが、本当なんですか?」

「本当だとも!緑谷少女とまた雄英高校で会えることを楽しみにしているよ」

「…っはい!」

オールマイトは寂しそうな顔をしながら来た道を帰っていく。それを僕は見つめる。

そして、再び家へと帰るために歩き出した。

「すみませんね、オールマイト。貴方の目は節穴ですよ」

出久は深淵の瞳を灯し、微笑みながら言葉を溢す。

貴方が僕の何を見て、何を思ったのかは知りませんけどね。

……………………………………………………

「先生、貴方はオールマイトの個性が譲渡可能ということを知っていましたね?」

AFOの部屋で出久は仕事用のスーツ服を着ていた。そして、少し怒ったような口調でAFOに疑問を投げ掛ける。

「僕がその事を知っていたらどうしたんだい?」

「…それなら聞きたいことがあるのです…。オールマイトの個性は先生が奪うことは可能なのですか?」

「…オールマイトから何処まで聞き出した?」

出久の発言からオールマイトと接触した事が分かるとAFOは重要性の高い、情報へと向けるため、質問を質問返しをする。

「後継者を探していることくらいでしたが…話し方、現在の彼の個性と体の状態を推測すれば分からない話ではありませんでした」

「…すると、オールマイトは君を後継者にしようとしたんだね。つくづく見る目が無い。…オールマイトの個性は特殊でね。僕が奪うことは不可能だ」

「そうですか…」

後継者の話を断っておいて正解だった。もし、個性を受け取ってしまって後から先生に取り出して貰うということができないと分かったら…。確かに強力な個性なのには代わり無いが、もう既に一度個性を移植という状態で取り込んでいる僕にとって、縫いぐるみを繋ぎ合わせたところに無理やり綿を入れるようなものだ。下手をしたら今実験中の脳無のようになるか、体が破裂して死ぬ…。危なかった。

「ちょっとした昔話を混ぜて話そうか。…僕の個性と違い、オールマイトの個性は代々受け継がれきたものだ。様々な個性が混ざりあい、複雑になってしまっているが故に僕ではどうにもできない可能性が高い。そもそも、奪う段階にまでいけるかが問題だ」

「…混ざり合う?」

「そう、彼らの個性の名は『ワン・フォー・オール』。元の個性は『譲渡』だった。そして、その個性の持ち主が僕の弟でね。当時、僕は弟に個性があるとは分からなくてね。…反抗的で正義感の強い弟。僕の弟なのに何故か無個性である弟に個性与えることにしたんだ。兄から与えられた個性をどう使うのかを見たかった、というのもあるし、反抗を向ける個性持ちに自分がなったら少しくらい反抗心が無くなるんじゃないかと思ったんだ。…与えた個性は『個性をストックする』というものだ。だが、弟に与えた個性は『譲渡』と混ざりあった。元々無個性だと思っていただけに驚いたよ。するとどうだ…僕のやってることが正義感の強い※※には許せなかったんだろうね。弟は反抗心を顕にしたよ。…反抗する駒などいらないから僕は弟を殺した。だが、弟は既に個性を『ワン・フォー・オール』ごと譲渡してしまった後でね。それから、弟の意思を継いだ奴等が僕と対峙するようになった…オールマイトもその一人だよ」

ちょっとした話にしては規模が大きすぎ、尚且つ先生とオールマイト達の過去を一気に話されたとあっては流石の僕でも思考は追い付くが整理がつかない。そして、先生が言った※※と言う名前は先生の弟さんなのだろうということは分かった。

「……僕が聞いて良い話だったのですか?」

「構わないよ。出久は信用していると前にも言っただろう?…時期がくれば弔にも話す」

「分かりました。不躾な質問にお答え下さり、ありがとうございました」

「構わないさ。…ああ、そうだ」

「?…何でしょうか?」

「これを」

差し出された先生の掌には…

「ピアス…ですか?それも二つ」

「出久の個性は既に強力で扱いにも長けてしまっているからね。個性を抑制するための装置だよ。二つあるのは其ほど強力になってしまっているということだ。これから侵入する雄英ではあまり目立つことはしない方がいいからね。もちろん、外したり破壊されると抑制は解ける」

「学生のレベルではない…ということですか。分かりました。有り難く使わせて頂きます」

「学校側には個性の暴走制御とでも言っておけばいいだろう。実際、抑制という点においては同じだからね」

「了解しました」

出久は一礼をして機械だらけの部屋を出ていった。




……………………………………………………

受験当日。


「此処が雄英高校」

あまりにも規模が広すぎる学校の前で立ち止まる。下調べでざっくりと校内を調べてみたが、本校舎の他に災害救助演習、戦闘訓練の為の様々なフィールドが点在していた。どれも一つでかなりの規模の戦闘が行えるほどだ。しかも、学校内の移動にバスまでついている。

「…広いなぁ」

素直に感想を言っていると…

「おい。デク」

後ろの方から幼馴染の声が聞こえ、振り返る。

緊張しているのだろう。眉間にシワを寄せ、仏頂面を張り付けた爆豪がいた。

「あ、おはよう。かっちゃん」

「てめえもヒーロー科受けるんだろ?」

「うん。受験、一緒に頑張ろうね」

「…おー」

生返事を返す爆豪を横目で見ながら、出久は一緒に試験会場へと向かった。






歩く出久の髪が風に揺れ、何かが銀色に光る。

その耳には軽い装飾が施されたピアスが覗いていた。







中学の体操服を着用し、長い髪を一つに束ね。出久は走っていた。その周りには他校の参加してきた受験生達も走っている。

プレゼント・マイクのスタートコール直後、我先へと受験者が会場へと走り出したのだ。

建物が隣接する大通り。

出久は黒い粒子の霧を即座に生成し収束させ、硬質化した直径一ミリもない糸を作り上げると、右手の親指を除く四本の指先へ連結。正しく言えば、爪と粒子を結合させ、爪そのものを糸を操作するための持ち手としたのだ。

ピアスの抑制によって生成に制限が付いたため、生成量が少なく、使いようによっては何通りもの応用ができ、殺傷力の高い糸を選んだ。

脇道から現れる数字の入った仮想敵たちを学生達が各々の個性で倒していく。

…だが、出久の戦闘力は周りに比べ、異常が過ぎた。

天下の雄英の入試というから色々と攻略パターンを考えてきたのに、まさかのポイント稼ぎだとはね。…その他にも評価はしてるんだろうけど、ポイントが重視されるのは変わりない。

抑制されて粒子の生成量1/10、硬質化は変わらず、生成速度が少々遅くなってしまった。だけど…

出久が連結された手を仮想敵達が出てきた真横へと下から上へ、軽く振る。

その瞬間、仮想敵達の装甲に出久が振った手の軌道に逸るかのように綺麗な四本の亀裂が入り。仮想敵達が吹き飛んだ。

あまりの早さに衝撃が一拍おいて一気に仮想敵達に押し寄せたのだ。

こうまで、簡単に壊れるとつまらないなあ。

出久は退屈そうな表情を浮かべ、走りながら右手を動かし続ける。出久が走り去った背後では仮想敵が倒され、機械が派手に崩れ去っていった。


時間が大分過ぎた頃。会場に変化が起こった。


ゴゴゴゴゴガチャンッドッゴーーン!!!

「…?」

建物の崩れる物音が会場であるフィールドに轟音となって響き渡る。

出久は走ってる途中で此方に吹っ飛んできた受験者を受け止め、地面に下ろす。

相手が礼を言ってきたが出久は無視して轟音の聞こえて来た方向へ走り出す。

…仮想敵にここまで吹っ飛ばされるわけない。

となれば…

出久は足を止め、巨大な影を地面におとしている仮想敵を見上げた。

「これがギミック…ね。確かに邪魔くさいな」

「はあ!?できか過ぎだろ!」「逃げる、の一択だね」「ポイント稼ぎが重要だっての!」「下手したら巻き込まれんぞ!」

他の受験生達がポイント稼ぎの為に即座にギミックから離れ、仮想敵達へと向かっていく。

まあ、ポイント稼ぎに行く方が効率良いかな。

…ん?

出久も他の受験生達と同じように仮想敵を倒しに行こうとして、視界に気になるものが写った。

「うぅ…」

ギミックが崩した建物の瓦礫で足を挫いたようで、うつ伏せに倒れる一人の人影を見つけた。それと同時に呻き声も。

見ると、女子が倒れている。

「なんか、僕の周りって不運な人多くない?」

去年の爆豪が襲われたヘドロ敵を思い出しながら、出久は呟く。

そして、何か案が思い付いたのか楽しそうに笑顔を浮かべる。

これだけの質量の仮想敵、ギミックを僕自身の抑制された状態で個性を使ったら勝てるかな?それを知るためにも、僕の体力の限界を知るためにも、今後の学校生活での制御をしやすくするために今回敢えて仕方なく、女子学生を助けるという定義で実践することができ…ブツブツ

自身が倒したいだけのギミック。

それに対して出久が数々の自分への言い訳を頭の中で並べ立てながら、ギミックと逆方向へ走る受験生達を避け、ギミックへと疾走する。

「よいしょっと」

言葉を発すると同時に地面を蹴る。瞬間に粒子干渉で足元の空気を拒絶。爆発的な勢いで飛び上がり、ギミックの頭と同じ程の高さまで来ると、出久は最大質量の粒子を生成し巨大な黒腕を作り出す。

抑制が効いているのか粒子を生成できない分、体力がかなり余っている。

抑制って便利だなあ。武器を限界まで生成して残りの体力で近接戦闘っていうのもできるのかな。

と緊張感のない事を思いながら出久は背後の空気を拒絶。勢いを利用しギミックへと出久は拳を振り下ろした。


バッゴオオオオォォーーォオン!!!


ギミックの頭が拳型にへこみ、巨体が倒れていく。

出久は黒腕を解除してから更に粒子を生成しようとしたが…出久から出るのは薄くなった黒い霧が少量、出久の周りの浮かぶだけだった。

…あ。

最大質量まで粒子を生成したから武器を生成したら戻して、粒子を操作しないといけないんだ…。今まで余裕で粒子を分解しても次の粒子を生成して使えたから考えたことなかったな。

何故なら粒子の操作を細かくすればするほど、精神的に疲れてしまうから。

例えるなら、運動しながら集中して勉強するような感覚。なので疲れてくると操作が雑になってしまう。それを軽減するためにも武器を生成する方が効率がいい。変形させたものはもう勉強し終わったようなもの、精神を使うことはない。でも、再度武器を変形させようするのは勉強をやり直すようなものなので非常に面倒くさい。だから僕はやり直すよりも粒子分解してから生成して一から武器を作り出していたんだけど、個性を抑制されてしまうので粒子を分解するのは避けて節約していくしかないかな。

さて、どうやって着地しようかな…。

考え事をしながらも出久の体は重力に従い落ちていく。

無造作に重力のままに出久が落ちていくと、地面まで残り三メートルのところで誰かに触られた。

「へ?」

すると体が重力など無いかのように ふわりと浮いた。

「うぅ。解除っ!」

体の重みが戻ったように出久は地面に足を着く。

横を見ると先程うつ伏せに倒れこんでいた女子が仮想敵の残骸の上にのり、地上から約三メートル程上にいた。

ああ、彼女の個性か。

「あの…」

話しかけようとすると、いきなり吐き出す。個性の負荷だろうか?

「大丈夫ですか?…一旦降りますか?」

「ご、ごめんなぁ。個性を使い過ぎると…うぅぇ。こ、こうなるんよ…」

「話すのは後です…顔色が悪い。早く横になった方が…」

吐きながら話す女子を宥めながら横になるように促すと、

『終~~~了~~~~~~!!!』

プレゼント・マイクにより、受験の終わりが知らされた。

仮想敵を倒すのを止めた生徒達がザワザワと何か話しているが無視して女子の体を擦っていると、飴を配りながらお婆さんが此方に向かって来た。

「リカバリーガール…」

雄英の教師の個性は既に調査済み、当然彼女の個性も。

「おやおや、随分と無理をして個性を使ってしまったようだねぇ。ほらどきな、担架で運ぶよ」

「分かりました。じゃあ、お大事にね」

担架に乗せられていく彼女に笑顔を向ける。

「あっ!君…うぅ。ありがとう!私は麗日お茶子、また…うっぷ」

「うん。無理しないでね、麗日さん」

麗日は両手で口を抑え、青ざめた顔をしながら医療班の人達に運ばれていった。






………………………………………………………



「ありがとうございます。オールマイト」

合格通知の為の起動映像に写るオールマイトにニコニコと出久は笑顔でお礼を言っていた。

「まさか一位で合格できるなんて、思ってもいませんでした」

出久の受験点数は雄英高校受験において過去に類を見ないほど異常な点数だった。

仮想敵撃破:97P、救助審査:60P、合計157P。

撃破ポイントだけでも一位確定なのだがそれに加え、投げ飛ばされてきた生徒を受け止め助けたのと、麗日お茶子を助けたと認定された為、審査員として見ていたヒーロー達が全員満点だと出久を評価したのだ。

…助けたというのは僕にとって胸くそ悪かったので記憶として留めておく。

『いいや、君の一人の少女を救わんとした行動、人助けの精神と培った素晴らしい戦闘センスを持った君自身の実力だよ!改めて、合格おめでとう!では、雄英高校でまた会おう!緑谷少女!』

そこで、映像は途切れた。

暫く笑顔を保っていた出久だが、息を吐くように無表情に戻ると、古い型の折り畳み携帯を机の中から取り出し電話をかける。

『…もしもし?』

幼い頃から長年聞いてきた声に安心する。

出久は自然に笑顔になって話しかけ始めた。まるで、恋する乙女のように。

「出久です」

『おー。どうだった?ま、聞くまでもないと思うけど』

「うん、無事に合格したよ」

『オメデトウ。これで計画もやり易くなる。…あーあ、これで出久もJKかぁ。前はあんなに小さかったのに』

「ふふっ、弔君。叔父さんみたいだよwいつからそんな風になっちゃったの?」

『うるさい。というか、此方で連絡ってことは今日は来ないのか?』

「うん、暫くは入学の準備とかでお母さんが張り切ってるから、目を盗んで外出は出来そうだけど何か言うために部屋を訪ねてくるかもしれないし」

『…母親ってめんどくせえな』

「ホントにね」

『死柄木弔、今日緑谷出久が来られないなら私にも話を『じゃあな、イズク』』

「えっ…黒霧さ」

ブッ

一瞬だけ出久は唖然としていたが直ぐに弔の行動の意味が分かり、弔の子供じみた行動に思わず出久は笑みを零す。

そして、椅子から立ち上がり部屋の前でソワソワした様子で歩き回っている母親の気配を感じながら扉を開け、合格したことを伝えると涙を滝のように流しながら思いっきり抱きつかれた。

「うわぁっ!?お母さん涙拭いて拭いてっ!」

「イズクヴぅぅう!合格お”め”でどう!!うわ”あ”ぁ”ぁぁあん”!おがぁざん嬉しい!!」

「…うん、ありがとう」

そりゃ、嬉しいだろうね。幼い頃から周りに苛められ、自分自身も同情しか浮かべなかった娘が国内最高峰と言われる雄英高校に合格したんだから。実際、貴女は僕に何もしてくれなかったじゃないか…。法律に従って学校に通わせて、法律に従って育てていただけ。それなのに娘は…自分の評価対象は勝手に立派になったんだから…。大層気分が良いことだろうね。

お母さん、僕は貴女が嫌いだ。それだけは断言できる。貴女は気づいていないが、貴女は無意識のうちに幼い僕に「生まなきゃよかった」と言っているんだよ。

…ま、今ではどうでもいいか…。

抱きついてきて離さない母親を抱き締めながら、そんな母親を冷めた目で出久は見つめていた。

傍から見れば娘の合格を自分の事のように喜び、それに答えるように抱き締めあっている絵に描いたような仲の良い親子に見えただろう。


その真逆の表情を浮かべる親子の顔を見なければ…。






………………………………………………………

出久が雄英の制服を身に付け、靴を履きながら玄関の扉を開ける。

その様子を落ち着かない様子で母親が見つめる。

「じゃあ、行ってきます」

「出久。忘れ物ない?ハンカチは?ティッシュとか…」

「ないよ。行ってきます」

「あっ!出久!」

「ん?」

母親がうつむき、戸惑いながらも顔をあげる。その目は心なしか潤んでいるように見えた。

「カッコいいよ!いってらっしゃい!」

「…うん、行ってきます」

母親が感極まって泣き出しそうな笑顔で見送ってくる。

母親が望むように人懐っこい笑顔を浮かべながら出久は返事を返し、家を出た。



出久が一年A組の無駄に大きな扉を開く。

そこにはヤンキー座りをした幼馴染と眼鏡をかけた如何にも真面目そうな男子が言い争っているところだった。

周りのクラスメイトからも悪い意味で注目を浴びている爆豪にため息をつきながら出久は話しかける。

「かっちゃん。もう高校生なのにちゃんと座れないの?」

「あ”ぁ”?座れるわ!!」

「ならよかった、いつまでも子供のままじゃ恥ずかしいもんね」

「こんのぉクソデクがっ!誰にものをいってやがる!!」

爆豪のヤンキー座りをやめさせた出久は爆豪を無視しながら自分の席へ行こうとする。

「あー!君あの時の子だよね!?私を助けてくれた!」

「…麗日さんも雄英に受かってたんだね。これからよろしく」

「うん!こちらこそ宜しくね!」

麗日が話し掛けてくるので社交辞令で返す。

次は爆豪に注意をしていた真面目そうな男子が横から話しかけていた。

「やあ!君があの巨大なギミックを倒す所をみていたよ!君は麗日君を助けるために向かっていた。君はあの試験の仕組みを理解していたんだなっ!もちろん、ぼ…俺も試験という場でなければ助けに行っていたが!」

「知らなかったんだけど…そう…」

あまりの元気にちょっと引いてしまう。

「俺は飯田天哉!俺からも宜しく頼む!」

「うん。宜しくね、飯田君」

後ろに誰か来たのを感じながらも無視していると後ろから声が聞こえた。

「おい、お前ら」

振り向くと寝袋にくるまった薄汚れた男がいた。だけど、下調べにあった顔をしていたので誰かは分かった。

「お友達ごっこしたいなら他所へ行け」

「うわぁ!?だれ!??」

「担任の先生だよ。麗日さん」

「え?!この人が!?」

麗日が失礼なことを言いながら再び驚くが、出久が宥める。

全員が静かになったところで担任が話始める。

「…静かになるまでに8秒。君たちは合理性にかくね。…俺はお前らの担任になった相澤消太だ。いきなりで悪いが、お前ら。今から此れを着てをしてグラウンドに出ろ」

言いながら相澤が寝袋から生徒達の体操服を取り出す。

生徒達は戸惑っているが何人かは特に気にも止めない様子で体操服を受け取っていった。

グラウンドに全員が集合して相澤の方を向く。

「これより、体力テストを行う。その前にいっておくが、個性の使用をこの体力テストでは許可する。個性把握テストってことだ。内容は中学の時と変わらん。爆豪、やってみろ」

言い終わると相澤はボールを爆豪に投げる。爆豪がボールの球を相澤から受け取る。

「じゃ、適当に個性を使って思いっきり投げてみろ。円の中なら何しても構わない」

爆豪がソフトボール投げ用の円の中に入っていくと軽くボールを上に投げ、重さを確認する。

「…んじゃ、取り敢えず……」

爆豪が腕を大きく振りかぶり

「死ねぇっ!!!!!」

と、叫びながらボールを投げる直前、掌を爆破させて飛距離を一気にのばした。

すると、ボールに機械を埋め込んで距離を測れるようにしているのだろう。相澤が手元の測定器を一目見て、クラス全員に見せる。

「自分の最大限を知ることがヒーローの素地を形成する合理的手段だ」

「700m超えってマジ!?」

「すっげぇ!流石ヒーロー科、面白そう!!」

切島がいった瞬間に相澤は此方を見た。

切島君…そんな事言っちゃだめでしょ。後、かっちゃんは何で言うことが「死ね」なの…。

内心、出久は呆れながらため息をつく。

「………面白そう、か。よし、ならトータル成績最下位の者には除籍処分になってもらおう」

「「「はあああああ!?」」」

「待って下さい!先生!いくら雄英高校とはいえ、初日からそのような…!」

「雄英は『自由』な校風が売り文句、そしてそれは『先生側』もまた然り。生徒の如何は俺達の『自由』。ようこそ、雄英高校ヒーロー科へ」

「おいおい…うそ…だろ」

「やるしかない。…ということか」

生徒達が驚き、飯田の反論もあっさりと流され、戸惑いの表情を浮かべる。それと同時に闘争心も加わり、空気が変わった。

実際に下調べの際に軽く内容をみたけど、相澤先生が生徒を全員除籍処分としたのは本当だ。

今回、一人ということは本気を出させる為の虚偽?それか様子を見て、本格的に決めるつもりか。だけど、最下位なんかに僕はならない。

50メートル走ではスタートする瞬間に地面を蹴って空気を拒絶し、そのまま地面につかずにゴールした。結果2秒05。握力は黒腕で測定器をぶっ壊したので測定不能。立ち幅跳びも同様に空気拒絶で体を吹っ飛ばす。反復横飛びも空気拒絶を足にだけ絞り、跳躍力として応用。ボール投げでは投げる瞬間に空気を拒絶してボールをぶっ飛ばし、更にもう一度拒絶することで加速させた。結果1900m。持久走、上体起こし、長座体前屈は普通にやりきりって、全ての競技が終了した。

暫くのあいだ休憩を挟んだ後、相澤が再び集合をかける。

「一々、口頭で説明するのは時間の無駄なのでトータルの順位だけ一括開示する。覚悟して見るように」

全員の顔に緊張が走る。

相澤が手元の機械で生徒達に順位をまとめた表を画面として写し出し見せる。

「…いやだ……いやだぁぁあああああ!!」

背の低い男子。峰田が涙をボロボロと流しながら足を小鹿のように震わせ、地面にへたりこんでいく。

その姿を見ていた生徒達の顔に冷や汗が滲み出る。


「ちなみに、除籍処分は嘘な」

「「「「は……はあああああ!?」」」」

「まじかぁぁぁぁああああ!!」

「君らの最大限を引き出すための合理的虚偽ってやつだ」

大半の生徒が驚きの悲鳴を上げ、除籍処分を覚悟していた峰田は喜びの声を上げた。

因みに緑谷出久はダントツの一位だった。

「少し考えれば分かることですわ…」

「つーか。デクが一位かよ…チッ」

かっちゃんは僕にどうしろっていうの…。

「そういうこと、これにてお終いだ」

相澤が後ろを振り返りながら今後の書類などに目を通しておくようにと業務連絡をして立ち去っていく相澤の後ろ姿を見ていた出久は追いかけた。


…「相澤先生」

「…緑谷か、どうした?」

「今回の除籍処分に関してですが…」

「嘘だと言っただろ」

「本当に嘘なら少し聞きたいことがありまして…いいですか?」

「…なんだ」

「先生は去年の担当クラスを全員、除籍処分になさっています。あくまで参考なのですが、何故、個人ではなく全員に除籍処分を言い渡したのですか?」

「調べたのか…」

「事前に高校の事は調べているので。担任の先生ともなれば気になりもします」

「…見込みが無かった。それだけだ。今回のお前らのクラスは成長の見込みがあったから最大限を引き出すために嘘を付いたに過ぎない。…だが、残念なことに最大限を引き出せなかったらしい」

相澤先生は僕の方に目線だけを動かした。

「それは、僕の事ですか…?」

「そうだ。特にそのピアス、個性の抑制として許可しているが見たところ個性の制御は完璧。外しても問題無いんじゃないのか?」

話を逸らされたのに加え、核心的な質問。

本当は貴方の心境を興味本意で聞きたかっただけなんだけど…。ちょっと痛いところをつかれてしまったかな。

「…問題があるからこうして着けているんですよ。相澤先生。質問に答えて下さり、ありがとうございました」

「…」

出久はいつもの笑顔を張り付ける。

それに対して相澤は何も言わずに出久を見るが、暫くしてから「早く授業に行け」と言うとそのまま歩いていった。

出久も特に何も言うことなく、クラスメイト達の後を追って歩いていった。

登校初日の学校生活を終えた出久は校門へと一人で歩いていた。

学校終わったし、久しぶりにバーに行って弔君と遊びたいなあ。黒霧さんと電話で話そうとすると弔君が切っちゃうし…ま、それが可愛いんだけどね。

「緑谷女子!」

振り向くと同時に表用の笑顔を向ける。

「飯田君。どうしたの?」

「いや、クラスメイトとして親睦を少しでも深めておこうかと思ってね。それにしても、君は本当に強いんだな」

「…そうかな?自分ではよく分からないんだけど」

「そうなのか?」

「おーい!お二人さーん!」

「駅まで?待ってー!」

麗日が飯田と出久の隣に走って追い付き、並んで喋りだした。

「君は無限女子!」

いくらボール投げで無限を出したからって「無限女子」ってどうなの飯田君。

「麗日お茶子です!えっと、飯田天哉くんに緑谷…デクちゃん!だよね!!」

「…デク?」

「あれ…?でもテストの時に爆豪って人がデクって…」

「ああ、あれは小さい頃に僕を馬鹿にしてからかっちゃんが呼んでるだけだから。僕は緑谷出久だよ」

「蔑称だったのか」

「えーそうなんだ!でもなんかさ、頑張れって感じで好きだよ!私!」

「そう?まあ、別に気にしないから好きに呼んでよ」

「いいの!?じゃあ、デクちゃんって呼ばせて貰うね!!」

麗日が嬉しそうに話してくるので出久は笑顔でその話しに付き合った。




……………………………………

「…イズク、大丈夫か?」

学校から家へと帰る前に出久は馴染みのバーに来ていた。

出久はバーに着くなりソファーへと倒れ込んだのだ。そんな出久をカウンターから見ていた弔は出久に近づき、柔らかそうな黒い癖っ毛の髪を優しく撫でる。

「ん~。大丈夫だけど、疲れちゃった」

「お疲れさん。たまには息抜きするか?」

「息抜きって、何するの?」

出久がソファーに寝転んでいる体を動かし、上目で弔を見る。

「……昼寝」

「死柄木弔。それは貴方が日頃やっていることではないですか。もう少し考えて下さい」

「ふふっ、それでも良いけど…お出掛けなんかどうかな?久しぶりに何処か行こうよ」

言いながら出久が弔の頬に手を伸ばして触れる。

「ああ…」

弔も何処か嬉しそうに返事を返した。

「それで、緑谷出久。お楽しみのところ申し訳無いのですが計画について話してもいいですか?」

カウンターほ方から黒霧が話しかけてきたので出久は上体を起こしてソファー越しに黒霧を見た。

弔は撫でていた手をポケットにしまい、猫背で出久が覗いているソファーに凭れかかった。

「うん、構わないよ。それで…数集めの方は順調?」

「ああ…適当にそこら辺の雑魚共を勧誘してる…時間稼ぎくらいになら使える」

「了解。でも今回の計画は弔君が考えて情報は僕が集めるって約束だから口出しは極力しないよ?」

「分かってる…」

「死柄木弔を世間に知らしめる為のものだと先生は仰っていましたからね」

「…オールマイト。…平和の象徴が捩じ伏せられるのを平和ボケした連中に見せてやる…」

「あー。そうそう、オールマイトの弱点ってほどじゃないんけど」

出久は歪んだ笑みを見せる。

「先生との戦いで負った左腹部の傷。かなりの痛手みたい」

「…どういうことだ?イズク」

「そのままだよ。弔君。オールマイトの姿は個性による体の強化で成り立っているんだ。そして、その個性の発動が傷の後遺症によって難しくなっている」

「へえ…それじゃあ、先生の言ってた弱ってるっていうのは…」

「本当、のようですね」

「そういうこと。発動時間もかなり削られているようだし、上手くすれば本当に殺れちゃうんじゃないかな。僕は計画に参加することは出来ないけど裏からの支援はさせてもらうよ」

「…頼りになるな、イズクは」

出久が弔に向かって人懐っこい笑顔を見せる。弔は再び出久の頭を撫でると顔を歪めて笑う。

「生徒達や職員の個性情報は送った通り。内通者からの情報も取り入れているので信用性は十二分にあります。お願いしますよ。黒霧さん」

「ええ、襲撃場所については私達の方で決定させていただきます。そう時間はかかりません」

「分かり次第連絡してくれれば大丈夫ですよ」

出久はそう言うとソファーから立ち上がる。

「じゃ、僕はそろそろ帰るよ。夕飯に遅れちゃうからね」

「では送りましょう」

「ありがとう、黒霧さん。弔君、バイバイ」

「ああ、また寄れよ」

黒霧が出久の前にゲートを作る、出久は

「もちろん」

と言ってゲートを潜っていった。





…小話…

バーから出久が帰ったのを見届けていた二人はため息を溢す。

「おい…ため息つきたいのは俺なんだけど」

「死柄木弔。私にだってため息くらいつきたいんですよ」

弔は手で酒を飲む仕草をして黒霧に酒を出すように指示しながらカウンターに座る。

「……あー…。イズクとヤりてえ」

「全く、妹のように可愛がっているかと思えばそれですか」

「黒霧…お前だって一緒だろ」

「…正直に言えばそうですが、緑谷出久は死柄木弔、貴方同様に組織にとって重要な人物です。そのような欲をさらけ出すことなど出来ませんよ」

「…めんどくさ…。てか、もうヤってる時点でそんなの言い訳にしか聞こえない…」

「……」

黒霧は諦めた様に弔に酒を出す。

「彼女はとても魅力的です。正直、伴侶にしたいくらいには」

「……。先生に黒霧、加えてヒーロー志望の餓鬼共にまで注意しとかないといけないとか……多すぎる」

「彼女が年頃になるまでに既に我々が処女を頂いたのですから雄英の生徒達まで相手にする必要があるのでしょうか」

「馬鹿か…相手にされなくなった餓鬼ほど面倒なのはいないだろ」

弔はそう言いながら出されたグラスに入っている酒を一気に飲み干した。




今日も敵の二人は出久の心配をしています。




雄英へ入学した。と言っても、勉学に置いては他の高校同様に雄英もまた、進学校。それ相応の基礎学力が求められる。

出久はプロヒーロー達が行う授業を退屈そうにノートに取りながら、窓辺にある自席から外を眺める。

然り、ヒーロー科はその他にもヒーローとなるための訓練も同時に行う為、通常授業が少なく、普通科よりも進行速度が早い。

自主学習、課題、宿題はどれだけ急いでも全部終わらせるのに一時間はかかってしまうので敵活動を行う為の時間が少なくなってしまってる。…新しいメンバーも揃えていかないといけないのに。

出久は惜しそうに俯くと黒板の英文をまたノートに写し始めた。





「わーたーしーがー!!普通にドアから来た!!」

今日はオールマイトによるヒーロー基礎学のようで、オールマイトがドアから入ってくる。

「すげえ本当に教師やってんだ!」「絵柄が違い過ぎて鳥肌が」生徒達は口々に感想を言っている。

「ヒーロー基礎学!ヒーローの素地をつくる為、様々な訓練を行う課目だ!早速だが今日はコレ!戦闘訓練!!」

オールマイトは言いながら『BATTLE』と書かれたカードをクラス全員に見せる。

戦闘訓練と聞いた瞬間に生徒達がざわつき、期待に顔を輝かせている。

「そして、そいつに伴って…こちら!!」

オールマイトはそう言うと手に持っていたリモコンを壁に向け、ボタンを押す。すると壁の方からガコッと音がしたかと思うと番号のはいったスーツケースが縦に棚のように並べられた状態で表れる。

「入学前にもらった『個性届』と『要望』に沿ってあつらえた…戦闘服!!」

「「「おおおーー!!!!」」」

自身のデザインしたコスチュームに興奮を隠せないクラスメイト達を横目に見ながら出久は自分の番号が入ったヒーローコスチュームを受けとる。

…敵がヒーロースーツを着るなんて皮肉だよね。さて、動きやすい服を調べてネットのデザインを参考に考えてみたけど…大丈夫かな。





………

「始めようか、有精卵共!!!戦闘訓練のお時間だ!!」

クラスメイト達が町中を想定した訓練場へ続々と歩いていく。

それに続くように出久も自身がデザインしたコスチュームで歩いていく。

出久の黒い長髪が揺れる。そのコスチュームは黒色を主としたデザイン。

口元だけのガスマスクを着け、体の輪郭が強調される袖無し、背中も粒子が出せるように穴が空いている丈の長いチャイナドレス。上からでは見えないが、胸の部分には防弾パッドを入れている。ウエストの回りには鉄製のアーマープレートが装備されている。足の付け根から見え隠れする生足からは短剣等が収納できるよう、足に巻き付くように何個もの穴の空いた箇所のあるベルトが見えた。膝上からは長いブーツとなっていて、ブーツの方にも様々な物や武器を仕込めるようになっている。

「わー!!デクちゃんだよね!?カッコイイ!!綺麗だよ!!」

麗日の一言で出久の方を見た男子達の動きが止まる。中には顔を真っ赤にしてしまった者もいる一方、個性把握テストで最下位だった峰田は血走らせた目をしながらブツブツと息を荒げ、出久の方を見ている。その様はまさに変態そのものだ。

警察へと通報することが本人の為になるだろう。

出久は見てはいけないと判断したのか峰田の方を全く見ずに麗日に笑顔を返す。

「ありがとう。麗日さんもとても可愛いよ」

「いやいやいや!そんなことないよっ!要望ちゃんと書いてなかったせいでパツパツスーツになっちゃったし!!」

麗日が顔を染めて照れながらも、あたふたとした動作で「そんなことない!」と示す。

そんなやり取りを麗日としていた出久の前から他のクラスメイトを押し退け、爆豪が敵顔負けの形相で歩いてくる。

苛立った様子で掌で何度も爆破を起こしている。

「おいデク!!テメエなんだそのコスチュームは!!!?」

「かっちゃん。どうしたの?…露出度が高いって意味なら、八百万さんも似たようなものだと思うんだけど…」

「違えわ!!テメエのは…っ!!!」

爆豪が周りの男子達を睨みながら言いよどんだ。

それに出久は首を傾げる。

「~~~~!!!クソがっ!!!」Bom!!

かっちゃんが何か言いたそうだったけど何だったのかな…?

そんな出久を他所に爆豪は苛立ちながら顔を逸らす。

爆豪は自分が言いそうになった事を思い出し、耳を赤くして切島達の方へ戻っていった。そして、上鳴を始めとして弄られ、爆豪がキレるのは火を見るより明らかだろう。

オールマイトは気にせずに授業を進める。

「いいじゃないか皆。カッコイイぜ!!」

「先生!ここは入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか!?」

灰色の起動重視としたフルアーマーを着こんだ男子が真面目に挙手をしてオールマイトに質問をする。

あ。飯田君だったんだ。

「いいや!もう二歩先に踏み込む!屋内での対人戦闘訓練さ!!」

オールマイトが敵の統計としての行動パターンを説明していく。

…そう、僕達からしてみれば無策に人の多い通りで事件を犯す方がどうかしている。それに屋内の方が様々な事を行うことは勿論、始末をつけるのにも丁度いい。

オールマイトが説明し終わると、今回の授業内容についてカンペを見ながら話始める。

二対二のチーム戦。そしてヒーロー側と敵側とに其々別れ、ヒーロー側は時間内に核兵器の確保、または敵側の捕縛。敵側は時間まで核兵器を守りきるか、ヒーロー側を撃退(捕縛)すれば勝利となる。

説明を終え、チームはクジで決めるので皆でクジを其々引いていく。

Aチーム…、麗日さんとチームだ。

「凄い縁があるね!よろしく、デクちゃん!」

「うん。頑張ろうね」

麗日と軽く挨拶を交わしている間にオールマイトがヒーローと敵でのチーム戦のクジを引いていく。

「続いて最初の対戦相手は…こいつらだ!!Aコンビが『ヒーロー』!!Dコンビが『敵』だ!」

あれ。Dチームって…。

そう思ってかっちゃんの方を見るとかっちゃんも僕の方を見て確認したようで、直ぐにオールマイトに向き直って授業での内容を聞いていた。

さて、訓練とはいえ真面目にしなきゃ。

爆豪と飯田の二人が核兵器(ハリボテ)を先に隠すために建物に入っていく。

「建物の見取り図…覚えないとねコレ」

「もう覚えたよ。後は敵側が何処に核兵器を隠したのか検討をつけていこう」

「デクちゃん凄いっ…うん!頑張ろうね!」

「うん。えっと…考えたんだけど作戦聞いてもらえるかな?」

「もちろんだよ!」

「じゃあ・・・…………………。……………分かったかな?」

「うーん。少し負担がキツくなっちゃうんだけど…うん!大丈夫だよ!」

作戦を伝え終わってから暫くして訓練開始。

「麗日さん。行くよ?」

「うん…早めにやって!」

出久が麗日を背負った状態で二人は建物の壁の側にいた。

出久は麗日が個性で自分の体を無重力にしたのを確認し、壁に足をかける。粒子干渉を極限まで抑え、空気の拒絶を利用。壁を蹴っては拒絶を繰り返し、壁を駆け抜け、ものの3秒ほどで屋上にまでたどり着いた。そして、屋上に足を着いたところで麗日が個性を解除。

「ふー、到着っと」

「さ、時間が経つほど周りを警戒される。早く核兵器を探しに建物の中に入ろう」

「うん!」

二人が屋上から建物に入っていく。



「おい、メガネ。デク達が入ってこね…」

『…っ!!?爆豪君!!今すぐ戻りたまえ!二人が核兵器の部屋に来てしまっている!!!』

「あ”あ”!!?どういうことだ!っクソデクがぁぁあ!!!」

俺の方に来ないってことは屋上か、他の階から建物に侵入しやがったな。俺のいる一階から上に行くには階段しかねえが間に合わねえ…となれば…Bom!!

「核兵器発見だね。麗日さん」

「うん!飯田君一人みたいだし!やっちゃおう!!」

「どうやって来たか知らないが、…核兵器を渡すわけにはいかない!阻止させてもらう!」

「…できるなら」

出久は直径5mmほどの硬質化を施した鞭を瞬時に生成する。

出久が核兵器を守るように立ち塞がっている飯田に向かって走りだす…が、視界の端で窓から何かが向かってくるのが見える。

Booooom!!!!

爆発音とともに派手に窓ガラスが割れ、同時に爆豪が部屋へと飛び込んでくる。

「俺を出し抜こうなんて思ってんじゃねえぞ!なぁ!?デク!!!」

「っ」

「爆豪君!?一体どこからっ!!」

「うわあぁぁあ!!?ば、爆豪君!?」

爆豪が窓ガラスを割って部屋に入ってくる。

同時に爆破の勢いに乗った右の大振りの拳を背中を後ろに沿って回避、そのままバク転を決めて後ろにいる麗日方にまで後方飛翔する。

飯田と麗日は一瞬の出来事に混乱しているようだ。


『うお!?爆豪どっから来た!?』

『おそらく爆豪さんは階段からでは遅いと判断したんでしょう。一度建物から出て個性の爆破を使い一気に五階へと戻り、窓からの奇襲と攻撃をなさったのです』

モニタールームで観戦していたA組の生徒達はいきなりの戦いに感想や自分の意見を言い合っている。

『しっかし緑谷よく避けたなぁ。しかも見切ってるみたいだったし』

『ほんとっ!凄いよね!!』

モニタールームの声は出久達にはもちろん聞こえない。


出久は特に構えもせずに爆豪に話しかける。

「早かったね、かっちゃん」

「はっ!随分余裕そうだなっデクッ!!!」

出久は爆豪に肩を竦めてみせる。

「…君は何時も右の大振りなんだよ。攻撃も単調だし…それに、一体何年見てきてると思ってるの」

「…っ」

出久は無造作に足を前に出した瞬間、加速する。

爆豪と飯田へと距離を詰めるために背後の空気を軽く拒絶し、二人の懐へと入り込む。

爆豪も持ち前の反射神経を生かして飯田よりも早く動き出し、出久の動きを視界に捉える。

出久は鞭を大きく振り払う。爆豪はそれを爆破で飛び越え出久へと向かっていく。

「メガネ!てめえは丸顔の相手してろ!!こいつは俺がやる!!」

「まっ…麗日君のことか!爆豪君、君は名前くらい覚えたまえ!!」

「うるせえええええ!!!」

Booooom!!!!

爆豪は出久に向けて掌から爆破を放つ。

出久は両腕を掲げて爆風を防ぐ。

放った爆破を利用して爆豪は空中で身をよじり出久の背後へと回る形に入る。

Boom!!Boom!!

バサッ!!

空中にいる状態で掌を外側と出久へと向け、出久へと爆破の攻撃を仕掛けるとともに自身の体の態勢の補助を同時にこなす。

後ろに気配を感じていた出久は爆破を背中に受ける直前に背中から翼を生成する。硬質化を施した翼は黒い光沢を帯び、爆発とそれによって起きた爆風によって巻き上がった土煙を纏う。

同時に爆豪を出久は左翼で振り払った。

爆豪は突如現れた黒い翼に一瞬気をとられたのか右脇腹へと諸に食らい、真横にあった建物のコンクリートの柱へと叩きつけられる。

「ガハッ!」

勢いよく左側へと吹き飛びコンクリート柱にに少しヒビが入るが、爆豪は出久を睨み付けたまま、ふらつきながらも立ち上がる。

そんな爆豪へと出久は体ごと動かし、視線を向ける。

翼を一、二回羽ばたかせ、周りの土煙をはらう。

麗日へと視線を泳がせると飯田に追いかけられているところだったので、足のベルトから予め生成しておいたナイフを数本抜き出して飯田と麗日の間へ投げる。

「へ?」

「うおっ!!?」

飯田が急ブレーキをかけ、ナイフをギリギリのところでかわす。

出久は素早く麗日と視線を交わし、麗日が頷いたのを確認。

計画通り…時間もそんなに経ってないし順調だね。

「デクッ!!てめえの相手は俺だろうが!!!」Boom!!

「なら、全力で来なよ」

態勢を立て直した爆豪が声を荒げ爆破を利用して突進してくる。

出久は飯田の方へ投げたナイフを霧状へ戻し、人差し指を軽く動かして操作。飯田のスピードの原動力である足のエンジンの噴出口に霧を纏わせ、蓋をする形で硬質化させる。

飯田は片方の足のエンジンを止められたことに気付かず個性を使おうとした瞬間、驚きと驚愕の声をあげ、片方しかない噴出口が煙の弧を描き、飯田が回りながら壁へと激突。頭を打ったようで苦し気に呻く。

出久は突進してくる爆豪へと応戦するために左側の翼をそのままにして右側の翼を再構築して右手を黒い霧に纏わせ、黒い光沢を帯びた鋭利な断爪へと精製する。

爆豪が出久へと爆破を放つ。それを出久が左翼で防ぎ、右手の断爪を爆豪へと突き出す。爆豪は爪を横目で見ながら身をよじり頬をを掠めながらも避ける。距離をとるために爆破。出久の目眩ましと同時に自身の体を出久から離す。

爆豪は掠めた頬を腕で拭う。

「どうしたよ、デク。武器の精製が遅くなってるみてえじゃねえか?!そろそろ、限界がきてんだろ!!?」

…かっちゃんの言うとおり、粒子生成と同時に武器を精製することが出来なくなっている。だから、粒子を対象に纏わせて精製しているんだ。

でもね、かっちゃん…。

「…敢えて否定はしないよ。でも、かっちゃん。大事な事を忘れてない?僕は君と戦っている間に飯田君も対象に妨害をしていた。さて、飯田君の相手は」

そこまで言うとかっちゃんの目が見開き部屋を瞬時に見渡す。だけど、もう遅い。

「麗日さんは何処だろうね?」

「核兵器回収!!!!」

出久が言った直後、麗日の声が部屋に響き渡った。

「なぁあああぁぁあ!?核が!!!」

「つ!!!…っそういう……ハナっから舐めてんじゃねえか…っ!!クソデクゥがァア!!」

飯田が頭を抱えながら核兵器に手を付けている麗日を見て「しまった」という雰囲気で叫ぶ。

爆豪は怒り任せに声を荒げ、怒りを露にする。

そんな中、No.1ヒーローの通信音声により屋内での模擬戦…

『ヒーローチーム!!!wiii–n!!!!』

ヒーロー側の勝利を宣言した。

出久は肩の力を抜き、粒子を分解。デクの周りにあった霧は、割れたかのように弾けた。

爆豪は顔に汗をにじませ、何かに耐えるように歯を食い縛っていた。

負けた…。デクに。ヘドロん時もそうだ。アイツに助けられて、俺は……アイツに敵わなかった…っ…全力でアイツを俺は潰そうとした…なのに、デクは………アイツと俺との間にある壁はなんだってんだよ…。

爆豪は自身の自尊心が故に悔しさを滲ませる。

出久はそんな爆豪の心中を察しながらも、訓練の終わった建物から出るために階段へと向かう。

…かっちゃんにはちょっと可哀想なことしちゃったけど、訓練だから許してね。

そんな爆豪を横目で見ながら出久は歩いて行った。

クラスメイト達は僕達がモニタールームに来るまでずっと話し合っていたようで話し声が少しばかり聞こえた。

「他を圧倒するとは…流石は一位というところか」

「緑谷ちゃんの作戦勝ちってことね」

あんなの、作戦って程でも無かったんだけどなぁ。

『じゃあ…まず、二人は僕達は入り口付近から入ると勝手に思い込んでいると思う。それが、人間の心理でもあるからね。そこで屋上まで行って、奇襲をかけよう。麗日さんが個性で自分の体を浮かせてくれれば十分にいけるよ…分かったかな?』

『うーん。少し負担がキツくなっちゃうんだけど…うん!大丈夫だよ!』

ただ、屋上からの方が相手の虚をつきやすいってだけの話。

出久はクラスメイト達からの評価を無視しつつ、モニタールームに爆豪達とともに並んだ。

「さあ!!講評といこう!!!今戦のベストは文句なしの緑谷少女だ!!!」

「まあ、そうだよな」

「流れるような勝利には私達も感激しちゃった!」

「では、その他の三人の欠点ともに緑谷少女の対処方法について分かる人!!」

「はい。オールマイト先生」

八百万が真っ先に挙手をした。

「まず、緑谷さんがこの状況設定に一番順応していたからです。爆豪さんは即座に核兵器へと向かいましたが戦闘を優先してしまい、その場の状況理解に欠けていました。麗日さんは緑谷さんを頼り、自身で戦況をどうすることも出来ずにいました。飯田さんに至っては戦闘不足で私からは何とも言えませんが…。緑谷さんは即座に作戦を立案。核兵器を回収するために相手の虚をつき、奇襲をしかけました。それに加え仲間への援護とともに敵を戦闘不能状態へ。そして敵を自身へと引き付け、麗日さんへと注意を向けさせないようにしていたのも流石と言う他ありませんわ」

八百万の説明に全員が静まり返る。

的確が故に誰もなにも言えなかったのだ。

「~~~っ…くぅ。正解だ!!!!」

「常に下学上達!一意専心に励まねばプロヒーローになどなれませんので!」

八百万が当たり前と言わんばかりに堂々と言い放つ言葉を出久は目を閉じて、聞いていた。

『プロヒーローにはなれない』…ね。それは前提に「個性」があればの話。その前に個性の無い者になんてヒーローにはなれない。

…『無個性』。その絶望を知ったことこそが僕の闇の根源。ヒーローを目指す君達には決して分からないものだろうね…。

出久は静かに目を開け、いつも通りの顔を張り付ける。

まるで、人形のように…


他のチームの屋内戦も順調に進んでいった。

特に目を見張るものだったのは『轟焦凍』彼の『半冷半燃』一瞬にして建物全体を凍らせ、核兵器ともに敵チームの弱体化を同時にこなした。

こうして、オールマイトによるヒーロー雑学が終了。

爆豪は何を言うわけでもなく、ひたすら俯いたままだったが…。


教室に帰るまでの廊下ではクラスメイト達に出久は囲まれていた。

僕に対しての反応は教室に入っても変わらず…先程の戦闘の反省会だというのに…。

「いや、何喋っていいか分かんなかったけど。スゲえな、おめー!!」

赤髪の男気溢れそうな男子が詰め寄ってくる。

「そんなこt…」

「よく避けたよーー!」

お次は角の生えた…恐らく酸性の個性を使っていた肌が薄ピンクの女子が僕の言葉を遮りつつ話してくる。

「一戦目であんなのやられたから俺らも力入っちまった!!」

ええっと…なんか甘いもの食べて身体強化をしてきた暑苦しそうな男子も話してくる。

「俺ぁ切島鋭次郎!宜しくな、緑谷!!」

「私は芦戸三奈!よく避けたよーーー!」

「娃吹梅雨よ。梅雨ちゃんと呼んで」

「俺!砂藤」

「うん。宜しくね皆」

流石にこうまでグイグイ来られると反応に困るなあ…。

出久はA組の勢いに内心圧倒されながらもいつもの表情を崩さなかった。

爆豪が何も言わずに教室から出て行く所を麗日達に止められたのも見ていたのだが、出久は何も言うことなく、それを無視した。

出久にとって爆豪は既に幼馴染というジャンルの知り合いでしかなく、それ以下でも況してやそれ以上ではないのだから。














…………………………………………………

「…今更だけど、イズクはオールマイトが雄英の教師になるっていつ知ったんだ…?進路希望調査はもう出してたよな?」

死柄木は本当に今更気付いたようにイズクに質問をするが、当の死柄木本人はソファーに寝転んで漫画を読んでいる。

イズクは黒霧に出された酒をカウンターで飲みながら、黒霧と今回集めた雑魚達の個性チェックをしているところだった。

「…一年前には先生からオールマイトが教師をするという情報を貰ってたから進路希望を雄英にしていたよ…本当に今気付いたんだね…」

「キョーミ無かったんだよ。イズクだったら何処でも受かるだろ…」

「まあ、雄英の入試でも一位獲れたし」

「流石です、緑谷出久。貴女でしたら高校に行かなくても学力的には問題ないのでしょうが…」

「……このマンガもハッピーエンドかよ…。つまんないな…」

弔はそう言うと摘まむようにして読んでいた漫画を五本の指で握り潰す。その前にマンガは崩壊していたので床に漫画だった塵が積もる。

死柄木はそのまま、ソファーから立ち上がり出久の隣に座った。

「死柄木弔。ちゃんと片付けてください」

「黒霧、お前掃除好きだろ。やっとけ」

黒霧は「またですか」とため息をつく。

「弔君は何を読んでたの?」

「…あー…主人公が下らない理由で殺人を始める物語で…その殺したりする方法が面白くて読んでたんだよ。で、やっと最終巻で主人公の人生終わるのかと思ったらまさかの夢オチだ…。どんな茶番だよ…アホくさ」

「うわぁ。…なにその本当は殺人なんかやってないんですぅって話。真の平和ボケ漫画じゃないか」

「はぁ…気分が優れない…」

死柄木は苛立った様子で首を掻きむしり始める。

「そろそろゲームがスタートするのに…気分が台無しだ…。なあ、イズク…」

弔君が僕の方を横目で見てくる…弔君、絶対甘えたいだけでしょ。…これは僕から誘うべきなのか?

僕は黒霧さんに視線を向けてどうするのが良いのかアイコンタクトをとるが肩を竦められた。

…「私にはどうしようもない」と言うことですか。

はぁ…

「弔君」

出久は椅子から立ち上がりつつ弔の手をとる。

死柄木はイズクが何を言うか分かっているようで、『お父さん』から覗く弔の目は笑っているかのように細められていた。

「今日だけは…、好きにしていいよ」

出久が頬を薄赤く染めながらも弔を見つめる姿に死柄木の目が爛々と輝き、『お父さん』の下の顔は獲物を見つけた狼のように出久を見つめていた。

死柄木はイズクの腰に手を回し、カウンター席から立ち上がると自室のある奥の扉へ向かった。

出久は諦めたように弔のなされるがまま奥の扉へと手を引かれてバーから出ていく。

バーに残るのは黒霧だけだ。

「死柄木弔には緑谷出久がいなくても問題ないようになって頂かなくては…」

黒霧はため息混じりに独り言を溢す。

そして先程、死柄木弔が崩した漫画であったであろう塵を片付け始めた。









……………………………………………………

※事後

「ああぁ…もぉ、ヤりすぎだよ弔君…」

出久は自身の腰に手を当てながら隣に寝そべっている弔を見るが、直ぐに視線を反らす。

死柄木はそんなベッドに座っているイズクの背中を眺め、うっすらと笑みを浮かべた。

「…?どうしたの?」

「別に…」

再び振り向いて弔を見る出久だったが、俯せに寝ている前髪から覗く表情からは何も読み取れなかった。

死柄木は無造作にイズクの背中をゆっくりとなぞっていく。イズクは背筋を震わせ、熱の隠った視線を向ける。

その仕草に弔の笑みは深まっていく。

…あー可愛い。俺の顔色を伺う仕草も、その白く艶のある肌も、俺が何を思ってるのかを分かっていながらも尽くしてくるその姿勢も、全部好きだ…愛してるイズク。だから先生にも、黒霧にも渡したくない…。監禁して閉じ込めて、その闇の瞳でずっと見つめてくれ。俺以外を写さずに、俺だけを見て、俺に依存すればいいのに…。でも、イズクは賢いから監禁なんてさせてくれないだろうな…。

だから、せめて、俺のものって知らしめるぐらいは

…いいだろ?

死柄木の視線にあるイズクの背中には数ヶ所にキスマークがつけられていた。

イズクからは絶対に見えない位置につけられたソレはまるで、「俺のモノだ」と主張しているかのように。

「…今日はもう駄目だよ?我慢してね」

出久は弔の首に滑らすように手を回す。

君が僕をただの道具だと思っていようとも、都合の良い女だと思われていても構わない。…僕を救ってくれた恩人でもある…けど、それは黒霧さんもだし、先生も恩人だ。…でも、君は違うんだ。そのどこまでも歪んだ赤い瞳も、君がくれる言葉も、細いけど体格の良い体も、ちょっと馬鹿なところも、歪んでいても君は『愛』をくれる…あぁ…好きだよ…弔君。この思いを僕は打ち明けることはないだろう。

僕は君を縛る鎖になど、なりたくはないのだから…。

「分かってるって」

弔は出久の腕を中指を立てながら掴む。

そして、出久をベッドへと押し倒し、唇に軽いキスをおとした。

「今日は『友達』の家に泊まるって言ってあるんだろ…?」

「うん。今日は一緒に寝れるよ」

「…そ、ならいい」

弔は布団を摘まむと自分と出久にかけ、出久を抱き締めるように寝る。

「ふふっ、おやすみ。弔君」

「ああ…おやすみ。イズク」

弔君の眠そうな顔に手を添えて撫でると彼の瞼が閉じていく。


「……」


暫くすると小さな寝息が聞こえてきた。





ねぇ、弔君。

僕がキスをするのは君とだけなんだよ…。




それを知ったら君はどんな顔をするんだろうね。








出久はもう一度弔の頬を撫で、微笑むと静かに目を閉じて弔の後を追うように眠りについた。





日が上り始め、夜の町である風俗街の人通りは殆ど無い。

そんな店が立ち並ぶ地帯に紛れて建っているバーは、敵達が集まるアジトでもある。

出久はその一部屋である弔の自室で弔と共に寝ていた。

「んン……」

出久は学校へ行く準備の為に上半身を起こすが、まだぼやけている視界を眠そうに擦り、ベッドから起き上がる。

当然、横で寝ている弔は起きる気配が無いので出久は備え付けてあるシャワー室へと重い足取りで歩いていく。

昨日用意しておいた着替えを横目で確認しながら簡単にシャワーを浴び、タオルで体を拭いていると、ふと、自分の背中が鏡に写った。

虫刺されのようでどこか鬱血しているような痕が…。

ん?なんだろ??どこかでぶつけたk…

背中が鏡に写るように背を向け、確認した瞬間に出久の目が見開いていく。

「は…。はぁぁぁぁああああ!?」

この痕がどういうものか知っているからこそ出久は急いで下着だけ着けるとベッドで寝ている弔の元へと直行した。

「弔君!!!」

「あ?…なんだよ、イズク」

「なんだよ、じゃないよ!!この背中の痕、弔君が付けたんでしょ!?どうするの!僕のコスチュームのデザイン見せたよね!?ヒーロー基礎学の時にコスチューム着たら背中見えちゃうじゃないか!!」

「…あー…別にいいだろ…餓鬼共もイズクに近寄らなくなる」

「そういう意味じゃないよ!生々しすぎるでしょ!?色々と!」

「社会ベンキョーだよ。社会ベンキョー」

「もう、弔君!!少しは後にどうなるのかを考えてから行動して!!」

死柄木はいつも冷静なイズクが慌てているのをベッドで寝ながら、楽しそうに眺めていた。

出久はそんな弔の様子に、何を言っても無駄だと判断。弔を一睨みしてからシャワー室に戻り、着替えを済ませる。

背中は粒子でコーティングしてコスチュームに紛れるようにしよう。基本的に髪で隠れるし、目立たないはず…。

出久は心内で対策を練ると、扉の取っ手を掴む。

「…じゃあ、弔君。僕は学校に行くけどちゃんと手筈通りにやってね」

「分かってる…カリキュラムはイズクがやってくれるんだろ?」

「勿論。いってきます」

「いってらっしゃい、イズク」

イズクが手を振りながら扉を開けて出ていくので死柄木も同じように手を振って見送った。









……………………………………………………

雄英高校の校門前ではマスコミ達が押し寄せる騒ぎとなっていた。

女性アナウンサーや他の記者達が雄英に登校してくる生徒達にインタビューを次々としていた。

『すみません!オールマイトの授業は…え!?君「ヘドロ」の時に…』

それもその筈だ。平和の象徴、オールマイトが雄英の教師となる、と公表されたのだ。

マスコミが騒ぐのには十分だ。

「その節はお騒がせしました。失礼します」

出久は女性アナウンサーに一礼し、その場を後にする。

その顔にはいつもの明るい表情が貼り付けられていた。

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『“平和の象徴”が教壇に立っているということで様子など聞かせて!』

「様子!?えー…と、筋骨隆々!!です!」

麗日は突然のインタビューに戸惑いながらも第一印象を答える。

後から登校してくるA組の生徒達もアナウンサーに同じように質問されていく。

『教師、オールマイトについてどう思ってます?』

「最高峰の教育機関に自分は在籍しているという事実を殊更意識させられますね。威厳や風格はもちろんですが、他にもユーモラスな部分等、我々学生は常にその姿を拝見できるわけですからトップヒーローとは何をもってしてトップヒーローなのかを学べること、またとn……」

言うまでもなく、生真面目な飯田はアナウンサーの質問に事細かに答えていた。

『オールマイト…あれ!?君「ヘドロ」の時の!!』

「やめろ」

『あ…!ちょっと!!』

自分にとってあまり思い出したくない事件を口にされ、質問に答えること無く。爆豪は校舎へと歩いて行った。


『オール…小汚なっ!!なんですかあなた!?』

「彼は今日、非番です。授業の妨げになるんでお引き取り下さい」

相澤は内心、呆れつつも報道陣に手で帰るようにジャスチャー…と言うより邪魔と言った具合に帰るように注意した。

だが、報道陣がそれでいなくなる訳もなく。

尚も取材をしようと押し寄せていた。


一人のアナウンサーが雄英のセキュリティに引っ掛かり通称『雄英バリアー』を作動させてしまった為、中の様子が見えなくなるが報道陣は引き下がらない。







「なあ…これが無ければいいんだよな?」






そんな中、一人の青年が報道陣に声をかけた。







…………………………………………………

「急で悪いが、今日は君らに…学級委員長を決めてもらう」

「「「「「「学校っぽいの来たーー!!!」」」」」」

HRでの学級委員長決め。

相澤がまた試練をやらせるのではないかとクラスに緊張が走るがそんな不安もどこへやら、一気にクラス中が盛り上がる。

そして、次々と委員長への立候補の手が挙がっていく。

「委員長やりたいです、ソレ俺!!」

「ウチもやりたいっス」

「オイラのマニフェストは女子全員膝上30cm!!」

おかしな事を推してくるのは勿論、峰田である。

まあ、普通は雑務って感じだけど、ここヒーロー科では「集団を導く」というトップヒーローの素地を鍛えられる役。みんなやりたいに決まってるよね。

…僕としてはどうでも良いけど。

出久は自席から挙手を繰り返し、立候補するクラスメイト達を見ていた。

「民主主義に則り、真のリーダーを皆で決めるというのら…これは投票で決めるべき議案!!!」

好き勝手に自分がなりたいと言っているクラスメイト達に自分もなりたいであろう委員長を投票で決めよう、と生真面目な飯田は提案する。

自分もなりたいが故に挙手している手は天井へと綺麗に聳え立っていたが…。

「どうでしょうか、先生!!」

「時間内に決めりゃ、何でも良いよ」

既に寝袋へと入っている相澤は、当然の如く放任主義だった。

正直、誰でも良いんだよなぁ。うーん。真面目だし、飯田君でいっか。

出久は適当に投票先を決め、飯田の名前を書いた用紙を箱に入れた。


結果。

緑谷出久 2票

八百万百 2票

その他1票

同票の為、再度二人の内どちらが委員長、副委員長になるのか投票した結果。

出久が委員長となり、八百万が副委員長となった。

「じゃあ委員長、緑谷。副委員長、八百万だ」

「うーん、悔しい…」

「…」

何で僕に2票も入ってるの…??

面倒臭いなあ。

内心、不満を隠せない出久ではあったが彼女の表情は変わらず『いつもの表情』であった。











ピピッ


[エラーコード。セキュリティロック解除。偽装プログラム起動。コマンド表示。コードオールクリア。防御アプリケーションズ、ウイルスによるハッキング。正常。これより情報のコピーに移ります。セキュリティアクセス。手動誘導コマンド表示]

カチ…カチカチ…カチ.


出久がいる場所は授業で使うPCルーム。

戦況や作戦などの戦闘指導。その他にも通常授業で使うこの部屋には弔達に役立つ情報など一つも入ってはいない。

…本来であれば。

出久は教員用のPCに自身が持ってきた古い折り畳み式の携帯をケーブルで繋いでいた。

その携帯の画面には暗号化された数字の羅列が流れ込んでいく。

出久は薄暗い部屋の中、画面を見ていた。

が、携帯の画面の光が消えたと同時にケーブルを抜きポケットへとしまうと直ぐにPCルームを後にする。

自分がここに来たと知られぬように各地点に設置してある防犯カメラやセンサーをウイルスで欺きながら、出久は食堂へと向かった。




「…」






ウウゥゥゥーー…


出久は買ってきたばかりの昼食を持ち、先に食べていた麗日と飯田の二人と合流したので向かい合う席に座るところだったが…学校全体に響き渡る警報音。

「警報!?」

勿論、出久には何故警報が鳴るのかは分かっている。

そもそも、警報を少し遅れて鳴るようにしたのは出久なのだから…。

『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外へ避難してください』

食堂は一気に混乱しだす。

だが、一年生である飯田達には訳が分からず、側にいた先輩に質問を投げ掛ける。

「セキュリティ3て何ですか?!」

「校舎内に誰かが侵入してきたってことだよ!三年間でこんなの初めてだ!!君らも早く!!」

雄英の生徒達は直ぐに脱出口へと向かうが、早く出ようとするが為に出口の方は大混乱となっていた。

わー…みんな凄い慌てようだ。それに馬鹿ばかり。迅速に動くのはいいけど何で周りを見て考えようとしなっ…

「うわぁっ!?」

あまりの勢いに出久も人の波に流され、麗日と飯田から離れてしまう。

「デクちゃん!!」

「緑谷くーーん!!…っ一体……!何が侵入したと言うんだ!」

大混乱の中、飯田は外側のガラス張りの壁へと打ち付けられた。

丁度、外が見える。

そして、飯田が中庭の方で見たモノは…

「あれは…報道陣じゃないか!」

≪オールマイト出してくださいよ!!いるんでしょう!?≫

『非番だっての!!』

≪一言コメント頂けたら帰りますよ!!≫

「一言録ったら二言欲しがるのがアンタらだ」

セキュリティを突破してきた報道陣に相澤、プレゼント・マイクの二人が対応するが収まる気配が見えない。

『不法侵入だぜ。これはもう敵だ。ブッ飛ばしていいかな』

「やめろマイク。あることないこと書かれるぞ。警察を待とう」

「何かと思えばただのマスコミ!!皆さん落ち着…あ痛!!!」

侵入してきたのは報道陣だと知った飯田は周りでパニックを起こしている生徒達に知らせようとするが、勢いは止まること無く、再び壁へと打ち付けられた。

「っと。大丈夫ですか?僕に掴まってください。危ないですから」

「はっ、はい///」

出久はというと人波に流され、倒れそうになった女子生徒の腕をつかみ、引き寄せると人波に流されないように抱き寄せる。

女子生徒は出久のイケメンな対応に頬を染めるが出久は気づいていなかった。

…情報入手の為の撹乱だったんだけど…ここまで混乱するなら警報事態を切っておけば良かったかな?

と呑気に考えながら、流されるままに前へと押し出されていた。


ビダンッッ!!!!


「え…飯田、君?」

突然後ろの方から誰かが飛んできたと思った瞬間。『exit』と表記されている標識の上に飯田が張り付いていた。

まるで、非常口の標識のように。

「皆さん…大丈夫!!ただのマスコミです!なにもパニックになることはありません、大丈ー夫!!ここは雄英!!最高峰の人間に相応しい行動をとりましょう!!≫

飯田の言葉で侵入したのがマスコミだと分かり、生徒全体が落ち着いて行動することができた。

その後の委員会決めで出久が飯田の活躍を見て、飯田を委員長に推薦し、飯田が委員長を勤めることとなった。

「委員長の指名ならば仕方あるまい!!」

「任せたぜ、非常口!!」

「非常口飯田!!しっかりやれよー!!」

クラスからの賛同の声でクラスは賑やかになる。

「何でも良いから早く進めろ…時間がもったいない」

「「「ひっ!!!」」」

相澤の睨みで悲鳴を上げたのは誰だったのだろう。







……………………………

「どうやってただのマスコミが、こんなことできる?」

雄英の校門。セキュリティが施されたゲートには複数人の人影。

教師であるプロヒーロー達が集められていた。

三重になっていた分厚い防御壁のゲートは中心部分が粉々に崩れ、地面で塵の山となっている。

「邪な者が入り込んだか、もしくは宣戦布告の腹づもりか…」

校長である根津の一言でプロヒーロー達に緊張感が走る。











長きに渡り保たれていた平穏の崩れる足音は静かに…それでいてゆっくりと社会に迫っていた。










………………………………………………………

「はい。これが今回入手したカリキュラムに…学校全体の細かな地図に加え、立ち入り禁止場所の詳細を記したものです。カリキュラムの変更も予想されるので様々なサーバーを通してこの携帯に送られる設定にしてあります」

出久はカウンターの上に暗号を解読した文章の資料と携帯を鞄から取り出し、黒霧へと手渡す。

「緑谷出久はいつも仕事が早くて助かりますね。ありがとうございます」

「いえ、これも全て解読方法等を伝授してくださった先生のお蔭です。…ですが、流石に疲れたので黒霧さんお酒、下さい」

「では、軽いものにしましょう」

「お願いします」

黒霧はカクテルを作るために冷蔵庫から数本ボトルを取り出し、カップに入れ、慣れた手つきでカップを振り混ぜていく。

出久はそんな黒霧をカウンター席から眺めていた。

逸見ても黒霧さんは様になってるなあ。

…あ、そうだ。

出久はふと気づいたように首を傾げた。

「そういえば、弔君は何処へ?いつもならバーにいるのに…」

出久がバーに訪れた際にはもう弔の姿は無かったのだ。

「死柄木弔でしたら、昼間に役目を終えてからついでとばかりに散歩に出掛けましたよ」

「この時間になっても帰らないって…本当に弔君は気まぐれだね」

出久は苦笑いする。

「まあ、いつものことですから」

黒霧はカクテルを作り終わり、其々のカップの隙間からグラスへと酒を注いでいく。


カランカラン…


外からの扉の開く音。

二人が目を向けた先にはフードを取りながら『お父さん』をポケットから取り出す弔の姿があった。

「お帰り、弔君」

「イズク。来てたのか」

「言ったじゃないか書類を届けに行くって」

「あー…ごめん。忘れてた」

「気にしないでいいよ。さ、計画について話そう?」

「ああ」

死柄木を招くように手を伸ばしてくるイズクの手を小指を立てながらとる。

その二人の顔は笑顔だったが、何処か次元の違う雰囲気を漂わせていた。

黒霧は二人の異様な雰囲気に背筋を震わせる。

「オールマイト(ラスボス)を殺すために…な」

「……うん。頑張ってね、弔君」

死柄木弔と緑谷出久は互いに微笑み合っていた。

しかし、一人は純粋な狂気を抱く子供のように楽しそうに赤い瞳を揺らし。

一人は歪んだ闇を瞳に宿していた。

二人の異常さを既に把握している黒霧であったが、成長していくにつれ狂気は強大に。闇は深くなっていく…二人が纏う空気に、同じ敵と言えど黒霧は恐怖を感じえずにはいられなかった。

「……本当に貴方達は恐ろしい…」

静かに紡いだ黒霧の言葉は空気に溶け、消えた。

ああ、本当に…貴方達は全てを壊してしまうのでしょうね。

この社会ですらも…



出久が入手したカリキュラムから襲撃の時間、場所が決まった。










……………………………………………………

「今日のヒーロー基礎学だが…おれとオールマイト、そしてもう一人の三人体制で見ることになった」

出久は相澤の言葉に違和感を感じた。

なった…ということは、この前のゲート崩壊が何者かの犯行であることを危惧している?ともあれ対応が早いな。

「ハーイ!何するんですか!?」

「災難水難なんでもござれ、レスキュー訓練だ」

相澤からの学習内容を聞いた生徒達は壁から出てきたコスチュームを着込み、バス乗り場へと移動した。

「バスの席順をスムーズにいくよう、番号順に二列で並ぼう!!」

委員長に任命された飯田はここぞとばかりにクラスメイト達に指示を出していた。

「飯田君、フルスロットルだね………」

飯田の気合いのいれように出久は思わず感想を漏らした。



バス乗車中。

「こういうタイプだった、くそう!!!」

「イミなかったなー」

飯田の頑張りは無駄に終わっていた。

そして、バスでの移動中にクラスメイト達は口々に話題を話し合っていた。

「私、思ったことは何でもいっちゃうの緑谷ちゃん」

「えと…何かな?娃吹さん」

「梅雨ちゃんと呼んで」

あ…はい。

「あなたの“個性”の弱点って何なのかしら?制限が無いように思えるわ」

「制限は勿論あるよ。まあ、使い方によっては万能だけど」

「そういう生成系の個性って良いよな!出来ることが多くてよ!!」

娃吹の隣に座っていた切島が会話に参加する。

「俺の“硬化”は対人じゃ強えけど、いかんせん地味なんだよなー」

「そうかな?全身の硬化ってどんな個性とでも連携がとりやすいし、前線で活躍できる、カッコいい個性だと思うよ!」

「お、おう…ありがとうな///」

笑顔で切島君の個性について褒めると何故か目を反らされた…何でだろう。

「ケロケロ、緑谷ちゃんは天然なのね」

「そう…なのかな?」

梅雨ちゃんが言う意味は分かるけど…僕って天然なのか??うーん…分からない。

出久は娃吹の言葉の意味を吟味し始めた。

「僕のネビルレーザーは派手さも強さもプロ並み☆」

「でも、お腹壊しちゃうのはヨクナイね!」

バスの中は各々の話で賑やかとなっていた。


……

「水難事故、土砂災害、火事…etc.あらゆる事故や災害を想定し、僕がつくった演習場です。その名も……ウソの災害や事故ルーム(USJ)!!」

宇宙服のようなコスチュームを着こんだプロヒーロー。

スペースヒーロー「13号」が演習場へ来たA組を歓迎のかわりとばかりに施設を簡単に説明した。

相澤は13号の側まで行き、いるはずの人物がいないのを確認する。

「13号。オールマイトは?ここで待ち合わせるはずだが」

「先輩、それが…」

13号は少し声の音量を抑えつつ答える。

「通勤時に制限ギリギリまで活動してしまったみたいで…仮眠室で休んでいます」

「不合理の極みだなオイ。…ったく、仕方ない始めるか」

相澤が授業の開始を後輩である13号へと促す。

オールマイトがいない…どうしよっか。計画は宣戦布告の意味も兼ねてるし、最悪、誰か生徒を殺して雄英の信頼を落とせばいいかな。

そもそも、何故オールマイトが来れないかだ。…やはり、先生との傷が響いているのか。今日のヒーローニュースで朝に何件か事件を解決していたようだし…

出久は何をするということもなく、その場に立ち。13号の話を聞いていたが、思考はオールマイトがいない理由へと向けられていた。


「君達の力は人を傷つける為にあるのではない。助け合うためにあるのだと心得て帰って下さいな。…以上!ご静聴ありがとうございました」

「ステキー!」

「ブラボー!!ブラボー!!」

13号の話を聞いたクラスメイト達は其々、その言葉の意味を噛み締めていた。飯田にいたっては拍手を送っている。

「そんじゃあ、まずは…」

授業を進めるための手順を説明しようとした相澤の動きが止まる。

出久は馴染み深い雰囲気に目を細めた。

「……?」

後ろからの気配を感じとり、相澤は広場の方へと目を向けた瞬間。

「一かたまりになって動くな!13号!!生徒を守れ!!」

相澤は生徒達と13号へ瞬時に指示をとばす。

それもその筈、相澤の視界の先にいる者達。

出久は口元にガスマスクを着け、密かに笑っていた。誰にも気付かれないほど静かに。

ふふっ、始めようか。ヒーロー…

絶望を知らない君達に…僕達は恐怖を与えよう。

黒霧のゲートから現れる大勢の敵達。

その中心から脳無を引き連れ死柄木が姿を現した。

「何だアリャ!?また入試の時みたいな、もう始まってんぞパターン?」

切島や他の生徒達は状況がまだ飲み込めていない。

「動くな、あれは…敵(ヴィラン)だ!!!!」

相澤。イレイザーヘッドの確信の言葉に生徒、A組のクラスメイト達の表情には警戒と共に恐怖が浮かんでいく。

「13号にイレイザーヘッドですか…先日頂いたカリキュラムではオールマイトがここにいるはずなのですが…」

「やはり、先日のはクソ共の仕業だったか」

イレイザーヘッドの声色はどこか苦々しさを滲ませていた。

「どこだよ…せっかくこんなに大衆引き連れて来たのにさ…。オールマイト…平和の象徴…いないなんて…」

…ああ、弔君。やっぱり君の狂気は…


「子供を殺せば来るのかな?」


とっても純粋で綺麗だよ。

出久は久々に感じる弔の殺気に身を震わせる。




さあ。

【平和の象徴を殺せ】





ゲートからは次々と敵達が姿を現していく。

「敵ンン!?バカだろ!?ヒーローの学校に入り込んでくるなんてアホすぎるぞ!」

「先生、侵入者用センサーは!」

「もちろん、ありますが…」

無駄だよ。最初から応援を呼ばせる馬鹿が何処にいる?

「現れたのは学校全体か…何にせよセンサーが反応しねぇなら、向こうにそういうこと出来る個性がいるってことだな」

イレイザーヘッドは出てくる敵達を見ながら考察していく。

「校舎と離れた隔離空間。そこにクラスが入る時間割…。バカだが、アホじゃねぇ。これは…何らかの目的があって、用意周到に画策された奇襲だ…」

イレイザーヘッドは武器である捕縛繊維の布を掴み、戦闘体制へと入る。

「13号、避難開始!学校に連絡(でんわ)試せ!センサーの対策にも頭にある敵だ。電波系のヤツが妨害している可能性もある。上鳴、お前も個性で連絡試せ」

「っス!」

流石はプロヒーロー…対応能力もそこらへんの奴等よりも早いし、指示も的確だなあ。

出久は事の進み具合を観察するようにその場から動かない。

「13号!任せたぞ」

イレイザーヘッドはそう言うと階段から飛び降り、敵達の中心へととびこんでいった。

敵達の射撃隊は余裕そうにイレイザーヘッドを狙うが、個性がでない。

「あれ?出ね…」

ゴンッッ!!!!

イレイザーヘッドは着地と同時に捕縛布で巻き付けておいた敵同士の頭をぶつけさせ、意識を奪う。

直ぐにイレイザーヘッドの個性に気付いた敵達は異形型の個性を持つ者達を中心に単体での戦闘をするイレイザーヘッドへと攻撃を仕掛けていく。

「お前らのみたいな奴の旨みは統計的に近接戦闘で発揮されることが多い」

だが、イレイザーヘッドは慌てること無く、突っ込んできた異形型の顔面に拳をめり込ませ、捕縛布を操り、体制を崩した異形型の足首へと巻き付かせる。

そして、背後からの攻撃を仕掛けてくる他の敵の攻撃を身を翻して回避。同時に足首へと巻き付けていた捕縛布の思いっきり引っ張る。

足首へと巻き付けられていた為に異形型の男はイレイザーヘッドが引っ張った方向へと勢いをつけ、飛ばされる。

ドガァッン!!!

「だから、その辺の対策はしてる」

同時に二人の敵の無力化をしてみせたイレイザーヘッドに敵達は警戒。隙を伺うようにイレイザーヘッドを囲んでいく。

死柄木は特に驚くこと無く、イレイザーヘッドの戦闘スタイルを観察する。

「嫌だな、プロヒーロー。有象無象じゃ歯が立たない」





「…多対一の戦闘。なるほど、相澤先生の得意分野というわけだ」

「分析してる場合じゃない!早く避難を!!」

僕としては分析しておきたいし、飯田君達を避難させるわけにはいかない。

…ね。黒霧さん

出久は黒霧が相澤からの視界を見極め、此方に飛んでくるのを確認した。

「させませんよ」

「「「「「!!」」」」」

13号と生徒達の前へと全身に靄を纏った黒霧が立ち塞がった。

「初めまして、我々は『敵連合』。僭越ながら…この度ヒーローの巣窟。雄英高校に入らせて頂いたのは“平和の象徴。オールマイトに息絶えて頂きたい”と思ってのことでして」

ヒーロー側の全員に緊張が走る。

平和の象徴。オールマイトを殺そうとしている敵達へと更に警戒心を強めたのだ。

「本来ならばここにオールマイトがいらっしゃるハズ…ですが、何か変更があったのでしょうか?」

黒霧さんに渡した携帯へも変更が来ていないということは…急にカリキュラムを変えたということか。オールマイトの弱り具合をみれば、活動限界。個性の発動が難しくなっているということ…。

「まあ…それとは関係なく…」

黒霧が動き出したことで危険を感じた13号はブラックホールの閉じてある指の先端の蓋を外す。

「私の役目はこれ」

危険を察知したのは13号だけではない。

切島と爆豪は黒霧が動き出す前に先制攻撃を仕掛ける。

爆豪は個性の爆破で。切島は腕を硬化させ、黒霧の中心部分へと各々でスピード重視の攻撃。

だが、黒霧は個性で難なく避ける。

「その前に俺達にやられることは考えてなかったのか!?」

「危ない危ない………そう…生徒とは言えど、優秀な金の卵」

黒霧さんの役目。

「ダメだ、どきなさい二人とも!!」

13号が切島と爆豪の二人に後退するように指示をするが、黒霧の方が早かった。


『散らして嫐り殺す。』


それは生徒達の個性を考慮した上で、USJ内の災害施設への転送。

優位に進めるために出久が発案したものだった。

全員を黒い霧が覆っていく中、爆豪は出久へと駆け出していた。

「デク!!!」

分断されるのを防ぐ為にデクへと手を伸ばすが、爆豪の手は届くこと無く空を切った。

え…かっちゃん?

出久は向かってくる爆豪と目が合うが直ぐに霧に視界を遮られ、見えなくなった。





「死ねぇえっ!!」

Boom!!

暴風、大雨が降り続ける巨大なドームの中に響き渡る爆発音。

爆豪が放つ爆破は直ぐに大雨によって鎮火されていき、威力が持続することはない。

建物の影からは次々と敵が出てくる。

爆破は近距離でしか威力がねえか…。最大火力でブッ放しても暴風で掻き消えて雑魚共を制圧するまでにはいかねえ。他の奴等もどっかの施設に飛ばされてんだろ…あいつは強えし、心配なんてしねえ。それより、この状況…どうする。

「…チッ、面倒くせえな」

爆豪は共に飛ばされてきた口田を背に守りながらも敵達の懐に飛び込み、爆破で再起不能にさせていく。

「来いやぁあ!ザコ共!!!」BOooOM!!


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「ぐあっ…!!?」

「なっ!?尾白を放せえ!!」

水難ゾーンでは尾白と砂藤が交戦中だった。

両者共、近接戦闘、格闘での攻撃を得意とするため水中からの敵達の攻撃に悪戦苦闘していた。

「ぎゃぁっはっはっはあ!!誰が放すかよお!」

「文字通りの嫐り殺しだぜ!!」

水中を動き回る敵達。船の側面に背中を預けながら拳を振るうが、敵達はなんなく避けていく。

そして、足元から潜ってきた敵が尾白の足首を掴み、水中へと拐われた。

まずい!このままじゃ息が…っ

『おりゃー!』ボゴボゴ

「あ”ぁ”!!?あっつ!?」

『っ!?』

「お前!!芦戸!?」

尾白を掴んでいた敵の背中が水中であるにも関わらず焼けるように溶けていく。

敵の背中に触れる腕の先にある顔に尾白は見覚えがあった。

『尾白君!!捕まってーー!』

水難に飛ばされたのは尾白、砂藤だけではなく、酸性の個性を持つ芦戸もだったのだ。

「「ぷっはぁ!!」」

「おい!大丈夫か二人とも!!」

「大丈夫だよ!」

「はぁ…はぁ…助かった。芦戸」

「どういたしまし…」

「このクソガキどもがあああああああ!」

「全員でかかれぇ!」

「「「!!」」」

敵達は三人へと攻撃を仕掛ける。

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建物が絶えること無く炎に包まれているエリアでは、生徒が二人。炎の明かりで作られる濃い影の中で身を潜めていた。

「ケロぉ…ごめんなさい。常闇ちゃん…」

「気にするな。お前の個性では相性が悪すぎる」

火災エリアに飛ばされたのは蛙吹と常闇だった。

二人は一時、敵達に囲まれてしまうが、常闇の黒影(ダークシャドウ)によって前方にいた敵達を振り払い、逃走路を作り出し、敵達からいりくんだ建物の構造を使いながら逃げてきたのだ。

炎に囲まれた場所で黒影を全力で使ったために常闇も満身創痍の状態。

蛙吹は言うまでもなくカエルを主とした個性のため、常に炎によって蒸発し、乾燥し続ける火災エリアで脱水症状となってしまっていた。




A組の生徒達は窮地へと立たされていた。


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………………………………………………


死柄木はイレイザーヘッドへと攻撃を仕掛けに出る為に走り出す。

勿論、攻略方法を見つけたからだ。

「本命か!」

直ぐ様イレイザーヘッドは死柄木に気付き、拘束しようと捕縛布を伸ばすが、見切っていた死柄木に捕まれる。

「24秒…20秒」

「チッ」

イレイザーヘッドは即座に近接戦闘へと移行。

「17秒…」

死柄木が呟くのは秒数…。

イレイザーヘッドは構わずに捕まれた捕縛布を引き寄せ、死柄木との距離を詰めると同時に腹部へと肘突きを繰り出すが、急所へと決まった感触がない。

目をみやれば、肘は死柄木という人物によって手で防がれていた。

「動き回るので分かり辛いけど、髪が下がる瞬間がある…一アクション終えるごとだ。そして、その間隔は段々短くなってる…無理をするなよ。イレイザーヘッド」

イレイザーヘッドの個性が切れると死柄木に掴まれていたイレイザーヘッドの肘はひび割れ、ゆっくりと崩れていく。

肘が崩れた…っ!

イレイザーヘッドは死柄木を殴り、距離をとるが他の敵達も一斉に攻撃を仕掛けてくる。

イレイザーヘッドは焦りつつも打開策を考えるが敵での対処で頭が回らない。

耳に入ってくる死柄木の言葉がイレイザーヘッドを更に焦らせていく。

「…ところでヒーロー。本命は俺じゃない」

突如としてイレイザーヘッドの背後に現れた巨体。

頭からは脳が見え、隆々とした筋肉…目の焦点は時折、定まっていないように何処かを見ている…。

不気味で異様な雰囲気を放つ敵を目視した瞬間。

「っ!!」

頭を地面へと叩きつけられる衝撃。更に強く押さえ付けられ、加わる痛みに顔をしかめる。

文字通り、捩じ伏せられた。

圧倒的な力を持つ脳無に、死柄木は『お父さん』の下にある表情を歪ませ、口角を吊り上げ、可笑しそうに嗤う。


【「対平和の象徴。改人『脳無』」】


ボキンッッ

「ぐあ”あ”ぁ”あ”あっ!!」

脳無によってイレイザーヘッドの腕が小枝のようにへし折られ、イレイザーヘッドは走る痛みに苦痛の叫びをあげる。

「おいおい、ヒーロー。まだ抵抗しようってのか?」

再び個性で脳無の個性を消そうと試みるが意味がなく、もう片方の腕も同じように、小枝のようにへし折られた。

苦しそうに呻くイレイザーヘッドを横目で見る死柄木の顔は呆れとともに余裕の表情を浮かべていた。



「楽しそうだね。…敵連合」

「あ?……何だお前」

声が聞こえてきた方角を見る。

そこには死柄木がよく知る人物、むしろ妹の様に可愛がっている者がいた。

だが、この場では自分達は他人同士、だからこそ知らないフリを装った。

「君達が追い詰めてるヒーローの生徒だよ」

「あっそ、まあどうでもいいk…」

出久は一歩を踏み出すと同時に足元の空気を拒絶。死柄木の目の前へと飛翔し、右足で蹴りをいれようとするが弔に身を屈めて避けられるので弔と自分との間の空気を拒絶して距離をとった。

拒絶による衝撃で死柄木はその場に倒れこんだが、直ぐに起き上がり、出久を睨む。

とは言っても表面上だけで、実際は出久のヒーロースーツをガン見していた。

黒いチャイナドレスにブーツと付け根の布の間から見え隠れして際立つ色白い肌。口元に着けているガスマスク。コスチューム姿も可愛い。ああ、俺だけのイズク。

と、頭の中はこんなものである。

「みど…りや。逃げ…おうえ…んを呼べ。早く!!」

ゴンッ!!

イレイザーヘッドはまだ意識があったようで、出久へと指示を出す。だが、脳無によってイレイザーヘッドは地面へと頭を強く打ち付けられ、動かなくなった。

完全に気絶したのだろう。

流石は先生が選んだ個性を詰め込んだ脳無だ。

同時に躾に関しても問題は無いみたいだね。

出久は後でAFOに報告するために、脳無を冷静に分析していた。

「…そんな状態でも生存を優先するなんて…流石はプロヒーローだ。ま、脳無に沈められたけど」

「おいおい、出久。そんな事言ってやるなよ。そこに転がってるイレイザーヘッドも雑魚共相手に頑張ってたんだぞ?」

「雑魚はいくら集まっても雑魚と言うのが当たり前だよ。というか…弔君、本当なら僕達は今日初めて出会った敵とヒーローなんだよ?なんで、教えてもないのに名前を言っちゃってるの。分かってる?」

「この位置じゃ誰も聞こえてないって…まあ、分かったよ。『ヒーロー』」

敵同士が長話をするのは不自然とばかりに、二人はゆっくりと戦闘体勢をとった。

立ち込める殺気を含んだ空気。それは二人が日常的に組み手をしているのモノと大差ない。

死柄木は目を細め、イズクの動きを観察する。出久は太刀を生成し、構えて弔が動くのを待つ。


空気を切る一線。

黒い癖のある長髪が死柄木の視界を掠める。

交わる赤と緑の視線。

出久の居合いを避けると同時に死柄木は出久の懐へ潜り込み腹部へと手を伸ばす。が、出久は太刀を振り払い、即座に後退する。更にそれを死柄木は追っていく。

出久は太刀を生成していた粒子を再構築し、爆豪との模擬戦で使用した鋭利な断爪へと変化させる。今度は片手だけでなく、両手に装着している。

迫ってくる弔へと出久も距離を詰める為に地面を蹴り、体の軸を回転させ、断爪を装備した両腕を振り上げる。死柄木は断爪の軌道線上から外れようと横へ飛ぶ為に地面を蹴ろうとするが、足を何かに捕まれる。

「っ」

死柄木の赤い靴に巻き付く黒い蔦。それはコンクリートを突き破り、死柄木の動きを制限していた。

断爪は一直線で死柄木へと向かっていく。

だが、弔は慌てる様子を見せること無く出久を見据えた。

「相変わらず器用だな」

弔は瞬時に地面に五指を付くと急速に地面が崩壊していく。同時に生成した蔦も崩れ、塵へと化した。ひび割れていく地面、出久の着く筈だった右足の地面は壊れていき、出久の体制が崩れた。死柄木は躊躇することなく出久の左脇腹へと蹴りを決め、軽く出久を吹き飛ばす。

出久は一度地面にぶつかるが、その反動を利用し体勢を立たせると爪を地面に立て、勢いを殺し、立ち上がる。

「…ふぅ。君は良くも悪くも大胆だよね」

そして二人は走り出す。出久の低い姿勢から繰り出される両断爪。向かっていく先は弔の体の急所を避けた場所を狙っていた。

常に出久の動きを見ていた弔はその動向に目を細め、苛立ちを露にする。

折角イズクと久しぶりに遊べると思ってたのに…なんだよ…手加減なんかするな…。

「…組み手にもならないけど?」

「っ」

光る死柄木の赤い瞳を出久は視界に捕らえるが、反応するには遅すぎた。

死柄木は断爪が施されていない両腕の部分を中指を立てた状態で掴む。

振り払おうと反射的に体を動かすが、出久は死柄木の顔を視界に掠めると知性から動きを止める。

…二人は向かい合う。死柄木は楽しみを奪われた子供のように拗ね気味に出久を見、出久は察したように苦笑の表情を浮かべていた。

弔にとっては戦闘も遊びの一つなのだろう。

まったく…君は時と場所、力の加減を知らないよね。

出久は少しだけ弔に顔を寄せると、聞こえるか聞こえないかの声で囁いた。

「…いいけど、程々にしてね?」

手の下から漏れる低い笑い声。

出久は死柄木が喜んでいるのを感じ、微笑んだ。




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目の前にいるのは霧に包まれた襲撃犯。

このUSJに多くの敵達を侵入させた個性の持ち主であり、物理攻撃が効かない強敵が13号とA組の生徒達に立ち塞がっていた。

「少々散らし損ねましたか…まあ、いいでしょう。此方で対処するだけです」

黒霧のワープ範囲を外れていた生徒達。

飯田、障子、切島、麗日、瀬呂の五人が姿を消した他のクラスメイト達を気に止めながらも目の前の敵に集中し、額には汗を滲ませていた。

「皆は!?いるか!?確認できるか!?」

「散り散りになってはいるが、この施設内にいる」

飯田の問いに、複製腕の個性で施設内の音を拾い、周囲を観察していた障子が即座に答えた。

施設内での襲撃。雄英の警報が鳴らないのは恐らく、このUSJの中だけなのでしょう…妨害電波などを発する個性の持ち主が敵(あちら)側にいると考えるのが妥当…。情けないですが僕ではどうにも出来ない…ならば!

「………委員長!」

「は!」

「君に託します。学校まで駆けてこの事を伝えてください」

優秀な生徒である君達になら…出来ると信じていますよ。

反論を述べようとする飯田だったが、これしか策がないと分かっているクラスメイト達に希望を託されていく…。

「救うために、“個性”を使ってください!!」

脱出を試みようとする者達を妨害しない敵がいるだろうか。

黒霧は施設に飛ばすことが困難だとしても、この場から引き離すため、ワープの霧で生徒達に襲いかかる。

愚かですね…。

「手段が無いとはいえ、敵前で策を語る阿呆がいますか」

「バレても問題ないから語ったんでしょうが!!」

13号は個性のブラックホールで黒霧を足止めするするために指先の蓋を開く。

黒霧は目を細めた。

本当に愚策と言わざるを得ません。

失礼ながら、もう一度思わせていただきましょう。

やはり、愚かですね。

「13号。災害救助で活躍するヒーローでは、やはり…戦闘経験は一般ヒーローに比べ半端劣る」

13号の目の前にあるワープの繋がる先…13号の背後に一瞬にして広がる闇。

生徒達には見えていた。闇が…ブラックホールが先生である13号を飲み込んでいく様を。

「「「先生ー!!!!」」」

「自分で自分をチリにしてしまった」

「飯田ア!走れって!!!」

「…っくそう!!」

13号が作り出した一瞬の隙に飯田はエンジンをフル回転させて走り出す。

「誤算の末、少々面倒な役回りとなったのは仕方ありませんね…。教師達を呼ばれては此方も大変ですので」

黒霧達の目的は、あくまでもオールマイト。応援を呼ばれれば烏合の衆である自分達の負けは目に見えている。

瞬時にワープゲートを飯田の目の前へと出現させる。足が速いと言っても急に止まることなど出来はしない。

飯田の目の前に迫るゲート。


「行け!!」

「!」


障子がワープゲートに覆い被さり、飯田の逃走路を確保する。

こうなってはしまっては黒霧も余裕の表情をしていられない。飯田が走り抜けていく先の出口までの距離は短く、黒霧達はこの施設から出れば警報に引っかかるという制限もされいる。

「くそ!!」

飯田の逃走を阻止しようと動く黒霧だったが、彼の本体が何者かによって捕まれ、放り投げられる感覚とともに飯田に迫っていたはずの霧も上へと投げられていく。

身体を!!しまった!!

直ぐ様戻ろうと霧を伸ばすが、他の生徒の個性によって阻まれる。

飯田は出口から走り抜け、外へと応援を呼ぶために全力で走っていく。

「……応援を呼ばれる…」

黒霧は自身でワープゲートを作り出し、潜っていく。

「……ゲームオーバーだ」

「…死柄木弔」

黒霧は死柄木弔の背後へワープする。

死柄木は出久へと視線を向け、出久もそれを了承したように戦闘を中断して後方飛翔し、弔と距離をとった。

「黒霧、13号はやったのか?」

「行動不能には出来たものの散らし損ねた生徒がおりまして…一名、逃げられました」

「………………は?」

散らし損ねたとは…流石に黒霧さん一人であの人数の生徒達は荷が重すぎたかな。

出久はしょうがない、と割り切っていたが死柄木は違った。彼が苛立つ時に必ずと言っていいほどにする癖。

弔は首をひたすらに掻きむしっていた。

いつもは出久がある程度のところで止めるように促すのだが、今はそんなことを言えば弔達との繋がりがバレるため、出久は出久が味方とは知らされておらず襲いかかってきた雑魚敵の相手をしていた。

出久を視界に写しながらも死柄木は首を掻き続けている。

「はぁーーー…黒霧、お前…お前がワープゲートじゃなかったら粉々にしたよ…」

だが、やっと整理がついたのか掻くのをやめた。

「さすがに何十人ものプロ相手じゃ敵わない。ゲームオーバーだ。あーあ…せっかく念入りに準備したのに……今回はゲームオーバーだ。帰ろっか」

弔は身体をだらけさせ、やる気を失ったような雰囲気を放ったがそれも束の間。

「けど、その前に…平和の象徴としての矜持を少しでも」

死柄木は先程までいたはずの場所にはいなかった。

この場にいる数名にしか追い付けないであろう動きの速さで死柄木が向かったのは水難エリアの水辺。

そこにいたのは…

「へし折って帰ろう」

「……ぁ」

ボロボロになり、ずぶ濡れになりながらも水難の敵を制圧することに成功した芦戸、尾白、砂藤だった。

そして、死柄木が五指の指で触れようと手を伸ばす先にある顔は…『尾白』。

ヒタ…

「………………」

死柄木の五指が尾白の顔面に触れるが崩壊は起こらなかった。

尾白は顔を蒼白させ、突然目の前に迫ってきた敵に冷や汗を流しながら硬直していた。

“個性を消せる個性”…こんな芸当が出来る個性の持ち主はこの場には一人しかいない。…あぁ、本当に胸糞悪いぜ。

死柄木は後ろへと目を向けた。

「本っ当。かっこいいぜ、イレイザーヘッド」

気を失っていた筈のイレイザーヘッドは限界であろうドライアイの目を見開き、死柄木の個性を消していた。イレイザーヘッドの顔は脳無によって地面に打ち付けられた為に血だらけになっている。

ゴンッ!!!

再度、脳無によって地面に打ち付けられる。

行動不能にされ、叫びすら上げないほどにイレイザーヘッドは疲弊していた。

…相澤先生に意識があった?一体どこから…。どちらにしろ僕の実力が弔君との戦闘で見られてる可能性が少なからずある。それにまだ目視してないけど他のクラスメイトもいるしなぁ。

「はぁ……仕方ない…」

出久は呟くと、相手をしていた雑魚達を鞭で凪ぎ払う。

出久は腰を屈め、空気を拒絶。

死柄木の側まで一瞬にして飛び出した。同時に生成するのは、巨大仮想敵を倒した時よりも一回り小さい中型の黒腕。

出久としては弔達の邪魔はしたくなかったが、動けるのに動かないのは流石に不自然と思われると判断したのだ。

黒腕の大振りで殴ろうとする出久を見るとともに死柄木は口を開いた。

「脳無」

ズドオォォオンッ!!!!

死柄木の一言で出久の目の前に現れたのは脳無。

出久が先生とともに個性を選び、オールマイトを討つために開発された“脳無”。

そのスピードと耐久性は検証済み。出久の全力の黒腕でも耐えきれるように肉体の強化も十分されている。

黒腕を耐えた脳無に、出久は持ち前の演技力で驚いたように目を見開いていた。

「なっ…!!?」

「良い動きだな…だけど、邪魔をしてくれるなよ。ヒーロー」

「~~っクラスメイトの危機だからね!!」

実際は焦っていないのにも関わらず、出久は汗を流しながら、強がるように満身創痍の中に浮かぶ笑顔を顔へと張り付けた。

どう見ても友達を救わんとする輝かしい少女の姿がそこにはあった。



バンッ!!!!!


出入口から響き渡る荒々しく扉を開けたような音に、施設中の目線が集まる。

まさか…。

出久は憎らしいほどに眩しい気配を纏う人物が現れた事に純粋に驚いていた。

飯田が応援を呼びに行ったとしてもオールマイトが居るであろう本校舎まではまだ時間が掛かるはずだった。

「もう大丈夫」

早…すぎる…。

「私が来た!!」

≪≪≪オールマイト!!!!≫≫≫

現れたオールマイトの顔は笑っておらず、怒気を露にし、敵達を睨む。

オールマイトの登場で、危機に立たされていたA組の生徒達は涙目で喜び、安堵した。

逆に雑魚敵達はオールマイトを目にし、畏縮していた。

死柄木はオールマイトを見据える。

「待ったよ、ヒーロー。社会のゴミめ…」

雑魚敵達が先制攻撃を仕掛ける間も無く。

「「「「!!」」」」

オールマイトは階段を飛び降り、一瞬にして雑魚敵達を一掃。

相澤の容態を確認したオールマイトは仰向けの状態に寝かせる。

その刹那。

「っ!?」

どうにか視界に捕らえることが出来る程度。

まさに一瞬の間に弔君が殴られ、僕と水難にいた三人は相澤先生のところまでオールマイトによって運ばれた。瞬きすればオールマイトの動きを見切ることなど出来ないだろう。

「皆入り口へ。相澤君を頼んだ…意識がない、早く!!」

「え!?…え!?はあ!?速…!!?」

本当に速い…でも…。

「あぁあぁ…だめダ…ごめんなさい…『お父さん』……」

死柄木はオールマイトに殴られた衝撃で顔から外れた『お父さん』へ、おぼつかない足取りで向かうと、優しくつまみ上げる。

そして、自分の顔へと装着していく。

「助けるついでに殴られた…ははは。国家公認の暴力だ。流石に速いや…目で終えない。けれど思った程じゃない……やっぱり、本当なんだ……

『弱ってる』って話…」

『お父さん』の影から覗く弔の赤い目はオールマイトを見ており、その顔は笑顔だった。

ゲームが続いているのを喜ぶ子供のように…。




【コンテニューだ】




………

僕と尾白、芦戸、砂藤は重症の相澤先生を担ぎ、オールマイトの言われた通りに出口の方へと向かう。

始まる戦闘を横目に見ながら。

≪CAROLINA…≫

オールマイトは両腕交差させ、死柄木、脳無達へと突撃していく。

「脳無」

≪SMASH!!!!≫

クロスを描くようにして放たれた強烈な手刀が脳無の頭部へと直撃する。ダメージを思わせない素振りで脳無は即座にオールマイトに目の標準を合わせ、『役目』を果たそうと両腕でオールマイトを捕まえようとするが、オールマイトは身を仰け反らせ回避。脳無へと拳の連撃を浴びせるが攻撃が通った感触がしない。

「全っ然…効いてないな!!!」

「効かないのは“ショック吸収”だからさ。脳無にダメージを与えたいなら…ゆうっくりと肉をえぐるとかが効果的だな……。それをさせてくれるかは別として」

死柄木は饒舌に語りだす。目当てのオールマイトが現れ、表情には出さないまでも、興奮しているのだろう。

「そういうことなら!!やりやすい!!」

ズドオォォオンッッ!!

オールマイトは脳無の背後へと素早く回り込み、バックドロップを決める体勢へと入った。

地面を砕き、上へと流れる余波は凄まじい衝撃を生み出す。

生徒達はオールマイトが敵達を倒していく姿に尊敬の眼差しを向け、応援を、歓声を口々に叫んでいた。


「っ~~~!!そういう感じか…!!」

オールマイトの口元から僅かに溢れる血。そして、動きを封じるためにバックドロップを決めたはずの脳無の上半身。その両手はオールマイトの脇腹に爪を立てている。更に左の脇腹のシャツからは血が滲み出ていた。

黒霧のワープによって脳無をコンクリートに突き立てられるのを防ぐとともに、オールマイトの拘束を成したのだ。

「君ら初犯でコレは……っ覚悟しろよ!!」

オールマイトは左脇腹へと食い込んでくる脳無の手を引き剥がそうとし、どうにかしての脱出をはかる。だが、脳無はオールマイトと同等に渡り合えるほどの身体能力。易々と剥がすことはできない。

…こんなに呆気なく拘束されてしまうなんて…。全盛期に先生をあそこまで追い詰めた人物とは思いたくないな。

「目にも止まらぬ速度の貴方を拘束するのが脳無の役目。そして、貴方の身体が半端に留まった状態でゲートを閉じ、引きちぎるのが私の役目」

黒霧の『役目』。オールマイトの胴体を引きちぎる為に脳無は抵抗するオールマイトをじわじわとゲートへ引きずり込んで行く。

「おいおい、ヤバイんじゃないか!?オールマイト!!?」

「みっ、緑谷ー…」

流石にオールマイトが押されているのを理解したのか、相澤を抱えている砂藤、続いて歩いていた芦戸は足を止めて不安そうにオールマイトを見ていた。

そんな風に見られても、僕としてはこの状況が良いんだけどな。弔君も嬉しそうだし。

「僕達はヒーローの卵である前に雄英の生徒だ。助けに入ったとして、逆にオールマイトの足を引っ張ってしまうかもしれない。押されているオールマイトの負担を更に増やそうって言うの?…冷静に判断しないと駄目だよ」

「~~っ!!緑谷!!」

出久が適当に言葉を並べ立てると我慢の限界とばかりに尾白が声を荒げた。

「…ど、どうしたの。尾白君」

「お前は実力があるんだろ!?オールマイトがピンチなんだ!!緑谷はヒーローになるんだろ!!!?」

「……」

つまり、僕に弔君の邪魔をしろと尾白君は言ってるんだね。

緑谷は困ったように眉を下げ、口を引き結んで『僕はどうしたらいいのか』という表情をする。

「「緑谷!!」」

他の二人も緑谷の実力ならオールマイトを救えると理解している。

ならばと尾白の意見を押すように二人も出久を見る。

あぁ。君らは本当に『人を頼る』ことを常とするんだね。

出久は決意したように三人に向かってうなずく。

裏では軽蔑を浮かべているが其を表に出す過ちなど出久は絶対に犯す事はない。

出久は三人から素早く離れると地面を蹴り、空気を拒絶し、死柄木達の目の前へと飛び出した。

黒霧、弔の二人は出久の妨害を予想していなかったために驚きを隠せないが、状況をなんとなくではあるが察した黒霧は即座に出久に応戦するために黒い霧を伸ばしてくる。

出久の生成した黒い光沢を帯びる漆黒の大剣が黒霧達へと迫る直前。


「退いた方がいいぞ。緑谷」

「…!」

霧と出久を別つように巨大な氷結が出久の目の前に突如として現れる。

冷気が立ち込め、地面に跡を付ける氷を辿っていくと右半身に少量の氷を纏った人物がいた。吐く息は白くなっている。


「てめぇらがオールマイト殺しを実行する役とだけ聞いた」


氷と炎を持ち、どちらも強力な個性であるがゆえに出久も個人的に警戒していた。

彼を施設内の何処に飛ばしても所詮、時間稼ぎにしかならないと分かっていた。

流石はエンデヴァーの息子。



「てめえらに平和の象徴は殺させねえよ」




轟…焦凍。






オールマイトは負傷した左脇腹の出血を手で押さえながらも敵を見据え、轟、出久の元まで後退していた。

その表情は苦々しい。

あと少しでオールマイトを殺害まではいかなくとも、重症に追い込めるところだったのに…轟君を相手にさせるには倍の数必要だったかな。少しでも連携が出来る個性を配置させるべきだった…僕も未々だね。

出久に至っては内心舌打ちをする思いだったが、直ぐに分析へと切り替える様は流石としか言いようがない。

「轟君!!他の皆は…!?」

「いや、飛ばされた場所には俺一人だけだった。情報を聞き出して急いで此方に来たんだが…あんまり、良い状況とは言えねえな」

「うん…。今、飯田君が応援を呼びに言ってる。他のプロヒーローが来るまでどうにか凌ぐしかない」

情報まで聞き出されるなんて…雑魚は雑魚ってことかなぁ。ま、時間稼ぎは少しはしてくれてる。その証拠に災難エリアから此方に辿り着いているのは轟君だけ。…うん、頑張ればオールマイトに致命傷くらいは負わせれるかな。

死柄木は横で転がっている脳無を一瞥。

「脳無…さっさと起きろ」

死柄木の命令で脳無は黒霧のワープを通した状態で半分凍らされていた体を無理やり起き上がらせていく。無理やり動かしたために氷結した身体は粉々に砕けていくが、そのまま立ち上がる。

立ち上がれば砕け散った体の断面から骨が作られ、筋繊維が伸び、失った体の部位を急速に再生させていく。

「二人とも下がれ!!なんだ!?ショック吸収の個性じゃないのか!?」

「別にそれだけとは言ってないだろ。これは『超再生』だな…。脳無はお前の100%にも耐えられるように改造された、超高性能サンドバッグ人間さ」

「『ショック吸収』に『超再生』か。厄介な敵だが、今度は全身を氷結させればそんなの関係ねえな」

「えと、轟君。それは死なない程度に氷結させるって事だよね?」

「さあな」

「…最近の子供は物騒だな。ヒーロー志望がそんなんでいいのかよ…めんどうだ。脳無、一旦あの氷の餓鬼を殺れ。黒霧…お前は脳無の援護な」

「ええ、了解しました」

脳無が動き出したその刹那。

ボッゴオォン!!!

近距離から凄まじい衝撃が走った。それは空気の震える振動。そして、一瞬にして立ち込めた大量の砂埃から見えたのは表情の読めない脳無の姿だった。

「……な」

「轟君!?」

そして、出久の隣には先程まで目の前にいた筈の轟が棒立ちしていた。

轟君をあの一瞬で庇うなんて…。

脳無が轟へと殴りかかるよりも早く、脳無の動きを読んだか、察知したオールマイトが轟の腕を引っ張り、出久の方へ投げ飛ばし、同時に脳無の打撃を受けたのだ。

施設の壁まで吹き飛ばされたオールマイトはダメージを負いながらも脳無の攻撃を両腕で防いでいた。

「ゴホッ…ゲホ…。加減を知らんのか…」

「仲間のちょっとした敵討ちさ。お前らもするだろ?俺達が他のために戦えば、『正義』とかいうあやふやな理由で罰せられる。対してお前らが振るう暴力は美談となる…そうだろ?ヒーロー?」

死柄木は何かを演じているかのように腕を広げて見せる。

「何が平和の象徴…!!所詮、お前は抑圧のため暴力装置だ!暴力は暴力しか生まないのだとオールマイト(お前)を殺すことで世に知らしめるのさ!」

「めちゃくちゃだな。そう言う思想犯の眼は静かに燃ゆるもの…自分が楽しみたいだけだろ。嘘つきめ」

確かに、死柄木弔は楽しんでいます。目の前にあるものを試しに使って遊ぶ子供のように…。それも仕方のないことでしょう。先生がそうなるように教育をなさったのですから。

「バレるの早…」

死柄木は手の下で歪んだ笑みを浮かべる。

悪意に冷えた空気が漂う中。それを吹き飛ばすかのような爆発音が空間を破った。

Boom!!

「死ねぇえ!手だらけ野郎!!!」

「!」

「かっちゃん!」

「爆豪少年!!」

弔の真横から爆破で飛んできた爆豪は勢いを殺すこと無く、弔へと殴りかかろうとしていた。

「……カッチャン?」

弔は呟くと自身へ殴りかかってくる爆豪を見、即座に手を爆豪の顔面へと向ける。

先程の笑みはどこへやら、暗く赤い目には苛立ちが写し出されていた。

イズクの幼馴染…特別?は?ウザイ。死ね。死ね死ね死ね死ね死ね死ねしねしねしねしねしねシネシネシネ!

「っ!!?」

弔から溢れでる殺気。爆豪は野生の感が騒いだのか、一気に額から汗が滲んだのを感じる。だが、向かっていくと同時に迫る殺気は既に目の前。

奇襲をかけたかと思われた爆豪との間に、弔による攻防はない。力量がありすぎるがために想像出来るのは爆豪が崩されるその光景のみ。

の、筈だった。

その光景を…空気を切り裂くかのような威圧。

鋭く、澄んだ天色の眼光が敵達の背筋を凍りつかせた。

しかしそれは敵だけではなく、その場の全員が…呑まれたのだ。

「っ!!!」

死柄木は反射的に爆豪から瞬時に距離をとる。

ドオッ!!!

空気の震える振動。オールマイトが死柄木の元へ行こうとするのを阻止するように脳無が飛び出し、互いにぶつかり合ったのだ。そして、両者の激しい殴り合いの連打が始まる。一撃一撃が重く、その一撃ごとに威力が増していく。

「真正面からの…殴り合い!?」

まるで爆風をぶつけ合っているかのように衝撃は大きく、強風で近づくことはおろか、動くことすらままならない。

≪『無効』ではなく、『吸収』ならば!!限度があるんじゃないか!?私対策!?私の100%を耐えるなら!!さらに上から捩じ伏せよう!!≫

出久は空気への粒子干渉を行い、自身の周りを空気の層で覆いながらその場に悠然と立っていた。そして、オールマイトと脳無の戦いへと視線を向ける。

血を吐きながらも、やたら滅多に脳無に撃ち込んでるんじゃない。この増していく衝撃…一発一発が全て100%以上の…まさか!

≪ヒーローとは常にピンチをぶち壊していくもの!!敵よ。こんな言葉を知っているか!!?≫


【≪Plus Ultra!!!!≫】

ドッガァアアァァアンッ!!!


オールマイトの最後の一撃によって脳無の巨体が吹き飛び、勢い余って施設の天井を突き抜け吹き飛んでいった。

撃ち合いの末。勝者は…

「やはり、衰えた。全盛期なら五発も撃てば充分だったろうに」

オールマイト(平和の象徴)。

せっかくの…脳無を…吹き飛ばした…。脳筋にも程がある…せっかく、折角、先生と集めた個性もパァ?少し飛ばす程度なら黒霧さんが回収できたのに!ああ…本当に鬱陶しいよ。平和の象徴!!!

出久は空気の層を解除しながらマスクを着け、表情を隠すと怒りで顔を歪ませる。

「300発以上も撃ってしまった。…さてと敵。お互い早めに決着つけたいね」

「チートが…!!」

弔はまたもや首を掻きだした。

「よくも俺の脳無を…」

死柄木は苛立ちながらも撤退するか、脳無がいないこの状況のままオールマイトを殺すのか迷っているようだった。

すると、黒霧がオールマイトを観察し弱っていることを確認。納得した弔は、黒霧とともにオールマイトへと戦闘体勢をとる。

確かにオールマイトは今弱ってる…。でも、弔君と黒霧さんで勝つには時間が足りない。応援が来てしまう確率が高い。駄目だ…諦めて…弔君。

ザッ

「!?おい緑谷!!俺達のでる幕じゃねえよ!!」

「あ!?おい、デク!!」

出久はオールマイトと睨み合っている弔達へと歩いていく。

弔とオールマイトが戦い、応援に来たヒーロー達に弔達が少なからず傷を負わされる可能性は高いと判断したのだ。

「死柄木。君の言うゲームはもうタイムアップだ」

「あ?………お前」

「もうすぐ、僕達の応援も来る。それでもまだ殺ろうって言うなら僕が相手になるよ」

出久は暗意に弔達へと撤退を呼び掛ける。

オールマイトも満身創痍。活動限界時間を大体でも分かっただけ収穫だ。それに、雄英の管理体勢も避難を浴びるのは免れない。活動初犯としては、もう充分だよ。

「「……」」

死柄木と出久は暫くの間向かい合っていたが弔は後ろを振り向き、黒霧へと合図をだす。

「死柄木弔、撤収しますか?」

「ああ、雑魚共も回収出来るだけしておけ」

「分かりました」

すると黒い霧が弔を包んでいく。

霧に消えながら弔はオールマイトを指差した。

「今回は失敗だったけど…今度は殺すぞ。平和の象徴。オールマイト」

そして、霧は消えていった。




「ぐ……っ!」

「…オールマイト!大丈夫ですか?」

出久はオールマイトの元まで小走りで走っていく。

今は砂埃で隠れてはいるが、オールマイトがトゥルーホームに戻る際に発せられる蒸気のようなものが出ていたからだ。知っているのに見過ごす事をしないのはオールマイトに少しでも信頼を寄せてもらうため…バレる可能性を最低に保つためだ。

オールマイトからは頼れる少女として見えていることだろう。

「ああ、お蔭で助かったよ。緑谷少女」

「…いえ!敵達が大人しく引き下がってくれたのも幸いしました。さ、これを」

「すまない。ありがとう」

出久は粒子の黒い布を生成し、オールマイトに被せる。他のクラスメイト達には飛ばされたままのクラスメイトを見に行くようにお願いする。

そして、全員の視線が逸れたのを確認。オールマイトを布に包みながら目立たないように入り口の方へと誘導していった。

その後にはプロヒーロー達がUSJへと到着。取り残された敵達の逮捕を迅速に行い、警察によって脳無も拘束された。

担任である相澤は両腕を粉砕骨折、顔面骨折。13号は背中から上腕にかけての裂傷。

USJ内に飛ばされた生徒の大半は傷を負い、数名は脱水症状や骨折をしていたため、相澤、13号とともにリカバリーガールの元へと搬送された。

出久は自分のやることが無くなると周囲を観察していた。

事が処理されていく中。生徒達の顔色は様々であった。

ある者は得意気に敵達を倒したこと。また、敵の脅威が去った安堵から涙を流す者。ある者は敵によって傷を負わされ、恐怖の表情を浮かべる。そして、ある者は何処か悩んでいるような、厳しい表情を浮かべていた。

出久はマスクの下でほくそ笑む。

何故なら絶対的な絶望を与えるに至らなかったとしても、全員ではなかったとしても、将来有望である生徒達の心に罅を入れれたことを確信したのだから。













…………………………………………

「……」

「弔君、拗ねないで?ね?」

『弔、これから学んでいけばいいんだ。失敗したとしてもまだ次がある』

「……」

いつものバーではテレビ越しのAFOと、帰って来たばかりの出久が弔を宥めていた。どうやらバーへと戻ってきた弔は先生とドクターから色々と言われ続け、いじけてしまったらしい。

「先生。何を言ったんですか?流石に弔君だってお兄さんなのに…ここまで拗ねちゃうのは…」

『なに、最初に弔が今は動けなくなってしまった僕達の「シンボル」となることについて。その後は何時もの戦術や、個性についての話をしただけだよ』

「…まさか、いつも僕と話してるみたいに話したんですか?」

『まあね』

AFOと出久は、脳無を作っているということもあり、専門的な話を常としている。だが、脳無が使えればどうでもいいと思っている弔には興味のない話であり、それを長々と聞かされたとなれば苛立つのも仕方のないというものだ。

出久はソファーへと寝転び、何も話さない弔を見て頭を押さえた。

「先生…」

『すまないね。口煩くなってしまうのは年寄りならではさ』

「先生は年寄りなんかじゃないです。はぁ…黒霧さんは何も言わなかったんですか?」

「死柄木弔が苛立っているのは容易に判断出来ていましたが、先生のお話しを遮るなど私には致しかねますので」

「…二人とも」

『だがね出久。これからは必要となってくるんだよ。弔には成長して貰わないとならないからね』

「お願いします。緑谷出久」

「はぁ…分かりました」

出久は二人に溜め息をつくとカウンター席を下り、弔の元へと歩いていく。そして、そっと弔のごわついた髪の毛を撫でる。

「弔君、これから君は先生が仰ったみたいに『シンボル』として頑張っていかなきゃいけないだろうね。君にはまだ、そんな自覚ないのかもしれないけど、いつかはその意味を本当に理解してくれると思ってる」

「…」

「全部、弔君のためなんだよ。本当は分かってるでしょう?これからは雑魚敵じゃなくて精鋭を集めて…「イズク」」

死柄木は起き上がり、ソファーにもたれ掛かると、四本の指で顔にある『お父さん』に触れた。

「ん?何??」

「…離れるなよ。俺から」

「…」

確認するようで、お願いをしているかのような問い。出久の言葉から何を思ったのか死柄木はそう言うと出久をソファーから見上げた。

出久は何処となく寂しそうな顔を浮かべたが、死柄木にはそれが何を意味するのか分からず、ただ、見つめた。

「大丈夫。僕は君の物だよ。だから弔君、君が望むなら僕は人を殺すし、君が望むなら僕は死ぬ」

出久はソファーに座る弔の前へと移動すると跪く。そして、弔を見る。

「それは揺るがないし、君が望むなら僕は何だってやる。君に誓うよ。死柄木弔君、僕は君の為に…君の望む社会の最後を実現するために全力を注ぐ」

「…」

「だから、多少出鼻をくじかれたとしても、嫌な事があっても耐えて。僕も、黒霧さんも、先生さえも駒として使えるものを使えばいい」

出久はそう優しく微笑んだ。

知ってる…餓鬼の頃から知ってる。お前は俺に拾われてからずっと俺に言い続けてる。俺の為に死ねる、殺せるって。

「…知ってた」

俺はイズクに何を言って欲しかったんだ…。自分でも分からない……チッ。

「へ?…あ、弔君!」

弔はそう言うと立ち上がって奥の扉を開け、奥の通路へと歩き去って行った。

『もう少し煩悩感を抜けさせた方が良かったかな?…まぁ、いいさ。教育のやり直しというわけではないだろう』

「…先生は一度に全部を叩き込もうとし過ぎですよ。僕の時は良かったかもしれませんが、今更ながら、僕は他の人とは違うんですから」

『それもそうだね。…それにしても出久。先程のは分かっていることとはいえ、少し妬けてしまうよ?』

「?何がですか?」

『…君にとって弔がどんな存在であるかは承知している。だが、僕にとっても君がどんな存在であるのかを君自身に理解してもらいたいね』

出久は一瞬だけAFOの言っている意味が分からなかったが、直ぐに理解した。

彼自身がいつも自分に囁いている事なのだから。

「ふふっ、先生。勿論、知っていますよ。ですが、『最愛』と囁いているわりには僕を監禁したりしないんですね。貴方なら簡単でしょう?」

『そうだね。一時だけ考えたことはあるけど、それ以上に君は使える。使えるものを使わないのは損というものだよ。それに、簡単に捕まえられる、と言えるほど僕は君を侮ったことはない』

「…いいえ。そんなことはないですよ、先生。この身体は制限付きですから」

『「…」』

彼女の『制限』を知る二人は何も言うことが出来ず、いや、言うべきではないと理解しているがために押し黙るしかなかった。

「…緑谷出久。やはり、死柄木弔には言うべきではありませんか?いずれは「黒霧さん」…」

黒霧の言葉を遮る出久は笑顔を張り付けていた。その目は綺麗な瞳ではなく、濁り、歪んでいた。だが、直ぐに瞳には光が差し込み、明るい彼女が覗く。

「先生、黒霧さん。僕はそろそろ帰る時間なので失礼します。では、また」

「…ええ。また、いらしてください」

『おやすみ、出久』

「おやすみなさい」

カラー…ン

出久は外へと繋がるバーの扉を開けると、暗くなった夜町に消えていった。

バーにはテレビ越しに椅子に座るAFOと、バーカウンターに立つ黒霧が残る。

『予想が困難とは言え、最後にどうなるのか。二人の先が楽しみだね』

「…」

薄く笑うAFOの言葉。

黒霧はAFOに『先』を問うようなことはしなかった。それは、聞いたところで分かるものではないと解っているからである。

敵ながら、黒霧は自分は正常だと思っている。

何故か。答えは至極簡単。周りにいる人物達が上記を逸した異常な闇の中にいる、理解のできない者達だと認識しているからだ。故に黒霧は一線を引くために先生以外をフルネームで呼び、自身は第三者なのだと認識させている。

呑み込まれないために…本能に従った。

除き見ることさえも憚られるほどの黒に染まる深淵。黒霧にはその淵まで歩いていけるほどの異常性、否、闇に堕ちてはいないのだ。

黒霧はグラスを拭き終わると、まだ濡れている新たなグラスを拭き始めた。










「ねえ…ヒーローって何なのかな?…どんなに知識を頭の中に積めたって僕には分からなかったし、何故ヒーローという職があるのかも分からない。理解もできない」

癖のある黒髪を少女は弄びながら思考を巡らせていた。

黒い部屋。あるのは少女が座る事務椅子と、扉とは反対側。壁と接合するように設置された機械椅子。証明に照らされるその椅子にはヒトが座っている。

「人間は弱い。いくら進化しようと根本が覆ることなどありはしないんだ。『神は人の上に人を作らず』…有名な言葉だけど、それはこの超人社会において成り立つ言葉なのかな?神なんて僕は信じてはいないけど…もし、神が作ったこの世界の法則をねじ曲げる個性が現れたら…無制限で人を支配する個性が現れたら…」

出久はヒトを見るが、瞳には宿るモノは無く、無機質なものだった。

「それはもう『平等』じゃない。ま、優劣を付ける種である人間に、平等なんて言葉は最初からあり得ないんだけど…そうすると『無個性で可哀想な僕』は劣等であって、『雄英生で強い個性の僕』は優秀な人材。利用で成り立つ世界…ヒーローはこの社会そのもの。欲を満たすために欲するアドバンテージだ。助かりたいから利用し、自分を肯定する目に見えるものを得るために利用する」

出久が見るモノ。それは蝋のような肌、頭から流れる墨のように黒い液体は、俯いているであろう顔から止めどなく滴っていた。

部屋が黒に一色に覆われているために分かり難かったが、液体は部屋中に飛び散っており、椅子の周りには黒々とした肉塊が散乱している。

「昔の僕は馬鹿だった。自分が死ねば周りは良くなるのだと思い込んでいたんだから…自分の絶望を相手に知らしめる事が出来ると思ってた。でも、そんな事が出来ないって直ぐにわかったんだ。それに、弔君と出会って僕は変われた。だから」

歪んでいく表情。瞳孔の開けた淀んだ眼。

まだ幼さが残る顔が狂気に染まる様は恐怖をより一層際立てる。

「僕は、あの人が望むことを実現させる」

黒しかない部屋。

色と言えば出久が来ている雄英の制服のみ。

部屋に広がる光景の異常性が浮かび上がる。

本来、将来有望であるはずの雄英生がコスチュームを着た男…ヒーローを無惨にも殺害している光景。

周りの肉塊を見れば一人、二人だけではない。

本当ならば赤い筈の肉塊の色。流れる血は黒く、唯一の光源である証明に照らされている。

「…こうやって君達を殺すことには意味なんてない。でも、僕…雄英生が、『ブラッド』が凶悪犯罪者であるという肩書きはあって損はない」

独り言を呟き続ける出久の言葉は、動かないヒーローへと向けられていた。

出久は椅子から立ち上がり、粒子を生成すると黒い霧が器用に肉塊などを包み込んでいく。既に息絶えたヒーローの白い肌を霧が呑み込み、形を成せば黒い人形となる。

「さてと、ゴミは利用しないとね…」








グシャリ













………………………………………………

翌日、臨時休校を終えた出久達は学校へと登校。そして、朝に行われるHRで包帯を身体中に巻き付けた相澤が次に行われる学校行事を生徒達に教える。

それは

「体育祭…!」

≪クソ学校っぽいの来たぁあ!!≫

「待って待って!敵に侵入されたばかりなのに大丈夫なんですか!?」

誰もが思ったであろう質問を誰かが相澤へと問うが、既に決定事項らしく、相澤は落ち着いて返す。

「逆に開催することで雄英の危機管理体制が盤石だと示す…って考えらしい。警備は例年の五倍に強化するそうだ。何より、雄英(ウチ)の体育祭は『最大のチャンス』。敵ごときで中止していい催しじゃねえ。

なにより、日本に於いて今。『かつてのオリンピック』に変わるのが、雄英体育祭だ」

全国のトップヒーロー達が集まり、有望な人材に目星を付けるという場でもある雄英体育祭。

「当然、名のあるヒーロー事務所に入った方が経験値も話題性も高くなる。時間は有限。プロに見込まれれば、その場で将来が拓けるってわけだ」

そう…これが職となったヒーローになるために作られた社会のレール。

「年に一回…計三回だけのチャンス。ヒーローを志すなら絶対に外せないイベントだ」

反吐が出る。



昼休みになるとクラスメイト達は今回、迫っている一大イベント。体育祭について盛り上がっていた。

出久は毎年、雄英体育祭をテレビで見てはいた。しかし、それは個性応用力、相手の行動の分析を幼い出久が学習するために先生が課した課題でもあったからだ。つまるところ、競技に参加することで特に利益が有るわけではない、と判断している出久にとってはどうでもいいものだった。

なので、出久は今日の昼食には何を頼もうかと考えながら麗日や飯田の話を聞くに留まっていた。

「ま、私はお金が欲しいって不純な理由なんやけどね…」

「いいじゃないか!生活の為に目標を掲げることは立派な事だと思うぞ!!」

「そうだよ、麗日さん!家族を助けたいって頑張るのはいけないことじゃないよ!」

「飯田君、デクちゃん…ありがとう!!」

「うん!」

「…む?そう言えば緑谷君が何故、ヒーローを志しているのか聞いたことは無かった気が…」

「あー!そう言えばそうやね!!デクちゃんは何でヒーローになりたいの?」

突然に話題を振られ、出久は一瞬思考を巡らし直ぐ様、笑顔で答える。

「…えと。僕は、僕を助けてくれた人に恩返しをするために…役に立ちたくて此処にいるんだ。何かと危ないことをする人だから助けになりたいって思ってる。皆みたいにヒーローに憧れて雄英に入った訳じゃないから申し訳ないんだけど…僕なりに最善の事をしてるんだ」

うん…嘘は言ってない。

「そうか、緑谷君は恩人を助けたいという思いで頑張っているんだな!なるほど、君の他を救わんとする姿勢には驚かされる事が多々あるが、それも全て努力の賜物ということか!!」

「デクちゃん、健気やねえ」

「そうかな?」

「うん!デクちゃん頭もいいし、強いし、絶対に凄いヒーローになると思うよ!!」

「…うん!ありがとう」

そんな話をしながら歩いて三人で食堂へ向かおうとしていたのだが。

「おお!!緑谷少女がいた!!」

オールマイトが勢いよく廊下の曲がり角から姿を見せた。

「ご飯…一緒に食べよ?」

≪乙女や!!!≫ブファッ!

弁当を片手にその体躯に似合わない動作で出久を弁当に誘う。その仕草に吹き出してしまったのは麗日である。

え?僕にようなの??一体、なんで。

三人とも顔を見合わせる。出久は飯田と麗日が「行って」と言うように頷いたのを確認すると。

出久も笑顔で頷く。

「もちろん」


………

お昼を早く済ませた出久は、オールマイトと対面するようにして座り、出されたお茶を飲んでいた。そして、今はマッスルホームを解き、トゥルーホームとなっているオールマイトを見る。

「わざわざ呼び出してすまない。緑谷少女」

「それは構いませんが…オールマイト。お話しと言うのは何なのでしょうか?」

「ああ。君と出会った時にも言ったけど私の後継者にならないかということだ」

まだ、そんな事を…。

「USJ事件での君の行動!平静な判断に加えて実力もある!!そして、ヘドロ事件での爆豪少年を救わんとする君の気迫に私は心震えた!!君は誰かのために何かを大きな事を成し遂げることが出来る者だと私は確信した!!」

雄弁に語るオールマイト。

その言葉を聞いていた出久にはある人の言葉が脳裏を掠めた。

『君は他のために力を発揮する。出久、君が彼を支えるんだ…分かるね?』

『勿論ですよ……先生』

それは出久自身も感じ、言われていた事だ。

「…とは言っても、前に断られてしまったからね。無理強いはしないよ」

苦笑するオールマイトに出久も苦笑する。

「すみません」

「いいんだ。それに一人の教え子として緑谷少女には期待しているし、今回の体育祭。君の活躍を楽しみにしているよ!」

「…!!はい!オールマイト!!」






出久の輝く笑顔にオールマイトも微笑んでいた。







放課後。ヒーロー科の生徒達が帰ろうと教室の扉を開けると、1-Aの教室の前には大勢の生徒達が集まっていた。

「出れねぇじゃん!何しに来たんだよ」

「敵情視察だろ。ザコ」

集まる生徒達をものともせずに帰ろうと歩き始める爆豪は、ついでとばかりに峰田を流れるようにザコ呼びした。更には、道を塞ぐ他生徒達をもモブ呼ばわりする始末。

出久は興味無さそうに爆豪が他生徒に挑発されているのを見ていたが、ふと、誰かが大勢の生徒の中から自分を呼ぶのが聞こえた。

「ん?」

辺りを見回すと、背が低いのかジャンプをしながら手を振っている女生徒の手が見えた。

どうしたのかと爆豪達の横を抜け、女生徒の元まで歩いていく。

「僕を呼んでたのは君かな?」

「あ!は、はい!!…えと、避難する最中に人混みで、転びそうになったときに…」

「?……あぁ、あのときの」

出久はマスコミによる侵入によって大混乱となった生徒達に押し流され、その先で転びそうになった女生徒を助けたことを思い出した。

「それで…その。緑谷さんの事を友達から教えてもらって…これ!!お、お礼に」

しどろもどろしながらも、女生徒が持っていた紙袋を差し出された。なんだろうかと首を傾けていると紙袋からはほのかな甘い香りがした。

お菓子だ…うん。普通に美味しそう。

「わざわざ僕に?」

「は、はい…迷惑でなかったら…いいな…と」

「迷惑なんてとんでもないよ!ありがとう」

受け取りながら笑顔でお礼を言うと、何故か「尊い…っ」と言いながら両手で顔を隠し、走り去ってしまった。

…そういえば、支えてあげた時も赤面してたなぁ。なんでだろ?

出久は不思議に思いながらも、何の問題も無いと判断。そして、手元にある紙袋の中身を見た。

「シフォンケーキだ」

出久は嬉しそうに微笑むと、麗日達と共に下校した。






「「「………」」」

先程まで牽制しあっていた爆豪、普通科、ヒーロー科B組の三人は出久と女生徒とのやり取りを黙ってみていた。

だが、軈て一人が口を開く。

「前言撤回。ヒーロー科でもお前に幻滅した」

「ンだと、このモブ!」

「……」

爆豪は先程からずっと出久の歩いていった方向を見ているB組の生徒に気付くと眉間にシワを寄せ、不快感を露にする。

「……てめぇ。デクに告りでもしやがったら殺すぞ、モブ野郎!!!」

「ああ!?///違ぇよっ…そんなんじゃねえ!!」

「本当だろうな…?やろうとしたら、する前に俺がお前をブッ殺…」

「爆豪…さっさと帰ろうぜ」

切島は出久に対する気持ちをこじらせている爆豪の肩を叩きながら、そんな爆豪にため息を溢すのだった。





…………………………………………

そうして二週間が経ち、体育祭当日。

マスコミなどの報道陣からの注目は「USJ襲撃を受けた一年A組」へと集まる中、批判の声も世間では上がっていた。


「生徒の個性調べの為にも批判を無視してくれるのは有難いね…」

一年A組の控え室では生徒達が体操服に着替え、待機していた。

出久が他の生徒と話をしていると誰かから声をかけられる。

「緑谷」

「?どうしたの轟君?」

「客観的に見て、お前と俺の実力は変わらないと思う」

「え…うん??」

突然何を言い出すの…。

「お前、オールマイトに目ぇかけられてるよな」

は?

「別に詮索するつもりはねえが…お前には勝つぞ。緑谷」

「おお!?クラスの最強二人対決か?!」

「…」

「仲良しごっこじゃねえんだ。何だっていいだろ」

『オールマイト』?…なるほど、誰に聞いたのか見ていたのかは知らないけど僕とオールマイトが話している、または会っているのを知っての言動か。それに、その眼。ただライバルを見る目じゃない。うん…君は期待が出来そうだ。

出久は轟へ微笑んでみせる。

「それは…宣戦布告と捉えるよ。でもさ、他の科の人も本気でトップを狙ってる。そう簡単にいくかな?…勿論、僕も本気で取りに行かせてもらうよ」

ま、軽い運動にしかならないかもしれないけどね。






雄英体育祭開始------------


≪雄英体育祭!!ヒーローの卵達が我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!!≫

プレゼント・マイクの声が会場中に響き渡る。

≪どうせ、てめーらアレだろ!!?敵の襲撃を受けたのにも拘わらず鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!!ヒーロー科!!一年!!!A組だろぉぉ!!?≫

A組に続いて他の組の生徒達も続々と会場へ入場して来るが、大半の生徒はA組への注目の引き立て役となっている事に不満を抱いていた。

≪選手宣誓!!≫

全員が並び終わるとミッドナイトが場を仕切る。18禁ヒーローであるため様々な声が上がるが、ミッドナイトが一喝で黙らせる。

≪選手代表!!1-A緑谷出久!!≫

「そっか!デクちゃん入試一位通過だったんだ!」

「ヒーロー科の入試な」

他の科からの言葉を聞き流しながら、呼ばれた出久は台へと歩いていく。

こんなお遊び…勝てないほうがどうかしてる。

出久はマイクの前に立つと緊張など感じさせないほどの笑顔で言葉を発した。

『選手宣誓。僕が表彰台の一番上に立ちます』

「「「「「………は?」」」」」

『ですので、皆さんの奮戦を期待します』

はああああああああああああああああ!!?

言葉とは裏腹に良い笑顔で挑発を言い放った出久に対し、生徒達からはブーイングが飛び交い。同じクラスのA組からは緑谷が言うセリフなのか、という驚きと、唖然とした表情が伺えた。

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一方、あるバーでは二人の敵が雄英体育祭を観ていた。

「あはははははは!!聞いたか黒霧?!」

「はい。宣誓…というより、緑谷出久としては真実を言っているつもりなのでしょうね」

「だよなあ!てか、イズクは本当に圧勝するつもりなのか?それじゃあ観客がつまんないだろ」

「さあ?流石に手加減はすると思いますよ。彼女は先生から個性抑制装置を着けるように言われていますので」

だが、黒霧は肩を竦めて「分かりません」と意思表示して見せる。

「まあ、もし負けたらお仕置きでもするか」

死柄木は『お父さん』の下の表情を歪ませ、笑う。

「緑谷出久が負けるなど、ありえませんけどね」

だが黒霧は呆れた顔をしつつ直ぐ様その可能性を否定した。

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「おいクソデク!!一位に何のはこの俺だ!!間違えんじゃねえぞ!!」

「えぇ…。デクちゃんってあんなキャラやっけ…」

「緑谷君!何故君がそんな品位を貶めるようなことを言うのだ!!」

会場から様々な声が上がる中、出久は笑顔を崩さない。

≪さーて!それじゃあ早速第一種目行きましょう!!≫

それもつかの間、ミッドナイトによる一種目の発表が行われる。

≪いわゆる予選よ!毎年多くの者が涙を飲むわ!!さて、運命の第一種目!!今年は……コレ!!!≫

『障害物競争』

コースを守りさえすれば何をしても構わない。

そのルールから考えられるものは、個性による妨害、攻撃。これらが主となることは間違いない。

…さて、ピアスの抑制が効くとはいえ、何処までが許容範囲なのか。もう少し先生に詳しく伺っておくべきだったかな。

出久は無意識にAFOから貰ったピアスに触れながら、大勢の生徒達についていき、ゲート付近へと集まる。

そして暫くするとスタート地点であるゲートが開かれ、ライトによるカウントダウンが始まった。

≪スターーーート!!≫

スタートの合図とともに走り出す生徒達の足元には突如として氷結が広がっていく。

「!」

出久は直ぐ様地面を蹴り、足元を凍らされる前にジャンプする。そして、少量の粒子を使い、空気を拒絶。他の生徒達を飛び越え、ゲートを抜けた先を走る轟の直ぐ後ろへと着地。

他のクラスメイト達も各々の個性で轟の氷結から逃れ、後を走ってくる。

「クラス連中は当然として、思ったより避けられたな…」

「まあ、みんな轟君の個性知ってるから」

出久は轟の横を走りながら後ろの様子を窺う。

≪轟のウラのウラをかいてやったぜ!ざまあねえってんだ!!くらえ!オイラの必殺…GRAPE…≫

一際背の低いクラスメイトの姿。峰田が入試の際にいた仮想敵に軽く吹き飛ばされる瞬間が見えたが、出久は気にすること無く前方を振り返る。すると、巨体が地面に影を落としているのが見え、その大きさに思わず上を見上げた。

≪さぁ、いきなり障害物だ!!まずは手始め…第一関門!ロボ・インフェルノ!!≫

「入試の時の0P敵じゃねえか!!!」

「マジか!ヒーロー科あんなんと戦ったの!?」

「多過ぎて通れねえ!!」

入試の時のギミックかぁ。吹き飛ばしてもいいけど粒子の消費はなるべく避けたいし、誰かの後についていこうかな。

出久がどうしようかと、辺りを見回すと隣にいた轟が瞬時に目の前にいた仮想敵を氷付けにしたところだった。

出久は直ぐ様、前を走る轟のあとを追う。

「あいつが止めたぞ!!あの隙間だ!通れる!」

そして、その後ろからは他生徒達も同様に走ってくるのが見えた。

「あ。倒れるよ」

忠告したがもう遅かったようで、氷付けにした仮想敵は地面に倒れ、出久達の背後では機械特有の崩壊音が響いた。

≪1-A轟!!攻略と妨害を一度に!!こいつぁシヴィー!!そして、その後ろに続くのは同じく1-A緑谷!!道が開けた瞬間に走り抜ける判断力!!こいつも中々のくせ者だぜぇ!!≫

「ごめんね、轟君!利用させてもらったよ!!」

「別にいいが…邪魔はさせてもらう!」

出久は走りながら轟の横に並ぶが、轟の足元から氷塊が現れ出久を攻撃する。

しかし、緑谷は即座にその場から前へと飛び退き、走る。

「轟君。妨害しすぎじゃないかな?」

「クソ…」

前へと距離をとられた轟は緑谷を追う。

≪1-A爆豪!下がダメなら頭上かよー!!クレバー!!!≫

個性の爆破を両手で交互に連発し、巨体仮想敵の上を飛び越えていく爆豪。

「おめーこういうの正面突破しそうな性格してんのに、避けんのね!」

「便乗させてもらうぞ」

そして後に続いていくのは瀬呂、常闇の二人だ。

≪一足先に行く連中A組が多いな、やっぱ!!≫

先程同様にクラスメイト達も各々の個性で関門を突破していく。

ドォオン!!

「道が拓けた!」

「こんなもの、チョロいですわ!」

前の襲撃では諸に個性の弱点をついて攻撃したからなあ。やっぱり、それなりに皆も成長しちゃってるか。

≪オイオイ第一関門、チョロいってよ!!んじゃ第二はどうさ!?≫

生徒達の眼前に広がるのは底の見えない穴から伸びる地面の足場。そして、足場に行く為のロープが一本其々の足場へとかけてあった。

≪落ちればアウト!!それが嫌なら這いずりな!!ザ・フォーーーール!!!≫

生徒達は一時、足を止めるが持ち前の個性を使い関門を越えていく。

そして、サポート科である一人の発明家少女は自身の作った装置達、もとい、ベイビー達で足場から足場へと飛び移って行く。

『実に色々な方がチャンスを掴もうと励んでますね。イレイザーヘッドさん』

『何足止めてんだ、あのバカ共…』

≪さあ先頭は難なくイチ抜けしてんぞ!!≫

現在一位である出久はというと、粒子で背中に翼を形成。足場など関係なく、黒い翼で飛行していく。

一気に渡る術を持たない轟との距離を離しにかかる。加え、後方にいる轟に迫る爆豪。

「!」

「くそがっ!!!まだ、先頭じゃねえのかよ!!」

そんな現場の状況を観る観客達。その中には勿論、現在活躍しているプロヒーローもいる。

「一位の奴、圧倒的じゃんか」

「『個性』の強さもあるがそれ以上に素の身体能力と判断力がズバ抜けてる」

「二位のあの子もかなりレベルが高いな」

「それりゃそうだろ。あの子フレイムヒーロー『エンデヴァー』の息子さんだよ」

「そのエンデヴァーの息子を凌ぐのか…早くも相棒争奪戦だなー!!」

早くもヒーロー達は優秀な人材への目星をつけ始めていた。

≪上位何名が通過するかは公表してねえから安心せずにつき進め!!≫

「うわぁ…何?この地雷の量…」

≪そして、早くも最終関門!!かくしてその実態はーーー…≫

一足先に次の関門へと到着した出久の目の前には平坦な地面。しかし、その地面の下には分かりやすいほどに設置された地雷が無数に点在していた。

≪一面地雷原!!!怒りのアフガンだ!!地雷の位置はよく見りゃ分かる仕様になってんぞ!!目と脚、酷使しろ!!≫

プレゼント・マイクによる簡単な説明が手短に話される。

≪ちなみに地雷!威力は大したことねえが、音と見た目は派手だから失禁必至だぜ!≫

『人によるだろ』

「なるほどね。でもこれって…」

出久は腰を屈め、粒子によって作られた黒い翼を広げる。

「翔べれば何の問題も無いよね!!」

背後の空気を拒絶。爆発的な飛翔を利用し、出久は地雷原を飛び越えていく。

「そんな易々と行かせるわけねぇだろ、緑谷!!」

「待てやデク!!!」Bom!!Boom!!

「!」

≪ここで後方が追いついて来たーーー!!喜べマスメディア!!おまえら好みの展開だああ!!≫

流石に出久が一位まで独走、とは行かなかったようで地雷原の後半まで来たところを轟の氷によって空中にあった足を凍らされた。更には爆豪までも轟と並ぶようにして文字通り、爆走してきた。

「待つわけないでしょ!!」

無駄な足掻きなんだよ二人とも!!

出久は翼を解除し、再精製によって日本刀を作り出す。そして、足元を凍らせる氷を切割り、同時に出久の体も落下していく。

だが、それで終わる出久ではない。

迫る二人を視界に捉え、両者の目の前の空気を拒絶。

「ぐっ!!?」

「っそが!!!」

轟、爆豪は空気の拒絶による反動で後方へと押し出されるが、爆豪は両手で爆破を起こし耐え、轟は氷で自身の足元を凍らせてその場にとどまる。

出久は拒絶した瞬間に日本刀を黒翼を再精製。ゴールへと一直線に飛んでいく。

加速した出久を轟、爆豪も体制を立て直し、個性で追っていく。

だが…

≪さァさァこの大会においてのダークホース!!今一番にスタジオに帰って来たその姿ぁーー!!≫

二人は緑谷に追いつかなかった…。

≪予選突破一位!緑谷出久!!≫

当の出久は息切れした様子もなくゴール。

風に髪をなびかせ不適に笑って見せる。

「この程度…か」

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「お!黒霧、イズク一位だぜ」

「ちゃんと観てましたよ」

黒霧はテレビ前のカウンター席に座る死柄木弔の前にコーラを置く。すると、死柄木弔は直ぐ様コーラのペットボトルの蓋を開け、一気に半分ほど飲みほしてしまう。

「それにしても、こう緑谷出久と生徒達に実力差があっては本人としても楽しめないでしょう」

「は…?イズクは俺達と手合わせして勝つんだぞ?それをあのガキ共と戦わせるってのが間違ってるんだよ」

死柄木は愉快そうに笑うと今度は黒霧にポテトチップスを買ってくるように言う。

そして、黒霧は仕方がないとでも言いたげにため息をつくと自身が作り出したゲートへと消えていった。

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選手全員がゴールし終わると、本選へ向けての予選通過上位42名が発表された。

≪ここからは取材陣も白熱してくるよ!キバリなさい!!!≫

ミッドナイトにより着々と進行が進んでいく。

≪さーて第二種目よ!!私はもう知ってるけど~~~~…何かしら!!?いってるそばから…コレよ!!!!≫

『騎馬戦』

なるほど、誰を騎馬に率いれるかが鍵になるってことか。僕なら殆どの距離に対処することは可能だから心配するのは騎馬の機動力のほうかな…。

競技の説明が終わると、順位を決めるPについても発表される。

『42位が5P、41位が10P…といった具合よ。そして…1位に与えられるPは1000万P!!!!≫

その有り得ないほどの高P(ポイント)に選手達の視線は一瞬にして出久へと集中した。

……は?高すぎない??

≪一位の奴ほど狙われちゃう------…下克上サバイバルよ!!!≫

これぞ、雄英の『Plus Ultra』ってことか。

「…これは、中々厳しいですね」

『あら?意外と冷静ねえ。もっと緊張するかと思ったんだけど』

「ふふっ、コレくらいじゃないと奮戦出来ないですから」

『いいわ!そのいきよ!!それじゃ、これより15分!チーム決めの交渉タイム、スタートよ!』

「うーん…やっぱり、避けられちゃうなぁ」

機動力として飯田君が欲しかったんだけど、既に轟君が勧誘済み。他に誰か…この際誰でもいいから騎馬になってくれないと流石に困るなぁ。

出久は辺りを見回しながら歩いていると後ろから聞き慣れた声で呼ばれる。

「デクちゃん!良かったら組もう!!」

「え。有難いんだけど…いいの?僕、1000万Pだから凄い狙われるよ?」

「デクちゃんなら大丈夫だって思ってるし、逃げ切れば勝つじゃん」

「…そうだね。じゃあ、よろしくね麗日さん!」

「…笑顔…尊」

「え?」

「う、ううん!なんでもないよ!!」

「??…そう?」

出久の笑顔に思わず手を合わせ、拝んでしまった麗日に出久は理解不能とでも言いたげに首を傾げる。

それを見た麗日は自分のしていることに気付き、慌てて手を引っ込めた。

これであと一人いれば騎馬戦としては参戦可能だけど…

「私と組みましょ一位の人!!!」

「!誰?!」

突然、様々な装置を身につけた女生徒に声をかけられる。

「私はサポート科の発目明!あなたの事は知りませんが、立場利用させて下さい!!」

「分かりました。いいですよ」

「ちょっと待…って、ええ!?即決でいいの、デクちゃん!?」

「うん。サポート科でこの予選を通過できる人ならサポートアイテムが優秀なのは容易に想像できるし、何より彼女自身がサポートアイテムを何個も身に付けているのが何よりの証拠じゃないかな」

「な、なるほど…」

「フフフフフ…そこまで見抜かれているとは、そうです!!私、ドッ可愛いベイビー達を沢山持ってきてまして!皆さんの役に立つものあると思いますよ!!」

そう言いながら発目は幾つものアイテムを取り出しては解説していく。出久はその説明を聞き、機動力は確保できたと判断。だが、麗日、発目はあくまでも機動力においての要員。欲を言えば少しでも戦力になる人材が欲しいところだ。

出久が更にメンバーを探していると目当ての人物を発見した。幸い、まだ騎馬は組んでいないようだった。

「…見つけたよ」


















≪さァ上げてけ鬨の声!!血で血を洗う雄英の合戦が今!!狼煙を上げる!!!!≫

「麗日さん!」

「っはい!!」

「発目さん!」

「フフフ!!」

「常闇君!」

「ああ…」

「よろしくね!!」

≪START!≫

常闇を加えた三人の騎馬。もちろん、騎手は出久だ。

既に開始されたスタートコールとともに二組の騎馬が出久達へと向かってくる。狙いは当然、出久の頭に巻かれている1000万Pのハチマキ。

「追われし者の宿命…選択しろ緑谷!」

「もちろん、逃げるよ!!」

だが、動こうとした直後。騎馬である三人の足元が沼のようになった地面へと沈んでいく。

誰かの個性っ…。

「麗日さん、発目さん!顔避けて!!」

背負っていた発目さん考案のジェットバックパックを起動させ、沼から抜け出すと同時に迫ってきた二組の騎馬を飛び越えていく。

ハチマキを奪おうと耳郎が耳から伸びるイヤホンを瞬時に伸ばしてくるが、常闇の黒影が弾く。

「いいぞ黒影。常に俺達の死角を見張れ」

「アイヨ!!」

戦力としては申し分ない黒影。攻撃は僕を主として、防御には常闇君に徹してもらい、機動力には発目さんのベイビー。加えて麗日さんの個性でさらに身軽に。機動力、防御、攻撃。轟君のチームほどじゃないにしてもバランスはとれてるチーム編成だ。

「着地するよ!」

≪さ~~~~まだ二分も経ってねえが早くも混戦混戦!!各所でハチマキの奪い合い!!1000万を狙わず、二位~四位狙いってのも悪くねぇ!!≫

「アハハハ!奪い合い…?違うぜこれは…一方的な略奪よお!!」

近付いてくる声に振り返るとそこには障子が単身で突撃してくるところだった。

だが、一人に見えた障子の背中からは複製腕で隠された娃吹、峰田がハチマキを奪おうと個性で攻撃を仕掛けてくる。

「二人を抱えて走るって…凄いね、障子君」

≪峰田チーム圧倒的体格差を利用し、まるで戦車だぜ!≫

峰田の個性で麗日の足を止められたが、もう一度ジェットバックパックを起動させ、無理矢理剥がす。再度、他の騎馬からも空中へと距離をとる逃げの一手。

しかし、逃げた空中へと迫ってくる聞き慣れた爆発音。

「!」

「調子乗ってんじゃねえぞクソが!」

かっちゃん…!!爆破で飛んできたのかっ!!

爆破で攻撃を仕掛けてくる爆豪。

「常闇君!」

防御である黒影が爆破の盾となり、防ぐ。

≪やはり狙われまくる一位と、猛追を仕掛けるA組の面々、共に実力者揃い!≫

ここで、順位を確認するプレゼント・マイク、観客達から驚きがもれる。

それもその筈、先程から猛追を仕掛けていた爆豪、他のチームのPが0Pになっていたのだ。

「単純なんだよA組」

「んだてめェコラ返せ殺すぞ!!」

爆豪からハチマキを奪い取ったB組の男子生徒は饒舌に今までの計画を話す。そして、ついでとばかりに物間は爆豪を挑発していく。

「あ。あとついでに君、有名人だよね?『ヘドロ事件』の被害者!今度参考に聞かせてよ。年に一度、敵に襲われる気持ちってのをさ」

「切島……予定変更だ」

見事に爆豪の地雷を踏み抜いた。

『デクの前に、こいつら全員。殺す……!!』

予選を捨てた長期スパンのB組。それはつまり僕を狙うことに必ずしも固執していないということ…でも。

動き続ける緑谷達の前にはよく知る面々が立ち塞がる。

≪さァ残り時間、半分を切ったぞ!!≫

何もせずに黙ってる君じゃないよね。

「そろそろ、奪るぞ」

轟君。

「もう少々終盤で相対するのではないかと踏んでいたが…随分と買われたな、緑谷」

「……まあ、嬉しくはないよね」

複数の騎馬が轟チームの背後から迫るも、上鳴の放電を利用した、八百万の絶縁体シートで無差別放電。

放電による痺れで騎馬達は足止めを食らい、轟の氷結によって凍らされ、更に身動き出来ない。

バックパックはイカれた…逃げは不可能。

常闇君が牽制はしてくれたけど個性の特性上、上鳴君と八百万さんのペアには相性が悪い…本当に良いメンバー揃えてるなぁ。

でもさ…僕としては逃げ切れば勝てるゲームなんだよ、轟君。

≪残り時間約一分!!轟、フィールドをサシ仕様にするも、緑谷なんと!この狭い空間を五分間逃げ切っている!!こいつ個性まだ使ってなくね!!?シヴィーーー!!≫

「…っ」

常に距離をおいて俺の左側に…これじゃ、最短で凍結させようにも飯田が引っかかる。無闇な凍結は自分の首を締める。上鳴の放電も常闇に防がれる…。

「残り一分。轟君は何故か左側の炎を使ってこない。だから、氷の死角である左側をキープだ」

「流石だな、緑谷」

「いざとなったら、僕も個性で…」

そう言いかけたところで出久は轟チームへと集中した。目に見える速度とはいえ、先程からの攻撃とは比較にならないほどの飯田の超加速で轟チームが突進してきたのだ。

「トルクオーバー!『レシプロバースト』!!」

…反応できないほどじゃないな。

≪速っ速ーーーー!!飯田、そんな超加速があるなら予選で見せろよーーーー!!!≫

出久達の目の前から一気に背後へと走り抜けた轟チームだったが、それはただ『移動』しただけだった。

「飯田…わりぃ。取り損なった」

「なっ…!?」

轟は汗を流しながら、一瞬にして横を通過したばかりの緑谷達を見ていた。

『あれ?轟チーム場所が変わっただけでPに変化なしだ!?』

変わらない体勢のまま緑谷チームはその場に立ち、先程同様に轟の左側へと動いていた。

≪なんと緑谷チーム!!あの超加速を避けたーーー!!マジかよ!?すげえな!!≫







緑谷は依然として1000万Pを頭に巻き付けていた。





「トルクオーバー!『レシプロバースト』!!」

轟の騎馬は飯田の超加速によって本人達ですら認識できないほどの爆発的な加速を持ってして、出久達の騎馬に向かってくる。

出久は即座に自分を支える騎馬三人を確認。三人とも気付いてはいるが反応出来るほど見えてはいない様子だ。出久は飯田を一瞥。

…反応出来ないほどじゃないな。

問題はない…と、出久は勢いのままに頭のハチマキへと伸ばされる轟の手を手の甲で弾く。それだけで轟達の騎馬は出久達を通り過ぎていった。

「三人とも、轟君達から再度距離をとって!!」

「う、うん!わかった!!」

「御意」

「フフフフ、いいですね…私のベイビー達が画面に映ってます!!」

タイムリミットが迫る中こうして先程と変わらない。轟チーム、緑谷チームによる硬直状態となった。

≪残り20秒を切ったあ!!≫

このまま、何もなければ僕達の勝利…だけど…

後方からの爆発音に出久は瞬時に振り返る。

緑谷チームの上から迫る人影に会場からはラストスパートへと白熱していく試合に歓声が巻き起こり、盛り上がっていく。

「余裕ぶっこいてんじゃねえだろうな!!デク!!」

そうさせてくれないのが、君だよね。

「かっちゃん…!」

爆豪は出久の眼前へと手を突き出し、爆破。しかし、出久もそれを直ぐに理解して先程の轟と同様に二の腕を手の甲で弾き、爆破の軌道をずらした。カウンターを仕掛けようと爆豪へ個性を放とうとするが、轟チームに合わせて動く三人の騎馬が爆豪から離れた。

同時に爆豪は瀬呂の個性によって騎馬へと戻されていく。

「緑谷、来るぞ!」

常闇の黒影が牽制するが、轟チームは止まることなく正面突破で突っ込んでくる。

≪そろそろ時間だ、カウントいくぜ。エヴィバディセイヘイ!10!!≫

爆豪チームの騎馬も直ぐに体制を立て直したようで、爆豪が個性で飛び、轟は八百万が作り出した個性補助の鉄パイプを投げ捨てる。

出久の左後方から迫る爆豪、正面から氷結を纏った右腕を伸ばしてくる轟。

≪9!!≫

動きが単調すぎるよ…二人とも。

両者とも出久の行動に目を見開く。

出久は背を仰け反らせ、両者から伸ばされるハチマキを狙う手を避ける。

≪8!!≫

出久が視界から消えたことにより、ハチマキを奪取するという反射神経によって両者の腕は互いのハチマキを同時に掴む。

≪5!!≫

そして、その両者の間から仰け反った姿勢のままの出久の腕が伸び、爆豪の背後には瀬呂の個性であるセロハンテープが見えた。

≪3!!≫

「気を付けてね…二人とも」

「!」

「っそが!!」

出久の狙いが分かった二人は苦渋の表情をしつつも、奪ったハチマキを握りながら防御の姿勢を瞬時にとる。

≪1!!≫

出久はどこか影を映した面持ちで微笑む。

「拒絶」

≪TIME UP!!≫

プレゼント・マイクのコールとともに爆豪、轟は障害物競争で受けた空気の反動を至近距離でうけ、体制を崩した。

爆豪は反動で後方へと飛ばされるが瀬呂のテープによって切島、芦戸、瀬呂の横へと着地。

轟は地面に落下するも、個性の氷結で落下によるダメージを防いだ。

≪一位、緑谷チーム!!二位、爆豪チーム!!三位、轟チーム!!三位、鉄て…アレェ!?≫

白熱した緑谷達の戦いに気をとられていたプレゼント・マイクは気づかぬ間に順位の入れ替わりが起きていたことに気付く。

≪オイ!!!心操チーム!!?いつの間に逆転してたんだよ!≫

「ご苦労様」

それはA組の教室の前で爆豪を挑発していた普通科の生徒だった。

≪っつーわけで以上4組が最終種目へ…進出だああーーーーーーーーーーー!!≫




競技の終わった選手達は昼休憩となったため、食堂へと歩いていく。

「緑谷君には驚かされるばかりだな」

「それもそうやけど、飯田君!あんな超必持ってたんなら言ってよ!」

「あれはただの誤った使用法だ!それに言っては隠していた意味がなくないか?!」

雑談が楽しげに聞こえてくる生徒達の出入口の隣に位置する出入口。

そこには轟に呼び出された出久の二人が対面するように壁にもたれ掛かっていた。

「話って何かな?轟君」

出久は明るく問いかけるが、轟は直ぐに答えることなく出久を見据えた。

その目は出久にとって馴染み深く、幼い頃から安心をもたらしてくれた心地のいいもの。轟の纏う空気に出久は思わず笑みをこぼした。

「…なに笑ってんだ」

「別に何でもないよ。ちょっとした思い出し笑い」

出久は変わらずの笑顔。暫く出久の様子を伺っていた轟は何かを決めたように話始めた。

「なあ、お前はオールマイトと何か関係があるのか?」

「関係…いや、教師と生徒って関係だけだと思うんだけど」

オールマイトと僕との関係。それが轟君の本題?…最初からそのことを気にしている感じではあったけれど、轟君は何を思ってこんなことを…。

「君から見たら僕とオールマイトはそう見えないのかな?」

「…『見えるか』って聞くって事はそう見えるようにしてるのか?」

「質問に答えてもらってないんだけど…まぁ、いいや。その質問については答えは『NO』だよ」

まぁ、そんなことはどうでもいい。僕が知りたいのは君が何故そんなににも勝利にこだわるのか。知ってるよ…君が僕に負けた時にどんな顔をしていたのか…あれは悔しいというだけの感情じゃない。

「さっきのは君の見解を聞きたかっただけ…もう一回言うけど。話って何かな?」

君には期待してるんだよ…轟君。

「…個性婚。知ってるよな」

何を語るのかと待っていると、轟から紡がれるのは自分が生まれたわけだった。

父、エンデヴァーの炎にある欠点を補うために婚約させられた氷の個性をもつ母。そうして自分では越えられないと悟ったヒーローの頂点を産まさせた子供に受け継がせる…エンデヴァー自身の欲求を満たすための道具として轟は生まれてきたのだと。

「『お前の左側が醜い』と母は俺に煮え湯を浴びせた」

轟はそう言いながら顔の左側に手を当てる。

その火傷痕が母親から受けたものだというのは容易に判断できた。

「俺がお前につっかかんのはオールマイトが認めてるお前に勝つことでクソ親父の個性がなくたって…いや、使わず『一番になる』ことで奴を完全否定するためだ」

轟の話を静かに聞いていた出久は目を開け、轟を見据える。

しかし、何処か惜しそうに通路の方を横目で一瞥すると出久は口を開いた。

「残念だけど今の君じゃ、僕に勝てないよ」

「っ!おい、緑谷。少しは言葉選んで…」

轟が言い終わる前に出久は轟の目の前へと迫る。吐息がかかるほどの顔の近さに轟は反射的に口を閉じた。

普通ならばキスをするのではないかと赤面するほどの近さだが、そうはならない。

「何故だと思う?」

緑谷の黒い目。

囁くような小さな声が耳に響く。

「…君程度の闇じゃ、僕に敵わない」

轟の胸へと指される指。

胸の内を突き刺してくるかのように強く押し込まれていくそれに、轟は呼吸が止まっていくのを感じる。

「復讐にしては君の心は弱すぎるんだよ」

「…………っ」

轟は自身でも分からない間に出久に呑まれたのだ。

声から漏れ、堕とされていく空気。決して特別な事を緑谷は言っているわけではない…しかし、緑谷が放つ負の感情に影響され、轟に潜んでいた絶望、恨みが色濃い影となって染まっていく。

「じゃ、食堂混んじゃうから僕は先に行ってるね!」

「…!」

出久の戻った口調によって、不意に現実へと戻された轟の頬からは汗が伝う。自分でも驚くほどの汗の量に轟は固唾をのみ、荒れる呼吸を整える。

そんな轟を見ていた出久は踵をかえし、歩き出した。

まだ信用できない君を堕としちゃうと、他のクラスメイトにも素行からバレるかもしれない可能性があるからね。

今はしないでおくよ、轟君。

……ねぇ、かっちゃん?

出久は再び通路の方へ目線を向けると、他の生徒達と同じように隣の出入口から食堂へと歩いていった。

「……チッ」






出久は食堂で昼を済ませ、控え室に行こうと廊下を歩いていると更衣室の方へ向かう八百万達に声をかけられた。

「緑谷さん!急いでこちらに着替えてください!!」

「え?」

そう言いながら渡されたのは衣装。

そんな催しがあったのかと首を傾げると、察したように八百万の隣にいた耳朗が口を開いた。

「なんか、相澤先生が伝え忘れてたみたいでさ。女子は全員これ着て応援合戦しないといけないらしいよ」

「うん?分かった」

出久は衣装を受け取り、女子のクラスメイト達と一緒に更衣室へと入っていった。







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いつものバーでは競技の前の応援合戦がテレビで撮されていた。

「好みじゃないなぁ…お?うわ、ブス。もっと良いやつ撮せよ…MHKは分かってないな」

死柄木はテレビの前に陣取り、チアガールの応援する姿をつまらなそうに見ている。

「死柄木弔…貴方、何してるんですか」

「そんなの出久が出なくて暇だからチア見てるに決まってるだろ?」

「それは分かりますが…注目の仕方がオッサンですよ」

黒霧は死柄木の行動に呆れながらグラスを拭いていると、突然、死柄木が飲んでいたコーラを口から溢し始めた。

「うわ!?汚っ…!死柄木弔、床を汚さないで下さい!!」

「そんな事どうでもいい!!黒霧、今すぐコレ録画しろ!!」

「は?一体、何なんです…か……」

黒霧でさえも硬直していく。

何故なら死柄木の目線の先、テレビに撮っていたのはチアガールの服装をした出久の姿だったのだから。

しかし、その画面が直ぐに切り替わり、AFOが現れる。

『安心しなさい、弔。もう既に録画はしてあ…』

「先生!!今、出てくるな!イズクが見れないだろ!!」

『え…あ、ああ…すまない』

何処か傷付いた様子でAFOは画面を元の体育祭生中継へと戻し、死柄木はテレビを崩さないようにテレビを掴み、画面を凝視していた。


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その体育祭会場では。

『ん?アリャ?』

「なーにやってんだ……?」

実況解説を担う、プレゼント・マイクと相澤は予定に無かった者達の姿に、互いに疑問符を浮かべていた。

≪どーしたA組!!?≫

そこには、A組の女子達がチアガールの衣装を着て立っており、更に全員の顔は生気を失ったように無表情だった。

しかし、八百万は特定の人物を視界に捉えた瞬間に怒りを露にする。

≪峰田さん、上鳴さん!!騙しましたわね!?≫

そんな八百万の言葉は聞こえていないかのように、仕組んだ犯人である峰田、上鳴は喜びを分かち合っている。

「何故こうも峰田さんの策略にハマってしまうの、私…」

どうやら相澤先生の言伝てだという嘘を八百万が信じてしまったらしい。

「うーん…皆ならまだしも、僕が着ても誰も喜ばないと思…」

「緑谷ぁああああ!!俺は喜ぶぜ!?特にその豊満な胸へ俺を…≪Boom!!≫ゲボァッ!!」

「あ、かっちゃん」

峰田が血走らせた目で出久へと飛び込んで来るのを爆豪が空中で阻止。そのまま首をわしづかみにして地面へと捩じ伏せた。

「オイ、ブドウ頭。てめぇ何してやがんだ?あ”?」

「うわぁああぁぁああああああ!!!ば、ばばば爆豪ぉおおおおおおお!!!助けてくれえぇえよ!!おめえだって嬉しいくせによおぉおおおおおおお!!!後生だ!緑谷ぁああ!!助け…」

「うるっせえ!!死んどけや!!」BOOM!!

「カハッ…………」

爆豪は喚き散らす峰田に先程よりも一回り威力を上げた爆破を食らわし、鎮圧。

すると今度はチア姿の出久を睨む。

「デク!!てめえもそんな格好させられてんじゃねえよ!!目の毒だわ!!」

「う…うん。ごめんね。かっちゃん」

出久は苦笑いしつつ爆豪に謝ると、顔を剃らされた。

≪さァさァ皆楽しく競えよ、レクリエーション!それが終われば最終種目…一対一のガチバトルだ!!≫

トーナメント形式のバトルということで、ミッドナイトが組み合わせのくじ引きを行おうとする。

そんな中、一人の生徒が手を挙げた。

「俺、辞退します」

そう言い出したのはA組の尾白だった。

何故なのかと疑問が上がる中、尾白は自分の力で勝ち取ったものではないと主張する。

「こんな、わけ分かんないままそこに並ぶなんて…俺は出来ない」

「気にしすぎだよ!本戦でちゃんと成果を出せばいいんだよ!」

「そんなん言ったら私だって全然だよ!?」

同じA組の葉隠、芦戸が説得するも尾白は首を縦に振らない。更には尾白とともに騎馬を組んでいたB組の生徒も棄権すると言い出す始末だ。

『何か妙な事になってるが…』

「ここは主審のミッドナイトの采配がどうなるか…」

周りがミッドナイトの決定を待つ。

ミッドナイトは真剣な面持ちで生徒達を見下ろす。

「そういう青臭い話はさァ…

≪好み!!!庄田、尾白の棄権を認めます!≫

そして、喜んでと言わんばかりに棄権を承認した。

更には、後半まで上位をキープしていた鉄哲チームへと軍配が上がり、鉄哲と塩崎の二名が繰り上がることとなった。

…下らない。

出久はどうでもいい友情ごっこよりもトーナメントの対戦相手を確認する。

「『心操』君…えっと、確か………」

尾白君と組んでた人だったかな。

「あんただよな?緑谷出久って」

出久が心操を探そうと周りを見回そうすると、不意に後ろから声をかけられた。

恐らく彼が対戦相手の心操なのだろうと振り向いて挨拶をしようと口を開くが、尾白の尻尾で口を塞がれた。

「緑谷。奴に答えるな」

「え?…あ」

心操は諦めたように出久から歩き去っていく。

『答えるな』…尾白君の証言から察するに心操君の個性の発動条件は「心操君に応える」こと。強い個性だけど…タネが分かってしまってはなんて事ないね。

出久はチアとしての応援を終えると直ぐに体操服に着替え、会場へと向かった。

≪ヘイガイズ!アァユゥレディ!?≫

会場入り口にいる出久の通路へとプレゼント・マイクの声が響き渡る。

≪頼れるのは己のみ!ヒーローでなくとも、そんな場面ばっかりだ!わかるよな!!心・技・体に知恵知識!!総動員して駆け上がれ!!≫

出久が壁にもたれ掛かっていると、ミッドナイトが出てくるようにと目を合わせてきたので頷き、会場へと足を向ける。

会場中が選手達の姿を見るやいなや歓声を上げ、一気に盛り上がりが増していく。

≪一回戦!!障害物競争、騎馬戦一位!可愛い顔してるがやることはエグい!!ヒーロー科、緑谷出久!!バーサス。ごめん、まだ目立つ活躍なし!普通科、心操人使!!≫

「何ですか、その説明…」

出久はプレゼント・マイクの紹介にため息をつきつつも、心操へと向き直る。

ルールは省くけど…まぁ、場外か「まいった」と言わせれば勝ち。

どうしようかな。一瞬で場外っていうのも可哀想だけど…。

≪そんじゃ、早速初めよか!!≫

「あの猿はプライドがどうとか言ってたけど」

心操は喋らない出久へと言葉を紡いでいく。

≪レディィィイイイSTART!!≫

「チャンスをドブに捨てるなんてバカだと思わないか?」

「…」

仲間を罵って無理矢理応えさせるつもりか…。

出久は特に構えること無く心操へと歩いていくと、心操は額に汗を浮かべ始める。それもそうだろう、自分の個性では戦闘において出久に勝つことは出来ないのだから。

「お前は恵まれてて良いよな、緑谷出久!!そんな強力な個性を持って生まれてよ!!考えたことあるか、望む場所に行けない奴の気持ちが!!」

ゆっくりと迫ってくる出久に焦りながらも心操は言葉を投げていく。しかし、出久はその程度では動じない。

彼女への罵声など全くの意味をなさないのだ。

…逆に君には分からないだろうね。努力さえすれば強力になる個性が君にはある。けど、僕には無かった…努力することさえ憚られたんだよ。

動じる様子もなく、近づいてくる出久に心操は思わず舌打ちをする。

「なんとか言えよ!」

『うん、いいよ?』

心操は勝った、と確信した表情を浮かべるが、対して出久は歩みを止め、笑顔で心操を見ていた。

「……………………!?」

個性が発動しない。どういうことだ…確かに今、緑谷は…。

出久はネタバラシをするように微笑むと口を閉じ、人差し指を当てる。

『確かに僕は話してるけど声帯で喋ってるわけじゃないんだ』

出久の口は動いていなかった。

≪緑谷!!口を動かさずに喋ってるーー!?どーなってんだ?≫

そうして喋る出久にプレゼント・マイク、心操は驚愕する。

「どういうことだ!」

『個性だよ。君が今罵ってくれた個性で特定の場所を決めて空気を振動させて、音として喋ってるんだよ』

一瞬、呆気にとられた心操だったが、肩を落とすと俯き、苦笑した。

「…………は。万能の個性は良いよな…何でも出来てよ」

『まぁ正直、問答無用で君を場外にすることも出来たんだけど…流石に可哀想だなって思ってね』

「…結局、無理だったってことか」

心操は諦めたように天を仰ぐ。

「分かった…俺の敗けだよ。『まいった』」

≪心操君、降参!!緑谷さん二回戦進出!!≫

ミッドナイトの宣言で出久の一回戦は勝利に終わった。

出久は、ふと心操の方を見ると、その顔には試合で見せた諦めよりも深い喪失感を悔しさとともに滲ませていた。

…。

「ねえ、心操君。君の個性なら沢山の人に敵向きって言われてきたんだと思うけど…」

出久が立ち去ろうとする心操へと言葉を投げると、思うところがあったのか、心操は歩みを止めた。

「なんで君はヒーローになりたいの?」

コッチ側に来てくれる可能性があるなら堕おして、『洗脳』っていう強力な個性を持つ君を率いれたいんだけど…

「憧れちまったもんは仕方ないだろ…」

残念。君は駄目だ…なったとしても途中で自責の念に耐えられず僕達を裏切る人間。

「そっか…そうだよね」

可能性ゼロ。

出久はそれだけ言い残すと出口へと踵をかえす。

出久の背後から心操の個性を賛辞する声が聞こえてくるところを聞くと、彼は問題なく表の世界で生き続けるだろう。

出久は不快感から素の表情を覗かせるが、出口へと入った直後だったために人に見られはしなかった。



出久が試合を終え、応援席へ行くと飯田と麗日が出久の席を取っていたのでお礼を言いながら座る。

「デクちゃん、二回戦進出おめでとう!」

「うん。ありがとう」

そして、直ぐに始まる轟VS瀬呂の試合に注目が集まる。

出久は轟の表情。纏っている雰囲気が違うことを察知し、思わず口元を隠して口角が上がっていく顔を押さえる。

何があったのか知らないけど、イイ顔をしてるね…轟君。

そして、プレゼント・マイクのスタートコールによって始まる試合。

瀬呂の先制攻撃を受ける轟だったが、何処か殺気に似たものを放つと足元から彼の個性である氷結がフィールド全体へ瞬時に広がる。

「……………………」

会場が静まりかえるほどの強烈な氷の規模。会場の約1/3を締めるほどの氷塊が瀬呂を凍りつかせていた。範囲の広さ故に主審であるミッドナイトも右半身が凍り、応援席へも寸止めの状態。氷塊が応援席へと巨大な影を落としていた。

あまりにも圧倒的すぎる戦いに瀬呂へと会場中からドンマイコールが自然と沸き起こる。

≪瀬呂君、戦闘不能!!≫

轟は自身が放った氷を左側の腕で溶かしていく。

≪轟君、二回戦進出!!≫

出久は轟を観察するが、まだ何かを捨てきれない轟の姿に少しだけ苛立ちを覚えた。

先に…堕としてしまおうかな…………。



試合が順調に進んでいく中、不穏な組み合わせを見せる試合があった。

爆豪VS麗日

出久はいくら仲を良くしているからといって麗日へと助言などはしなかった…何故なら、彼女が爆豪に勝てる勝率は0%。出久がどう策略を練ったとしても勝てないからだ。

「かっちゃんには突進してくる麗日さんを迎撃するって選択肢しかないし、かっちゃんの個性じゃあ麗日さんとの相性は最悪…」

「緑谷君、それでは麗日君は…!」

爆豪は麗日の動きを目視し、持ち前の反射神経で手から爆破を繰り出しては麗日を吹き飛ばすと同時にダメージを与えていく。

『休むこと無く突撃を続けるが…これは……』

流石のプレゼント・マイクも言葉を濁していく。

更に止むことのない爆豪の迎撃戦に見ていたヒーローや観客からは爆豪へとブーイングが飛ぶ。

「でもね、飯田君。それでも麗日さんは一生懸命、頑張ってるんだよ」

出久は目線を上へ向け、それに従うように飯田も上を見上げると飯田の表情は変わっていく。

『今、遊んでるっつったのプロか?何年目だ?』

相澤はプレゼント・マイクへ肘突きを食らわし、マイクを奪う。

『シラフで言ってんならもう見る意味ねぇから帰れ。帰って転職サイトでも見てろ』

「そうか…麗日君はまだ諦めていなかったんだな!」

飯田の言葉に出久は笑顔で頷く。

『ここまで上がってきた相手の力を認めてるから警戒してんだろう』

試合では、体力の限界が近づきつつも麗日は立ち上がる。その目に諦めはない。

「ありがとう、爆豪くん…油断してくれなくて」

麗日が個性を使う際に見せるポーズにを見た爆豪は状況把握を優先。麗日が見上げた頭上へと目線を移す。そして、麗日が何を持って自分へと突撃を繰り返していたのか理解した。

≪流星群ーーー!!!≫

爆豪が爆破で壊していた地面を空中へと浮かせ、個性で解除すれば瓦礫は重力に従い、落ちていく。

「けど…」

更に爆豪へと突撃を仕掛ける麗日。

しかし、その行動も超火力を伴い上へと放たれた爆発の衝撃によって麗日は吹き飛ばされ、意味を無くした。

≪会心の一撃!!麗日の秘策を堂々----正面突破!!≫

一撃。麗日が何度も爆豪へと挑み蓄えた武器を爆豪は一瞬で砕いたのだ。

麗日はそれでも尚、爆豪へと突撃をしようと体を起こす。

「それでも、かっちゃんには敵わないよ」

しかし、麗日は体の許容重量を越えたために、地面へと倒れた。

彼女の体力の限界が来たことは誰の目から見ても明らか。

「麗日さん行動不能。二回戦進出、爆豪君--!」

『ああ麗日…ウン。爆豪一回戦とっぱ』

「ちゃんとやれよ、やるなら…」

私情を挟みまくっているプレゼント・マイクはまだ、声に張りがでない。

麗日がリカバリーガールの元へと運ばれたのを見届けた出久は応援席から立ち上がり、控え室へと向かう。

「あ、かっちゃん」

偶然、試合を終えて戻ってきた爆豪と鉢合わせた。

出久は特に動揺した様子もなく、笑顔で爆豪へと声をかける。

「二回戦進出おめでとう。凄い戦いだったね」

「…次、てめぇの試合からか」

「うん、そうだよ。今から控え室に行くところ」

出久は控え室へ早く行こうと、爆豪を通りすぎたところで声をかけられる。

「デク。あの捨て身のクソ策はてめぇの入れ知恵か…厄介なことしやがって、ふざけんじゃねぇぞ」

「違うよ」

「あ…?」

「僕は、かっちゃんとの試合に関しては麗日さんと全く喋ってない。君が…そう厄介だと思ったなら、それは麗日さんが君を翻弄したってことだよ」

それを聞いた爆豪は嘘ではないと分かっているからこそ、顔をしかめる。

「ふふっ、じゃあね。かっちゃん」

出久は面白そうに爆豪の顔を見て笑うと控え室へと向かった。

「あれ?」

そうして向かった控え室では先客がいた。

「もう怪我は大丈夫…?」

「うん。リカバリーされた!体力削らんよう程々の回復だから擦り傷とかは残ってるけど」

控え室にいた麗日とともに先程の試合のことを雑談含めて話しているとプレゼント・マイクの声が聞こえてくる。

≪引き分けの末、キップを勝ち取ったのは切島!!これで二回戦目進出者が揃った!つーわけで…そろそろはじめようかぁ!≫

切島、鉄哲の再試合が終わったようだ。

試合が始まるので麗日に声をかけ、控え室を出る。

通路へ出た出久に聞こえる麗日の泣き声。

「………」

そんなに悔しかったのかなぁ。

出久はそのまま会場へと足を進める。

しかし、出久は無表情のまま足を止めた。

何故か?

「おォ、いたいた」

出久は通路の角から現れた人影へと笑顔を向けた。

それは轟の父親であり、No,2ヒーロー。

「何か僕にご用ですか?エンデヴァー」












出久にとっては轟に闇の欠片を孕ましてくれた感謝すべき人物だった。




会場から通路へと響く人々の歓声を耳に、出久は目の前の人物を笑顔で見据えていた。

ヒーロー社会においての立役者の一人であり、肩書きを見れば誰しもが最高のヒーローであることを認めるだろう人物。

No,2ヒーロー、エンデヴァー。

本名は轟炎司、轟の父親だ。

「君の活躍を見させてもらった」

大柄な体躯に、自らの個性を象徴するかのように燃え続ける炎。自尊心ゆえに揺らめくその目には、ヒーローたる優しさなど微塵も感じさせない。

「素晴らしい個性だね。幾重にも応用可能であり、君の柔軟性には目を見張るものがある」

「…?」

出久は不思議そうな顔を浮かべる。

エンデヴァーはそんな目の前の少女を見据えた。

「ウチの焦凍にはオールマイトを越え、ヒーローのトップに立つという義務がある。そして、君との試合は大きな経験として、とても有益なものとなる」

出久の顔にあった愛想笑いを浮かべる仮面は溶けていく。

親の自己満足や欲の為に使われる子供。

殺気を含むことを許されない出久は多少の怒りを表情に浮かべ、それにエンデヴァーは眉間に皺を寄せた。

「何か、言いたそうだね」

「轟君は…貴方にとって何なのですか?」

遠くを憎む瞳と憎悪を薄皮一枚で隠し、目に光を灯す瞳がぶつかり合う。

対立する両者には静かな亀裂が生まれていく。

「先に言った通り、オールマイトを越える者だ」

「…そうですか」

そろそろ試合が始まる。出久は一礼し、エンデヴァーの側を通り過ぎた。

嫌いだ。子供を代用する大人も、利用する物としか考えていない大人も…

歩を進める出久の脳裏には幼い自分を抱き、涙をながしながら謝罪を紡ぐ母親の姿が浮かぶ。

世間体に支配された大人は目の前の異物から逃げ、扱いきれなくなれば捨てるのだ。出久の母親、引子も例外ではない。そうならないために、幼い出久は扱われているフリをし続けた。そうして、今の自分がある。

でも、闇の心地よさを教えてくれた貴方達には感謝しているよ。

会場へと足を踏み入れる出久は微笑む。

≪今回の体育祭、両者トップクラスの成績!!≫

プレゼント・マイクの実況が会場に響き渡り、人々の心の昂りをより一層昂らせる。

≪まさしく両雄並び立ち、今!!≫

類を見ない協力な個性同士の戦いに観客も二人の試合に注目している。クラスメイト達、教師陣、ヒーロー事務所、敵(ヴィラン)。全ての目が両者に注がれていく。

心操君との戦いで大分粒子を消費しちゃったけど、残存粒子と回復した体力を合わせれば轟君相手には十分かな。

緑谷の個性の詳細が分からない以上、好きに動かれるわけにはいかねえ。特に障害物競争、騎馬で食らった衝撃は厄介だ。

≪緑谷vs轟!!START!!!≫

先手必勝。

開始直後、轟の足元から出久へと巨大な氷結が迫る。出久は即座に入試で使用した手動糸を生成。巨大な氷結に向けて高質化を施した糸と連結した腕を薙ぎ払う。出久の手の軌道をなぞるように氷結は斜めに切断され、滑り倒れていく。倒れる氷の振動。氷の奥には轟が再び出久へと氷結を放っていた。

再び出久は腕を振るい、今度は素早く指先を動かして氷結を切り刻み、粉砕。派手に氷の粒が弾け、出久は同時に氷の粒の中を抜けて轟へと疾走していく。

近づかれるのは…まずい!

轟は再び出久へと氷結を放つ。轟を囲うようにして放たれた広範囲攻撃に出久は後退し、地面を蹴り、空中で一回転。着地。スタート地点へと戻った。

『おいおい!!なんつーー試合してんだ!!?』

スピード重視でありながらも高校生ではあり得ないほどの攻防。その試合に観客達は固唾を飲む。

出久は手動糸を再構築して粒子を手の甲にコーティングさせ、高質化。出久の両手には高硬度のプロテクトグローブが嵌まる。同時に轟へと走り出す。轟が更に勢いを増した氷結を放つが出久の振り上げた拳と接触直後に放たれた出久の空気拒絶によって砕かれ、懐へと入られる。

「その程度?」

出久は轟の左肩を力任せに殴り飛ばし、態勢を崩したばかりの轟の左肩へと足を押し込む。

「っぐ!!」

出久は無理矢理、轟を足で押し倒した。

「轟君。意地を張ってても僕には敵わないよ?」

「クソ親父に…金でも握らされたか!」

「!」

轟は左肩を踏みつけられながらも右手を地面に着き、瀬呂との対戦で見せた超巨大な氷塊と化した氷結を瞬時に形成し出久へと放った。

一瞬にして静まり返る会場。物理的な冷気が会場を埋め尽くす中、氷塊に罅。

「そう簡単にはいかねえか…」

巨大な氷が砕けるとともに現れたのは黒腕。黒の光沢を帯びるそれは出久の右手に装備されており、異様な存在感を放っていた。

「エンデヴァーは関係ないよ。僕は君の個性を君自身に認めて欲しいだけ」

「黙れよ…」

試合会場の気温が徐々に下がっていき、同時に轟の右半身には霜が張り付いていく。

「君がやってるのは親へのただの反抗。そんなものは直ぐに押し潰されてしまう。本当に君の復讐心はその程度なの?」

「黙れ!!」

轟は氷結を放つ。先程のように捕獲する為の凍らせるものではない。先端から地面に掛けての氷結は鋭くとがり、生身で受け止めれば一溜まりもないだろう。

地雷に僅かに触れただけで感情任せに個性を相手へとぶつける。まさに子供の反抗期だ。

出久は正面から黒腕で氷結を打ち破ろうとするが先程とは比べ物にならないほどの威力。見誤ってしまった出久は黒腕で氷結を防ぎながらも足は威力に押され、少しずつ下がっていく。

≪緑谷、轟に押されていく!!このまま場外となるか!!!≫

しかし、出久の表情に焦りは微塵もない。寧ろ嬉しそうに目を輝かせ轟を見ていた。

闇が足りないし、浅いのはこれからどうにか出来る。成長含めれば実力は十分。

刹那。氷結には細やかな網目状の線が通る。

「勿体ないと思わないの?君には復讐できる力があるのに」

「……」

線に沿って刻まれた氷は破裂。冷気の煙を纏いながら飛び散り、落下していく。

その場に立つ緑谷の手には細い糸が伸び、その目は轟を見据えていた。翡翠色の瞳が妖しげに光り、纏う黒に惹き付けられる。

「力…それはクソ親父の炎を使えってことか?」

「そうだよ」

「言っただろ。親父の個性は使わねえ」

出久は攻撃を止めた轟へと歩いていく。

氷を踏み潰していく音。

「こう考えてみなよ。エンデヴァーは自身の上位互換を手に入れる為に君を生んだんだ。なら、エンデヴァーの手の届かない場所でその期待を裏切ればいい」

「…なにを言ってんだ?…緑谷」

顔には出さないが、明らかに困惑している轟へと出久は黒腕を振り上げ、走り出す。今は試合中。観客を盛り上げなければならないのだ。

轟は寒さに震える右腕を左手で押さえながらも出久へと氷結を放つ。氷結のスピードは変わらないが、轟は最小限の動きを見せるだけだ。

やっぱり、氷の個性である右側を酷使したから凍傷になりかけてる。…君の炎はそれをカバーするためのものの筈。

「君の個性でしょ…何、出し惜しみしてるんだよ!!」

「っ」

出久は黒腕を氷結に叩きつけ、破壊。

派手に飛び散り、太陽の光を反射して輝く大きな氷の欠片の間を抜け、出久は轟へと突撃していく。

「親なんて関係ない!一体何をしてくれるっていうの!?」

出久は自身でも単調だと言わざるを得ないほど、真正面から大振りで黒腕を振り上げた。

「親が君に何をしてくれたんだよ!!」

動きが鈍っていた轟は出久の動きに殆ど反応出来ず、巨漢よりも一回り大きな拳が轟の腹部へと諸に入る。勢いのままに吹き飛ばされていく轟はそれでも氷結で壁を作り、場外になることを防ぐ。

≪モロだぁーーーー生々しいの入ったあ!!≫

轟はふらつきながらも氷結の壁に手をかけ、立ち上がる。顔は伏せられ、表情は見えないが出久の視界では轟が何かを呟いているのは見えた。出久は腕を振り、轟へと歩いていくと僅かに声が聞こえる。

「ひたすらに戦い方を植え付けられた。家族から切り離された。強さを強要された。アイツが与えたのは炎だけだ…ヒーローにするための…」

少しずつ伏せられていた顔が上がり轟の表情が見える。

「本当に俺はヒーローを目指していたのか?気付かないうちに俺は………」

整った顔は歪み、その顔には憎悪が宿る。綺麗で澄んだ瞳は濁り、苦渋に揺らめいていた。

「なあ、緑谷。俺の復讐はただの子供の反抗か?」

轟を凍えさせていた霜は溶け、轟の頬からは溶けた氷の水が伝い落ちる。同時に体からは蒸気が立ち込め、轟の体温が上昇しているのが分かった。

左(炎)を使いだした…。

「ううん。もうそんな事言わない」

爆発的な勢いで吹き上がる炎。激しく燃揺る炎から流れる風。赤々と燃えるそれは轟の左側から溢れ、周囲の氷結は融解していく。

≪焦凍ォオオオ!!!やっと己を受け入れたか!!そうだ!!良いぞ!!≫

会場に響くエンデヴァーの声。

≪俺の血をもって俺を越えて行き…俺の野望をお前が果たせ!!≫

しかし、両者は気にも止めない。今となってはエンデヴァーの言葉など轟にとってはどうでもいいものだ。

笑顔。

「何笑ってんだよ」

「ふふっ、嬉しいに決まってるじゃないか」

出久は轟へと手を差し伸べてみせる。

「自由と憎しみの世界にようこそ。僕は君を歓迎会するよ」

「…イカれてるな」

そして、出久は合図だと言うように指を鳴らし、両者は同時に動き出す。

轟は再度最大限の氷結を放ち。出久は自身と同じ大きさ、質量限界の拳を生成。

真正面から正々堂々の個性のぶつかり合い。出久の目の前に氷結が広がる瞬間。轟は巨大な炎の塊を氷へ放ち、出久は黒拳で氷を打ち破る。

轟音。

空気が会場の中心から打ち付けられ、観客はその衝撃に耐える。

「威力が大きけりゃ良いってもんじゃないけど……すごいな……」

『何今の…おまえのクラス何なの……』

『散々冷やされた空気が瞬間的に熱され膨張したんだ』

セメントス、プレゼント・マイクが驚きの声を洩らす中、相澤が冷静に解説する。

『それでこの爆風ってどんだけ高熱だよ!ったく何も見えねー』

試合会場は巻き上がった土煙に蒸気が煙幕となって詳細が一切見えない。

『オイこれ勝負はどうなって…』

煙幕は風によって晴れていく。

「!!」

束ねられていた黒髪が揺れ、体操服は右腕から無惨に千切れていたが体には怪我一つない少女の姿。反対側には左側面を壁に打ち付け、壁に体を預けた状態で滑り落ち、倒れた轟の姿があった。

「と、轟くん……場外。緑谷さん--…三回戦進出!!」

緑谷出久の三回戦進出が決まった瞬間だった。











プルルルルプルルルル…ピッ

「はい、緑谷です」

通路にいた出久は携帯の画面を確認し、直ぐに電話に出た。

『試合を見させてもらったよ。随分とエンデヴァーの息子を引き入れたかったみたいだね』

「彼が加われば戦力に問題は無いですし、何よりヒーローの息子であるという肩書きが魅力的でしたので」

『なるほど…しかし、個性である程度声を消していたとはいえ大勢の前で彼を堕とすのは危険だった。頭の良い出久なら分かっていただろう?』

通信相手の言葉に出久は顔を歪めた。確かに自分らしくはない感情任せなものだった。

「ごめんなさい。反省しています」

『まあ、成功したのなら咎めはしないよ。それに今は感情が不安定な時期でもある。感情に振り回されてしまう節があるのは多目に見よう』

「…ありがとうございます」

『今後は新たな部類の仲間を集めていくことになる。心配しなくていい、これから学べばいいことだ』

「はい…。失礼します」

ピッ

出久は電話を切り、折り畳み式の携帯をしまう。

「疲れてるのかな…」

出久の呟きは通路と観客の歓声によって消えていった。


………………………………

通路から観客席の方へ行くと既に二試合終わり、今現在、爆豪と切島が戦っているところだった。

個性を駆使して速攻を仕掛けていた切島だったが、体力の限界。硬質化が綻び、爆豪の爆破の連打に押されていく。

結果、爆豪の三回戦進出が決定した。

≪これでベスト4が出揃った!!≫

…僕の番か。

出久は通路へと再び踵を返して戻っていった。

『準決勝サクサク行くぜ。今大会、圧倒的実力で勝ち上がってきた緑谷!対、ヒーロー家出身、飯田天哉!!≫

緑谷と向かい合う飯田との試合。

気合い十分な飯田の調子に内心苦笑しつつ、出久は特に構えもせずその場に立つ。

≪START!≫

開始同時に飯田のエンジンが熱風とともに吹き上がり、出久へと突進してくる。

緑谷君の反応速度は規格外。更には応用の利く個性相手に長期戦は圧倒的な不利となる!ならば!!

地面を蹴り、緑谷の頭へと速攻の蹴りをしてくる飯田。

短期戦に賭ける!!

それを出久は飯田の蹴りの軌道上で空気を拒絶し、弾く。空中で態勢を崩した飯田はエンジンで自身を回転させ、地面に足を着こうとする。

「しまっ!!」

が、地に足をつく前に先程よりも強い衝撃が飯田へと放たれ、飯田は吹っ飛んでいく。足をついたが既にそこは場外。

≪飯田、場外!一瞬にして緑谷が決勝進出を勝ち取ったあーー!≫

出久の圧勝。

次の試合では幼馴染である爆豪の爆破音が響く。

「うっぜえなぁあーーーーそれ!!!」

「修羅め…!!」

爆豪の爆破を対戦相手である常闇、黒影が受ける。

≪爆豪、対、常闇!爆豪のラッシュが止まんねえ!!≫

しかし、常闇は爆破を受けるだけで攻撃を仕掛けることが出来ないでいた。

≪常闇は無敵に近い個性で勝ち上がってきたが、今回は防戦一辺倒!!懐に入らせない!!≫

「爆破の光で攻撃に転じられん。相性最悪だ…」

「常闇君が僕らに明かしてくれた弱点。少し厳しいけど、かっちゃんにバレてなければ転機はまだあるよ」

「うん!」

出久達は爆豪と常闇の試合を見ていたが、直ぐに決着はつくこととなった。

爆破を黒影が防いだ瞬間に爆豪が黒影の鼻先を空中でつかみ、爆破による勢いを利用し一気に常闇の裏手へと回る。

≪裏をとったあ!!≫

常闇へと突き出された爆豪の掌から放たれるのは閃光。直後に爆破が巻き起こり煙幕となって会場を包んだ。

「まァ…相性が悪かったな。同情するぜ」

煙幕は晴れ。爆豪は爆破を連続で放ち、光で黒影を牽制し続けていた。常闇は爆豪の片手で捩じ伏せられ、動ける状態ではない。

「詰みだ」

「……………まいった…」

≪常闇くん降参!爆豪くんの勝利!!≫

爆豪は常闇を放すとA組の観客席にいる出久を見、出久もそれに気付いて爆豪を見つめ返した。

≪よって決勝は緑谷、対、爆豪に決定だあ!!!≫

かっちゃんが相手かぁ……やりづらいなあ。

指定された控え室にて出久が出番を待っていると、不意に扉が乱暴に開け放たれた。

「かっちゃん?」

「……あ?」

先制布告にでも来たのかと思ったが反応からしてどうやら違うらしい。

「なんでてめェがここに…控え室………あ、ここ2の方か!クソが!!」

部屋を間違えたのか。

「何だ。かっちゃんのことだから先制布告しに来たのかと思っちゃった」

「………」

何も言わないのは駄目だと思い、軽く言葉を投げると爆豪は押し黙って此方を睨んできた。

「?」

「半分野郎に何を言った?アイツはてめェで炎を使わねえことを決め込んでた…それがどうだ。後半には炎を使いやがった」

個性で空気の振動を制御して音をある程度遮断し、僕と轟君の会話を聞かれないようにしてた。…バレない程度に。でも流石はかっちゃん、違和感に気付いたら堂々と聞いてくる。

「…ちょっとしたストレス発散だよ。轟君は家庭に悩みを抱えていたからね。その事について少し話してたんだ」

「試合中にかよ」

「……話すくらい、いいでしょ?」

先生は心配しなくていい、と言ってたけどちょっとだけ支障が出てきちゃったな。

爆豪は少し苛立ちながらも出久を見、通路へと振り返った。

「半分野郎の家庭事情に態々、足突っ込んでんじゃねえよ」

「そうだね…。これは僕のお節介だよ」

爆豪はそれだけ聞くと通路へと歩いていく。

「俺には何もしてこねえ癖に…」




≪さァ、いよいよラスト!!雄英1年の頂点がここで決まる!!≫

沸き上がる会場に耳を済ませ目の前を見れば見慣れた幼馴染の姿がある。

≪決勝戦!緑谷、対、爆豪!!!≫

睨み付けてくる彼が柄にもなく緊張しているのが出久には分かった。

≪今!!スタート!!!!≫

開始同時に出久は素早く手を掲げ自分から少し距離をおき、爆豪までの約10mほどの厚さの空気を拒絶。爆風に引けをとらないほどの衝撃が爆豪へ放たれ、拒絶された空気があったフィールドの地面は半円を描くように細長く抉られていた。それは大規模な空気砲となって爆豪へ向けられたが、その先には衝撃を受けた爆豪の姿はなく、軌道にあった観客席の下にある壁が巨大なサークル状に穿たれただけだった。

Boom!!Boom!!

出久から左側には爆破を伴って疾走する爆豪が見えた。

…防がれると思って強めにしたんだけどなぁ。やっぱり、範囲を狭めちゃうと軌道が単調になって駄目か。

爆豪が側へ到達する前に出久は上空に粒子の黒い球体を投げる。そして、爆破で加速してきた爆豪の掌から放たれた爆破を両手で防ぐ。カウンター。出久は爆豪の右腕と首もとを掴み、達人のような身のこなしで身を翻し爆豪を地面へと叩き付ける。

「っぐ!!」

刹那、空中に投げられた球体が変化。球体が破裂し黒い粒子が広範囲に分散し、一瞬にして大量の硬質化された棒が空中に生成された。

仰向けで倒された爆豪の目にはそれが見えた。即座に自身を掴んでいた出久の顔を避け、爆破。

「っ!」

出久は視界外からの攻撃で防御できずに攻撃をくらい、思わず手を離してしまった。爆豪は瞬間に爆破でその場から退避。直後、空中にあった硬質の棒が地面へと突き立っていく。それは倒れていた爆豪を拘束するように地面に刺さっていた。

「熱いなぁ…かっちゃんの個性を諸に食らったのなんて何年ぶりだろうね」

「知らねェよ。てめえが個性隠してやがったのが悪いんだろうが」

「だって、言う必要ないでしょ?」

出久は前屈みになった姿勢のまま、突き刺さった棒を掴む。

そして、爆豪へ突撃しようと出久が上体を起こした瞬間、爆豪の顔が暑いわけでもないのに真っ赤になる。出久は長い付き合いである爆豪が初めて見せる表情に硬直。

「え、えと…かっちゃん?どうしたの?顔が真っ赤だけど…」

「うるせェえ!!!コッチ向くな!見るな!自分の今の格好くらい確認しろやクソデク!!」

Boom!!

「格好…?」

思わず声をかけると爆豪は激昂して注意してくる。赤面しているのもあってか、いつもよりとてつもなく顔が赤く染まり、血管が切れるのではないかと思ったほどだ。

出久は言われた通りに自分の体を見下ろす。

「!?」

見れば体操服は胸元を中心に破れ、下に着ていた下着も焼け焦げたように縮れていた。黒い下着を見られ、首から胸元の素肌は露出状態。

次第に出久の頬も赤くなっていく。

「ちょっと!!これさっき、かっちゃんが僕を爆破した時のでしょ!!どうしてくれるの!?」

「わざとじゃねえわ!!不可抗力だろ!!」

「不可抗力でも何でも、何でこんな狙ったような破れ方してるんだよ!?かっちゃんの馬鹿!!」

出久は赤面しながら少しでも露出を防ごうと破れた体操服を引っ張り、胸を隠そうとするが出久の豊満な胸は隠しきれない。

会場では観客達が気まずそうに目を反らす者、まじまじと注視する者、同情する者。様々な反応となっていた。

『えー…と、イレイザー。どーすんの?コレ』

『…………知らん』

とことん放任主義な相澤にプレゼント・マイクはラッキースケベ的な思想で茶化すべきなのか、黙っておくべきなのか分からず慌てていた。

「うっひょおーーーー!流石は緑谷の…ゲフッ」

A組観客席からは峰田が身をのりだし、卑猥な発言を言おうとしたのを察知した娃吹が即座に峰田の頬を舌で殴り飛ばした。

「相変わらず懲りねえなぁ」

「もう一種の病気なんじゃないかしら?」

「外にいるプロヒーローにでも突き出しちゃう?」

「その前に宇宙まで飛ばそう…」

A組は改善されることのない峰田の安定っぷりに呆れ果て、扱いの雑さは定着しつつあった。。

「もう!!折角、真剣に試合をしようとしてたのに…!!」

出久は先程まで掴んでいた棒の一本を粒子に戻し、再構築。粒子の布と体操服を結合し、不格好ながらにも露出を防いだ。

「…………真っ正面から叩き潰す」

出久は生成した棒を粒子へと戻し、浮遊させる。

出久の物理的なオーラが現れたかのような光景に爆豪は冷や汗を流す。今まで昔からの言葉遣いが抜けず、暴言を投げまくっていた爆豪だが出久が怒ったことなど一度もなかったのだ。

「お、オイ…デ」

「言い訳なんていらないよ!!」

緑谷が走り出した瞬間、出久の背後が爆風。一瞬にして緑谷は爆豪の目の前へと移動。通常の飯田のスピードとは比べ物にならないほどの速さ、そして、爆豪の頭へ焦点を当てた蹴り。

「チッ」

爆豪は片手で受け、即座にもう片方の手で爆破を放つ。出久は身を翻して避け、刺さっていた棒を手元へと引き寄せる。掴む。棒を地面へと突き立て、出久の体が旋回。爆豪へと出久の両足の蹴りが命中。着地した出久は回転を利用して追撃とばかりに棒を振り払う。しかし、爆豪は爆破で出久から距離をとり、追撃を回避。

「オイ、デク!!不可抗力だって分かってんなら、んなに怒んじゃねえ!!」

「…これは気持ちの問題でしょ?」

怒ってるけど、それでも本気で相手にしないだけ有難いと思ってよね!…でも、イライラしてるからさっさと終わらせたいんだ。

出久は溜息をつくと、後方にある複数の棒を再構築。全てが出久の手の元へと集い、出久が持っていた硬質の棒も粒子へ戻る。突撃してくる出久に反応して爆豪も走り出す。

互いの間合いに入り、爆豪は右手を突き出し爆破。出久は手元に纏わせていた粒子で瞬時に盾を生成し、爆破を受ける。直後、デクの片方の腕が素早く動き、何かを突きだしてくるのを目視。爆豪は右へと飛び、避ける。そうして突き出されたのは黒い光沢を帯びた竹刀。僅かに爆豪の左脇腹をかすった。

「当たれば良かったのに」

「当たるかボケェ!!」

出久は盾を即座に粒子に戻す。爆豪ががら空きとなった出久の左側に威力を高めた爆破を放つが、出久は即座に飛びはね、空気を拒絶。爆煙は周囲へと分散されたが、爆豪は爆破を起こし、飛翔した出久を追う。

出久はそれを予想していたかのように空中で巨大な黒腕を生成済み。

爆豪は空中で両腕を振り、連爆。回転速度を増していき、巨大なグレネードが突撃してくるかのようだ。

会場が盛り上がっていく声が聞こえるが、どうでもいい。

両者は空中で激突。大爆発により起こった爆風が観客立ちに叩きつけられ、煙幕が会場を包み込んだ。

≪なんも見えねーー!!!≫

プレゼント・マイクの声が聞こえる煙幕の中、出久は着地。

爆豪の大爆発が放たれた直後、空気の層を体に纏わせて防御したのだ。

黒腕は反射的に解除。そして、爆豪が爆風で場外になっている、またはフィールド内で煙幕が晴れるのを待っているのに備えて出久は武器を生成しようと粒子を出そうとしたが、糸やナイフが生成できるほどの量しか出なかった。

場外になっててくれないかなぁ。…あんな煙幕大量生産する個性もってるから、かっちゃんとやるのは面倒だったのに…。

出久は仕方なく小さなサバイバルナイフを二本生成。

煙幕が晴れ、出久から観客席が見え始めた。

≪おお!?爆豪…これは≫

出久が正面を見ると立った姿勢のまま、爆豪は地面をみていた。出久も見る。

≪爆豪くん場外!!緑谷さんの勝利!!≫

大爆発の衝撃に耐え、踏ん張ったであろう片足が線の外へと踏み出していた。

「~~~っそがぁあ!!」

爆豪はその場で目をつり上げ、敵顔負けの形相で出久を睨んだ。睨まれた本人の出久は生成していたナイフを解除。爆豪へと一礼してその場を立ち去る。





あの爆発でギリギリ場外って…高校生としてはタフネス過ぎない?





試合が終わった出久は替えの体操服を受けとるためにリカバリーガールのいる医務室へと向かっていた。

そう言えば、観戦席に轟君の姿が見えなかったなぁ…まだ医務室にいるのかな?

そんな事を思いながら出久は医務室の扉を開ける。

「失礼します」

「おやまぁ、また体操服が駄目になっちまったのかい?」

其処には事務椅子に座る小柄な老婆が腰かけ、出久の姿を見て溜め息を溢した。

「はは…すみません。僕も駄目にしたい訳じゃないんですけど…」

「まぁいいさ。今出すからちょっと待ちな」

「ありがとうございます。リカバリーガール」

リカバリーガールはそう言うと椅子から立ち上がり、小さな物置のような場所へと入っていく。

其処に様々な常備品が並べられているのが目に入るが、不意に、出久がベッドの方へと目を向けると一つだけカーテンで仕切られているベッドが見えた。

医務室へと運ばれた生徒はみんな既に会場に戻ってる。なら、この仕切られてるベッドにいるのは…

「轟君?」

「………緑谷か」

出久は静かに近づき、声をかけると反応があった。

轟だと分かった出久はカーテンを静かに開けた。

そこにはベッドから起き上がったばかりの轟の姿。運ばれた際にあった傷がないという事はリカバリーガールが問題なく治癒してくれたのだろう。

「怪我の方は大丈夫そうだね。特に大事にならなくて良かったよ」

「ああ…」

「どう?少しは僕の言葉の意味を考えてくれたかな?」

出久は笑顔で尋ねる。

「…」

しかし、轟は出久の質問に答えようとはせず、虚ろげに出久を見ているだけだった。

一気に心を堕としてしまった影響なのだろうか。轟の目の焦点は合っておらず、会話こそいつも通りではあるが、明らかに彼の心は出久が望んだ通り、蝕まれつつあった。

「轟君。君は…」

出久が何かを言いかけた直後。会場にいるミッドナイトの声が医務室にまで響きわたる。

『これより表彰式を行います!選手達は会場に集まりなさい!!』

「…だってさ。行こうか轟君」

「いや、俺はもう少し休んでから行く」

「そっか」

轟は顔を伏せたまま出久に会場へと行くようにと手で促し、出久もそれに頷く。出久がベッドのカーテンを閉めると丁度リカバリーガールが新しい体操服を取り出してきたところだった。

「ほら、新しい体操服だよ。あんた一位なんだろ?早く行きな」

「ありがとうございます」

出久はリカバリーガールから体操服を受け取りると直ぐに着替え、会場へと急いだ。



「それではこれより!!表彰式に移ります!」

表彰台へと立つのは緑谷、爆豪、常闇の三人。

「3位には常闇君ともう一人飯田君がいるんだけど、ちょっとお家の事情で早退になっちゃったのでご了承下さいな」

ミッドナイトが3位決定戦が無かったことへの補足を加えた。

出久はどうでもいい、と思いながら表彰台に胸を張って立っていた。

誰からでも分かる将来有望な少女の姿をして。

二位の表彰台に立つ爆豪は眉間に皺を寄せ、回りを睨み付けていたがそれでも暴れることはなかった。

「今年のメダルを贈呈するのは、もちろんこの人!!」

ミッドナイトが片手を振り上げ、選手達へメダルを授与する役割の人物へと合図を送る。

≪私が≫

「我らがヒーロー…」

≪メダルを持って来た!≫

「オールマイトォ!!!」

見事にオールマイトとミッドナイトのセリフが駄々かぶり…会場は微妙な雰囲気となったが、それを流してメダル授与はオールマイトによって行われていく。

「常闇少年おめでとう!強いな君は!」

「もったいないお言葉」

「ただ!相性差を覆すには個性に頼りっきりじゃダメだ。もっと自力を鍛えれば取れる択がますだろう」

「…御意」

オールマイトは常闇の首へメダルをかけ、ハグをする。

続いて、今にも不満を爆発させそうな、二位の爆豪の首へメダルをかけた。

「爆豪少年おめでとう」

「一位になれなきゃ…意味ねェんだよ。オールマイト」

「うむ!常に向上心を持ち続けるっていうのは良いことだ。まだまだ君は成長できる!」

「うるせえ!!分かっとるわ!!」

オールマイトは爆豪へハグをする。

「だが、時には妥協ってものを覚えるのも大事だ」

「チッ分かってんだよ…ンなこと」

素っ気ない爆豪にオールマイトは頷き、今大会の優勝者へと目を向ける。

「さて、緑谷少女。伏線回収見事だったな」

「ありがとうございます。オールマイト」

出久へとオールマイトはメダルをかける。

「君の戦いは多少の改善点を直せば、プロでも通用するレベルだ。君は十分に強い…だからこそ!これからの活躍が楽しみだ!!」

オールマイトが手を差し出す。女生徒にハグをするのは躊躇われるということだろう。

出久は差し出された手を笑顔で握り返す。

「優勝おめでとう。緑谷少女!」

「はい、オールマイト!」

こうして、雄英体育祭は幕を閉じた。


……最後にオールマイトが「プルスウルトラ」ではなく、「おつかれさまでした」で締めくくり、ブーイングを受けたのは皆様も知っていることだろう。











……………………

「ねえ…これは何かな?」

学校から帰り。バーにある自室でシャワーを浴びてきたばかりの出久は数十枚にも及ぶ写真の束を握りしめ、黒霧、死柄木、テレビ越しの先生へと写真を突きだしていた。

「!?イズク、何でそれをっ」

「死柄木弔。ちゃんと隠しなさいとあれほど…」

その写真には出久のチアガール姿はもちろんの事、爆豪との試合での醜態写真までもが引き伸ばされていた。加え、高画質の加工がしてあることから先生も関与している事は出久にとって容易に判断できた。

そして、先程の黒霧の言葉で全員がグルなのは確定した。

「少しならまぁ、秘密にしてあげても良かったんだけど…量と角度に問題がありすぎる。写真を集めたのは先生ですね?」

チアガールの写真ではどう考えても下過ぎる目線から写っており、下手すれば下着が見えてしまうほどだ。醜態写真では全方位から特に胸元に集中して写っているものばかり。

そんな物が数十枚も一気に見つかれば流石の出久も怒らざるを得ない。

それも、通りすがら扉が開いていた弔の部屋のベッドに、まるでストーカーのように散りばめられているのを見た時は、流石の出久でも鳥肌がたった程だ。

『雄英体育祭に敵が出る写真なんて早々あるもんじゃないだろう?それに出久の記念写真を集めたいと思うのも親心というものさ』

「…にしては僕が不満に思うような写真が多すぎませんか?」

『それは弔が欲しいと言うから集めただけだよ。まぁ、そこまで大量にコピーするとは僕も思ってはなかったけどね』

「へえ、弔君が」

出久は弔へと再び向き直る。

冷ややかな出久の目線に冷や汗を滲ませた弔は、まずいと思ったのか焦りながら弁明し出した。

「待てよ!写真を持ってたのは先生だぜ!欲しいとは言ったけど、そんなに沢山あるとは知らなかったんだよ!」

コピーしたのは否定しないんだね…。

「…つまり、先生もこの写真を持ってるって事ですね?弔君に渡して無いものもあるんじゃないですか?」

先生は出久の質問に答えることはなく。顎に手をあて、考える仕草をする。

『私と弔だけが出久に怒られるのは少し癪だね』

先生は少し面白そうに口角を上げると画面越しに黒霧を指差した。

それに出久は何かを察したかのように黒霧を見る。

『実を言うと以前から黒霧に渡し続けてる写真があってね』

「っ!?先生それは…」

話始める先生の言葉に黒霧は窺えない顔色を蒼白とさせ、切羽詰まったような声で先生に訴える。

『黒霧に渡してる写真の方が出久がかなり怒りそうなんだが、見てみるかい?』

「先生止めてください!!それは内々にという約束では!?」

『罰は一番罪があるものが負うべきだと思わないかい。出久?』

先生の言葉に出久は微妙な顔となる。大本を辿るなら元凶は先生であり、二人はその恩恵(?)に与っていたにすぎないのだ。

しかし、先生は出久が尊敬するものを兼ね備えており、故に出久の中にある先生の評価はとてつもなく高い。詰まるところ、尊敬する上司に等しい先生に対して怒り散らすなど出久には出来ないのだ。

「しょうがないですね…」

出久は溜め息を吐きつつ個性の黒い粒子を生成し、体の回りを浮遊させ始める。

「緑…谷、出久。違います。いえ、違いませんが…私は」

「黒霧さん、すみません。僕の怒りの矛先の的になってくださいね?」

出久の笑顔とその一言で黒霧は凍りついた。










晴れ渡る空の下。路地には平和な街並みとは似つかわしくない黄色い規制線のテープが貼られていた。

警察が幾度も出入りをしている場所には流しきれなかった血痕。そこはつい昨日一人のヒーローが『ヒーロー殺し』という通り名で知られる敵に致命傷を負わせられた現場であった。

確か、被害にあったヒーロー。インゲニウムは飯田君の兄さんだったかな。

しかし、現場の捜査も早々に調査し終わったらしく、出久が野次馬の後ろから覗いてみると警察関係者達は規制線を解除したところだった。

「ヒーロー殺し『ステイン』…ね」

出久は呟き、先生から聞かされていた情報をまとめた資料に目を通し始める。そこにはステインが敵活動を始めたキッカケやヒーローを殺す際の手順。その事から考察されるステインの性格が事細かく記載されていた。

「弔君と気が合えば良いんだけど」

出久はそう言いながら裏道へと歩いていく。

そして次いでとばかりにポケットから写真を一束取り出す。

それは出掛ける前に黒霧から新たに大量没収した写真の一部。先生がコレクションとして保存していたらしい、出久の写真だった。

「はぁ…一体先生から何枚受け取ってるんだか」

出久は取り出した写真を一瞥し、粒子を空中で擦り合わせる。すると出久の手の中で火花が散り、小さな火種となって持っていた写真に着火。

写真は路地で静かに灰となって消えた。






………………………………

……………………

…………

朝から憂鬱…。

雨の中。出久はビニール傘をさしながら頭の中で、今朝の愚痴を語っていた。

雄英体育祭で優勝したからなのか、テレビによる生放送で顔を知られたからなのか、登下校に使っていた満員電車の中でその功績を騒がれた。

それだけなら完全に無視したんだけど、かっちゃんとの試合で服が破けたことなども陰で聞こえたのが何とも不快で…思わず殺したくなっちゃったのが本音。別に好きでかっちゃんの爆破を食らった訳ではないし、同級生に僕の相手になるほど強い人がいない。だから結果、優勝しただけなのに…。

「雄英に潜入するのは良いんだけど注目のされ方が面倒だなぁ」

出久はため息をつきながら学校へと歩いていると、後ろから誰かが雨の中走ってくる足音と水音が聞こえ、振り返る。

「おはよう。飯田君」

「何呑気に歩いてるんだ!遅刻だぞ!おはよう緑谷君!」

見えたのは全身カッパを着、長靴で走ってくる飯田。しかも、真面目にフードの紐をきっちりと閉めている。

…うーん。言っちゃ駄目だけど普通にダサい。

「遅刻って、まだ予鈴五分前だよ?」

≪雄英生たるもの十分前行動が基本だろう!!≫

飯田に催促され、出久は一緒に学校まで走って登校。

飯田の兄がステインに重症を負わされたのは分かっていたが、飯田が「心配しないでいい」と言うので出久は何も言わなかった。

クラスでは今回の体育祭の事で声をかけられたなど、ジロジロ見られて恥ずかしかったなど、その事で話題が持ちきりだった。

「たった一日で一気に注目の的になっちまったよ」

「やっぱ雄英すげぇな…」

「おはよう」

そんな事を話しているとチャイムが鳴り、同時に担任の相澤先生が入ってくる。

体育祭の時にはミイラ男のようだった包帯は多少傷が残っているが取れていた。

「相澤先生、包帯取れたのね。良かったわ」

「婆さんの処置が大ゲサなんだよ」

相澤は蛙吹に応えると、クラス全員を見る。

「んなことより、今日のヒーロー情報学。ちょっと特別だぞ」

相澤の一言でクラスの数名の顔色が曇った。

恐らくヒーロー基礎学を苦手教科とする生徒達だろう。

「『コードネーム』。ヒーロー名の考案だ」

≪≪胸ふくらむヤツきたああああああ!!≫≫

そんな不安も何処へやら、生徒達は目を輝かせて興奮をそのままに飛び上がる。

そんなクラスメイト達を横目に出久は笑顔でその様子を見るだけに留める。態々無理に喜ぶ真似をしなくてもいい、という事だろう。

「というのも、先日話した『プロからのドラフト指名』に関係してくる」

相澤が話し出した瞬間にクラスは静まり返り、再び話を聞く姿勢となった。

「指名が本格化するのは経験を積み、即戦力として判断される二、三年から…つまり、今回来た『指名』は将来性に対する『興味』に近い。卒業までにその興味が削がれたら一方的にキャンセルなんてのはよくある」

「頂いた指名がそんまま自身へとハードルになるんですね!」

「そ」

飯田が理解を示し、相澤もそれに同意する。

「で、その指名の集計結果がこうだ」


緑谷 4,123

轟 1,920

爆豪 1,636

常闇 360

飯田 301

上鳴 272

八百万 106

切島 68

麗日 20

瀬呂 14

「例年はもっとバラけるんだが、緑谷に注目が偏った」

緑谷の指名は二位との差にして倍近く離れており、クラス中があり得ない、と目を見開いた。

「チッ」

「かっちゃん。僕を見ながら舌打ちしないでよ…」

後ろの席の出久へと態々目線を向けて舌打ちをしてくる爆豪に、出久は困ったような笑顔で返す。

「いやいや緑谷。この指名数は流石にエグいだろ」

「う、うーん…」

隣の席の瀬呂の言葉に対して出久は言葉を濁すしか出来ない。

「これを踏まえ…指名の有無関係なく。いわゆる職場体験ってのに行ってもらう」

相澤が職場体験に行くに辺り、ヒーロー名を決めることを話終ると同時に教室の扉が勢いよく開かれる。

「適当なの付けたら地獄を見ちゃうよ!!この時の名が!世に認知され、そのままプロ名になってる人多いからね!!」

現れたのはミッドナイト。どうやらミッドナイトがヒーロー名のセンスの査定をするということらしい。

「将来、自分がどうなるのか。名を付けることでイメージが固まり、そこに近づいていく。それが『名は体を表す』ってことだ。“オールマイト”とかな」

『オールマイト』。込められた意味は『全てを救う』…だったかな。

不意に嫌悪感を表情に滲ませた出久は直ぐに口元を手で隠す。

今は『ヒーローに憧れる少女』でいなければならない。喜びこそすれ、不快だと思っているなどと思われてはいけないのだ。

「…」

だけど…

出久は配られたボードを見、迷う。

『名』という意味であれば出久には『ブラッド』という通り名がある。black bloodと読む際に簡略化して『血(ブラッド)』が敵名として定着したにすぎないものではあるが…。

通り名から定着したが故に出久は自分で名前を付けたことがない。

考えてもしょうがないし、皆がどんな感じなのか見てから決めよ。

出久は早々に考えに区切りをつけたのだった。

━━15分後。

「じゃ、そろそろ出来た人から発表してね!」

ミッドナイトの発表形式に生徒達はどよめく。

そんな中、青山が教卓へ…。

「行くよ。輝きヒーロー“I can not stop twinkling.”」

(キラキラが止められないよ☆)

≪短文!!!≫

青山が掲げたボードに書いてあったのはどう見ても英文。しかも、ミッドナイトは英文を気にするどころか言いやすいよう直した方が良いとまで助言する。

それに対して出久は呆れと同時に参考にすることを早々に諦め、統計としてどういったものが良いのかを判断する考えに変更した。

「じゃあ次アタシね!エイリアンクイーン!!」

≪2(ツー)!!血が強酸性のアレを目指してるの!?やめときな!!≫

次に発表した芦戸さえもツッコミが入り、何故かクラスで大喜利のような雰囲気に…。

「じゃあ次、私いいかしら」

「梅雨ちゃん!!」

次に手を挙げた蛙吹がボードに書いた名前を見せる。

「小学生の頃から決めてたの。『フロッピー』」

「カワイイ!!親しみやすくて良いわ!!」

この蛙吹の発表のお陰で見事雰囲気が変わり、クラスメイト達も次々とヒーロー名を発表していく。

そうしていくうちにクラスの大半のヒーロー名が決まり、ミッドナイトは生徒を見る。

「思ったよりもずっとスムーズ!残ってるのは再考の爆豪君と…」

因みに爆豪はミッドナイトからヒーロー名を却下され、考え直している。

「飯田君、そして緑谷さんね」

飯田は何か悩んでいるようで、ヒーロー名は自分の名前とした。

んー、みんな自分だっていう名前ばかりだし、この際あだ名でもいいのかな…。

出久はボードを片手に教卓に立つ。

「…僕のヒーロー名は」







「『デク』です」







「職場体験は一週間。肝心の職場だが、指名のあった者は個別にリストを渡すからその中から自分で選択しろ」

出久は手渡された資料を見るとそこにあった事務所の名前に疑問符を浮かべた。

エンデヴァーヒーロー事務所からの指名…。

体育祭で轟君に勝ったから?それとも純粋に強い人材に指名を入れただけなのか。どちらにしろ実力主義なのは流石ってところかな。

出久は轟の方を横目で確認したが、何も反応を示さないので顔色を窺い知ることは出来なかった。

ヒーロー情報学の授業終了後。

「デクちゃんは何処の事務所にするのか決めたの?」

既にバトルヒーロー、『ガンヘッド』事務所へと体験を決めたらしく。麗日は出久の席へとやって来た。

他のクラスメイト達も出久の行く事務所が気になるようで、麗日の横に並ぶ。

「うん。僕はエンデヴァーの事務所に行こうかなって思ってるんだ」

「エンデヴァーから指名!?」

「超実力者主義と名高いだけあるわね。緑谷ちゃんの指名は妥当だと思うわ。ケロ」

「流石だぜ緑谷!!」

「うんうん!」

「ふふっ、皆ありがとう」

出久が笑顔で答えるとクラスメイト達はNo,2からの指名に浮き足立つ。

自分の事では無いのに何故こんなにも嬉しそうなのか、出久にはよく理解出来なかったがそれでも空気を壊さぬよう、適当に雰囲気を合わせた。

「僕もエンデヴァーから指名が来ててビックリだよ」







………………………………

血を思わせる端々が縮れた赤い布を首に巻き、包帯で目元を隠した男。

今現在、17人のプロヒーローを殺害。23人を再起不能にした事で凶悪犯として名が知られている人物。

「探しましたよ。ステイン」

ヒーロー殺しに一人の少女が声をかけた。

刹那、ステインは背中に装備していた日本刀を振り抜く。その切っ先は声をかけた少女へと向けられ、少女の目の前で停止。

子供の声だからだったからだろう。ステインは殺す為ではなく、威嚇に似たものを少女に向けた。

「どうやって此処まで登ってきた…?子供の捜索ごっこにしては度が過ぎる…」

「失礼ですね。遊びなんかじゃありませんよ」

ステインは少女を見る。

黒髪に癖のある長髪、シャツにスーツ、履いているストッキング、少女の身に纏う全てが黒で統一されていた。

確かに、少女には遊びをしているような雰囲気はない。

「よければ、話しをする時間を頂けますか?」

少女は人懐っこい笑みで犯罪者に笑顔を向ける。









………………………………

A組は各事務所への出発点となる駅に集合していた。

全員が自分のデザインしたヒーロースーツを持ち、夢であるヒーロー活動を体験できることに胸を踊らせる。

そして、クラスメイト達は嬉しそうに其々の事務所へと向かうために早々に別れの挨拶をすると、足早に自分が使う通行手段の場所へと向かっていく。

「デクちゃん」

「ん?どうしたの、麗日さん」

「…飯田君のことなんやけど……」

出久は戸惑い気味に話しかけてきた麗日の視線の先を見る。

「…やっぱり、心配だよね」

出久は麗日の心中を察し、一緒に行こうと手で示しすと、麗日は頷く。

「飯田君」

声をかけてはみたが…出久は分かっていた。

「━いつでも電話してよ。話くらいなら聞けるから」

「ああ…。ありがとう」

彼はいつもの笑顔で言葉を紡いだだけ…それは出久が常にしているような、声かけに対する反応。

これ以上飯田に何を言っても無駄なのだと、出久でなくとも隣にいる麗日にもその事が分かった。



麗日と別れた出久は駅のホームに立つ。

ステインは今、保須市でヒーローの情報を集めているところか、雲隠れしている。…敵連合の主旨は僕なりに伝えたけど、弔君と全く一緒というわけでは無いし、話が噛み合わなくなって交渉不成立なんてのは想像に難くない。

加えてステインの活動拠点としている保須には飯田君がいる。ステインはヒーローを名乗るに価しないプロを粛清対象としているから基本的には問題はない

「けど、運が悪ければ…」

それが身内の復讐であったとしても彼は殺すだろう。

躊躇えば命取りになると知っているから。

むしろ躊躇うような人物なら、先生は数ある敵の中でステインを選ぶ事はなかった。

「二度と会えないかもね。飯田君」

走行音に紛れ出久の不吉な呟きはかき消された。

信念の為に彼は粛清をするのだ。たとえ恨みを買ったとしても、復讐が連鎖するなんて事は彼自身が一番よく知っている。

僕も恨まれ、殺される覚悟は出来ている。それこそステインに劣らない数のヒーロー達を屠ってきたのだ。

だけど…彼と違って、殺される事(それ)を許してくれない人が僕には一人だけいるんだよね。

電車の自動ドアが開き、出久は電車に乗る。

「まぁ…君が望むなら、僕は君の望みに従うだけだけどさ」
















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