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#俺だけレベルアップな件
猫道
645
薙
5
猫道
212
意識が覚醒したとき、スバルは闇の中にいた
そっと閉じた瞼を押し開く――と、眩い日差しが瞳を焼く痛みに、スバルは小さく呻いて掌でひさしを作った
「兄ちゃん、リンガは?」
聞き慣れた声色が、目の前でスバルにそう問いかけてきている
耳は正常、大通りの喧騒は相変わらずうるさいほどで、あの路地裏の残酷なほどの静寂とはかけ離れていた
距離にしてみれば通りを一本、横に折れただけの違いでしかないのに
スバルは改めてそのスカーフェイスに向き直り、
「俺の顔を見るのって、何回目?」
「何回もなにも新顔だろ、兄ちゃん。その目立つ格好なら忘れないぜ?」
「今日って何月何日でしたっけ?」
「タンムズの月、十四日目だ」
「ありがとう。なるほど、タンムズの月か」
聞いてもわからない
そもそもこの異世界で、暦はどんな感じで記録されているものなのだろうか
「で、兄ちゃん、リンガは?」
「悪いけど、天壌無窮の一文無し!」
「とっとと失せろ――!」
思わずのけ反るほどの怒声を浴びせられ、ほうほうの体でスバルは逃げる
もうしばらくはあの店には寄れないな、と思いながら
「財布、ある。ケータイ、ある。コンポタとカップ麺も無問題。ジャージとスニーカーに綻びなし。そして当然……」
腰のあたりと背中の真ん中、そのどちらにも傷跡は見当たらず、非常事態も起こっていなかった
「ふぅ、よかったぜ」
『背中の傷は剣士の恥だもんね、一応剣道部所属の昴の恥にならないでよかったね』
「所属だった、だろ?」
「つまりこれはアレだな、信じ難い話だけど……」
『昴は、死に戻りしている』
その澪の言葉を受けて、スバルは確信する
「死ぬたびに初期状態に戻ってる、ってことだな」
「一応聞くけど、澪はいつから気付いてたんだ?」
『最初から、かな』
「そーか」
「死に戻りか……なんつーか、まさに『負けて死ね』って能力だな」
「もっとまともに言うと……『時間遡行』ってやつになんのか、これ」
『漫画とかで出てくる、都合のいいタイムトラベルではないんだけどね』
一度目の死は、つまるところサテラと二人で盗品蔵に入ったときのことだ
むざむざサテラを巻き添えにしてしまった言い訳無用の最悪の展開
そして二度目の死は、ロム爺とフェルトが殺され、その後の抵抗もむなしくエルザに惨殺されたときだろう
三度目の死はまさについさっき、ほんの十数分前に体感したばかり
「っていうか、俺はほんの半日程度の間に三回も死んだってことか……」
『そうなるね』
「一回目と二回目の因果関係からすると……俺はたぶん二回、エルザにやられてるな」
『たぶん、というか私が見てたから絶対ね』
ここで、スバルはふと浮かんだ疑問を問いかける
「そういやなんで、お前は覚えてる?」
『私にもわからないよ』
『ただ、私が何も出来ずに昴が死んでいくというのが分かるっていうのは、辛いことだね』
「…悪い」
『昴が謝る必要はないの!』
『さ、この後のことを考えないと』
『エルザは出会ったら死亡確定の地雷キャラってことで』
彼女と遭遇する可能性があるのは、端的に言って『盗品蔵』のみだ
そしてそこに赴く理由は『彼女に助けられた恩を返す』という理由に則する
しかし、『死に戻り』によってその恩義は時間の彼方へ消え去っているのだ。
ならば徽章のことなど綺麗さっぱり忘れ去って、あの脅威を回避すべきだ
「幸い、ケータイが金になることはわかってるしな」
「まぁ、何をガブリとやるのかってのはまだノープランだけど」
『大丈夫、私が一緒にプランを考える!』
とんでもない方向音痴である澪だが、人生の迷子にはなったことがない
つまるところ、基本的に最善を選べ続けられるのが澪の才能のひとつだろつ
「そうなりゃ話は簡単だ。とっとと行動しないと日が暮れちまう」
『だね』
『そうだ、昴』
『このあと私たちは、携帯を売って稼いだお金で宿などに泊まりつつ、仕事を探すスタンスで動きます』
『本当にそれでいいか、確認しておくね』
『昴は優しすぎるから、見知った人間が死ぬのを知っていて逃げた後に、後悔が残らないからを私は心配します』
「澪…」
「そうだよ、嫌なんだよ。気持ち悪ぃんだ。善人とは程遠いよ、二人とも。――でも、いっぺん知り合った奴らが殺されるって知ってて、見過ごすのは無理だよな」
『だろうね、昴はそう言うと思った』
「それにやっぱサテラ……ってか、あの子も見捨てられねぇし」
『そうだね、恩人だもんね』
「今度は名前くらい、ちゃーんと教えてもらえるように頑張りますか」
しばし人込みをかき分け、二百メートルほど走ったろうか
「さて……」
「偽サテラって、どこに行ったら会えっかな」
『今までは完全なる偶然だったからね…』
「適当にうろついて、商い通りを探し回ってみるか……美少女レーダーに期待して」
『変なセンサー』
なんとなく感じるものがあったような気がして、しばし誘われるままに行軍を続行
――どうもいつの間にか、通りから外れて細い路地に入っているらしい。
「ここって、最初に偽サテラとかと会った場所か……?」
『あ、御決まりの三人衆来たよ』
「もういい加減、見飽きたぜ、トン・チン・カン」
「さっきっからブツブツと、何を言ってんだ、あいつ」
「状況がわかってないんだろ。教えてやったらいいんじゃないか?」
『テンプレだよこの会話』
『さて昴、時間も荷物も無駄にせず突破する方法がありまーす!』
『前回、三人衆が最後に恐れていたもの』
『衛兵を呼ぼう!!』
そうだな!!
「衛兵さーーーーーーーーん!!!」
予備動作なしの救命信号に、虚を突かれたトンチンカンが思わず飛び上がる
「誰かーーーー!男の人呼んでーーーーーーーー!!!」
『おー、流石趣味女装の昴、物凄く女っぽい声』
褒めてんのか貶してんのかわかんねえ!褒めてるんだろうけど!
『もちろん褒めてます!』
「てめ……っ。ふざけんなよ!?ここで普通、いきなり大声出すか!?」
「やっぱ、失敗か……」
『いいや、来るよお、えげつないのが』
『なんかもうヤバいくらいにエグいのが来るよ、ひしひしと感じて怖い』
澪のその強い奴センサーってすごいよな…多分
『伊達に剣道日本大会出てたわけじゃないからね』
『ほら、来た』
『エグいのが』
「――そこまでだ」
その声は唐突に、しかし明確に、路地裏のひりつくような緊迫感を切り裂いた
スバルやトンチンカンが振り返る――その先、ひとりの青年が立っている
まず何よりも目を惹くのは、燃え上がる炎のように赤い頭髪
そして、尋常でない威圧感を放つ騎士剣を下げている
「たとえどんな事情があろうと、それ以上、彼への狼藉は認めない。そこまでだ」
言いながら、青年は悠々とトンチンカンの隣を抜けて、彼らとスバルの間に割って入る
『あ、これ戦ったら死ぬ…』
それか、近くに来た彼への澪の感想だ
出来ることなら戦いたくない、昴が望むならなんとかするが
それが澪の判断である
そしてそれを裏付けるかのように、紫色になりつつある唇を震わせてチンが青年を指差した
「燃える赤髪に空色の瞳……それと、鞘に竜爪の刻まれた騎士剣」
「ラインハルト……『剣聖』ラインハルトか!?」
「自己紹介の必要はなさそうだ。……もっとも、その二つ名は僕にはまだ重すぎる」
『なるほどね、“剣聖”か…なんともエグい強さだと思ったら、世界最高峰の強さか』
「逃げるのならこの場は見逃す。しかし強硬手段に出るというのなら、相手になる」
「その場合は三対二だ。数の上ではそちらが有利。僕の微力がどれほど彼の救いになるかはわからないが、騎士として抗わせてもらう」
「じょ、冗談っ!わりに合わねーよ!」
トンチンカンは慌てふためき、獲物を隠す配慮すら忘れて蜘蛛の子を散らすように大通りへと逃げ去っていく
「お互い無事でよかった。ケガはないかい?」
男たちが完全に消えたのを見計らって、青年が微笑を浮かべて振り返った
途端、路地裏を席巻していた威圧感が消失
『さっきのを意識的に…本当にエグいバケモンだな、このラインハルトくんは』
「あんだけのことしてこの爽やかさ……イケメンってレベルじゃねぇぞ」
『ツッコむとこ絶対そこじゃないよ、昴!!』
「このたびは命を救っていただき、心からお礼申し上げる。このナツキ・スバル、その御心の清廉さに感服いたしますれば……」
「そんなに堅く考えなくても構わないよ。向こうも三対二になって、優位性を確保できなくなってのことだ。僕がひとりならこうはいかなかった」
「いや、あのビビりようからしたら三対一どころか十対一でも逃げてそうだったけど…」
『私なら100人いても逃げる判断するよ、多少武の道を進んだ人間ならそうすると思う』
本当に凄い強さなんだな!?
「えーっと、ラインハルトさん……でいいんスか?」
「呼び捨てで構わないよ、スバル」
「さらっと距離縮めてくるな……えっと、改めてありがとう、ラインハルト。俺の叫びを聞きつけてくれたのはお前だけだぜ」
「あまり言いたくはないけど、多くの人にとって、連中のような輩と反目するのはリスクが大きい。その点、衛兵を呼んだ君の判断は正しかったよ」
「その言い方だと、ラインハルトって衛兵なの?」
「まあ、今日は非番だけどね」
「『剣聖』とか呼ばれてた気がするが……」
「家が少しだけ特殊でね。かけられた期待の重さに潰れそうな日々だよ」
『なるほどね…見たところ、英雄にしかなれない英雄と見た』
こう本質をすぐ射抜く辺り、澪は最早預言者なのではないかとも思うほどの分析力がある
彼はスバルをジッと見下ろし、
「珍しい髪と服装、それに名前だと思ったけど……スバルはどこから?王都ルグニカにはどんな理由できたんだい?」
「どこからかって言われると答えづらいんだよな。東の小国って設定はダメ出し食らったから……も、もっと東とかってのはどうだ」
「ルグニカより東……まさか、大瀑布の向こうって冗談かい?」
「大瀑布?」
「誤魔化してるってわけでもなさそうだけど、そこはいいか。とにかく、王都の人間じゃないのは確かみたいだけど、何か理由があってきたんだろう?今のルグニカは平時よりややこしい状態にある。僕でよければ手伝うけど」
「いやいや、休日なんだろ?それ返上してまで俺の手伝いなんてすることねぇよ。さっきので十分……だけど、ついでに聞きたいことはある」
「なんでも聞いて」
「世情には疎い方だから答えられるかはわからないけどね」
「ふたつあるんだが、ひとつめは、俺は精霊と契約しているらしい」
『あ、私のことだ』
「お前ってそうゆうのに詳しかったりしないか?」
「…確かに、スバルは契約しているようだ」
「それも、精霊のような存在と」
「のようなってことは、精霊じゃないのか?」
「そこまではわからないが、かなりの強さを持っていると思う」
「なるほどな、ありがとう」
「あとは、このあたりで白いローブ着た銀髪の女の子って見てない?」
「白いローブに、銀髪……」
「心当たりとかってない?」
「……その子を見つけて、どうするんだい?」
「落し物、この場合は探し物か?それを届けてあげたいだけだよ」
スバルの答えにラインハルトはその空色の瞳を細め、しばし黙考してから、
「ううん、すまない。ちょっと心当たりはないな。もしよければ探すのを手伝うけど」
「そこまで面倒はかけられねぇよ。大丈夫、あとはどうとでも探すさ」
「問題はフェルトのはしっこさをどう捕まえるかだな……こう、反復横とび的な動きで道を塞いで、ゾーンディフェンス」
「珍しい動きだね。どんな意味があるんだい?」
「相手にプレッシャーをかけつつ、ボールを奪うためのディフェンスアクションだよ。」
「ともあれ、何はなくとも商い通りだな、まずは」
「行くのかい?」
「ああ、行く。ラインハルトには世話になった。この礼はいずれ。……衛兵の詰所とか行けば会えるのかな?」
「そうだね、名前を出してもらえればわかると思う。もしくは今日みたいな非番の日は、王都をうろうろしてるから」
「わざわざ男を探して町をうろつき回る趣味はねぇなぁ……乙女ゲーじゃあるまいし」
軽口で応じてシュタッと手を掲げると、ラインハルトは「気をつけて」と最後まで爽やかに見送りの言葉を向けてきた
その言葉に背中を押されるように、スバルは無傷の損害ゼロで路地裏からの脱出を果たしたのだった
――その背中を青い双眸が、値踏みするように見ていることには気付かずに
コメント
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みぅだよ🤍🥀 第8話読了! スバルが「死に戻り」を確信する回、くるものがあったよ…「これって負けて♡♡♡能力だな」って言うスバルの苦笑いと、澪が全部覚えてるっていう切なさ。澪はずっと一緒にいてくれてるんだって思ったら胸がじんわりした。 ラインハルト登場シーンの「エグいのが来るよ」からの爽やかイケメン騎士が最高にカッコよかった!でもその背中を値踏みするように見つめてる描写、あれ絶対ただ者じゃない…次が気になる! スバルが「見知った人間が死ぬのを知ってて逃げるのは無理」って言ったところ、好きだな。そこがスバルだよね。