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夜、自室の机に広げた教科書に、ほとんど文字は頭に入らなかった。
――駅前で会った悠真さん。
スーツ姿で、ファイルを持って立っていた姿。
ほんの数分の会話なのに、何度も何度も思い出してしまう。
「……大人っぽかったな」
小さくつぶやくと、胸がじんわり熱くなる。
同じ町を歩いているのに、違う世界にいるみたい。
“ただの兄友”だとわかっているのに、心だけが勝手に近づこうとしてしまう。
ノートの上に落ちたペン先が震えて、インクのしみが広がった。
――どうして、こんなに。
初めて知るこの感情に、咲はそっと唇をかんだ。