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🎧短編「もういいだろ」
夜。
部屋。
ドアが閉まる音。
打ち上げ帰り。
靴を脱ぐ。
そのまま、無言でリビングへ。
いつも通り。
……のはずなのに。
少しだけ、違う。
さっきの会話。
「触られたくなかっただけ」
あれが、まだ残ってる。
ソファに座る。
隣。
距離は、いつもと同じ。
でも。
(……めんどくせえ)
考えるのをやめる。
ふっと、息を吐く。
琉夏「……なあ」
冬星「なに」
少しだけ間。
琉夏「もういいだろ」
曖昧な言葉。
でも。
通じる。
冬星が、少しだけこっちを見る。
冬星「なにが」
分かってるくせに聞く。
琉夏「全部」
短く言う。
一瞬、沈黙。
それから。
冬星が、少しだけ息を吐く。
冬星「……そう」
それだけ。
否定しない。
その瞬間。
距離が、変わる。
琉夏が、少しだけ体を寄せる。
肩が当たる。
今までより、はっきり。
でも。
もう、気にしない。
冬星も、避けない。
むしろ。
ほんの少しだけ、寄せ返す。
距離、ゼロ。
(……は)
自分で思う。
でも。
もういい。
そのまま、動かない。
沈黙。
でも。
居心地は、悪くない。
むしろ。
今までで一番、楽。
琉夏「……寒い」
ぽつりと言う。
嘘。
でも。
言い訳。
そのまま、少しだけ体を預ける。
完全に、寄りかかる。
前より、深く。
冬星は、少しだけ動く。
一瞬。
(離れるか)
そう思う。
でも。
違う。
腕が、軽く回る。
(……は??)
完全に、予想外。
でも。
拒否しない。
むしろ。
自然に収まる。
体温が近い。
呼吸が、近い。
何も言わない。
でも。
分かる。
これ、もう戻れない。
しばらくして。
冬星「……重い」
ぽつり。
琉夏「うるせえ」
即返す。
でも。
どかない。
むしろ。
少しだけ、体重を預ける。
冬星「増えた」
琉夏「気のせい」
短いやり取り。
そのまま。
離れない。
時間が、ゆっくり過ぎる。
テレビの音。
外の車の音。
全部、遠い。
近いのは。
隣の体温だけ。
琉夏「……なあ」
冬星「なに」
少しだけ間。
琉夏「これ」
言いかけて、止まる。
“なんなんだろうな”
でも。
もういい。
琉夏「……楽だな」
それだけ言う。
冬星が、少しだけ目を細める。
冬星「うん」
短く返す。
それで、十分。
名前はいらない。
説明もいらない。
ただ。
この距離で。
このまま。
続いていけばいい。
腕は、まだ離れない。