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🎧短編「隠してるつもり」
昼。
カフェ。
対バンのメンバーと軽く集まってる。
テーブルを囲んで、何気ない会話。
その中で。
いつも通り、隣に座る。
距離も、いつも通り。
……のつもり。
「でさ、この前のライブさ〜」
誰かが話し始める。
笑い声。
普通の空気。
そのとき。
琉夏「それ違う」
ぽつりと口を挟む。
冬星が持ってるスマホを見る。
画面に映ってる曲のデータ。
冬星「どこ」
琉夏「ここ」
自然に、手を伸ばす。
そのまま。
指を、重ねる。
画面をなぞるつもりで。
でも。
完全に、触れてる。
(……あ)
一瞬。
でも。
どっちも、引かない。
普通に、そのまま。
話を続ける。
「え、それどういうこと?」
周りも会話に入る。
でも。
一瞬だけ。
空気が、止まる。
(……今の見た?)
みたいな視線。
気づいてないのは、当人だけ。
しばらくして。
ドリンクが運ばれてくる。
琉夏「それ俺の」
適当に取る。
冬星「違う」
即否定。
でも。
すでに一口飲んでる。
一瞬。
(あ)
でも。
琉夏「……いいわ」
そのまま、もう一口。
普通に飲む。
(いやいやいや)
向かいのメンバーが、明らかに顔を見合わせる。
(間接とかいうレベルじゃないだろ)
さらに。
話してる途中。
ふと。
冬星「それ」
琉夏の口元を指す。
琉夏「なに」
冬星「ついてる」
そのまま。
指で、軽く拭う。
(は?????)
テーブル、完全に静まる。
本人たちだけ、普通。
琉夏「……サンキュ」
それだけ。
数秒。
誰も喋らない。
それから。
「……あのさ」
対バンのボーカルが、口を開く。
「隠す気ある?」
直球。
琉夏「は?」
冬星「なにが」
本気で分かってない顔。
「いやもうさ」
笑いながら。
「付き合ってないって無理あるって」
琉夏「だから違うって」
少しだけムッとする。
でも。
説得力、ゼロ。
「じゃあ今の何?」
一瞬。
二人とも、止まる。
“今の”
どれのことか、分からない。
全部、普通だから。
少しだけ、視線が合う。
(……あー)
その顔。
やっと、分かる。
(やってたか)
でも。
今さら引く理由もない。
琉夏「……別に」
短く言う。
それだけ。
冬星も、何も言わない。
でも。
少しだけ、距離が近いまま。
変えない。
「……もういいや」
対バンのボーカルが笑う。
「そういうことでしょ」
否定も、肯定もしない。
でも。
それで、十分伝わる。
カフェを出る。
外の空気。
少しだけ静か。
並んで歩く。
いつも通り。
でも。
少しだけ。
琉夏「……やってたか?」
ぽつりと聞く。
冬星「やってた」
即答。
一瞬。
それから。
少しだけ笑う。
琉夏「……まあいいか」
開き直る。
冬星「いい」
短く返す。
そのまま。
自然に、肩が触れる。
もう、隠さない。
隠す意味もない。
名前は、まだない。
でも。
見れば分かる関係。
それでいい。