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:(´◦ω◦`):プルプル
青side
今日はエイプリルフール、
特にすることもなかった僕らは、いつものように僕の家に集まると、適当にビールを飲み始めた
今日はエイプリルフールだったので、退屈な僕らはひとつのゲームを思い付いた
嘘をつきながら喋る
そしてそれを皆で聞いて酒の肴にする
くだらないゲームだ
だけど、そのくだらなさが良かった
トップバッターは僕で、
「この夏ナンパした女が妊娠して、実は今、一児の父なんだ」
という話をした。
初めて知ったのだが、嘘をついてみろ、と言われた場合、
人は100%の嘘をつくことはできない。
僕の場合、妊娠はしてないけど、夏にナンパしたのはほんとだ
誰がどんな嘘をついているかは、なかなか見抜けない。けど、見抜けないからこそ楽しい。
そうやって順繰りに嘘は進み、最後の黄にバトンが回った。
そいつはちびりとビールを舐めると、申し訳なさそうにこう言った。
「僕はみんなみたいに器用に嘘はつけないから、ひとつ作り話をしますね」
「なんだよそれ笑、嘘つけるだろw」
「まぁ聞いてくださいよ、退屈はさせないので」
そう言って姿勢を正した彼は、では、と呟いて話を始めた。
僕は朝起きて気付くと、何もない白い部屋にいました。
どうしてそこにいるのか、どうやってそこまで来たのかは全く覚えていません。
ただ、目を覚ましてみたら僕はそこにいました。
しばらく呆然としながら、状況を把握できないままでいたんだけど、
急に天井のあたりから声が響いたんですよね
古いスピーカーだと思うんですけどノイズがかった変な声でしたね。
で、こう言ってました
『これから進む道は、人生の道であり、人間の業を歩む道。
選択と苦悶と決断のみを与える。
歩く道は多くしてひとつ、決して矛盾を歩むことなく』
で、そこで初めて気付いたんですけど、僕の背中の側にはドアがありました。
横に赤いべったりした文字で、『進め』って書いてあったんです
『3つ与えます。
ひとつ。右手のテレビを壊すこと。
ふたつ。左手の人を殺すこと。
みっつ。あなたが死ぬこと。
ひとつめを選べば、出口に近付きます。
あなたと左手の人は開放され、その代わり彼らは死にます。
ふたつめを選べば、出口に近付きます。
その代わり左手の人の道は終わりです。
みっつめを選べば、左手の人は開放され、おめでとう、
あなたの道は終わりです』
もうめちゃくちゃですよ
どれを選んでもあまりに救いがない、
馬鹿らしい話です
でもその状況を、馬鹿らしいなんて思うことはできませんでした
それどころか、僕は恐怖でガタガタと震えた、
それくらいあそこの雰囲気は異様で、有無を言わせないものがあったんです
そして僕は考えました
どこかの見知らぬ多数の命か、すぐそばの見知らぬ一つの命か、
一番近くのよく知る命か。
進まなければ確実に死ぬ。
それは『みっつめ』の選択になるんだろうけど、
嫌だった
何も分からないまま死にたくはない、
一つの命か多くの命か?そんなものは比べるまでもない
僕が寝ていた寝袋の脇には、大振りの鉈がありました
僕は静かに鉈を手に取ると、ゆっくり振り上げ
動かない芋虫のような寝袋に向かって、鉈を振り下ろしました
ぐちゃ。
鈍い音が、感覚が、伝わってくる
次のドアが開いた気配はない
もう一度鉈を振るった。
ぐちゃ。
顔の見えない匿名性が、罪悪感を麻痺させる。
もう一度鉈を振り上げたところで、かちゃり、と音がしてドアが開来ました。
右手のテレビの画面からは、色のない瞳をした餓鬼が、
ぎょろりとした眼でこちらを覗き返していました
あれは怖かったです…、
次の部屋に入ると、右手には客船の模型、左手には同じように寝袋があった。
床にはやはり紙がおちてて、そこにはこうあった。
『3つ与えます。
ひとつ。右手の客船を壊すこと。
ふたつ。左手の寝袋を燃やすこと。
みっつ。あなたが死ぬこと。
ひとつめを選べば、出口に近付きます。
あなたと左手の人は開放され、その代わり客船の乗客は死にます。
ふたつめを選べば、出口に近付きます。
その代わり左手の人の道は終わりです。
みっつめを選べば、左手の人は開放され、おめでとう、
あなたの道は終わりです』
客船はただの模型だった
普通に考えれば、これを壊したら人が死ぬなんてあり得ない
けどその時、その紙に書いてあることは絶対に本当なんだと思いました
理由なんてない
ただそう思ったんです
僕は寝袋の脇にあった灯油を空になるまでふりかけて、
用意されてあったマッチを擦って灯油へ放った
ぼっ、という音がして、寝袋はたちまち炎に包まれてました
僕は客船の前に立ち、模型をぼうっと眺めながら、鍵が開くのを待った。
2分くらい経った時だと思います
もう時間感覚なんかはなかったけど、人の死ぬ時間ですからからね
たぶん2分くらいでしょう
かちゃ、という音がして、次のドアが開いた。
左手の方がどうなっているのか、確認はしなかったし、したくなかった
次の部屋に入ると、今度は右手に地球儀があり、左手にはまた寝袋があった。
僕は足早に紙切れを拾うと、そこにはこうあった。
『3つ与えます。
ひとつ。右手の地球儀を壊すこと。
ふたつ。左手の寝袋を撃ち抜くこと。
みっつ。あなたが死ぬこと。
ひとつめを選べば、出口に近付きます。
あなたと左手の人は開放され、その代わり世界のどこかに核が落ちます。
ふたつめを選べば、出口に近付きます。
その代わり左手の人の道は終わりです。
みっつめを選べば、左手の人は開放され、おめでとう、
あなたの道は終わりです』
思考や感情は、もはや完全に麻痺していた。
僕は半ば機械的に、寝袋脇の拳銃を拾い撃鉄を起こすと、
すぐさま人差し指に力を込めた。
ぱん、と乾いた音がした
ぱん、ぱん、ぱん、ぱん、ぱん。
リボルバー式の拳銃は、6発で空になった。
初めて扱った拳銃は、コンビニで買い物をするよりも手軽でしたよ
ドアに向かうと、鍵は既に開いていた
何発目で寝袋が死んだのかは知りたくもなかったです
最後の部屋は何もない部屋
思わず僕は「えっ」と声を洩らしたけど、
ここは出口なのかもしれないと思うと少し安堵してました
やっと出られる
そう思って
すると、再び頭の上から声が聞こえた
『最後の問い。
3人の人間とそれを除いた全世界の人間。そして、君。
殺すとしたら、何を選ぶ』
僕は何も考えることなく、黙って今来た道を指差した。
するとまた、頭の上から声がした。
『おめでとう。
君は矛盾なく道を選ぶことができた。
人生とは選択の連続であり、匿名の幸福の裏には匿名の不幸があり、
匿名の生のために匿名の死がある。
ひとつの命は地球よりも重くない。
君はそれを証明した。
しかし、それは決して、命の重さを否定することではない。
最後に、ひとつひとつの命がどれだけ重いのかを感じてもらう。
出口は開いた。
おめでとう。
おめでとう』
僕はぼーっとその声を聞いて、安心したような、虚脱したような感じを受けていた
とにかく全身から一気に力が抜けて、フラフラになりながら最後のドアを開けた
光の降り注ぐ眩しい部屋、目がくらみながら進むと、足にコツンと何かが当たった。
三つの遺影があった。
父さんと、母さんと、弟の遺影が。
これで、おしまいです、」
彼の話が終わった時、僕らは唾も飲み込めないくらい緊張していた。
こいつのこの話は何なんだ
得も言われぬ迫力は何?
そこにいる誰もが、ぬらりとした気味の悪い感覚に囚われたと思う
僕は、ビールをグっと飲み干すと、勢いをつけてこう言った。
「……んな気味の悪い話はやめてろって!楽しく嘘の話をしよ〜!
ほら、黄くんもやっぱり何か嘘ついてみなよ!」
そういうと彼は、口角を釣り上げただけの不気味な笑みを見せた。
その表情に、体の底から身震いするような恐怖を覚えた
そして、口を開いた
「もう、ついきましたよ」
「え?」
「・・・『ひとつ、作り話をしますね』ってね」
解説
黄くんがついた嘘は、
オチにあるように『ひとつ、作り話をしますね』
が嘘である。
つまり、ここまで語っていたことは、
実際に起こった不思議な体験である。
とはいえ、『嘘をついて』と言われたら
正直どれが本当でどれが嘘か見抜くのは
かなり大変
内容的に『僕』もおかしな話だと思っているはず。
しかし、『何も言われぬ迫力』と言っている。
それは実際に体験しているからこその迫力と言えるだろう。