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りうらの唇が離れると、細い糸のように熱が繋がったまま残る。
俺は息を整えることもできず、ただ彼の瞳に吸い込まれていった。
「…ないくん、今さら逃げようとか思わないよね?」
りうらは微笑む。けれどその笑みは、慈しみと同時に鋭い檻のような冷たさを孕んでいた。
『逃げないよ。』
「よかった。もしそんなこと考えたら、俺、壊れちゃうから」
そう囁く声は冗談めいているのに、心の奥を凍らせるほどの真実味を帯びていた。
俺の指先を掴んだりうらは、そのまま自分の胸に押し当てる。
「触って。ほら、わかるでしょ?ずっとないくんを想って暴れてる」
鼓動は、俺のものよりずっと強く、熱く、必死に訴えかけていた。
「ねぇ、ないくん。俺がいないとダメだって、ちゃんと体に刻んであげる 」
その言葉に抗う理性は、もうどこにも残っていなかった。
その時
玄関の扉が開く音がした。
カチャリ、と鍵の外れる乾いた音。 心臓が一瞬だけ強く跳ねる。
「ないこ、ただいま」
低く落ち着いた声。
Iが、帰ってきた。
けれど俺は振り返ることさえできなかった。
腕の中でりうらの視線に縫い留められ、逃げられない。
「…もう遅いよ」りうらが囁く。
その言葉通り、俺の瞳は彼に捕らえられたまま離れない。
立ったまろの表情が凍りついていくのを、かすかに視界の端で感じた。
驚愕と、裏切られた痛み。
だけど俺は…何も言えなかった。
ただ、りうらの胸に頬を寄せ、彼の熱を確かめるように身を委ねてしまう。
その瞬間、自分がもう戻れないことを、はっきりと思い知らされた。
「…ないこ」
まろの声が震えていた。怒りでも悲しみでもなく、ただ信じられないものを前にしたような響き。
俺は振り返ろうとした。でも、肩を抱くりうらの腕がそれを許さない。
「動かなくていいよ」耳元で囁かれ、背筋が粟立つ。
「お前…何やってるんや」
まろの靴音が、ゆっくりと部屋に踏み込んでくる。
その目が俺をまっすぐ射抜くけれど、俺は⸺返せなかった。
『ごめんっ…』
掠れた声でそれだけ。
それ以上は何も言えない。言葉にすれば全てが壊れてしまう気がして。
「違う。謝るのは…俺にじゃないだろ」
まろの目が一瞬、りうらへと向けられる。
だがりうらは余裕の笑みを浮かべたまま、俺をさらに強く抱き寄せた。
「気づいてなかったんだ?ずっとないくんのこと、欲しくて仕方なかったんだよ」
まろに挑むような声。
その挑発にまろの拳が震えるのを、俺は横目に見た。
「ないこ、戻ってこいよ」
まろの必死な声が、胸を締めつける。
けれど、俺の身体は動かない。もう、動けない。
『…俺は、りうらが…っ。』
小さな声で口にしたその瞬間、まろの表情が音を立てて崩れた。
絶望の色に塗り潰され、立ち尽くす姿を見ながら⸺
俺はただ、りうらの腕の中で目を閉じた。
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