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ここ最近ホントに心に余裕がなかったので、長時間没頭できて癒やされました… そして、これがプロローグと…!!これからが楽しみすぎる🥳🥳
うぅぅぅぅ、、、泣、、、うわぁぁぁ、、、泣大好き、、、泣 なにこのクオリティーpi◯ivでしか見たことない、、、神だぁ、、、神様が居るぅ、、、類君受け界の神様が居るぅ、、、泣
悪魔とか性癖すぎてヤバい🥹 3日も掛けて書いたなんて凄すぎる…お疲れ様です‼️
この話には暴力表現、性的な表現が含まれます。
(主に類が被害に遭ってます)
冬類、司類表現、微冬彰表現が含まれます。
何でも大丈夫な方のみ閲覧して下さい。
_追記_
この話の文字数は約19000文字です。
暇な時に読むのをオススメします。
森に囲まれ、外部との接触がほとんど絶たれた小さな村があった。
村人が森から出ることは、ほとんど無い。
何故なら、森には魔物が住んでいるから。
「遠路はるばる、ありがとうございます。」
そう言って少し不気味に微笑んだ男は、この村唯一の教会の神父だ。
名を…たしか、トウヤとか言ってたか?
「はぁ…で、ここに悪魔がいるって?」
余計な挨拶とかは手間なので嫌いだ。
俺が早速本題を切り出すと、神父は「まぁまぁ、お座り下さい。」と椅子に座るように促してきた。
仕方なく椅子に座ると、神父がコトっと机にカップを置いた。
どうやら、中身は紅茶のようだ。茶葉の良い香りがする。
「紅茶はお嫌いですか?」
俺が中々カップに手を伸ばさないので、神父はそう聞いてきた。
「ああ、いえ。そんな事ないです。いただきます。」
俺は一つ、匂いを嗅いでからカップに口をつけた。
そんな俺の様子を見て、神父はクスクスと笑い出した。
「心配せずとも、毒などは入っていませんよ。」
そう言って目を細め、こちらを見つめる瞳は何とも不気味だ。
(さっさと仕事終わらせて帰ろ…)
人は、俺をエクソシストと呼ぶ。
エクソシストとは、悪魔にとりつかれた人から、悪魔を追い出して正常な状態に戻すことだ。
俺は一つの場所に拠点を構えるのではなく、こうして色んな国を巡っていわゆる悪魔祓いをしている。
この村に立ち寄ったのも、この神父に依頼されたからだ。
「アキトさんにご依頼したのは、もちろん悪魔祓いの事です。」
神父は一呼吸置いて、口を開いた。
「実は、この村に魔物が潜んでいるかもしれないんです。」
神父は神妙な面持ちをしている。こちらの反応を少し窺ってるようにも見えた。
「はぁ…なるほど。たしかに、何か嫌な気配はしますね。ここに来てからずっと。」
俺は思ったことを素直に答え、少し辺りを見渡した。
この教会には、嫌な気が満ちている。
「流石エクソシスト様。そう、悪魔はきっとこの教会に訪れる人々の中にいるのです。」
そう言うと、神父はわざとらしく胸に手を当てた。
「しかし、私にはこの神聖な教会に訪れる人々を疑い、探るなんて到底出来ません。」
(なんか矛盾してね…?)
と思ったが、なんか面倒くさそうなので言うのをやめた。
「なので、こうしてエクソシスト様にご依頼したんです。報酬は提示した通りに支払います。」
神父の胡散臭い演技のようなものにはうんざりしたが、仕事は仕事だ。
「分かりました。引き受けます。」
俺がそう言い終わると同時に、神父は俺の手を握って立ち上がった。
「ありがとうございます!村への滞在中は、この教会を自由に使っていただいて構いません。布団や食事もこちらで用意させていただきますね。」
あまりの勢いに少し引いたが、布団と食事はありがたい。
俺が神父の手を軽く払うと、神父は我に返ったように手を引っ込めた。
「申し訳ありません。突然手を握るなど…」
「ああ、いや。構いません。」
普通に顔がいいからか、驚きはしたが不快では無かった。
神父の背丈は大体俺より4〜5cmほど高く、細くてスラッとしている。
整った目鼻立ちと目元のほくろが特徴的だ。
俺がまじまじと顔を見ていたせいか、神父が少し視線を逸らした。
「えっと…私、変な顔してましたか?」
「え?!あ、いや。綺麗な顔だなーと思って…」
思ったことをそのまま伝えると、神父は驚いたような、嬉しそうな顔になった。
「そうですか…。」
(あ、今の顔はちょっと人間らしいな。)
不気味なイメージだったが、今の表情でそれが少し払拭された。
昼頃、教会に1人の男がやってきた。
「こんにちは、神父様。おや、そちらの方は…?」
男は中々の長身でスラッとしており、少し中性的な雰囲気を漂わせていた。
こちらも中々整った顔で、切れ長な目尻に引かれた少し色っぽいアイラインが特徴的だ。
「こんにちは、ルイさん。こちらはアキトさん、私の客人です。」
神父と相談して、俺がエクソシストである事は隠す事になった。
「初めまして。アキトです。」
俺がお辞儀すると、ルイと呼ばれた男もお辞儀を返した。
「初めまして、アキトさん。私はルイ、調香師をしております。」
通りで少しいい香りがするわけだ。
そんな俺の思ったことを察したのか、懐から何かを取り出した。
「これ、私の調香した香水です。よろしければどうぞ。」
ニコッと人当たりの良い笑顔を作り、香水を渡された。
特に貰わない理由も無いので、「ありがとうございます。」とこちらも笑顔で対応する。
「ルイさんは今日もお祈りですか?毎日毎日、ご立派ですね。」
神父にそう言われると、男は祭壇の前に跪いた。
「神父様にそう言って頂けて光栄です。神に祈るのは、もう私の生活の一部ですから。」
そう言いながら目を閉じ、両手を組んで熱心に何かを祈っている。
その横顔が何とも不気味な程に美しく見えた。
(この人が来てから、悪魔の気配が濃くなった気がする…)
まだ憶測に過ぎないが、俺は疑う姿勢に入った。
しばらくして、ルイという男は祈りをやめ、立ち上がった。
「もうお帰りになられますか?」
神父の呼び掛けに振り返り、頷いた。
「はい。私はこれから仕事があるので…また明日も来ます。」
そう言って扉へ歩き出した時、何かを思い出したかのように急に立ち止まった。
「ああ、そうそう。明日、神父様にも香水を持ってきますね。そろそろ無くなる頃でしょうから。」
ニコッと目を細め、そのまま立ち去ってしまった。
「ルイさんは、この村だけでなく外部に向けても香水を販売するほど、人気の調香師なんですよ。」
神父が先程の男についての説明を始めた。
「こうして私にも、ご自身で調香された香水を贈って下さるんです。信仰心も厚く、とても真面目でいい方ですよ。」
「へぇ…そうなんですね。」
俺はさっきの男にもらった香水を見た。たしかに、見たことがある瓶だ。
街でも売っていたような気がする。
(悪魔や魔物は人より鼻が効くが…まさかな。)
夜頃になると、もう1人の男がやってきた。
「こんにちは、神父様。」
金色にピンクがかったグラデーションが綺麗な髪の男で、背丈は俺より少し低いくらいだ。
目は大きく、鼻はくっきりと通っていて芯の強そうな印象を持たされる。
男はこちらに気付き、一瞬鋭い視線を向けたが、すぐに笑顔になった。
「知らない人がいるから驚きましたが…神父様の客人ですか?」
男は興味深そうにこちらを見ている。
「はい。私の大切な客人です。」
神父に目配せされ、俺は自己紹介をした。
「初めまして、アキトです。」
俺がそう言い終わると、パッと花が咲いたような笑顔になり、両手を握られた。
「初めまして!神父様の客人だったんですね!」
キラキラとこちらを見る目に耐えきれず、思わず少し身を引く。
「はっ、失礼しました!オレはツカサ、しがない靴屋です。」
無礼をお許し下さい…と、俺に一礼した。
(神父といい、この男といい…距離感近いな…)
村特有の距離感なのだろうか。
流石に急に手を握られるのには慣れない。
「…あ、ツカサさん。香水変えましたか?」
神父が何かに気付いたように声を漏らした。
たしかに、この男からも香水の匂いがする。
「そうなんです!ルイさんが新しく調香してくれて!♡」
男はウキウキと嬉しそうだ。
「いいですね。ツカサさんにとてもよく合う香りだと思います。」
神父はニコッと微笑んだ。
(うわ…やっぱ顔は綺麗だな…)
横目で見てもその綺麗さは明白だ。
「ありがとうございます!神父様にそう言って頂けて嬉しいです!」
男もにぱっと明るい笑顔を見せ、祭壇の前に跪いた。
表情もさっきとは打って変わって真剣で、静かに瞳を閉じて祈り始めた。
しばらくすると立ち上がり、こちらに向かってお辞儀をしてきた。
「では、今日は帰ります!さようなら、神父様。アキトさん。」
「はい、さようなら。」
俺も神父と共に笑顔で男を見送った。
「ツカサさんも、この村で人気の靴屋さんなんです。靴だけでなく、屋根の修理やたまにお菓子なんかも配ってますから、老若男女問わず村の人気者なんですよ。」
神父が先程の男について説明した。
「ルイさんと同じく信仰心が厚く、毎日お祈りに来るんです。とても明るくて優しい方ですよ。」
「へぇ〜。たしかに明るい人でしたね。」
太陽みたいだったな…と漏らすと、神父がクスッと笑みをこぼした。
「ふふ、アキトさんはいい例えをしますね。」
「今日一日、どうでしたか?」
神父に夕食を振る舞われ、テーブルを囲んでいる時だった。
「どうって、悪魔の事ですか?」
俺は分かってて、あえて聞き返した。
「はい、そうです。何か分かったことはありますか?」
神父はナイフとフォークを置いた。
「まぁ、少しだけ。先に言っとくと、今日教会に来た中に確実に悪魔がいます。」
俺はフォークで肉を刺し、口に運んだ。
噛むと肉汁が口いっぱいに広がり、思わず舌鼓を打つ。
神父は先刻の俺の発言が気になっているようで、続きを聞きたそうな顔をした。
俺は肉を飲み込み、水を一口飲んでから口を開いた。
「来た時よりも、悪魔の気配が濃くなってるんです。今日教会に来た調香師、靴屋が怪しいですね。」
「そ、そんな…でも、あの二人は…」
神父は何か言いかけたが、それをぐっと飲み込んだ。
「…いえ、エクソシスト様がそう仰るのならそうなのでしょう。」
神父は自分を落ち着かせるように深呼吸した。
「まぁ、信じられない気持ちも分かります。上級の悪魔は完全に人に擬態して、中々見分けがつきませんから。」
俺がそう言うと、神父は興味を持ったようだ。
「悪魔と人間の見分け方ってあるんですか?」
俺は少し、言うかどうか迷ったが、別に知られて困ることでもないし答えることにした。
「悪魔や魔物は人間より嗅覚、聴覚、味覚が優れているんです。それで見分けられる場合もありますが、それだけでは分からない場合の方が多いです。」
「あと、悪魔や魔物は少し焦げ臭いような匂いがするんですよね。」
俺が言い終わると、神父は感心したように呟いた。
「そんな事も分かるんですか…エクソシスト様は凄いですね。」
「いやいや、これは知る人は知ってる事ですよ。」
久しぶりにこんな豪華な食事をしたものだから、俺は話より食べる方に集中していた。
神父もそれを感じ取ったのか、そこからは特に話しかけてこなかった。
夜、俺は暗い夜道を散歩していた。
なんだか胸騒ぎがしていても経ってもいられなくなった…というのもあるが、どことなく体調が優れない気がしたので気分転換だ。
しばらく適当に歩いてみたが、夜は静かで明かり一つついていない。
気の所為だったか、気にし過ぎだったかと思っていると、前の方に影のようなものが見えた。
どうやら、森の方から出てきたようだ。
(こんな夜に森から……?)
不審に思い、バレないように近付いてみると、月明かりに照らされ、ハッキリと顔が見えた。
それは、昼間見たあの調香師だった。
昼頃、俺は1人で教会にいた。
神父には仕事をするからと言って、出て行ってもらった。
あの神父の言うことが本当なら、今日も来るはずだ。
しばらく待っていると、キィ…と軋む音がして、扉が開いた。
「おや…こんにちは、アキトさん。」
こちらに気付くとにこやかに挨拶をしてきた。
「こんにちは、ルイさん。」
ルイさんはキョロキョロと何かを探すように辺りを見渡した。
俺はその意図を察し、聞かれるより先に答えた。
「神父様は今日用事があって、今はいないんです。」
ルイさんは「ああ。」と納得したように頷いた。
祭壇に向かって跪き、両手を握って祈っている最中、俺は聞くタイミングと聞き方を考えていた。
やがて、祈りが終わりルイさんは俺の方に何かを差し出した。
「これ、昨日言ってた香水です。神父様に渡しておいて下さい。」
「はい。あ、あの…」
俺が声をかけようとすると、「では、用事があるので失礼します。」と早々に出て行ってしまった。
「ま、待ってください!」
俺が追いかけようとすると、さっき受け取った香水に違和感を感じた。
よく見てみると、小さな紙が挟まっている。
何となく直感で自分に宛てたものだと感じ、急いで紙を抜いて見た。
そこには一言、「森奥の小屋」とだけか書かれていた。
走り書きのようでところどころ繋がっている。急いで書いたのだろうか。
とてつもなく嫌な気配を感じ、急いでさっきの調香師を追いかけた。
「う”っ……あ”ぁっ!…ッ」
頭が恐怖と痛みと快楽に支配され、上手く働いてくれない。
痛いのに気持ちいい、気持ちいいのに痛い?
もうよく分からなくなってしまった。
「ごめ…ッ、なさいっ!も、しないから…っ」
と乱暴に髪を掴まれ、引っ張られた。
「う”っ…!」
「全く無意味な事を…謝るのなら、最初からするな。」
と、また腹部に重いものがくる感覚がした。
「ひぅ…ッ」
「む、また達したのか…少しは耐えろと言ってるだろう。辛いのはお前なんだぞ。」
「それより、お前はどういうつもりなんだ…トウヤ。お前のせいで面倒事が増えたじゃないか。」
トウヤと呼ばれた男は、ふぅ。と息を吐いた。
「丁度退屈していた時に見かけたんだ。ただの暇つぶしだ。それに…」
グッと青い悪魔に髪を掴まれ、無理やり顔を上げられた。
「うぅ…ッ」
僕が嫌そうな顔をすると、彼は満足そうに微笑み、パッと手を離した。
されるがままにドサッと頭を落とす。
「コイツに少し希望を与えてやろうと思ったんだ。そっちの方が面白そうだろう?」
「うわぁ…最低…この悪魔め。」
「お前も悪魔だろう…」
そんな悪魔達の会話を聞きながら、僕は必死に意識を保とうとしていた。
もし、彼が気付いてくれたら…そんな淡い期待をしていたんだ。
「もしかして、あの男が助けに来てくれるかもとでも思っているのか?」
僕の心を見透かし、黄色い悪魔は嘲笑った。
「馬鹿だなぁ、ルイは。仮に来たとしても、お前と同じくオレたちの餌食になるだけだぞ。…ああ、そうか!あの男も道連れにしようとでも思ったのか?」
黄色い悪魔は面白そうにケラケラと笑っている。
「ち、ちが…そんな事、思ってない…っ!ぼくは、っ」
「相変わらず、お前は救いようのない人間だな。弱く、惨めで、卑屈。その上、自分を助けてくれようとする人間まで道連れにしようとするとは。」
「ちがう……ぼくは…、そんなこと…ッ」
「う、ぅ”ぅ…ッ…!」
「あ〜あ、泣いちゃったじゃないか。言い過ぎだぞ、トウヤ。」
「このくらいで傷つくようなメンタルなのが悪い。」
目からとめどなく溢れてくる涙を止めることは出来ず、どんどん視界が滲んでいく。
「あぁ、そんなに泣くんじゃない。そんなどうしようもないお前も好きだぞ。」
黄色い悪魔は指で優しく僕の涙を拭った。
「ツ…カサ、くん…ッ」
僕はその黄色い悪魔から逃れようと、思いっきり顔を目掛けて足を出した。
…が、青い悪魔によってそれが阻止された。
全身から血の気が引いていくのを感じた。
「酷いじゃないか、ルイ。顔を蹴ろうとするなんて。」
黄色い悪魔はわざとらしく傷付いたよう表情を作った。
「しかし、まだ抵抗しようとするんだな。本当に愚かだ。」
青い悪魔は面白そうにこちらを見下ろしている。
「あ…あぁ……」
自分のしている事が全くの無意味であることを痛感し、言葉も出ない。
悪魔達は変わらず楽しそうにしている。
「ルイ…このまま、無意味な事を続けて抵抗するより、もう諦めて受け入れてしまった方が楽なのではないか?」
黄色い悪魔の囁きが聞こえる。
「誰も助けになんて来ないし、もしこのまま助けが来たとしても、お前は誰からも必要とされない。俺たちがいなくなったら、お前には何が残る?何も無いだろう。」
青い悪魔が囁く。
頭がくらくらする。本当に、このまま抵抗を続けることに意味はあるのか。
もういっその事全部諦めて、この悪魔達に身を捧げてしまった方が楽なのではないか。
悪魔の言う通り、僕は誰からも必要とされていない。
皮肉なことに、僕を必要としてくれた唯一の存在はこの悪魔達だった。
「ルイ、オレはこのままずっと、一生お前の傍にいるぞ。お前が死んでもな。」
黄色い悪魔はそう囁きながら喉にキスをした。
「ッ…」
ゾクッと全身が一瞬の快楽に震えた。
「誰からも必要とされない、可哀想なお前も俺は必要としてやる。身も心も捧げるならな。」
青い悪魔が右耳を舐め、ガリッと少し強く噛んだ。
「ひ…ッ!い”ッ、あぁ…”」
さっきよりも強い刺激に快感を感じて体が跳ねた。
しんどい、辛い、苦しい、愛されたい、必要とされたい、楽になりたい、死にたい、死にたくない、怖い、許して、助けて、誰か…
その時、部屋の中に一筋の光が差し込んだ。
「!!!」
俺の考えてた最悪の事が的中した。
二人の悪魔はこちらを見て驚いたように静止している。
「神父…に、靴屋の…」
改めて見ると実感が湧かず、無意味に声をこぼした。
そんな俺の様子を見て、青い悪魔がいつかのように微笑んだ。
「これはこれは、エクソシスト様じゃないですか。」
スっと立ち上がり、ゆっくりこちらへ歩いてきた。
「来るな!この悪魔め…。触れたら祓う。」
俺が少し強くそう言うと、悪魔はピタッと立ち止まった。
と、音を立てて、誰も触れていないのに勝手に扉が閉まる。
「ア…キト、さん…?」
力の抜けたような声が聞こえた。
黄色い悪魔の下に、あの調香師の男がいることに気付いた。
「ルイさん!」
俺が駆け寄ろうとすると、青い悪魔がそれを制した。
いつの間にか俺の後ろに回り込み、両腕を掴まれている。
「まぁまぁ、待って下さい。アキトさん。」
「っ!」
一瞬でその悪魔の実力を悟り、身動きを止めた。
黄色い悪魔が「おぉ…」と感嘆を洩らした。
「本当に来たのか。勇ましい事だ、まるでヒーローだな。」
黄色い悪魔は「良かったな」とルイさんの頭を撫でている。
ルイさんはされるがままで、抵抗は出来ないようだ。
俺が動くタイミングを見計らっていると、青い悪魔が囁いてきた。
「アキトさん、取引をしませんか?」
俺が答える暇なく、悪魔は続けた。
「このまま見たことを忘れて、村を出ていけば貴方には何もしません。もちろん、悪魔祓いの報酬はお渡しします。」
悪魔の表情は見えないが、恐らく笑っているだろう。
「…はっ、悪魔の囁きか。」
俺は悪魔の腕を払った。
悪魔は手を離し、変わらず微笑んでいる。
「悪い条件では無いでしょう?このまま村を去るだけで、報酬が貰えるのです。まさか、人を救いたいという正義感を優先されるわけが無い。」
悪魔は確信したような、どこか見透かしたような目をしている。
「…そうだな、たしかに条件は悪くない。」
俺がそう呟くと、悪魔はニヤッと笑った。
その一瞬の隙を見逃さず、俺は素早く懐から香水の瓶を取り出して悪魔に向かって思いっきり投げつけた。
「!!!?」
瓶が割れ、中の液体が青い悪魔に降りかかった。
「う”ッ…!?」
青い悪魔はその場に膝をつき、苦しそうに呻いている。
「なんだ?!どうした!?」
黄色い悪魔が声を上げ、青い悪魔の方を見た。
その一瞬の隙を見て、ルイさんの方へ駆け寄り、抱き抱えた。
「ルイさん!大丈夫ですか?!」
俺の呼び掛けに安心したのか、ルイさんの目から大粒の涙が溢れ出した。
「あ…あぁ…っ…うぅ…」
「アキト…さん…っ!ごめん、ごめんなさい…ッ」
ルイさんは俺に縋るように、しきりに謝っている。
俺は羽織っていた上着をルイさんに被せた。
「謝らないで下さい。こちらこそ、気付くのが遅くなってしまってすみません。」
ルイさんは嗚咽を殺して大粒の涙を流している。
ルイさんを後ろに庇い、俺は二人の悪魔に向き直った。
青い悪魔は苦しそうな顔をしながらこちらを睨んでいる。
「おい、悪魔祓い。トウヤに何を投げた?」
黄色い悪魔は俺を睨みつけながら、どうやら隙を窺ってるようだ。
「何を投げたかって?これだよ。」
そう言って、俺は懐からもう1つの瓶を取り出した。
「それは…!!」
二人の悪魔は見慣れたその瓶に気付き、ルイさんの方を見た。
「ルイの香水…!!!?」
そう、この瓶の中身はルイさんにもらった香水だ。
そして、あの青い悪魔に投げつけた瓶の中身もルイさんが調香した香水である。
「何故ルイの香水から…おい、ルイ!!どういうつもりだ?!」
黄色い悪魔が問い詰めると、ルイさんは初めてニヤッと笑った。
「ずっと…機会を窺っていたんだ。君達に、体臭を隠す香水を作れと命令された日から、ずっとね。」
僕は生まれつき人より嗅覚が優れていた。
そんな僕を村人は気味悪がり、悪魔だの、呪われた子だのと言われて忌み嫌われていた。
そんな僕を唯一愛してくれたのは両親だった。
両親はいつも「貴方は悪魔なんかじゃないわ。貴方のそれは、天から与えられたルイだけの才能よ。」と、そう言ってくれた。
村人から嫌われても、罵声を浴びせられても、石を投げられても、僕は構わなかった。
両親だけは、僕の味方だったから。
両親だけは僕を愛してくれた。頭を撫でて、抱きしめてくれた。
僕にはそれだけで良かったんだ。
なのに、
両親が病気で急死し、僕は天涯孤独になった。
村人はみんな、両親が死んだのは僕のせいだと言い張った。
僕は村を出ていこうと思ったが、両親との思い出の詰まった家を、どうしても手放す気になれなかった。
時は経ち、僕は優れた嗅覚を活かして調香師になった。
僕の作る香水を買ってくれる村人なんてほとんどいなかったから、僕は外部に向けて販売してみた。
すると、それが大当たり。あっという間に予約待ちの人気調香師になった。
外部からの人気を聞きつけ、段々と村人も僕の香水を買うようになった。
相変わらず、僕の評価は変わらなかったけど、自分のこの才能がやっと認められたようで嬉しかった。
そんな時、村に僕と同い年くらいの靴屋の青年が引っ越してきた。
人当たりがよく、太陽みたいな笑顔が特徴的な好青年だ。
名を、ツカサと言った。
ツカサくんは度々僕の元へ訪れては、自分で焼いたというお菓子を振舞ってくれた。
どうやら村のみんなに配っているらしい。
「僕なんかに話しかけていると、貴方まで変わり者扱いされてしまいますよ。」
ある時そう言ってみると、青年は全く気にも留めていない様子でニコッと笑った。
「関係ありませんよ。俺がルイさんと話したいだけなんです。」
その日からツカサくんと僕の距離は縮まり、唯一の良き友人となるのにはそう時間がかからなかった。
ツカサくんとはよく家で食事をしたり、村で買い物をしたり、時には一緒に寝泊まりをしたりもした。
二人で色んなことを話して、くだらない事で笑って、ふざけて、そんな他愛の無いことでも、僕にとっては特別でかけがえのないものだった。
初めて友人という存在ができ、初めて自分が他人に求められているという欲求が満たされた気がした。
幸せだった。
ある日、香水の調香に使う薬草が必要になった。普段なら外部から発注して手に入れるが、それでは予約の日に間に合わない。
日頃懇意にしてくれてるお客さんだったので、何とか予定日に渡したかった。
だから…少しくらいいいだろうと、森へ入ったんだ。
森へは絶対に行ってはいけないとキツく教えられていて、森へ立ち入る村人はいない。
森は有り得ないくらい静かだった。
僕は目当ての薬草を見付けて、すぐに帰ろうとした。
その帰り道だった。
「神父…様…?」
そこで、青い悪魔に出会ってしまったのだ。
恐怖で全身が金縛りにあったかのように動かなくなった。
悪魔はこちらに気が付き、目を見開いて近づいてきた。
金縛りが解け、必死に走って逃げようとした。
しかし、もちろん逃げ切れるはずもなく…あっという間に捕まってしまった。
「誰かと思えば…哀れな忌み子の調香師じゃないか。」
悪魔は運が良かったとでも言うようにニヤリと笑った。
「は…離して下さい…っ!!」
僕は必死に腕を振りほどこうとしたが、悪魔の力に勝てるはずも無かった。
「まぁまぁ、そう抵抗するな。取って食べたりはしないさ。」
悪魔はそう言って一度ペロッと唇を舐めた。
「優秀な調香師…その才能、殺すには勿体ない。俺の言う通りにするのなら、このまま生かしておいてやる。」
そんな風につぅ…と首筋をなぞられた。
ゾクッと全身が恐怖で震える。
僕は、弱々しく頷くことしか出来なかった。
青い悪魔に連れてこられた場所は、村から少し外れた廃墟のような建物だった。
廃墟と言っても手入れはされているようで、意外と清潔な印象だった。
「あの…僕は一体、何をすれば?」
恐る恐る悪魔に尋ねると、悪魔は椅子に座るように促してきた。
促されるままに椅子に座り、悪魔の言葉を待つ。
しばらく座っていると、ガチャっという音がして扉の方から光が差し込んだ。
「おい、トウヤ。急ぎの用事って…」
「!!?」
そこに現れたのは、ツカサくんだった。
ツカサくんも僕を見るなり目を見開き、青い悪魔の方を見た。
「トウヤ…!!何故、ルイがここに?!もしかして、お前…っ」
ツカサくんは掴みかかる勢いで青い悪魔に駆け寄ったが、青い悪魔はそれを軽くあしらった。
「ああ、そうだ。森で見られてしまった。このままにしておくわけにはいかない。」
青い悪魔がそういうと、ツカサくんは一瞬絶望したような顔になった。
「だが…しかし…っ、」
ツカサくんがそう言いかけると、その続きを待たずに青い悪魔は口を開いた。
「やはりな、情が湧いたのか。らしくない。」
青い悪魔はやれやれとため息をつき、ツカサくんの肩を叩いて何かを囁いた。
ツカサくんは目を見開き、最初は安堵したような表情を見せたが、すぐに絶望したような顔になった。
青い悪魔の囁きが終わると、ツカサくんは覚悟を決めたような顔に変わった。
そこにはもう、ツカサくんはいなかった。
僕は青い悪魔と黄色い悪魔から、悪魔の体臭を隠す香水を作るように命令された。
僕は言われるがままに香水を作り、また、彼らの慰みものになった。
村外れの廃墟で、毎晩彼らに組み敷かれ、泣いても喚いても、懇願しても無理やりに犯された。
何度も逃げようとしたが、その度に更に酷い目に遭わされる。
そんな恐怖心を何度も植え付けられ、逃げられないことを身をもって体感した。
それでも、抵抗することはやめなかった。
僕は彼らの香水を作る際、彼らが絶対に使いたがらない香りがあることに気づいた。
これだ、と思った。
きっと、これが彼らの弱点に違いない。
僕はそれを少しずつ研究して、何日、何週間、何ヶ月かけて香水を作った。
その出来栄えは聖水に近かったと言ってもいいだろう。
しかし、これを使う機会が見つからなかった。
何度もシュミレーションしても、失敗する未来しか見えなかった。
これを使えば、きっとこの日々から解放される。だから、ただひたすらに耐え、その時を待った。
アキトさんがやって来たのはそんな時だ。
青い悪魔から、エクソシストを呼んだと事前に伝えられていた。
何故そんなことをしたのか。理由は簡単、ただの暇つぶしだ。
僕はアキトさんに出会って初めての挨拶の時に、その香水を手渡した。
その時に手紙も一緒に渡したのだが、青い悪魔はそれを見逃しはしなかった。
案の定バレ、その晩はまた酷く犯された。
手紙は彼の手中にあり、アキトさんには届いていないようだ。
翌日…また懲りずに、淡い期待をして教会へ向かった。
青い悪魔に渡す香水と、僕が作った悪魔退治の香水の二つを持って。
教会の扉を開いて驚いた。
そこには、アキトさんしかおらず、青い悪魔がいなかったからだ。
こんな好機、二度と訪れないと思った。
いつも通り祈りを捧げ、アキトさんに「神父様に渡しておいてください」と、悪魔退治用の香水を手紙と一緒に手渡した。
完全に賭けだった。
アキトさんがここで気付いてくれなければ、僕は一生この悪魔達の奴隷だ。
「気づいてくれて…本当に、ありがとうございます。アキトさん…っ」
ルイさんはまたポロポロと涙をこぼし始めた。
黄色い悪魔と青い悪魔は”やられた”と言った様子で項垂れている。
青い悪魔はまだ弱っているようで、座り込んでいて苦しそうだ。
「ルイ…」
黄色い悪魔は何かを決したように呟き、勢いよく羽を広げた。
と部屋いっぱいに羽が広がり、思わず少し怯んだ一瞬の隙をつかれた。
黄色い悪魔は素早く俺の後ろに移動し、ルイさんを抱えて空を飛んでいる。
「おい!!待てっ!!!」
俺が声を張り上げると、黄色い悪魔は上から俺を見下ろした。
「さらばだ、悪魔祓い。オレは…お前に祓われるつもりはない。」
俺は抱えられたルイさんの方を見た。
「ルイさ…!!」
羽が大きく動き、そのまま黄色い悪魔はルイさんを抱えながらどこかへ飛んでいってしまった。
「クソッ…!!」
俺は追いかけようとして、立ち止まった。
そうだ、この青い悪魔も祓わなければ。
俺は苦しそうに呻いている悪魔に近寄った。
「…参った。ただの暇つぶしだったつもりが…まさか、ここまで追い詰められるとはな。」
青い悪魔は心做しか、少し嬉しそうにも見えた。
「…悪魔、お前の行いは許されるべきではない。」
悪魔はコクリと頷き、真っ直ぐこちらを見た。
「ああ、もちろん分かっている。祓うなら祓ってくれ。」
「はっ、自暴自棄にでもなったか?」
「まぁな。ただ、ここで抵抗しても意味がないと判断したんだ。」
「ふーん…」
俺は青い悪魔の前にしゃがみ、青い悪魔の胸に手を翳した。
「…?」
悪魔は俺の行動の意味が分からないと言った顔をしている。
しばらく胸に手を翳し、俺は呪いをかけた。
悪魔の胸に、羊の紋様が浮き上がっている。
「これは…?」
「お前のした事は、許されざる行為だ。ここで祓うだけで償われるべきじゃない。」
俺は立ち上がり、続けた。
「お前は今日から俺の奴隷として働いてもらう。いっその事祓ってくれと思わせるくらいにはこき使ってやるからな。」
「は…?奴隷…?俺が、お前の…?」
悪魔は何を言っているのか分からないという顔をしている。
「あー、試しに…そうだな。ちょっと俺の言うことに逆らってみろ、」
「?」
「いいか?”俺に触るな”よ。」
「えっと…触ればいいのか?」
「ああ。」
悪魔が俺に触れようとした時、「う”っ!」と悪魔が呻いて心臓辺りを抑えた。
「ぐっ…!!お前…っ」
悪魔は胸を抑えながらこちらを睨んでいる。
「ははっ、そう睨むなよ。お前も大して変わんねーことしてただろうが。」
俺は悪魔の髪をグイッと引っ張り、顔をこちらに向けさせた。
「いいか?これから、お前は俺には逆らえない。この先一生、俺の奴隷として一緒に仕事してもらうからな。」
悪魔は段々と俺の言ってる事の意味が分かったらしく、大人しくなった。
「……分かった。人間に仕えるなど非常に癪だが…精々、退屈させるなよ。」
「はいはい。退屈しないようにいっぱい使ってやるよ。」
俺は悪魔に向き直り、伝えた。
「さぁ、早速最初の一仕事だ。俺をルイさんと黄色い悪魔の所へ連れて行け。」
悪魔は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにやれやれと羽を広げた。
「あぁ、仰せのままに。」
「ちょっと、どこへ連れていく気だい?」
ルイがこちらを睨みながら少し強くそう言った。
「…誰も来ない、静かな場所がいい。ああ、花が咲いているのも悪くないな。」
しばらくの間上空を飛んでいたが、やがて花が咲き乱れる湖のほとりを見付けたので、そこに降りることにした。
「ねぇ、本当にどういうつもり?」
ルイをそっと降ろし、オレは羽を閉じた。
「ルイ…」
オレがルイの髪をさらっと撫でると、ルイはそれを手でパシッと払った。
「触らないで!…次は僕に何をするの?」
ルイはキッとこちらを睨みつけたが、その手は少し震えていた。
「…すまない。」
オレは地面に膝を付き、頭を下げた。
「は…?」
「何を今更…!そんな、謝られたって…!」
「許してもらおう、なんて思ってない。」
オレは地面に座り直し、ルイの方へ向き直った。
「ただ…言いたかっただけだ。本当にすまない、ルイ。」
ルイは少し動揺しているようだ。
「そんな…あ、悪魔の言うことなんて…」
「ああ、そうだ。信じるな。悪魔は人を騙すために嘘をつく。」
「な、なら…君は一体何がしたいんだい?」
オレは一つ息を吐いた。
「少しでいい。聞かなくてもいい。…今から、無意味な独り言を言わせてくれ。」
ルイの反応を見ずに、オレは独り言を始めた。
オレは悪魔だった。
神なんていない、と人に囁き、甘い言葉で罪へと誘う。
そうやって生きるものだ。
ある時…悪魔がいる森に囲まれた閉鎖的な村があることを知った。
悪魔の餌食になるには十分な条件が揃っている村だ。
俺は噂を聞きつけ、早速靴屋の青年を装って引っ越した。
まず、村人のことを知ろうと思い、定期的にお菓子を焼いて配りに行った。
頼まれれば、屋根の修理や仕事の手伝いだってした。そうして、村人からの信用と人気を重ねていったんだ。
そんな中、ルイは少し違った。
オレがお菓子を配りに訪ねると、少し嫌そうな顔をしてお礼を言う。
不思議でならなかった。何故、ルイはオレを嫌がるのだろうと。
そこからも何回かお菓子を配りに行くと、ルイに初めて話しかけられた。
「僕なんかに話しかけていると、貴方まで変わり者扱いされてしまいますよ。」
ルイはそう言って斜め下を向いている。
オレはニコッと微笑んでルイに伝えた。
「関係ありませんよ。俺がルイさんと話したいだけなんです。」
これはただ単に社交辞令だった。
だがしかし、ルイにはこれが嬉しかったみたいだ。
そこからよく話しかけてくるようになり、一緒に食事をしたり、村で買い物をしたり、時には一緒に寝泊まりをしたりもした。
正直、それをオレは純粋に楽しんだ。
ルイとの経験は、どれも初めてのものばかりだったから。
そうやってルイと一緒にいる内に、段々と怖くなった。
オレが悪魔だという事がバレてしまったら、嫌われてしまう…
ルイには絶対にバレたくないと、そう思った。
オレは…このまま自分が悪魔であることを隠し通して、ずっとルイと一緒にいたいと…そう願った。
だから、あの日トウヤに呼び出された時は絶望した。
あの悪魔め。オレの事も道連れにしやがった。
あの日、アイツがオレを呼び出しさえしなければ…オレは、ルイの友人でいれたはずなのに。
いや…それは違うか。
いずれはバレてしまったかもしれない。それが早いか遅いかなだけだ。
あの時は、本当に焦った。
トウヤをどう説得するか、ルイを殺したくない、死んで欲しくない、嫌われたくない…そんな事が頭の中をぐるぐると回った。
「森で見られてしまった。このままにしておくわけにはいかない。」
トウヤにそんな事を言われ、オレは思わず声を出した。
「だが、しかし…っ」
その先を言う暇なく、トウヤは口を開いた。
「やはりな、情が湧いたか。らしくない。」
トウヤはゆっくり俺に歩み寄り、肩を叩いて囁いた。
「だが、安心しろ。あの調香師、殺すには惜しい才能を持っている。俺たちの体臭を隠す香水でも作らせて有効活用しよう。」
オレは安堵したが、それもつかの間。
「だが、口封じも兼ねてアイツを獲物にしよう。村人はアイツの言うことなど信じないだろうが、確実に俺たちに従わせるためだ。もし従わなかったらその時は…殺すしかないがな。」
オレは絶望した。獲物にするということは…ルイは少なからず、死にたいと思う程には痛めつけられるだろう。
それも、二人の悪魔から…となると、それどころの痛みではないはずだ。
だが、それで…ルイがまだこの場で殺されないのなら、それが最善策だと思った。
ルイを殺されないようにするには、ルイに従ってもらうしかない。
だから…オレは間違えた。
そこからは言う必要も無いな。オレはルイに酷いという言葉では済まない事をしたんだ。
トウヤが悪いとは思わなかった。悪魔なら当然の思考だし、トウヤは悪魔だ。
そして…オレもまた悪魔だ。
そこまで話終わると、悪魔はどこか遠くの方を見た。
「オレは…あの時、トウヤを殺せば良かったのかなぁ…」
悪魔はそう言って苦笑した。
「そうしたら…まだ、お前の友人でいられたのだろうか、」
僕は何と言えばいいのか分からず、ただ黙ることしか出来ない。
悪魔は僕の方に向き直り、少しだけ微笑んだ。
「悪魔の言う言葉なんて信じなくていい。だが、これだけは…」
「”ツカサ”は…お前を大切な友人だと思っていた。一緒にお菓子を焼いたりもしたな。お前が砂糖と塩を入れ間違えて大変な事になったんだぞ。全く…それでも、本当に楽しかった。オレは今まで友人なんていなかったから…友情ってやつも、悪くは無いな。」
ツカサくんはもう一度僕の髪に触れた。
僕は…それを払わなかった。
「僕も…君の事は、友人だと思っていたよ。とても…楽しかった。こんな僕にも、みんなと同じように接してくれて…話しかけてくれて、本当に、嬉しかったんだよ。」
ツカサくんは一瞬悲しそうな顔になり、僕から手を離した。
「ああ…そうか…。だがな、ルイ、」
ツカサくんはまた背中から大きな羽を出した。
黒く、立派な羽に覆われて影が出来る。
「絶対に、オレを許すなよ。オレはお前に、本当に、本当に酷いことをしたんだ。絶対に、それを許してはいけない。」
僕が言葉を発しようとすると、ツカサくんは僕の手に何かを握らせた。
それはナイフだった。
「ルイ…それで、オレを殺してくれ。そのナイフなら、悪魔を殺すことが出来る。」
「な…っ」
僕は手元のナイフを見た。
月明かりに照らされ、刃がキラッと光る。
「オレは絶対に、あの悪魔祓いなんかには祓われない。今、ここで、お前の手で、オレを殺してくれ。」
悪魔はそう言って僕の手を握り、自分の胸にナイフを当てさせた。
「ルイ、今までオレにされた事を思い出せ。許せないだろう、憎いだろう。さぁ、 早く…殺してくれ。」
手がカタカタと震える。
たしかに、僕はこの悪魔に酷いことをされた。
死にたいどころじゃない。ずっと、ずうっと、苦しくて悲しくて辛くて、まるで生き地獄みたいだった。
許すべきことでは無いだろう。
でも…どうしても…刺す勇気は僕に無かった。
僕はナイフから手を離した。
カランッ、と音を立ててナイフが地面に転がる。
「ルイ!?何を…」
ツカサくんがナイフを拾おうとするより先に、僕が口を開いた。
「すまない、どうしても…君を殺すことは、僕には出来ない、」
僕は顔を覆い、ツカサくんに謝った。
「…!!」
目の前にいるのは、悪魔だが、ツカサくんだ。
「ルイ…」
ツカサくんが何かを言いかけた時、
「ルイさん!!」
聞き覚えのある声に思わず振り返った。
「アキトさん…!!?」
アキトさんの後ろには、なんとあの青い悪魔がいる。
ツカサくんもそれに気付き、僕を庇うように前に立った。
「何をしに来た、悪魔祓い…に、トウヤ。お前を置いて逃げたことへの報復か?」
ツカサくんが青い悪魔を睨み付けると、青い悪魔はフッと笑みをこぼした。
「そんな事はどうでもいい。お前がしようとしていた事など容易に想像出来る。」
そう言って僕の方を見た。
青い悪魔に見られ、思わず体が固まる。
そんな僕の様子を見て、ツカサくんが僕を落ち着かせるかのように頭を撫でた。
そんな僕らを面白そうに青い悪魔は見ている。
「そんなにその人間が大事なのか。」
ツカサくんは警戒しながらも答えた。
「…ああ、大切だ。オレにそんな事を言う資格は無いがな。」
青い悪魔とツカサくんが睨み合い、動こうとした時…
「おい、こら。勝手な事してんじゃねぇぞ。」
「ぐっ!?」
アキトさんが声をかけると、青い悪魔は苦しそうに呻いた。
「お前は何もするなって言っただろうが。もう忘れたのか?」
「っ…すまない、」
青い悪魔は”しまった”と言う顔で謝罪を述べた。
青い悪魔が、アキトさんに従っている?
僕とツカサくんは訳が分からず、ポカンとただその様子を見ていた。
アキトさんが僕らの言いたいことを察したのか、説明をしてくれた。
「この悪魔は俺が奴隷として引き取ることにした。これから一緒に仕事してもらうつもりだ。」
青い悪魔はバツが悪そうな顔をしている。
「ルイさん。その悪魔はどうしますか?もちろん、今ここで祓うことも出来ます。」
アキトさんは僕にそう問いかけてきた。
僕はツカサくんの方を見る。
黄色い悪魔は…何も言わなかった。
ただ、僕の選択に大人しく従うつもりのようだ。
「僕…は……、」
ギュッと拳を握りしめる。今、ここで何を選択すればいいのかが分からなかった。
だけど、
「は…祓わないで、欲しいです…、」
「?!」
僕の言葉に1番驚いたのはツカサくんだった。
「ルイ!!お前っ、何を言ってるんだ!?オレがお前にした事を忘れたのか?!」
ツカサくんは僕に掴みかかりそうな勢いでそう言った。
「分かってる。忘れるわけが無いよ。でも…」
僕がそう言いかけると、ツカサくんは下唇を噛んで更に反論する。
「”でも”?オレは、お前に許してもらおうと思っていない!!むしろ、一生許すな!!オレを憎んで、恨んで、もっと罵って、それで…っ」
ツカサくんは下を向き、膝から地面に崩れ落ちた。
「そうしてくれたら…っ、オレも…楽なのに…」
「…」
膝を付き、下を向いているツカサくんに僕は歩み寄った。
「君のしたことは…もちろん、許すつもりは無いよ。流石の僕も、そこまで出来た人間じゃないから。」
「だけど…今、ここで君を失ったら、僕には何も残らないんだ。だからね、」
僕はさっき地面に落としたナイフを拾い上げた。
「だから、ここで一緒に死んでくれないか。」
ツカサくんは大きく目を見開いた。
僕は静かに、ツカサくんの返答を待つ。
後ろからアキトさんに呼ばれたような気がした。だが、僕は振り返るつもりは無い。
随分と長い時間が経ったかのように思ったが、実際はきっと10秒も経っていないだろう。
ツカサくんがやっと口を開いた。
「いや…駄目だ。それでは、オレのしてきた事の意味がなくなってしまう。」
ツカサくんは僕の手から優しくナイフを奪った。
「オレはお前に生きて欲しいんだ。例え、それが地獄であったとしても…すまない、死なせたくない…っ」
すまない、すまない…と言いながら、ツカサくんは顔を覆っている。
いつの間にかアキトさんは僕の背後にまで来ていたらしく、話しかけられた。
「ルイさん…死ぬにはまだ、勿体ないと思いますが、」
アキトさんにそう言われ、思わず声が荒くなる。
「勿体ない…?誰も、僕を必要となんてしてくれないのに?!僕が生きていても、誰にも望まれない、愛されない、必要とされない!生きている意味なんてない!唯一、僕を必要としてくれたツカサくんもいなくなってしまったら…っ」
そこまで言うと、青い悪魔がやれやれとため息をついた。
「はぁ…相変わらず、お前はどうしようもないな。結局自分の事しか考えていない。そんなんだから、誰からも必要とされないんじゃないのか?」
青い悪魔の言葉が深く突き刺さる。
「言い過ぎだ、バカ。」
「痛”ッ」
アキトさんが青い悪魔の背中を強く叩いた。
「何するんだ。俺は事実を述べただけだろう。」
「言い方ってもんがあるだろ。この悪魔め。」
青い悪魔は少し不服そうな顔をしたが、それ以上は反論しなかった。
「ルイさん。俺、エクソシストやってるんですけど…ルイさんのあの悪魔退治の香水、これからも作ってくれませんか?」
「…え?」
アキトさんの思いがけない言葉に、思わず声が洩れる。
「ルイさんのあの香水があれば、もっと楽に簡単に悪魔祓い出来ると思うんですよ。」
「そ…そんな……いいんですか?僕なんかが、」
「はい。ルイさんしかいないです。貴方なら、もっと沢山の人を救う事ができる。」
人を救う事ができる_その言葉に、大きく惹かれた。
「本当に…僕なんかに、救えるんですか?」
僕の問いかけに、アキトさんはニヤッと笑う。
「少なくとも、今ここで死んだら無理ですね。」
今まで、正しい選択をしてきた覚えは無い。
だが…これはきっと、正しい選択だ。
「作ります…!作らせて下さい!」
僕の言葉に、アキトさんは嬉しそうに笑った。
「もちろんです。よろしくお願いします。」
僕はツカサくんの方を見た。
ツカサくんは僕が生きる決断をして、ホッとしたようだ。
「で、その悪魔はどうしますか?」
アキトさんが僕に問いかける。
僕の答えはもう決まっていた。
僕はツカサくんに改めて向き直った。
「ねぇ、ツカサくん。僕は…君のした事は許さないよ。でも、一緒にいて欲しいんだ。」
ツカサくんが口を開くより前に、僕は続けた。
「だから、これから君には僕の手伝いをして欲しいんだ。悪魔退治のための香水作りのね。それで償ってよ。」
僕がそう言って笑ってみせると、ツカサくんはまた驚いたように目を見開き、ハハッと笑った。
「ああ、もちろん…お前に償う術があるのなら、喜んで償おう。」
ここから…僕らの物語は始まった。