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異星人対策室のジョン=ケラーだ。ティナが連れてきた新しい友人フェル。ささやかではあるが異星人対策室で歓迎会執り行った。彼女もまた地球の食べ物に目を輝かせていた。
彼女の見た目はファンタジーに出てくる妖精そのものだ。手のひらサイズではなく身長は高い方だが。性格は極めて穏やかで控え目だ。
しかし、油断は出来ない。彼女は笑顔だがティナと違って警戒心を持っている。いや、それが普通なのは議論の余地もないだろう。むしろティナの信頼と無防備な姿の方が異常だ。
信頼してくれるのはありがたいが、もう少し警戒心を持つべきだとは思う。
とは言え、彼女を害することは不可能だろう。アリアの警告が正しいなら、核兵器を用いても彼女を傷付けることは出来ないらしい。害するつもりはないが、警備の必要性に強い疑問を感じるな。
とは言え、新たな来訪者について大統領に報告せねばならない。既に簡単な情報は朝のうちに送っているが、首脳会談で大統領が多忙を極めたため直接報告できたのは夜になってからだ。
私の移動手段は何故かビルを飛び移るように指定されている。先日の誘拐事件でヒーローとして宣伝されている私だ。激しく胃が痛いが、人々に勇気を与えるためと言われれば吝かではない。シルバーを基調としたコスチュームまで用意されてしまった以上腹は括ってある。
いつものようにコスチュームに着替えて私は異星人対策室のビルの屋上から、他のビルの屋上へ飛び移りながらホワイトハウスを目指す。
「よっ!ヒーロー!」
「頑張れよー!」
「応援してるぜ!」
「ヒーローのおじちゃーん!」
当然目立つわけで、たくさんの声援を受けてしまう。まあ、悪い気はしないよ。声援に手を振りながら応え、着地してダッシュ。脚に力を込めて思い切り飛び上がる。いやはや、ハリウッド映画のヒーローはこんな感じなのだろうな。
ひとつ問題があるとするなら、私が高所恐怖症であると言う事実だけだな。もちろん跳ぶ度に恐怖心が襲い掛かるが、そこは笑顔だ。辛い時こそ笑顔、私の平凡な人生で得た教訓だ。まあ、怖いものは怖い。人はそれを痩せ我慢と言うのだがね。
ビル群を飛び越えてホワイトハウスの正門前に派手な着地を決めた。もちろん政府からの要望だ。ホワイトハウスへ来る際は必ず正門前に派手な着地を決めるように言われている。待ち構えていたパパラッチ達がカメラを向けてくるが、ここで逃げてはいけないらしい。彼等に向かってわざとポーズを取りながらしばらく待機する。
「ヒーロー! キメポーズを頼む!」
キメポーズだと?そんなものは無いのだが……ううむ、こうか?
両手を脇腹に添えて腕を大きく開き胸を張って笑みを浮かべる。うむ、正解だったようだ。歓声が上がったし、カメラのフラッシュが目映い。ただ、そろそろ私の羞恥心が勝る頃合いでホワイトハウスの敷地内へ通された。時期を見計らっていたみたいだな。全く、私の柄ではないのだが。
「御苦労様です、ケラー室長。大統領がお待ちですよ」
私を出迎えてくれたのはマイケル補佐官だ。ティナ関係、つまり異星人関係は直接大統領に報告する必要がある。組織の辛いところで、普通のやり方では伝達に時間がかかってしまう。
そのまま補佐官に案内されて執務室へ向かう。しかし、この2ヶ月で私の人生は劇的な変化が出たな。
少なくとも2ヶ月前までホワイトハウスなど全く縁がなかった。それが今ではほぼ毎日出入りしている。いやはや、人生何が起きるか分からないな。
「ケラー室長、わざわざ呼び出して済まないね」
「いえ、丁度報告に伺おうと思っておりましたので」
大統領は気丈に振る舞っているが、やや疲れが見える。当然だ。首脳会議に続いて各国との個別首脳会談をずっと行いつつ、僅かな空き時間で政務をこなしているんだ。疲れない筈がない。手短に終わらせねばな。
「それで、報告書には目を通したが……ティナ嬢が連れてきた友人は、アード人では無かったらしいね?」
「はい、此方になります」
懐から取り出した写真を提出する。これはティナ、フェルの許可を貰って撮影したものだ。用意した椅子に座り微笑みを浮かべるフェルと、その隣に立つティナが写されている。
ううむ、こうしてみると仲の良い姉妹にしか見えないな。
「ほう、まるでおとぎ話の妖精じゃないか」
「はい、当然羽根は飾りではなく空を飛ぶためのものです」
「まあ、そうだろうな。それで、ケラー室長。フェル嬢はどんな娘かな?」
「落ち着きがあり控え目な印象を受けました。地球の食べ物と自然に強い関心を示しました」
「それは有り難いな」
「しかし、ティナほど友好的ではありません。警戒心を持っているのを感じました。然り気無くいつでもティナを守れる位置から離れませんでしたからね」
この身体になってから、まるで格闘家のように相手の動きが見えるようになってしまった。
「ふむ、当然の対応ではあるな。むしろティナ嬢の好意的な反応が異常だよ」
「仰る通りです。フェルは上手くティナを御しているようにも見えましたので、此方が計画していたアクシデントに参加させるプランは白紙にした方がいいでしょう。ティナは純粋に助けてくれるでしょうが、フェルがどう見るか未知数です」
トラブルの解決をティナに押し付けているとフェルに判断されては、これまでの努力が水の泡だ。
「それは避けねばならんな。とは言え、明日の個別会談が終わればティナ嬢達にもゆっくり過ごして貰える。ボイジャーの件は折を見てお願いしようと思う」
「それが宜しいかと。二人の国内観光については、先ず自然豊かな場所にしようかと」
「それが良い、是非とも地球の自然を堪能して貰おうじゃないか」
方針は決まったな。ティナは初めから好意的だし、フェルに好印象を与えることを重視しよう。もちろんティナを蔑ろにすることなくだ。
この辺りの調整は難しいが、やれないこともない。
「では、明日も記者会見を開いてフェル嬢を世界に紹介するとしよう」
方針が決まった瞬間、慌ただしく部屋にマイケル補佐官が駆け込んできた。嫌な予感がする。胃が痛くなってきたっ!
「大統領!ティナ嬢がインターネット上にフェル嬢の存在を暴露!恐ろしい勢いで拡散されています!」
補佐官の言葉を聞いた瞬間私の胃が悲鳴を上げ、そして大統領が頭を抱えた。
……ティナ……気持ちは分かるが、お友達の紹介は任せて欲しかったなぁ……。
私は遠い目をしつつ、液状胃薬(1L)をイッキ飲みして外を見た。
……ジャッキー=ニシムラ(スク水いぬ耳カチューシャ装備)が警察に連行されているのが見えた。不審者と間違われたらしい。迎えに行かないとなぁ……胃が痛い。