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夜、フェルの事をインターネット上で暴露しちゃうと言うやらかしを深く反省していると、憔悴しきったジョンさんが疲れた笑顔を浮かべながら部屋にやってきた。頭の虹色アフロも何だかカラータイマーみたいに点滅してるし。
いや、何で光るの?髪の毛だよね?
イクモーダΖの副作用なのかな?
効果覿面にも程があるよ?
「ティナ……地球の皆も新しいお客様に喜んでいるよ。テレビはフェル一色だし、明日の朝刊の一面は決まった。ただ、出来れば任せて欲しかったかな?」
「ごめんなさーーーいっっ!!!」
私はまた土下座を敢行した。なんか地球に来て謝ってばかりだよね? このやらかす癖を何とかしたいけど……無理なんだろうなぁ。
「なぁに、友達を皆に紹介したい気持ちは分かるよ。こんなにも綺麗で良い娘なんだからね」
ジョンさん男前過ぎない!?
「ごめんなさい、ケラー室長。私も何が何だか分からなくてティナを止められませんでした」
「いやいや、咎めている訳じゃないさ。別に実害はないし、明日にでも記者会見を開くから君を紹介させて欲しい。人々も混乱しているだろうから」
「はい、宜しくお願いします」
私のやらかしで、明日の予定が決定した瞬間である。とは言え、またジョンさんに迷惑を掛けてしまった。今度こそ真っ当なお詫びの品を用意しないといけない。
海洋庭園みたいなものでどうだろう。今度ばっちゃんに相談してみよう。
「ああ、そうだった。ティナ、カレンは君からのプレゼントを大層気に入っているみたいでね、良く利用しているよ」
「本当ですか?良かった」
「時間が経過しないからか、昨日なんてアードの海洋生物についてのレポートを書いてしまってね。扱いに困っているよ」
えっ、レポート!?そんなものを書き上げたの!?
となると、カレンは海洋庭園の生物達の生態を調査したことになる。一体どれだけの時間利用したんだろう?身体に害はないけど、のめり込ん出るなぁ。
「地球で公表するわけにはいきませんよねぇ」
「海洋庭園の存在を広く知られるわけにはいかん。カレンが狙われる理由が増えてしまうからね」
それはそうだ。遠い別の星の生態系なんて、学者さんにとっては物凄く興味深い筈だよ。そんなものを公開したら、別の意味でもカレンの身が危なくなる。
「じゃあ、庭園シリーズはまだカレン以外には渡さない方が良さそうですね」
「そうしてくれると……待った、シリーズ?他にもあるのかい?」
「はい、色んな種類がありますよ?」
別に海洋庭園だけじゃないんだ。巨大な無人島を再現した庭園や一面の砂浜、ジャングルなんて庭園もあったりする。
ただし、生物は時間が止まるから畜産なんかには使えない。成長しないから数を増やすことはできないからね。ついでに庭園内部じゃ補食以外では死なない。原理は分からないけど。
だから酪農、畜産には利用できない。あくまでも娯楽のための魔法具だ。
「ならしばらくプレゼントは無しで頼むよ。地球人にその道具は早すぎる」
「うーん、分かりました。しばらく保管しておきますね」
まあ、犯罪に使おうと思えば使えるんだよね。ものを持ち込むのは無理だけど、人を移動させられるし。
トランクと合わせたらテロにも使える。私が渡さない限りその心配はないけど。カレンの海洋庭園もマスター認証が必須の設定にしてるからね。
ジョンさんと軽い打ち合わせをしたあと、私はアメリカが組んだスケジュールに従って各国の首脳と個別会談に臨んだ。会談と言っても難しいお話でなく、簡単な自己紹介が終わったら猛烈な勢いで自国をアピールしてくるから対応に困ったのは内緒だ。
せっかくだからあちこち見て回りたいんだけど、全部の国を見て回るのは現実的じゃないし順番とかで揉めそうだ。その辺りの調整はハリソンさんが請け負ってくれたから、ちょっとは気楽になったかな。
そして最後の国は。
「こうしてお会いできて光栄ですわ、ティナさん」
「此方こそ光栄です、椎崎首相」
「そう畏まらずに。美月とお呼びくださいな」
柔らかい笑顔を浮かべた美人さんは、日本の首相椎崎 美月さん。日本初の女性首相として有名で、その手腕も高く評価されているとか。
政治の世界は良く分からないけど、陰謀が渦巻いてそうな世界なのに成り上がったのは素直に凄い。
『真の意味で清廉潔白な政治家は存在しません。政治とはすなわち疑うこと
、化かし合いなのですから』
アリアの意見は極論だと思いたい。
「じゃあ私の事もティナと呼んでください、美月さん」
所謂和風美人を相手にすると、ちょっと気後れしちゃうよね。首相なんだからそれなりの年齢の筈なんだけど、見た目は三十代前半、下手をすれば二十代後半にしか見えない。若いなぁ。
「では親しみを込めてティナちゃんと呼ばせていただきますね」
うーん、美人はどんな顔しても似合うなぁ。花が咲いたような笑顔だ。
……なにより、懐かしい日本語がビシビシ伝わってくるのが何とも言えない。いや、ちょっと泣きそうだ。
事前に皆さんには母国語でお願いしてる。アリアが完璧に翻訳してくれるし、やっぱり慣れた言葉を使う方が気楽になるだろうしね。
当然美月さんも日本語だ。そして、この会談だけはアリアにお願いして翻訳を切ってる。私個人のわがままだ。懐かしい日本語だけは生で味わいたかったから。
「そうして貰えると、私も美月さんと気軽にお話が出来ます」
もちろん私の言葉も日本語だ。転生してそれなりの時間は経ってるけど、問題なく使えた。
それから美月さんは日本を紹介してくれた。他の国みたいに熱心な勧誘じゃなくて穏やかな口調で、しかも有名な場所の紹介より日本と言う国の日常なんかを中心にね。
正直セールストークにうんざりしてた私としては有難い。話を聞く限りだと、技術の発展はあるけど私の生きていた頃と大きな違いはない。日本は日本のままだ。
で、後は簡単な雑談を交わした。ちょっとプライベートな話題も飛び交って、非常に和気あいあいとした雰囲気だ。これまでの緊張が解れてくるよ。
だから私が投げ掛けた質問は、本当に他意はなかったんだけど。
「どうして政治家になろうと思ったんですか?」
「私と同じような子を一人でも救いたい。教師も考えたけれど、限界があるから。国の制度そのものを変えようと思ったの。そしてなにより、私を助けてくれた人の想いを無駄にしないために。こう見えて、若い頃に自殺しようとしたことがあるのよ?」
美月さんが懐かしそうに語る過去。重い話題ではあるんだけど……すんごく覚えがあるお話だった。