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タボちょん、捏造有り
社長室の扉が閉まる音が、やけに冷たく響いた。
ちょんまげはその音を背中で聞きながら、唇をきゅっと結ぶ。
中にいるのは、恋人であり上司でもあるターボー。
――ほんの些細なことだった。
会議の資料の修正を巡っての言い合い。
「どうして先に相談してくれなかった?」
「仕事なんだから感情を挟むなよ」
売り言葉に買い言葉。
いつもなら最後はターボーが折れる。
「悪かったよ、ちょんまげ」
そう言って頭を撫でてくれる。
けれど今回は違った。
「今回は俺からは謝らない。ちょんまげが謝るまで許さない」
静かだけれど、はっきりとした声だった。
それから数日。
同じオフィスで働いているのに、二人は必要最低限の業務連絡しかしない。視線も合わない。
こんなにも近くにいるのに、遠い。
胸の奥がじくじくと痛むのに、ちょんまげは意地を張ったままだった。
その日の午後だった。
「羽立さん、大変です! 社長が…!」
血の気が引く。
「え?」
「過労で倒れて、今救急搬送されて…」
それ以上、言葉は耳に入らなかった。
病院の廊下は、消毒液の匂いがする。
案内された個室の ベッドの上でターボーは静かに眠っていた。
点滴の管。
白いシーツ。
青白い顔。
「……ターボー」
返事はない。
近づいて、そっと手を握る。 いつもより少し冷たい気がした。
その瞬間、張り詰めていたものが崩れた。
「ばか…なんで無理するの…」
ぽたぽたと涙が落ちる。
握った手を額に押し当てて、ちょんまげは声を殺して泣いた。
「もう会えなくなったらどうしようって……思った……っ」
言えなかった言葉が溢れて止まらない。
その時、ターボーの指先がわずかに動いた。
「……ちょんまげ?」
掠れた声。
はっと顔を上げると、ターボーがゆっくりと目を開けた。
「……起きた……?」
「すげえ顔……泣きすぎ」
弱々しく笑うその顔に、胸がぎゅっと締めつけられる。
「ごめん…僕が悪かった。意地張って…もう会えないかもって思ったら、怖くて……」
言葉は震えている。
ターボーはしばらく黙って、ちょんまげを見つめた。
そして、小さく息を吐く。
「……俺も、悪かった」
「え?」
「“許さない”なんて言ったの、正直ちょっと後悔してた」
視線を逸らしながら、続ける。
「ちょんまげが謝るまで許さないって言ったけどさ。本当はあれからずっと眠れなくて。仕事も手に付かなくて」
「……」
「根に持ってたの、俺の方かもな」
苦笑するターボー。
ちょんまげの目に、また涙が滲む。
「…お互い様じゃん」
「だな」
ふたりの指が、自然と絡む。
「もうこんな喧嘩やめよう」
「うん、努力する」
「“努力”かよ」
かすかに笑い合う。
ちょんまげはベッドに身を乗り出し、そっとターボーの頬に触れた。
「ほんとに好きだから…失うとか、いやだ」
「俺も」
次の瞬間、ターボーがちょんまげの唇にキスをする。
最初は触れるだけの、確かめるようなキス。 それから、ゆっくりと深くなる。
ふたりの鼓動が重なっていく。
離れたあと、ターボーが小さく笑う。
「…ちょんまげ、目腫れてる」
「うるさい」
「でも、そういうとこも好き」
今度はちょんまげの方から、もう一度キスをした。
仕事場では社長と部下。
でも二人きりの時は恋人同士。
握った手はもう離さない。
白い病室にあたたかな空気が戻っていた。
END