テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
何かが音を立てて崩れた。
未だに現実味がなくて、訳が分からない。困った事態にあるのに謎の笑いがこみ上げてくる。
大丈夫、大丈夫。……とりあえず落ち着け。
もちろんびっくりしたけど、こんなことはよくあ……ないか。
すっかり独りだ。
信じていた人を信じられなくなるのは、思った以上に痛い。
自分自身の感性を信じられなくなりそうだ。今までの人生経験を全否定されるぐらいの。
「さむ……っ」
納得できないことは山程あるし、何から何まで疑問だらけ。解決もしてない。
それでも、モヤモヤとスッキリが一度に相殺された気分だった。
自分がやりたいことはとてもシンプルな気がする。
まだ終われない。
冷めゆく頭に反して、胸は異常に熱くなっていた。
誰もいない廊下を見つめて息を吐く。
涼と出逢ったこの場所が……今の自分にとっては始まりの場所。
そうだ。
このままで良いわけない。
とにもかくにも、寒いから家に入った。と同時に着信がきた為、電話マークをタップする。
「はい。あぁ、霧山?」
スマホを片手にベッドに倒れ込んだ。
一気に疲れてしまった。そんな自分を優しく受け止めてくれる温かいベッドからは、まだ少しだけ彼の香りが残ってる。
綺麗に畳まれた服も、作りかけの夕食も。
彼の存在も……当分消えそうにない。
「霧山……俺、もうダメかも」
自分でも笑い飛ばしたくなるような弱音を、電話の相手はギャーギャー言ってる。
だけどそんな声も次第に遠くなって、その日は深い眠りに落ちた。