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青桃・桃青
桃さん女体化
学パロ
―ないこ視点―
朝の教室は、いつもみたいにざわざわとしていて、黒板の前では誰かが昨日の宿題の答え合わせをしていて、窓際では眠そうな男子がうつ伏せで机に突っ伏している。
その日常の光景の中で、あたし――“ないこ”は、ひとつの重大な作戦を開始していた。
腐女子バレ阻止大作戦。
それは、今日も無事に乗り切らなければならない、あたしの命運を左右する戦いである。
というのも、あたしの机の中には、昨夜描いていた落書きノートが入っている。
しかもよりによってそこには、
「まろ×クラスメイトの男子」
「まろ×教師」
「まろ×まろ(※自分2人)」
という、あたしの最高傑作レベルの妄想ラフが詰まっているのだ。
「……なんで先生に“明日ノート集めるから忘れんと持ってきてね”とか言われちゃったわけ……?」
小声で呟く。
普段は絶対持ってこない落書きノートを、寝ぼけたままカバンに突っ込んでしまった自分を殴りたい。
万が一、まろ本人に見られでもしたら――
いやもう、あたしの人生はその瞬間でエンドロールに突入する。
と、その時。
「おーい、ないこ。なんや朝から難しい顔してんな?」
背後から、聞き慣れすぎてる声が降ってきた。
振り向かずとも分かる。
あたしの妄想の主役。
あたしが今、絶対に視線を合わせてはならない男。
まろ。
関西出身でノリが良くて、無駄に声が良くて、顔が良くて、性格が良くて、あまつさえ身長まで良くて。
あたしを腐女子に育てた最大の原因と言ってもいい。
「な、ないよ別に」
「いやいやいや。お前の“別に”は全然“別に”ちゃうねん。なんかやらかしたやろ?」
やらかしてはいないけど、
やらかしてるものが今バッグに入ってる。
あたしは、そろりと机に手を添えて、まるで自分の命を守るようにそっとノートの気配を隠した。
「まろには関係ないでしょ……!」
「そんな言い方すなよ。心配して聞いてんのに」
うっ――。
そういう優しい言い方するのやめて。
妄想が暴走する。
あたしは深呼吸をして、必死に冷静さを装った。
「とにかく大丈夫だから。ほっといて」
「へー……まぁええけど」
まろは肩をすくめて、あたしの前の席に座った。
――その瞬間、あたしの目が凍りつく。
まろが、あたしの机の上に置いてあったカバンに肘をついた。
「ちょ、ちょっと!!」
「ん?なんや?」
「そこ……重いの乗せちゃダメッ!!!」
あたしの声が裏返る。
まろはびくっとして肘をどけた。
だけど、その勢いで――
カバンのチャックが少し開き、中からノートが覗いた。
しかもよりによって、表紙に貼った自作ステッカー――
「このノートは絶対に開けるな」
みたいな、怪しすぎるやつ。
まろの視線が、そこに吸い寄せられていく。
やばい。
やばい。
やばすぎる。
「……なんやこれ」
彼の指がノートに触れかける。
「だあああああ!!触んな触んな!!ダメ!!!!!」
あたしは反射的に両手でノートを抱え込み、まろから守るように胸に押し付けた。
まろはぽかんとしていた。
「お、お前…そんな大事なん?」
「めっちゃ大事なの!!世界より大事なの!!」
「世界……?」
「世界!!!!!」
……はい、テンパりすぎて頭おかしくなってる。
でも今はどうでもいい。
見られたら終わりだ。
「ふーん……そんなら、ウチも気になるけどなぁ」
ニヤニヤしながらまろは覗き込んでくる。
この顔が一番危険。
好奇心のかたまり。
「なんでそんな顔するの」
「いや、だって隠されると見たくなるやん?普通」
「普通じゃないの!これはほんとにダメなの!!」
「もしかして――エグい秘密とか?」
「違う!!……けど、ある意味エグい!!」
「ある意味?」
「うるさい!!聞かないで!!」
あたしは必死で話を切ったが、まろは完全に興味を持ってしまったようだった。
「……ないこ」
「な、なに」
「お前、なんかウチから隠してるやろ」
その言葉は刺さった。
本当に刺さった。
あたしは、腐女子であることを隠している。
それだけじゃない。
腐女子として一番妄想している相手が“まろ”であることなんて、絶対に死んでも言えない。
「……別に。誰だって秘密くらいあるじゃん」
「まぁな。せやけどな……」
まろは不意に、あたしの肩に軽く手を置いた。
「お前が困っとる時は、ウチは相談されたいねん」
ドキッとした。
胸がじわっと熱くなる。
……やめて。
そんな優しいこと言われたら、
ほんとに全部言いたくなっちゃうじゃん。
◆◆◆
昼休み。
あたしは人気のない階段踊り場で弁当を広げていた。
なんでかって?
もちろん、ノートを守るためである。
まろの好奇心から、そして自分の人生の破滅から。
「はぁ……」
ため息が出る。
「なんであたしこんなにまろのこと描いちゃったんだろ……」
ノートの端を見ながら呟く。
「いやまぁ、顔がいいし、声がいいし、性格いいし、なんか攻めにも受けにもなるし……」
自分で言って赤面する。
「ああもう、腐女子の脳みそしてる……終わってる……」
「何が終わってんねん」
「ひっ!?」
背後から声。
振り返ると――
「ま、まろ!?なんでここに!?」
「いや、昼休みなったらお前どっか行ったやろ。探したんや」
「探さなくていいよ!!」
「なんでやねん」
まろは当たり前みたいにあたしの隣に座る。
「……ここやったら人おらんし、ゆっくり話せるやろ?」
「いや話さないよ!?話題ないし!!」
「あるやん」
「なっ、なんのこと」
「朝のノートの件」
来た。
逃げ道ゼロ。
「ないこ、あれ……そんなヤバいもんなん?」
「……」
「見られたらアカン理由、教えてくれへん?」
「……絶対言いたくない」
「そんなら、なおさら気になるやん」
「だから気にしないでって言ってるでしょ!!」
「なんでやねん。ウチやから言えることもあるかもしれんし――」
「無理だよ!!!」
あたしは叫んでしまった。
言った後で、しまったと思う。
まろは少し驚いた顔をした。
けど――
その後、静かに笑った。
優しい、けどどこか寂しそうな笑い方。
「……そっか。まぁ、無理に聞かんとくわ」
その声色に胸が痛くなった。
だって本当は――
言いたくないんじゃなくて、“まろだからこそ言えない”んだ。
あたしが腐女子で、
まろで妄想しまくってるなんてバレたら、
嫌われるに決まってる。
「ごめん……」
「なんや謝ることないで。誰にでも秘密くらいあるしな」
そう言って、まろは立ち上がる。
「でも、ないこ。ウチ、お前のこと好きやからな」
「……え?」
心臓が跳ねた。
「友達として、やけどな。せやから気になるんや」
そう言ってまろは笑って、階段を降りて行った。
あたしはその場に、しばらく固まったままだった。
◆◆◆
放課後。
ノート提出のため職員室に行く途中で、あたしはハッと気づいて廊下を走った。
――ノートを提出する前に、腐女子妄想ページを破り捨てなきゃいけない。
なのに、先生に呼び出されてそのままカバンを置いてきてしまったのだ。
「やばいやばいやばいやばい!!!!!」
教室に駆け戻る。
そして目に飛び込んできた光景。
まろが、あたしのカバンを覗いている。
「あ」
「…………」
まろの手には、あたしの落書きノート。
そしてページは――
よりによって まろ×まろ の最高傑作。
あたしは叫んだ。
「それ見ちゃダメええええええええ!!!!」
まろはピタリと動きを止め、ゆっくりとこちらを振り向いた。
「……ないこ」
「ご、ごめん……ほんとに……」
震える声で呟く。
もうダメだ。
世界終わった。
あたしの人生が、まろの手の中のノートと共に燃え尽きる。
覚悟したその瞬間。
まろはぽつりと言った。
「……ウチが……二人……?」
「ち、違うの!!違わないけど違うの!!」
「攻めと受け……どっちもウチ……?」
「今それに冷静にコメントしないでえええ!!!」
顔が燃えそうに赤い。
でもまろは――
ノートを閉じて、あたしに返しながら、ぽつんと呟いた。
「……ないこ」
「う、うん……」
「お前、ウチのこと……そんな見てたん?」
その言い方が優しすぎて、胸が痛かった。
「あたし……オタクで……腐女子で……いろんな人で妄想しちゃうんだけど……その……まろのことは……特に……」
もう、全部言うしかなかった。
一度バレたら、終わりじゃない。
隠してきた秘密を抱えたまま、まろと友達でいるほうがきっと苦しい。
「……特に?」
「特に……多い……」
視界がじわっと滲む。
「気持ち悪いって思ったでしょ……?やだよ……友達でいたいのに……」
震えるあたしの手から、まろはそっとノートを受け取った。
そして――
そのまま、あたしの頭をぽん、と撫でた。
「思わん」
「……え?」
「気持ち悪いなんて、思わん」
まろは真っ直ぐあたしを見て言った。
「むしろ……そんなにウチのこと考えてくれてたん、ちょっと嬉しいかもしれん」
「え、うそ」
「嘘ちゃう」
優しい笑顔。
顔が良すぎて反則。
「ないこ。ウチ、お前のこと嫌いやったら……こんな気になるかいな」
胸がぎゅっとなる。
「せやから――」
そしてまろは、照れたように視線を逸らした。
「第2話で、ちゃんと話そ。続きは……そこでや」
あたしは何も言えなかった。
ただ、泣きそうなほど嬉しくて、
だけどどうしていいか分からなくて。
まろはそのまま、軽く手を振って教室を出て行った。
残されたあたしは――
胸を押さえながら、深く深く息をついた。
「……腐女子バレしたくないっ((」
でも。
でも――
ちょっとだけ、嬉しかった。