テラーノベル
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朝から、特別なことは何もなかった。
💎「おはよー」
🐰「おは」
いつも通りの挨拶。
いつも通りの教室。
それなのに、
胸の奥だけが落ち着かない。
授業中、ノートを取りながら、
ふとペンが止まる。
——今、言ったらいいのかな。
何を、って聞かれたら分からない。
でも、
何かを言わなきゃいけない気がする。
休み時間。
🐰「いむく〜ん、これ分かる?」
💎「あぁ、うん、ここはね——」
説明しながら、
相手の顔を見る。
ちゃんと聞いてる。
ちゃんと助けを求めてくれてる。
🐰「さすがやわ!」
🐰「ほんま、助かるわ」
笑って返す。
……これでいい。
これが、いつもの自分。
昼休み。
机を囲んで、他愛ない会話。
🍣「今日さ、放課後どうする?」
🐱「俺、ちょっと用事あるわ」
🍣「じゃあまた今度だね」
話題が流れていく。
——今なら、言える?
💎「……あのさ」
声が、喉で止まる。
🍣「ん?」
🐱「どした?」
一瞬、視線が集まる。
💎「……いや、なんでもない」
自分で、自分の逃げ道を塞ぐ。
アニキが、ちらっとこっちを見る。
🦁「今日、静かやな」
💎「そう?」
🦁「おん。まぁ、気のせいか」
それ以上、何も言わない。
その“何も言わなさ”が、
少しだけ救いで、
少しだけ寂しい。
放課後。
家に帰って、部屋に入る。
制服を脱いで、
ベッドに腰を下ろす。
スマホを手に取って、
LINEを開く。
送信先は……
ないちゃん、アニキ、いふくん。
誰に送るか、決めきれない。
💎「ちょっと聞いてほしいことがあって」
打って、消す。
💎「最近、なんかしんどくて」
消す。
💎「大したことじゃないんやけど」
それも消す。
——大したことじゃないなら、
言わなくていい。
——でも、大したことじゃないなら、
なんでこんなに苦しいんだ。
画面を見つめたまま、
時間だけが過ぎる。
通知が鳴る。
りうら:
「今日のとこ、めっちゃ良かった!」
グループの話題。
ないこ:
「だよね。あれは頑張ってた」
悠祐:
「本人に言うたれw」
スマホを持つ手が、少し強張る。
——良かった。
——頑張ってた。
胸が、ちくっと痛む。
💎「……よかったね」
誰にも送らない声。
もう一度、メッセージ画面を開く。
💎「僕さ——」
そこまで打って、
指が止まる。
送ったら、
何かが変わる気がして。
変わらなかったら、
もっと傷つく気がして。
スマホを伏せる。
💎「……まぁ、いっか」
言葉にした瞬間、
少しだけ、何かが欠けた気がした。
夜。
布団に入っても、眠れない。
今日を思い返す。
嫌なことは、なかった。
怒られたわけでもない。
責められたわけでもない。
——なのに。
💎「何もなかった日が、
一番しんどいとか……」
小さく笑う。
💎「意味わかんないよね……ッ」
天井を見つめながら、
思う。
——もし、あのとき言えてたら。
——もし、誰かに聞いてもらえてたら。
そんな「もし」が、
胸の奥で膨らんでいく。
スマホが、また鳴る。
悠祐:
「無理すんなよ。
今日はそれだけ」
短い文。
優しい。
でも、核心には触れない。
💎「……ありがとう」
そう打って、送る。
それ以上は、何も言えなかった。
目を閉じる。
——言えなかった一言は、
消えたわけじゃない。
ただ、
置き場所を失ったまま、
自分の中に残ってるだけ。
それが、
次に何を生むのかも知らずに。
言えなかった人と、
言えた人。
比べるつもりなんて、
なかったのに。
第5話
“羨ましい、なんて言えなかった”
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