テラーノベル
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どのくらいの時間が経ったのだろう。
冷たいコンクリートの感触と、湿った土の匂いで目を覚ました。
視界を覆っていた激しい黒いインクと怨嗟の叫びは綺麗に消え去り、そこにはただ、夜の帳が完全に下りた弘前公園の静寂だけが残されていた。
朱塗りの橋のたもと。
先ほどまでそこにいた「挿絵画家」の姿は、影も形もない。キャンバスも、イーゼルも、最初から存在しなかったかのように消え失せている。
「ハぁ……っ、ハぁ……」
浅い呼吸を繰り返しながら、僕はゆっくりと体を起こした。
全身を襲う激しい倦怠感と、頭の奥を直接打ちつけられるような鈍い痛み。しかし、何よりも僕を苛んでいたのは、胸の真ん中にぽっかりと空いた巨大な虚無感だった。
ポケッ トの中に手を伸ばす。
指先に触れたのは、かつて確かにカチリと音を立てて僕を導いてくれた、あのルービックキューブだった。
だが、取り出したそれを見て、僕は絶句した。
鮮やかだった赤、青、緑、黄色の面はすべて色を失い、まるで煤を被ったかのように、くすんだ灰色に変色していた。どれだけ指先で回そうとしても、重く固まったようにピクリとも動かない。
「ツッコミ」も、「言葉」も、届かなかった。
あの人が一人で背負っていたものの正体。それは、僕がこれまで「探偵気取り」で解き明かしてきたような、綺麗に整理された謎や物語などではなかった。この世界に生きる人々が撒き散らし、捨て去っていった、ドロドロとした理不尽な感情の濁流そのものだったのだ。
あいつは、こんなものを毎日のように浴びながら、へラへラと笑ってボケていたというのか。
僕を巻き込まないように。僕がその愚かな重みに押し潰されないように。
「……勝てるわけ、ないじゃないか」
ポツリと漏れ出た声は、自分でも驚くほど情けなく震えていた。
手の中の死んだルービックキューブを握りしめ、僕は一人、夜の古城の影に蹲った。
四枚目の原稿は手に入らなかった。
物語はここで完全に破綻し、僕の「執筆者」としての旅は、呆気なく終わりを迎えたのだ。
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#下手なりに頑張る
ぬいぬい
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コメント
1件
うわあ……これは、重いですね。ルービックキューブが色を失って動かなくなる描写、象徴的で胸に刺さりました。あの「挿絵画家」が一人で背負ってた濁流の正体——主人公が今まで解いてきた謎とは桁違いの、生の理不尽そのものだったんだなと。探偵気取りじゃ勝てない、って呟きが切なすぎる。ここで終わるのか、それとも這い上がるのか……続きが気になります。