死ネタありの作品になっておりますので
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1時間後
窓の外は夕方で、
薄い橙色が街を包んでいる。
空がゆっくりと夜に溶けていく。
「遅いな…、、大丈夫かな、」
流石に不安になってきて、
連絡をしとうとした時
ニュースキャスターの声が
耳に入ってくる。
「緊急速報です、都内で発生した通り
魔事件について──」
その声が、氷のように冷たく響く。
いるまが通るあたりのコンビニも、
そのニュースの地図に映っていた。
「まだ犯人は見つかっておらず、
細心の注意をーー」
一瞬だけ、心臓が跳ねる。
「……いや、まさか」
頭を振って、笑うように息を吐いた。
「考えすぎ。大丈夫、いるまは強いし」
けれど、その直後。
外で風が強く吹いた。
窓がカタカタと鳴る。
誰かが帰ってきたような
足音がした気がして、
玄関の方へ顔を向けた。
……誰もいない。
「……気のせいか
連絡したし、大丈夫大丈夫」
言い聞かせて入るけどなんとなく、
胸がざわつく。
いるまの部屋のドアを開けて
彼の匂いがまだ残っていて、落ち着く。
枕元には、昨日の夜ふたりで
撮ったプリが 置いてある。
ふたりで笑って、ふざけて、
“ずうっといっしょ”って文字を裏に
書いたやつ。
指でなぞった瞬間、スマホが鳴った。
「……!いるま」
画面を見る。知らない番号。
「え、だれ…、」
通話ボタンに指を伸ばそうとして、
ふと、背筋に寒気が走った。
そのとき、遠くでサイレンの音が
鳴り響いた。
何台ものパトカーが、夜の街を裂くように
走り抜けていく。
光が窓を横切るたび、なつの顔が青白く
照らされた。
胸の中の小さな違和感が、
形を持ちはじめていた。
「……もしもし?」
受話口から、慌ただしい息と、
かすれた声。
『……○○病院の者ですが、
いるまさんの ご家族、もしくはご友人の
方でしょうか?』
なつの喉がひゅっと狭まった。
頭が真っ白になる。
「……え、あ、はい。……!」
『落ち着いて聞いてください。
先ほど──』
声が遠のいていく。
「事故に巻き込まれた」という言葉が
かすかに聞こえた瞬間、
世界の色が一気に失われた。
「……嘘、だろ…ッ…」
耳鳴りがした。
受話器の向こうの声はもう聞こえない。
代わりに、テレビの音がまた部屋に
戻ってくる。
『――都内で発生した通り魔事件。
先ほど男性が胸部を刺され、搬送先の
病院で__ 被害者は……』
その名前を聞いた瞬間、
なつの手からスマホが滑り落ちた。
ガシャン、と乾いた音が響く。
何かが崩れる音に似ていた。
息を吸おうとしても、喉が動かない。
涙も出ない。
ただ、世界が遠のいていく。
窓の外のパトカーの光が、
白く、青く、赤く、部屋を照らしては
消えていった。
テーブルの上には、いるまのマグカップ。
さっきまで湯気を立てていたコーヒーは、
もうすっかり冷たくなっていた。
ーーー
スマホを握る手が震えていた。
「……いるまが……いるまが……」
声にならない声を繰り返しながら、
なつは玄関のドアを開け放った。
外の空気は冷たくて、肺が痛い。
でも走ることをやめられなかった。
頭の中は真っ白だった。
信じられない。
いや、信じない。
いるまが、そんなわけない。
「嘘だ……嘘だろ……!」
信号の赤も見えずに道路を渡り、
夜風に煽られながら、タクシーを必死に
止める。
「○○病院までっ!」
声が裏返った。
運転手が驚いて振り向くが、
そのまま黙って車を走らせた。
街の光が流れていく。
赤、青、白――全部が滲んで見える。
「さっき笑ってたんだぞッ…、
……いるま……」
頭の中で何度も繰り返す。
「“すぐ帰る”って言ったのに……」
病院に着く頃には、
もう手足の感覚がなかった。
受付の人が何かを言っているが、
聞き取れない。
「いるま! どこッ?」
警備員が慌てて止めに入る。
「待ってください、関係者の方ですか?」
「ッ友人です……、、」
案内された廊下を走る。
足音が冷たい床に響く。
遠くで救急車のサイレンが
また鳴っている。
その音が、遠くにいるはずの彼の呼吸
みたいで、胸が張り裂けそうになる。
カーテンで仕切られた一室。
白い布の下に、誰かの形。
「……いるま?」
声が震える。
布を少しめくる手が止まる。
あの時と同じ髪色、
あの時と同じ指先。
だけどもう、何も返ってこない。
「いるま……起きてよ……俺、
ちゃんと待ってたのに……」
冷たい手に触れた瞬間、
現実が音を立てて崩れた。
ナースが静かに立っている。
誰も何も言わない。
泣き声すら出ない。
ただ、いるまの頬に落ちる涙の音だけが
やけに鮮明だった。
「これって…、、あの。ッ!、」
「残念ながら」
「ぁ、…ッッ そう……ですか」
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