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いつもの日
いつものスタジオ
そしていつもと変わらない風景
…ではない
いつもいなきゃいけないはずのアイツの姿がいない
「…元貴遅いね」
椅子に座ったりょうちゃんがそういい待ちくたびれた様に小さく欠伸をする
確かにいつもより遅いんだよなあ…
もうかれこれ1時間は経っている
実は昨晩から元貴ん家に泊まって朝ギリまで一緒にいたなんて誰にも言えない
Uberで晩飯とって食って2人でゲームして…で、いい雰囲気になってセックスして…
んー
朝も特に変わったとことかなかったんだよなー
一緒にスタジオ入りしようぜって言ったらあえなく却下された訳だけど
あーやっぱり一緒に来たら良かったなって今になって後悔している
何度もスマホでチェックするもののなんの連絡もないし…
大丈夫かよ…
まさか事故とかじゃないよな…とかぼんやり思ってると急にりょうちゃんが椅子をひっくり返す勢いで立ち上がり真面目な顔をして言う
「ゆ…誘拐じゃない?!」
俺は思わず転けそうになる
はははーっ
まじか誘拐って…
確かに元貴は可愛いい存在(おい)ではあるけどそれなりのいい歳した男の大人である
「んな訳… 」
「ちょっとちょっとー!」
あるかーい、と言おうとしたとこでマネージャーが慌ててやってくる
「やばいことなってるー!」
とスマホを俺たちに差し出す
その慌てぶりに俺とりょうちゃんがそのスマホを覗き見る
と、そこには見た事のある人物が映っていた
スマホの画面の中には菊池風磨…くんがやたらカメラを覗き込んでいる
どうやらスマホのカメラをいい具合に調節しているようだった
めちゃめちゃドアップになっていて誰かわからないほどだ
「風磨くん…だよね?」
とりょうちゃんが確認するほどだ
風磨くんはドアップ状態に気がついたのだろうか
何歩か下がってピッタリの位置で止まるとにっこり笑う
「やあやあこんにちはーミセスグリーンアップルのおふたり」
笑顔で軽く手を振っちゃってる感じとか見ると話で聞く本当にノリのいい人だ
「僕はSTARTO社所属のTimeleszってグループのメンバーで菊池風磨というものでーす、以後お見知り置きを」
いや、とっても知っています
とっても有名人だと思います
そこで風磨くんはひとつ咳払いをすると
「えー率直に言うけど君たちの大切なメンバーである大森元貴くんを頂いた」
「え!」
りょうちゃんと俺の声がシンクロした
そこで風磨くんの姿が消え、ぐいとカメラが動く
カメラの後ろ側であろうか…後ろ手と足を縛られ横たわっている元貴がいた
「も…元貴!」
目を閉じ眠っているのだろうか…元貴は微動だにしない
顔も少し青白く見え死んでいるのかと錯覚するくらいだ
そして朝ギリまで見たあの格好
ジャケットにジーンズという姿で横にはいつもの鞄が乱雑に置かれている
こ、これは…
「やっぱり誘拐だぁぁぁあ!」
と、りょうちゃんが叫び立ち上がるとおもむろに横にいる俺の体をグイグイと大きく揺さぶる
俺はとんでもなく揺さぶられて脳みそが揺れまくった
カメラが動きまた元の様に戻ると風磨くんがカメラを覗き込む
「返して欲しかったら…うーんどうしよっかなー」
風磨くんは頬に手をあてうーん、と悩んでいる素振りを見せる
俺たちはゴクリと唾を飲み次の言葉を待つ…のだが…
「また考えてから連絡するからねーまたねー」
とびっきりの笑顔を見せるとそこで急にプツンと映像が切れた
「え、えーっ!」
りょうちゃんは映像の消えたスマホを見つめ大声を上げた
元貴が誘拐…
マジかよ…
やば…どうしよう…
ってか何やってんだよ元貴…
俺は椅子に座って暫く放心状態になった
***
「う…」
目が覚め まだ頭がぼんやりしつつも少し上体を起こし周りを見る
何処…?
そこは…無機質なコンクリートの部屋だった
コンクリートのひんやり感が全身に染みる
なんだか随分と眠っていたような気がする
そして今が朝なのか夜なのかもわからない
腕も…足も動かない
なんなんだ…これ
全然わからない
「おはよう元貴くん♡」
聞きなれた声がし見上げるとそこにいるのは…
風磨くん…?
なんで?
風磨くんはにっこり笑顔で小さく手を振る
…あ、そうだ
スタジオに行く途中で車に乗ってる風磨くんに声をかけられてそれで乗っけてもらって…で…
「俺が渡した飲み物で寝ちゃったんだよね」
…そうだった
そういえば渡されたカップのコーヒーを飲んでウトウトしたんだ…で…
「僕が飲み物に睡眠導入剤入れたんだよ」
…睡眠導入剤?
「そうだよ」
「な、なんで…」
「なんでって…?ふふ…」
風磨くんは不敵な笑みを浮かべる
まるでドラマのワンシーンを想像する様だ
「元貴くんを誘拐しちゃうためだよ!」
誘拐…?
風磨くんは何処からか持ってきたであろうパイプ椅子を出し俺の前に腰掛ける
「まだ頭回ってないね?」
確かにそうだ…
今この状況がまるでわかってない
全然頭のぼんやり感が取れない
これって…やっぱ睡眠導入剤のせいなんだろうか
あー、あの時若井と一緒に家を出るべきだった…
そうしたら今を回避できたかもしれない
俺…どうなんの?
ずっと監禁されたまんまとかじゃないよな
絶対みんな騒いでるだろうな…(特にりょうちゃん)
なんか…考えるのツライし体もだるい…
はぁ…とため息ついてまた上体を元に戻し寝転ぶ
そこで俺の事をじっと見ていた風磨くんはポツリと言う
「元貴くんさぁ」
「…え?」
再び上体起こす
「ずっと思ってたんだけど…なんかこう…君ってさ…凄くそそられるよね」
そう風磨くんは言うと立ち上がり俺の方へと近づく
しゃがみこみ俺の目線を合わせぐいと覗き込む
近っ…
近すぎて鼻がつきそうなくらいに寄ってくる
間近で見て思ったのだけどさすがアイドルとでも言おうか…
いい匂いはするし肌がつやつやしてキラキラしていて…風磨くんのアイドル感を肌で感じる
「俺さ、そっちのけはないんだけどなんかこう…グッときちゃうんだよね」
そう言うと俺の唇をそっと指でなぞる
「表情がコロコロ変わってそれもすげー可愛いんだけどふとした時の儚い感じとか…もの凄くいいよね」
コロコロ?可愛い?儚い?
え?え?
風磨くんは俺の顎に手をかける
「肌も白くて綺麗だし顔も可愛いし…もう…たまんないよね」
あー
こんないやらしい言葉とか風磨くんに良く似合うよなあ…っていうか
え、ちょっと待て!
なんだこのヤバそうな感じ
まだ頭がぐるぐるする中俺はとっさに
「風磨くん…美人な彼女いるよね?」
確か綺麗な女優さんが彼女さんだった気が…
「え?うん。女性はね、男性はいないよ」
いや…そこまで聞いてない
「…よっと」
風磨くんはおもむろに立ち上がると俺をぐいを倒し仰向けにすると馬乗りになる
風磨くんの顔がどんどん接近してくる
え、これって…
やばいやばい…!
俺は焦って声を上げる
「ちょ!ちょっと待って!」
「何?」
「俺…付き合ってる奴いるから …」
「…一応聞くけど誰?」
う…っ
「若井…ってやつ…」
「一緒にやってるギターの人…だっけ?」
うんうんと必死に頷く
「もういい?」
「え…」
「今度若井くんに会ったら元貴くん美味しかったよご馳走様って挨拶しとくよ」
え、なに?
俺食われる…?
だ、誰か…
***
「ちょっと待ったー!」
聞き慣れた声で風磨くんの近づく顔が止まる
声の先にはりょうちゃんと若井がいた
風磨くんは小さく舌打ちをすると立ち上がり
「思ったより早いなあ…」
とつぶやいた
それと同時に
「元貴ぃぃぃぃ!」
りょうちゃんが一直線に横にいる風磨くんそっちのけで俺に駆け寄る
ぎゅーっと抱きしめられると安心感で俺は一気に気が抜けた
「大丈夫?怪我してない?」
縛られていた手と足をやっと解かれ顔をぺたぺた触られる
ああ、りょうちゃんだ
いつもの優しいりょうちゃん…
じわっと涙腺が緩む
「あれ元貴泣いてる?」
「まだ泣いてない!」
俺はムキになって反論した
***
居場所がわかったのは風磨くんのスマホにGPS機能が付いてそれが反応してたからだ
俺たちは終始あたふたしてた訳だが有能で冷静なマネージャーが指摘してくれたおかげでなんとか到着できた
(でも何故風磨くんのスマホのGPSが反応したのかは謎)
りょうちゃんが真っ先に元貴のとこに行ってしまって先越された俺は取り残されてしまった
俺も続けとばかりに風磨くんの横を通って駆け寄って元貴をギューッと強く抱き締めてとびきり熱いキスして…って思ってた
だが横を抜けようとしたとこで風磨くんに手を伸ばされ制止された
「…若井くん?」
俺に近づくとぐいと覗き込まれる
うっわ…近…っ
ってか…
てめーこのー!元貴になんてことすんだ!
って本当はガツンと言ってやるつもりだった
だが…いざ目の前にするとオーラというか威圧感がすごすぎて萎縮してしまった
そして思っていたよりも背も俺よりデカくてガタイがいい…
きっと素手で闘ったら勝てないんだろうって素直にそう思った
「若井くんさ…今度2人でご飯行こうよ」
にっこり笑顔でそう言う
「元貴くん…君のモノなんだってね、羨ましいね」
風磨くんはそう言うと俺の肩をぼんと強く叩き出て行ってしまった
こわ…
ってか…いってぇ
叩かれた肩をさする
やば…
これは…とんでもない人に目をつけられた
20241227