この作品はいかがでしたか?
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バンド練習の後。各々時間だからって楽器を片付け始めた頃、柚ちゃんが声を上げた。
「あのっ!」
涙目で、勇気をふりしぼりましたって感じでふるふる震えながら言葉を振り絞ろうとしている。
「僕…えっと…っ!」
「シンセサイザー、できるようになったんです!」
…ん?
「シンセサイザーです!」
多分全員が顔にはてなマークを浮かべていたのだろう、柚ちゃんは2度目のシンセサイザー宣言をした。これは、柚ちゃんなりに、1歩踏み出したってことなのだろうか。バンドがもっと良くなるように、表現の幅が広がるように、シンセサイザーを触れるようになりました、って。バンドが空気みたいになりつつある中、柚ちゃんは勇気をだしてまだまだバンドやろうよという宣言をしたのだ。みんなが自分のことばっかり守ろうとしているなか、柚ちゃんは。いたたまれない。無言の空気に耐えられない。柚ちゃんは、みんなが真っ当に音楽を愛している、と信じて疑わなかった。不安はあるだろうが、きっとみんな音楽が大好きなんだ、という思いに賭けて。ごめん。俺がこんな奴で、ごめん。俺は後ろめたくて耐えられなくて、スタジオから逃げ出した。
葵が追っかけてスタジオから出てきた。ちょっと泣いてる。俺は、泣けない。とことん最低なヤツだ。スタジオから少し話し声が聞こえた。
「ありがとう、柚。お前の勇気は決して、無駄にしないから。お前が1歩踏み出してくれたから、俺も勇気が出た。俺も頑張ってみるよ」
いっちゃんの声だ。いっちゃんは柚ちゃんの勇気を無駄にしないと言った。俺も勇気を出すと言った。俺は、どうしても無理そうだよ。
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