テラーノベル
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開門を宣言するように、鐘の音が鳴り響く。
壁門が開く重い音。
そして──
「 進め──!! 」
「第57回壁外調査を開始する!前進せよ!」
エルヴィン団長の号令と共に、
” 第57回壁外調査 “ が開始した。
━━━
出立から数刻。
長距離索敵陣形は上手く機能していた。
煙弾は正しく上がり、隊列も崩れていない。
被害も最低限に抑えられ、順調かと思われた調査。
しかしそれは、一体の巨人によって壊された。
“女型の巨人”
この巨人が、無垢の巨人の群れを引連れてきたのだ。
これにより、右翼索敵班がほぼ壊滅。
調査継続は困難な状況にまで追い詰められた。
しかし、エルヴィンは進路を変えるのみ。
調査は続行された。
━━━
更に数刻時が経ち、調査兵団一行は
“巨大樹の森” に差し掛かった。
エルヴィンの指示により、
荷馬車班並び中列のみ、巨大樹の森へ進む。
残る左翼・右翼は、
それぞれ森を囲う形で待機となった。
「兵長……リヴァイ兵長!」
不安と焦りの交じった声で、
エレンがリヴァイに話しかける。
「……なんだ」
「なんだって……ここ、森ですよ!?」
「中列だけこんな森の中に入っていたら、
巨人の接近に気づけません!」
「右から何か来てるいるようだし、どうやって巨人を回避したり、荷馬車班を守ったりするんですか!?」
エレンの率直な疑問に、ため息混じりに答える
「分かりきったことをピーピー喚くな。」
「もうそんな事出来るわけねぇだろ。」
予想外の返答に、エレンが困惑の色を見せる。
「周りをよく見ろ、エレン。この無駄にクソでかい木を。立体機動装置の機能を生かすには、絶好の環境だ。」
「そして考えろ、そのお前の大したことない頭でな。死にたくなきゃ、必死に頭回せ。」
「……は、はい!」
そんな中レイは、馬を絶えず走らせながら、
森を見上げ、この状況について考え続ける。
(……恐らく、エルヴィン団長や兵長には、
何か考えがあるはず。)
しかし──
この状況について、正しく理解する事は出来なかった。
それは他の班員も同じようで、皆困惑と焦りの表情を浮かべていた。
状況理解もままならない状態で、ひたすらに馬を走らせる。
その時──
後方から黒い煙弾が垣間見えた。
奇行種の接近。
恐らく右翼索敵班を壊滅させた “女型の巨人”
全員の表情が強ばる。
「お前ら、剣を抜け」
低い声。
リヴァイの指示だ。
レイは即座にブレードを抜き、
それに続いて全員が構える。
「いいか、お前ら」
「それが姿を現すとすれば、一瞬だ。」
その声からほんの数秒
木々が激しくかき分けられる音。
野生の鳥が荒々しく飛び上がる羽音。
(……来る)
それらと同時に、ヤツが姿を現した───
後方で戦っていた兵士の血が飛び散り、
凄まじい速度でこちらへ接近してくる。
その姿を目にした瞬間、全員が息を飲んだ。
誰もが戦闘態勢に入り、指示を待つ。
しかし、リヴァイから指示が出る気配はない。
「追いつかれるぞ!」
「兵長!立体機動に移りましょう!」
恐怖と焦りを含んだ声で、口々に叫ぶ。
背後から更に、2人の増援。
しかし、ものの数秒で淘汰されてしまう。
(……仲間たちが、次々に死んでいく)
それでも兵長からの指示は一切出ず、
後方で援護に来た兵士が次々と散っていく。
その状況をただ見つめるしかない班員達は、
己の無力さに歯を食いしばった。
「……兵長!!指示を!!」
「やりましょう…!アイツは危険です!!」
班員たちがリヴァイに何度も呼びかける。
だが、リヴァイは前を向いたまま
ひたすらに馬を走らせていた。
(……兵長がこの状況で指示を出さない。きっとなにか理由がある。)
レイは1人黙り、
リヴァイの考えを理解しようとしていた。
(……理由が、ある、はず。なのに分からない。私はまだ、兵長の思考領域に届いていない。)
言葉は発せられない。
しかし、常に冷静な彼女の表情にも、
焦りが見え始めた。
「……兵長!!指示をください!!」
「このままじゃ追いつかれます!!」
班員たちの
恐怖心・焦る気持ちは、限界に達していた。
「……レイ!貴方からも兵長に言って!!」
ペトラは懇願するような眼差しを、
レイに向けた。
きっと彼女の言葉なら、
兵長にも届くと考えたのだろう。
しかし、レイは一瞬目線を落とし、
やるせない気持ちを噛み締めながらも
前を向いて告げた。
「……私たちの仕事は、エレンを守ること」
「だから皆。このまま走り続けて」
リヴァイの考えは不明だが、
彼女は当初の目的を遂行し続ける事を選んだ。
一瞬 沈黙が広がる
その時──
「全員、耳を塞げ」
リヴァイの低い声。
短く指示を出す。
指示から数秒、音響弾が鳴り響いた。
「こいつの言う通り、お前たちの使命は、そこのクソガキに傷一つ付けないよう尽くす事だ。」
「その時々の感情に身を任せる事じゃねぇ」
「命の限り守れ」
班員たちの面持ちが変わる。
「俺たちはこのまま馬で駆ける。いいな?」
「了解」 「了解です……!」
レイとペトラが返事をする中、
エレンは1人。まだ戸惑い続けていた。
「駆けるって……一体どこまで!?」
後ろを振り返る。
そこに、増援に駆けつけた兵士が2人現れた。
「……また、背後から増援!」
「早く援護しなければ、またやられます!」
取り乱し続けるエレンに、
グンタとエルドが声を掛ける。
「エレン!前を向け!」
「歩調を乱すな!最高速度を保て!」
「なぜ!?リヴァイ班がやらなくて、誰があいつを止められるんですか!!」
血飛沫。
増援に来た仲間が、また1人命を落とした。
「……っまた死んだ!
助けられたかもしれないのに!」
残る1人も戦い続けている。
「まだ1人戦ってます、今ならまだ間に合う!」
「エレン!前を向いて走りなさい!」
ペトラが説得するように叫ぶ。
「戦いから目を背けろって言うんですか!?」
「仲間を見殺しにして逃げろってことですか!」
「えぇ、そうよ!兵長の指示に従いなさい!」
「見殺しにする理由も、それを説明しない理由も分かりません!」
“到底納得できない” と言いたげな顔で、
エレンはこの行動を否定し続ける。
「兵長が説明をすべきでないと判断したからだ!」
オルオも説得に加勢する。
「それが分からないのは、お前がまだひよっこだからだ!」
「分かったら黙って従え!」
エレンは苦虫を噛み潰したような表情で、
目線を落とす。
そしてブレードを戻したかと思うと、
手の甲を噛み切ろうと口を広げた。
それを見たペトラが叫ぶ。
「エレン!何をしているの!」
「それが許されるのは、貴方の命が危うくなった時だけ。私たちと約束したでしょう!?」
しかしその声がけも虚しく、
エレンは巨人化を決行しようとする。
その時──
「お前は間違っていない」
「やりたきゃ、やれ。」
リヴァイが静かに言い放つ。
「コイツは本物の化け物だ。
巨人の力とは無関係にな。」
「コイツの意識を服従させる事は、誰にも出来ねぇよ。」
一呼吸おき、リヴァイが問う。
「選べ」
“自分を信じる” か “調査兵団組織を信じる” か
「俺には分からない。」
「自分の力を信じても、信頼にとる仲間の選択を信じても。結果は誰にも分からなかった。」
「だから、まぁせいぜい。
悔いが残らねぇ方を自分で選べ。」
エレンは、選択に迫られた。
迷っている間にも、
背後の兵士達は次々とやられていく。
迷うエレンを、レイは静かに見つめる。
(……彼がどんな選択をしても、私が必ず守ってみせる。)
(エレンに選択肢を与えた “兵長の選択” を、
間違いにはさせない。)
馬の手綱を固く握りしめた。
エレンは再度、
決意を固めたように手の甲に歯を押し当てる。
(……エレンが、巨人化を選ぶ。)
(こんな1つの困難で……彼にそんな選択をさせるの?それだけ私たちは無力なの……?)
その様子を見たペトラが、
自身の無力さに打ちひしがれる。
だが──
(……いや、諦めない。そんな選択はさせない)
(私だって、レイみたいに……
頼ってって、信じてって、彼に伝えたい。)
彼女は懇願するような顔で、エレンに言った。
「エレン!…… “信じて”」
その言葉に、エレンの動きが止まった。
彼の脳裏に、先日の光景がよぎる──
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