無事に任務も終わり、夕方、少し空
に青色が混ざる頃、また同じ桜の道
を通った。
太「たった一日過ぎただけなのに、もうこんなに花が飛んでしまうんだね。」
敦「ですね、なんか少し悲しいです」
丘の下の川を見つめると、そこには大量の桜が浮かんでいた。
敦「そんなに川を見つめてどうしたんです?入水はやめてくださいね…」
太「…、どうして敦くんはそんなに口酸っぱく自殺を辞めさせようとするのかい?」
敦「たしかそれ、前も聞かれましたね。そんなの、決まってるじゃないですか。僕は太宰さんに死んで欲しくないんです」
太「私情?」
敦「はい、私情です。」
太「…ははっ!」
敦「何…、笑うんですか…」
太「ううん、なんでもないよ」
今まで、私がこう質問をすれば、返って
くる答えは、死ぬのは怖い、だのもう1度
考え直せ、だの、私のことを改めさせよ
うとする者ばかりで、こんなに強く
「死んで欲しくない」
なんて私情を言われたのは初めてだった。
太「君は、変わった子だね」
敦「知ってますよ。そんなこと」
敦「そういう太宰さんも、ですけど」
お互い様だ、とそう言って朝とは一変
した夜桜を2人で見て探偵社に帰宅した。
敦「僕、もうそろそろ帰りますね」
そう言い、眠そうにあくびをした敦
くんは、目尻に涙をためた。
太「私はまだ、眠くないのだけど」
その後、敦くんが少々驚いた顔をした
のは、いつもと違う真面目な顔で、私が
ワガママを言ったからだろう。
敦「はぁ、太宰さんのお願いってなんだか分かりづらいです…。もう少し、ここにいれば良いんですよね」
太「あぁ、そうしてくれたら助かる」
敦「助かる…ってなんです…」
ため息をついて呆れたような表情をしながらもこちらに戻ってくれる敦くん。
夜になって、2人しか探偵社にはいない。
太「敦くん!!膝枕をしてくれないかい!」
少しふざけてそう言うと敦くんは怪訝な
顔をする。
太「上司命令ダヨ」
少しおちょくろうとしただけなのだが。
敦くんは仕方なさそうにソファに座って私に横になるように促した。
唖然とする私を前に、
敦「あぁ、もう!冗談なんですか?太宰さんの冗談ってほんと分かりにくい…」
と息を着く。
私は心の中で冗談だったんだけどね、と思いながらも、敦くんの太ももに頭を乗せて横になった。