「それじゃあホームルームは終わり。次の授業の用意しろよー」
僕が席に付いて数分後、先生はそう言って教室から出ていった。
はあ…この見た目、そんなにひどいのかな…。
面白いかなと思ったんだけど、ここまでバカにされるとは…。
「編入試験合格したなんて、すごいね!」
肩を落としていると、隣から声をかけられた。
慌てて振り向くと、声の主は優しいそうな女の子。
微笑みを浮かべながら、僕の方を見ていた。
「えっと…」
「うちの名前は麗日お茶子!これからよろしく」
麗日さん、か…。
薄い茶色の髪色で、きれいな二重。整った容姿の彼女は、清純派のお姫様と言うよりも明るい女の子タイプのように見えた。
人当たりのいい柔らかい雰囲気で、善人そうな笑顔。
「うん、よろしく…!」
隣の席の人がいい人で良かった…。
ホッとしたのもつかの間、後ろの席から声が聞こえた。
「へえ、編入生ってマジだったんだ。いかにもガリ勉って感じだな」
「ちょっと轟くん、失礼なこと言わんで!」
彼に向かって、麗日さんが言った。
「お前に指図される覚えはねえ」
轟くんと呼ばれた彼は、不機嫌そうにふんっと鼻を鳴らしている。
「ごめんね…彼、口が悪いんよ。自分よりも頭がいいやつは気に入らないみたいで」
麗日さんは代わりに謝るように、申し訳なさそうにそう口にした。
「うるせえな」
「そんなこと言って轟くん、首席の座を取られるかもしれないから、内心ビビってんでしょ」
ふ、不穏な空気…。
さらに不機嫌になった轟くんは、麗日さんを睨みつけている。
麗日さんは全くひるまず、ニッコリと笑顔のまま。
「いや、張り合う相手が増えて楽しみだ」
「チッ…いけ好かないなぁ、ほんと」
「善人ぶってんじゃねえよ」
なんていうか…個性的な人たちだなあ…。
それにしても、〝轟〟って…。
villainsの仲間である轟燈矢君と同じ苗字だ。
燈矢くんは僕より2つ年上だから、もしかして兄弟だったりして。
轟って苗字も珍しいしなあ。
彼を見ながらそんなことを思っていると、「見てんじゃねえよブス」と一蹴された。
ブ、ブス…ひどいっ…。
「やめなって。いい加減怒るで?」
麗日さんは彼に注意してくれたあと、「気にせんでね?」と優しく言ってくれた。
やっぱりいい人だ…。
「ねえ、出久くんって呼んでいい?」
「うん!」
笑顔で頷くと、麗日さんも同じものを返してくれる。
麗日さんはそのまま、後ろの彼を指さして口を開いた。
「この子は、轟焦凍くん」
「きれいな名前だね」
すごくいい響きだな…。
思ったままの感想を伝えると、なぜか彼は目を見開いて顔を赤くした。
けれど、すぐに不機嫌そうな表情に戻ってしまう。
「チッ…うるせえ」
あ、あれ…?
気に障るような事を言っちゃったかな…?
そう心配していると、隣の麗日さんがくすっと笑う。
「轟くん照れてるみたい。いつもそんなこと言われないから、褒められて嬉しいのかも」
え…?
「照れてねえ」
と、とりあえず怒ったわけではなさそう…?
「まあ、悪い人ではないから、安心してや」
麗日さんの言葉に、コクリと頷いた。
よく分からないけれど。せっかくの近くの席なんだし、仲良くなれたらいいな…。
そういえば、さっき首席がどうのって言ってたけど…。
「轟くんは頭が良いの?」
1年の首席は轟くんなのかな?
「今日お前に越された。嫌味か?」
こ、越されたって…僕はそこまで頭がいいわけじゃ…。
ただ、お母さんが数年前まで大学の教授をしていて、幼い頃から付きっきりで勉強を教わっていたくらい。
お母さん、本当にスパルタだったからな…。思い出すだけで恐ろしいっ…。
「さっき、轟くんが主席って…」
「…」
どうやら答える気のない轟くんの代わりに、麗日さんが教えてくれた。
「あー。まあ何度かな。でも、ずっと主席ってわけじゃないし、轟くんより一位を取ってる子がいるから」
「そうなんだ…」
それじゃあ、ずっと同じ人が学年トップってわけではないのかなあ。
「授業もろくに受けないくせに、頭がいいって反則だよね」
…え?
「このクラスにそんな子がいるの?」
「まあ、一人だけ。一匹狼っていうか…生徒会長だから、彼」
せ、生徒会長!?
まだ一年生だよね…?
でも、そういえば昨日、廊下で女の子たちが話してたなあ。
あたりをキョロキョロと見回してみても、そんな人は見わたらない。
今日はまだ来てないのかなあ…?
いったいどんな人なんだろう…。
そんなことを思ったとき、教室の扉が開いた。
入ってきたのは、長身の男の人。
きれいな金髪に、びっくりするぐらい赤い瞳。
アクセサリーをつけているわけでもなく、髪も特に整えているわけではなさそうだけど、それでも彼は美しかった。
一言で言うなら、狼みたいな人だった。
「あ、噂をすれば」
麗日さんの言葉に、はっとする。
あの人が例の生徒会長…?
後ろの空いている席に向かう彼を見ながら、僕はなぜは懐かしさを覚えた。
どうしてだろう…初対面のはずなのに…。
何処かで、会ったことがあるような…だれかににているような。
じっと見つめていると、彼が僕の視線に気づいたのか、こっちを見た。
すると、不機嫌そうに目を細め、鋭い瞳に睨まれる。
「あ?何見てんだよ、お前」
僕の横を通り過ぎながら言われ、ハッとあれに帰った。
つい凝視してしまった…。
「爆豪くん、そんな威嚇せんでよ。この子編入生で、緑谷出久って言うんよ。」
麗日案は、僕をかばおうとしているのか、横から言ってくれる。
目つきの悪い彼は、麗日さんの言葉になぜか驚いた顔を浮かべた。
「みどりや…いずく…?」
僕の名前を復唱したかれに、首を傾げる。
どうしてそんなに驚いているんだろう。
どしどしと、こちらへ歩み寄ってくる彼。
じっと僕を見つめてから、わなわなと口を開いた。
「お前まさか…出久!?」
…え?
『出久ー!』
一瞬、昔の思い出がフラッシュバックした。
懐かしい、幼なじみの記憶。
幼なじみの…。
「俺だよ!勝己!!覚えてねえ…?」
勝己…?
まさか…!
「かっちゃん!?」
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