テラーノベル
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干潮ステージ。霧が濃く、敵の輪郭も曖昧だった。
ひろは、ブキを構えながら、どこか遠くにいるような感覚を抱えていた。
動きは正確。声も出る。
でも、身体の感覚が少しだけ遅れている。
自分が、自分の中にいないような、そんな違和感。
「……カタパッド、左上。処理する。」
恒の声が、左側から届く。
「ナイス。次、ヘビ来てる。右下。」
「了解。」
恒は、ひろの動きが“完璧すぎる”ことに気づいていた。
いつもなら少しだけ迷う場面でも、今日は迷わない。
それが、逆に不自然だった。
——声に温度がない。
——目線が、どこか遠い。
恒は、何も言わずにひろの左側に立ち続けた。
敵のインクが飛ぶ。恒がそれを受け止める。
バイトが終わったあと、休憩室。
ひろはペットボトルを手にしていた。
キャップを開けようとして、指が滑る。
もう一度、力を入れる。
でも、開かない。
恒が、静かに手を伸ばす。
「貸して。」
ひろは、少しだけためらってから渡す。
恒がキャップを開けて、そっと返す。
「ありがと。」
「うん。」
それだけ。
恒は何も聞かない。
ひろも何も言わない。
でも、ふたりともわかっていた。
今日のひろは、少しだけ“遠かった”。
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