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「さっさとこれ、水拭きしなさいよね」
愛莉が当然のように命令してくる。
自分でかけておいて拭けだなんて、どれだけ我儘で甘やかされて育ったんだろう。
私の親とは大違いで……いや、ある意味では“外れ”なのかもしれない。
どちらにせよ、私に拒否権なんてない。
水を拭き終えると、美奈が雑巾を取りに来る。
「ほら、早く雑巾渡して?」
優しいと思った? そんなわけない。
「ほら、あんたの鞄に入れといてあ・げ・る♡」
……何だこいつ。気持ち悪すぎる。
「それでは授業を始めます」
教師の声とともに授業が始まる。
教師が助けてくれたことなんて、一度もない。
見て見ぬふりをするだけの、いわゆる“傍観者”というやつだろう。
それでも、前の教師よりはまだましだ。少なくとも、いじめに加担はしないのだから。
教科書なんて、ここ数年まともに見たことがない。
初日に愛莉が捨てるからだ。
でも、そのおかげで記憶力は妙に鍛えられて、成績は優秀になった。
……それもまた、いじめられる理由なのだろう。
はぁ。
私は、いったい何をしたら“許される”のだろう。
お昼ご飯は、一日の中でいちばん憂鬱な時間だ。
給食費なんて親が払ってくれないし、弁当なんてもってのほか。
教師も給食費を催促してこない。食べていないことを知っているからだ。
でも、空腹そのものは苦痛じゃない。
幼いころから、食べられない日なんていくらでもあった。
憂鬱なのは、昼休みになると他の生徒が自由に移動してくること。
これ以上人が増えると、さすがに面倒だ。
「今日もお昼ご飯食べてないの? そこまで貧乏なのねw」
声の主は優花。
愛莉の親友で、私をいじめ始めた張本人の一人だ。
「まあ、私たちと同じステージに立てない貧乏人に給食費を払えなんて無理かw」
……何を言っているんだろう。
こいつが、私のお金を奪った張本人だというのに。
昔、一度だけ給食費を持ってきたことがある。
そのとき優花が盗んだのがバレて、学校で問題になった。
けれど、優花の親の“金の力”でもみ消された。
それ以来、いじめは加速した。
優花は、私が密告したと思っているのだろう。
少し考えれば、私の言葉なんて誰も信じないとわかりそうなものなのに。
学校が終われば解放される——そんなふうに思っていた時期もあった。
けれど、いじめられっ子に“解放”なんて存在しない。
屋上に呼び出されては、殴られ、蹴られ、カッターで切られる。
「キャー」なんて声を上げられたことは一度もない。
そもそも、私に関心を向ける人間なんて、虐めたい連中くらいなのだから。
家に帰れるのは、いつも夕方の五時過ぎ。
親が帰ってくるのは七時頃。
それまでに料理、洗濯、掃除、その他の家事を全部終わらせなければ、怒鳴られるし、殴られる。
同級生の拳とは違い、父親の拳は桁が違う。
躊躇がないのか、それとも単に力が強いだけなのか。
何年殴られ続けても、あの痛みだけは決して慣れない。