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私がリクエストしたやつだ!!やったあああ 神作の予感!!!
『落ち零れ』
―懐かしい…匂いがした。
以前も嗅いだことのある、優しく強い匂い。
雨が地面に打ち付ける。それでも少年は足を止めなかった。
―前に御前に会ったのはいつだったか?
もう大分昔だ。よく覚えてない。それでも、涙が出た。何があっても泣かなかったのに。
足を止める。地面に打ち付ける雨がいっそう強くなる。
導かれるように走ったその先には…
新たな天使が居たのだ…。
落ち零れ
―生まれるほんの直前、大好きな音がした。
一緒に居ると落ち着く。でも、泣きたくなるような優しい音がするんだ。
俺はその音が大好きだった、安心するから。
「生まれてきてくれてありがとう」
泣きたくなるような優しい音をさせる少年が微笑みながら、赤子の自分を抱く。
「御前の名前は善逸だ。善い人を守り抜く強い天使になって欲しいな」
少年は微笑みながら自分の頭を撫でる。
「俺は炭治郎だ。暫く御前を世話するからな」
炭治郎は嬉しそうに微笑む。
赤子の俺は、「あー」とか母音しか出ないので、ただ嬉しそうに撫で受けた。
……赤子の時は……幸せだったな。
俺は天使とは言えなかった。人の命も守れぬ弱い天使だった。
そのせいで周りの天使からは蔑まれ、唾を吐かれた。
「……今日も失敗…か」
今日の仕事は、といっても俺の仕事は単純な仕事だった。人を守る。それが俺の仕事。でもその単純な事が出来なかった。仕事になった途端、手が、体が動かなくなる。
「どうやったら…優秀な天使になれるのかなぁ」
泣きそうな声を出し、慌てて空を喘ぐ。でも、 答えてくれる仲間なんて誰も居なかった。
「……これで、何人目だろう、命をドブに捨てたのは…」
無駄にしてしまった命を指折りて数える。でも数え切れないほどの命を無駄にしてしまったなと改めて思う。
「悪魔の方が俺向いてるかもしれないな」
ははっ、と乾いた笑い声で苦笑する。ポロポロと涙が零れる。拭っても拭っても止まらない。ただ、白いスーツが濡れていくばっかりだった。
「なんで…なのかなぁ…俺…ぇぐ…うぅ…落ちこぼれ…だよなぁ……」
暗く冷たい廊下で蹲る。お月様のような金髪の髪が月明かりに照らされて、なお一層輝く。
すると、1枚の白い羽根が落ちてくる。
「善逸?そんなに泣いて何があったんだ?」
小さい時から俺の世話をしてくれる炭治郎が、俺の肩にぽん、と手を置いて心配そうに尋ねる。
「たん…じろぉ…ひぐ……俺……落ちこぼれだよなぁ……」
「落ちこぼれって、どうして?」
「だって俺ぇ……ぇぅ…まだ……一度も人の命を救えてないんだよ……それで……他の天使から……色々言われて……」
号泣する俺を炭治郎は「そうかそうか」と優しく背中を撫でてくれる。やっぱり、炭治郎からは優しい音がしていた。
そのお陰で、大分落ち着いてきた。
「落ち着いた?」
「うん……炭治郎の音のお陰」
「それなら良かった」
炭治郎はゆっくりと白い翼を収める。
「善逸はきっと、磨けば光るんだ。今は光らなくても焦ることは無いと思うぞ」
「……?」
「最初から完璧な天使なんて居ない。天使じゃなくても最初から完璧な人なんて居ないと思うんだ。俺だって、最初は人の命を救えず、善逸みたいに蹲って泣いていたよ」
懐かしいなぁ、と微笑む。
「炭治郎もそんな時があったのか?」
「そりゃああったよ。そして俺も練習を重ねて今の俺になったんだから」
「俺も練習すれば炭治郎みたいになれるかな?」
「きっとなれる。そうだ、今度俺の仕事に着いてくるか?見て学ぶこともきっとあるはずだからさ」
炭治郎は微笑みながら、提案する。
「…!着いていきたい!」
幼子に戻ったようにパッと顔を明るくする。
「じゃあ、決まりだな」
「うん!」
楽しみだなぁ、とワクワクする。さっきまでの沈んだ気持ちはどこかへ行ったようだ。
「今度、人間界の扉の前に集合しよう」
「OK!」
今の俺は、蔑んできた天使達を見返してやろう、と思いでいっぱいだった。