TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

俺の狙いは、見事にビンゴした――先輩方が相手にしないようなお客様ばっかりだったが、少しずつ指名客が増えてきて、Wブッキングすることもでてきた。


「レインくん、1番テーブルのお客様から、指名いただきました!」


恭しく頭を下げた大倉さんが、テーブル脇にやって来て、にこやかに告げる。


「わかりました。すぐに向かいます」

「え~っ、ここからがいいところだったのにぃ!」

「ゴメン。この話の続きは、絶対に今度しよう」


ニッコリ笑って小指を出すと、お客様はしぶしぶといった表情を浮かべ、それに絡めてくれた。


「次に指名してくれたときに、どれくらいキレイになってるか、すっげぇ楽しみにしてる」

「そんなこと言われたら、俄然ヤル気が出ちゃうな。分かったわよ、頑張る。あ、お会計お願い」


俺たちの邪魔にならないところにいた大倉さんに、お客様が声をかけながらカードを手渡すと、お預かり致しますと静かに告げ、キャッシュしに去って行く。その後を追うように立ち上がり、颯爽と歩きながら声をかけた。


「1番のお客様、かなり待たせちゃったか?」

「いや、大丈夫。レインくん頑張ってるね、短期間で一気にお客様がついて、凄いって思う」


唐突にぴたりと止まった、大倉さんの足。さっきのお客様の名前と、やり取りをメモっていた俺は、それに気づけなかったせいで、大きな背中に軽くぶつかってしまった。


「ぅおっ、悪い……」

「こっちこそ済まないね。いろいろと」


顔だけで振り向き、それはそれは切なそうな表情を浮かべ言うもんだから、二の句が継げられず、固まるしかない。


いつもの大倉さんなら、何かと変なコトばかり言って、俺をイライラさせるのに、この態度は何なんだ?


「……ありがと、レインくん」


愛の告白をせず、普通に感謝の言葉を言って、カウンターに向かって行った姿に眉をひそめ、首を傾げるしかない。


「面、食らっちまったじゃねぇか。驚かしてくれるなってぇの!」


100均で購入したメモ帳をぱたんと閉じて、ポケットに仕舞いこみ、急いで1番テーブルに向かった。


コッチの調子を狂わせることをしてくれるなよと、心の中でボヤキながら――






***


日サロのオネェ店長に聞いたこと――昼間は日サロで店長をしているが、夜はゲイバーで女装をし、やってくるお客様とイチャイチャしているらしい。頭を坊主にしているのも、いろんなカツラを被るためだとか。


多分そういう仕事というか、趣味をしているだろうと目論んだので、思いきって質問してみたんだ。


『あのさどうやって、完璧な女になろうとしているんだよ?』


元が男だからこそ、それはそれは見えない努力で、女になっているハズ。


若干引き気味になりながら質問した俺の顔を見て、ニヤァと薄ら笑いを浮かべたオネェ店長は、いきなり店を閉めてレクチャーをしてくれた。


化粧品からファッション・ダイエットにいたるまで、ありとあらゆる知識を教えてくれたのだが……その量がものすごくて覚えられないものだったから、必死になってメモをしまくって。


「次にお店に焼きに来たとき、今年の秋冬のファッションとネイルについて問題を出すから、予習しなさいよね」


なぁんてことを言われてしまったせいで、必然的に勉強をする羽目となったんだ。お陰で女が興味を持つものに対しての知識が深まったから、それを元にお客様との会話に花が咲く結果となった。


頑張った成果が成績に加算され、3ヵ月後にナンバーワンになった俺。


実力が物をいう世界だから、ここぞとばかりにそれを使うべく、以前ミーティングで提案したお願いを先輩方に促し、無理矢理って感じだったけど、やってもらえることになって、店の経営が上昇気流に乗りかけたのに。


大倉さんの顔色がどこか憂いに満ちていて、すっげぇ気になったんだ――


前はウンザリするくらい愛の告白をしてきたのに、現在は労いの言葉だけ。たまにキッチンで洗い物をしていたら、さりげなく尻を触ってきたのに、今はただ横を通り過ぎるのみ。


「なぁ、大倉さん」


あまりの素っ気なさに、つい声をかけてしまった。


「なんだい、レインくん?」


「その……俺、何か気に触ること、知らない間にしてるとか、ないかな? です……」


「何もないよ。それよりも頑張りすぎて、倒れないでほしいと思ってね。いつもありがと」


俺の顔を見ず呟くように言って、その場を逃げるように離れていく大倉さんの後姿を、じっと見つめてしまった。


「俺のこと、やっと諦めてくれたのか? それをさりげなく、素っ気なさで表現しているんだろうか?」


女心が分かっても、男心は分からねぇ……特に大倉さんは核心に迫ろうとすると、笑って誤魔化すし。裏の顔を見るには、あの人のことを見張っていないと、それを発見することが出来ないんだ。


今は下っ端の仕事をしなくなったせいで、先に帰ったりしているから、普段の仕事中なんて忙しすぎて、大倉さんにまで気が回らない状態。


「告白地獄から解放されたっていうのに、何なんだよ……」


俺のこと嫌いになったのかなんて、口が避けても聞けねぇしな――

エゴイストな男の扱い方 レモネード色の恋

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

35

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚