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手打ちの塩大福(笑)
めっちゃ笑ったし、ちょっと泣きそうにもなったわ……! 芽生が泣きながら「京ちゃんが怪我したって聞かされたらじっとしていられるわけないじゃない!」って叫ぶとこ、感情まっすぐでめちゃくちゃ刺さった。で、その直後に京介が慌てて抱きしめるギャップよ…ずるいわ~。塩大福でケジメつける発想も、芽生らしくて好き。長谷川社長と静月さんの電話シーンでほっこりしたあとの、次回への布陣も気になる!次話も楽しみにしてる🔥
盛大な溜め息に振り返った芽生の視界に、大好きな京介の姿が映った。
部屋に入ってすぐの時には京介の姿は見えなかったはずだ。とすれば、あえて死角に入っていたのだろうか? でも何故?
そう疑問に感じながらも、芽生は「京ちゃんっ!」と彼の名を呼んで、駆け寄らずにはいられなかった。
怪我をしたと聞いていたのに、パッと見、京介はどこにもそんな様子はなくて、ひとまずホッとした芽生である。でも、すぐさま服で見えないところに怪我を負っているのかも? と思い至って不安に駆られた。
「京ちゃん、怪我はっ? じっとしてなくて平気なのっ!?」
四面楚歌に思えていた状況の中、周りを怖い顔の男性たちに囲まれているのも忘れて、芽生は京介の身体をペタペタと触りまくる。
途端、周りがザワザワし始めたのだけれど、ちょっぴり殺気立ったその雰囲気にも、京介の安否確認に夢中な芽生は気付けない。
いつの間にそばへ来ていたのだろう? 芽生と京介のそばに千崎がいて、咳払いとともに京介から芽生のことを引き剥がした。
「千崎さん……?」
いつもなら少々スキンシップをはかったところで目をつぶってくれるはずの千崎なのに、今日はいつもに増して芽生のことを苦々しい表情で見下ろしてくるのは何故だろう?
その雰囲気に気圧されて、芽生が京介を見上げたら、京介も何だかとっても怖い顔をしていた。
「あ、あの……京、ちゃん……?」
そういえば、いつもなら芽生が駆け寄れば、呆れながらもすぐさま抱きしめてくれる京介なのに、今回はそれがない。ばかりか、物凄く怖い顔で見下ろされていることに、芽生はにわかに不安になった。
(怪我のせいでピリピリしてる?)とふと思ったけれど、どうやらそういうわけでもなさそうな……。
「三井、木田、佐山、手間ぁ掛けたな」
そればかりか、芽生をだましてここまで攫ってきた(?)三名に労いの言葉まで掛ける京介に、芽生はますますわけが分からなくなる。
京介からの心遣いに、皆を代表したみたいに三井が「いえ、カシラのご命令とあればいくらでも」と恭しく頭を垂れて……。その様子を見ていた芽生は「私をここまで攫ってきたの、ひょっとして京ちゃんの指示だったの?」とつぶやかずにはいられない。
「もしかして……怪我したっていうのも、嘘?」
心配したのに! と思えば、口調が非難がましくなってしまうのは許して欲しい。
「怪我ぁ? 何のことだか分かんねぇーけど……芽生。俺は何があっても家から出るなって言わなかったか?」
なのに、京介は芽生の質問に答えてくれないばかりか、逆に聞いたことのないような低い声音で「何、のこのこ誘い出されてんだよ? あ?」と、問い掛けてくる。それは昨夜千崎と話していた時の京介を思い起こさせて、芽生は何だかすごく悲しくなった。
「言われ、た……」
小さな声で弱々しく答えた芽生に、京介はなおも怖い顔のまま続けるのだ。
「だったら何で、ここにいる?」
芽生は京介の尋問口調に、泣かないようグッと唇を噛みしめた。
「こら! ……んなことすんな! 唇が切れちまうだろ!」
芽生が言うことを聞かなかったことを物凄く怒っているように振る舞うくせに、芽生が自分を傷つけかねないことをしたらすぐさま芽生を甘やかすみたいに頬へ手を当ててくる。そんな京介に、芽生はとうとう我慢出来なくなって泣きながら感情をぶつけていた。
「言、われた……けどっ! 京ちゃ、が怪我したって聞かされたら、じっとしていられるわけ……ない……じゃない!」
「あ、おいっ、芽生……っ」
ポロポロと涙をこぼしながら訴える芽生を、京介が慌てたようにギュッと抱きしめてきた。そうしてそのまま、「三井……」と低めた声で先ほど労ったばかりの配下の名を呼ぶ。
「はい、何でしょう?」
「こいつ誘い出すのに、俺が怪我したとか嘘ついたのか?」
京介の威圧的な問い掛けに、慌てたように三井とは別の声が被さった。
「お、俺がっ! 独断で嘘つきやした! アニキは知りません!」
京介に抱きしめられている芽生からは見えないけれど、恐らくこの声はマンションに来た木田だろう。
「いや、木田に神田さんの誘い出しを任せたのはわたくしです。……咎は自分にあります」
そんな木田をすぐさま庇う三井の声がして、その雰囲気に我慢出来なくなったのだろう。
「あのっ。カシラ! 姐さんに聞けばわかると思いますが……俺が彼女をぞんざいに扱ったのをアニキが諌めてくれましたっ! だから……三井のアニキは姐さんを傷付けるつもりなんて微塵もなかったんです! 誓いやす!」
恐らく佐山が、言わなくてもいいのに……と言う罪の告白をしてしまう。
「芽生、本当か?」
京介の言葉に、芽生はどう答えたらいいのか分からなくてオロオロと視線を彷徨わせたのだが、どうやらそれを【肯定】と受け止めたらしい。
「何があってもコイツに危害を加えるような真似はすんなって言ってあったよなぁ?」
低められた声に呼応するように、芽生を抱きしめる京介の腕に力が込められる。
今にも佐山に殴り掛かりそうな不穏な空気を感じた芽生は、京介の胸をトントンと叩いた。
その振動に、京介が険しい顔のまま自分の方を見下ろしたと同時、眉根を寄せて言う。
「京ちゃん、そんな顔しちゃ嫌だ」
「芽生……」
「怖かったのは確かだけど……私、怪我とかしてないよ? だから……三人を許してあげて?」
「けどな、芽生。俺たちの世界にゃ、ケジメってぇのが必要なんだよ」
「じゃあ……」
芽生は京介の言葉にちょっとだけ考えてから、「私、『たちばな庵』の塩大福が食べたい!」と頓珍漢なことを言った。
「は? いきなり何だよ子ヤギ」
たちばな庵はこの辺ではちょっと有名な和菓子屋で、中でも今芽生が言った塩大福は人気商品で、昼過ぎには売り切れてしまう。
「みんなで二〇個! ここにいる全員で食べられる数買って来てくれて……ついでに美味しい緑茶も用意してくれたらそれでいいことにしよう? ダメ?」
たちばな庵の塩大福は、一日限定三〇個。それを二〇個も確保しろと言うのは、実は京介にぶん殴られるよりも過酷な条件だということに芽生は気付いていない。
ちなみに相良京介が組長を張っている相良組では、身体を欠損するような行為――指詰めなど――は禁止されている。
「あ、あの……姐さん……俺たちはカシラに気が済むまで殴……」
それで佐山が、思わず「殴られる方がマシ」だと異議を唱えようとしたのをギロリと睨んで黙らせると、京介が訳知り顔でククッと笑った。
「テメェらから酷い目に遭わされたコイツがいいっ言ってんだ。今回の件はそれで和解成立にしてやるよ。みんなもそれでいいよなぁ?」
京介の言葉に、あちこちから「構いません」とか「はい!」とか「塩大福楽しみです!」とか肯定の声が上がって、芽生はホッと胸を撫で下ろした。
***
「まぁそれはそれとして、だ――」
腕の中に囲ったままの芽生を、力を緩めて真正面から見下ろすと、京介が声のトーンを低める。
「子ヤギは塩大福、お預けな?」
「えっ!?」
提案したのは芽生なのに、何故そんな意地悪を言うの? と芽生が非難がましく眉根を寄せて京介を見上げたと同時、ピシッとデコピンをされてしまった。
「痛いっ」
じんじんと痛むおでこを押さえて京介を睨んだら、「俺の言い付け守れなかったくせに、褒美があると思ってんのか、バカ娘」と怖い顔をされる。
「でもっ」
「でももカカシもねぇわ。お前の命に係わることだぞ? 分かってんのか?」
今まで命を狙われるような生活なんてしたことのない娘だったから、芽生にそういう感覚が薄いのは京介にも分かっていた。分かっていたからこそ、散々出掛けに釘を刺して……それでも気になったから組員を使って試すような真似までしたのだ。
なんせ放火犯の目的だって不明なままなのだ。芽生自身が命を狙われた可能性だってあるし、真相がハッキリするまでは自分のそばへ置くことになる。そうなれば京介自身を狙う輩からターゲットにされる可能性だってあるのだから、嫌でも警戒してもらわなきゃ困るのだ。
なのに――。
まさか今朝の今でこんなにいとも容易く芽生が誘き出されてくるなんて、誰が考えるだろう。
あえて部屋のキーを渡さずに身動きを封じたというのに、有事の際、マンション内へ逃げ込めないだけ、キーを持たせていない方が悪手に思えたほどだ。
「とりあえず、これ」
そう考えながら、自宅マンションのスペアキーを芽生に渡すと、「もう出来たの?」と小首を傾げられた。
まぁ今朝の段階ではいつ出来るか分からないと言ってあったカードキーだったから、当然と言えば当然の反応だ。
「バカ娘がほろほろ出歩かねぇーよう、渡さなかっただけだ」
「えっ」
「効果なんてなかったがな」
はぁーっと大きく溜め息を吐いた京介に、芽生は分が悪いと思ったのだろう。それ以上、スペアキー隠匿については抗議の声を上げなかった。
(それにしても……)
京介はそんな無防備な芽生を見下ろして思案する。
(やっぱコイツ一人で留守番させんのは心配だなぁ)
かといって、若い衆を家に差し向けて、彼女と過ごさせるのは何だか危なげだと思ってしまう。
しばし考えた京介は、携帯を取り出すと、自分が一番信頼のおける相手に頼ることにした。
***
「はい、長谷川建設、長谷川です」
電話番兼経理としてそばに置いている、恋人の朧木静月は、未だに電話に出るのは苦手なようだ。
自分がそばにいると、チラチラとこちらを見て視線だけで『ごめんなさい、将継さん。お願いします』と訴えてくる。
その、小動物みたいな視線が可愛くて、将継は社長としては失格だと思いつつも、ついつい静月を甘やかしてしまう。
『おう、長谷川か。俺だ、俺。仕事中に悪ぃーな』
出てみれば、いわゆる悪友の相良京介だった。
「なんだ、オレオレ詐欺か……」
声ですぐ、相良だと分かったくせに、わざとそう揶揄えば、電話口でククッと笑う声がした。
『情ねぇこと言うなよ。俺と長谷川の仲だろ』
悪友は、あくまでも名乗るつもりはないらしい。
「何の用だ、相良」
仕方なく将継の方から折れてやったら、『なぁ長谷川よ。お前、向こう数時間、そこ動く予定はねぇか?』と問うてくる。
そこ、とは会社のことだろう。
そういえば、いつもなら携帯の方へ直接掛けてくるはずの相良が、珍しく会社の電話を鳴らしたのも、自分が在社しているかどうかを確認したかったからかも知れない。
「出る予定はないが……なんかあるのか?」
将継の言葉に、すぐ前の席へ座る静月が小首を傾げる。さっき電話口で相良の名を呼んだので、電話先の相手が自分の知り合いでもある男だと分かって、気になるんだろう。そんな静月を安心させるみたいに微笑んでみせた将継に、相良が言う。
『じゃあ、今からちぃーとそっち行くわ。美味い和菓子持ってくからそのつもりで待っててくれや』
***
京介は電話を終えるなり、芽生に「出かけるぞ」と声を掛けてきた。
いつもなら石矢の運転で出掛けるところだが、今日は佐山が指名されて、強面の皆さんに甲斐甲斐しく見送られる形で、よく分からない事務所(?)をあとにした芽生である。
「あ、あの……京ちゃん?」
さっきの電話の相手は、恐らく昔京介とよく児童養護施設『陽だまり』を慰問してくれていた長谷川社長だろう。
なんとなく話の流れで彼の元へ向かうことになったのは分かった芽生だったけれど、(どうして私も?)と思わずにはいられない。
途中『たちばな庵』へ寄ってくれたので(塩大福!?)と期待した芽生だったけれど、残念ながら今日の分はすでに売り切れていた。その事実に佐山が恨めしそうに芽生を見てから、渋る店主に結構無理を言って明日の塩大福二〇個の予約を入れているのを横目に、芽生は京介が女性売り子に「これとこれ」と指さしている練り切りが並んだショーケースへ視線を移す。
椿、水仙、蜜柑などを模した上品な形状に吐息を落としていたら、愛らしい兎と目が合った。
「あー、あとこれも」
京介がそれも選んでくれたのを、自分が買ってもらったわけでもないのにホクホクとした気持ちで見つめていたら、「世話になんのに手ぶらってわけにゃいかねぇからな?」と頭をグシグシ撫でられる。
(京ちゃん、長谷川社長に一体なんのお世話をお願いするつもりかな?)
「ありがとうございました」
綺麗にお辞儀する和装の男女に見送られながら、芽生は京介が手にした『たちばな庵』の紙袋を見詰めて小首を傾げた。
水羽凛
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