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僕は杖を空に掲げ、兵士たちに向かって堂々と宣言した。

彼らの激励に来たのではない。

この戦争を終わらせに来たのだと。

ただの貴族の発言だったら、ただの妄言だと彼らも相手にしなかったかもしれない。

だけど、僕は三百年前、秘術を使って戦争を終わらせた大魔術師の子孫。

再び、三百年前と同じ光景がみられるのだと期待している人も多いだろう。


(前の僕はそうした。けど、それはマジル王国の思うつぼ)


エレノアの話だと、前の僕は秘術を使って、前線一帯を更地にしたのだという。

魔法を放った僕以外、全員が焼け死んでカッラモンドとなり、マジル王国の繁栄の礎になったという。


「僕は皆さんに勝利を約束します!! マジル王国に思い知らせてやりましょう!!」


僕は士気が上がった兵士を更に煽った。

彼らは僕の発言で気分が高まり、声を揃えて「ソルテラ伯爵」と僕を呼んでいる。

熱気が少し収まったところで、僕はその場から離れた。


「オリバーさま」


離れてすぐ、エレノアが心配そうな顔で僕を見つめていた。

十度も僕のために【時戻り】をしてくれたメイド。

他人のためにここまで苦労してくれた女性に初めて会った気がする。


「あの……、本当に終わらせることができるのでしょうか」

「終わらせるよ」


僕の服の裾を摘み、エレノアは震える声で言った。

彼女はカルスーン王国が滅亡する経緯を見ていて、五年間、マジル王国で生活をしていたという。

誰かと結婚していた話は聞いたけど、相手や生活の様子は頑なに話してくれなかった。

きっと夫に暴力を振るわれ、嫌な思いをしていたのだろう。

だから、僕の元へ【時戻り】してくれたのだ。


「エレノアに辛い思いをさせたくないから」

「オリバーさま」

「君の長い時間の旅は、ここで終わらせる」

「……はい」


エレノアは満面の笑みで応えてくれた。

ああ、なんて可愛らしいんだろう。

出会った頃の奥二重な彼女もクールな印象があって魅力的だったけど、化粧を施した彼女は目元がぱっちりしていて、愛らしい雰囲気を醸し出していた。



「お待ちしています。一緒に屋敷へ帰りましょう」

「うん。行ってくるね」

「行ってらっしゃいませ。オリバーさま」


僕は宣言通り、戦争を終わらせるため、兵士の案内の元前線へ向かう。

戦場は危ないから、エレノアとはここで別れる。


(この秘術は、マジル王国の思惑、祖国の名誉のためじゃない)


一人になった僕は、秘術の呪文を頭の中で繰り返す。


(これは僕を救おうとしてくれたメイド、エレノアに捧げる)


そして、この秘術をエレノアに捧げることを誓った。



「伯爵殿、こちらでございます」


馬に少し乗り、僕たちは戦場へ着いた。

だけど、僕がいるのは攻撃が飛んでこない安全地帯。

少しでも前へ進めば、戦闘に巻き込まれるだろう。


「案内ありがとう」

「我々は歴史的瞬間をこの目にするのですね」

「そうだね。僕に何かあったら、エレノア……、僕のメイドのところまで運んでくれないか」

「はっ、承知いたしました!」


僕は案内してくれた兵士に、その後の介護をお願いする。

身体に溜め込んだ脂肪を全て魔力に変換する秘術。

これは身体にかなりの負担を要する。

魔力に変換した後、僕はしばらく身体を動かせないだろう。

数日、意識がないかもしれない。

秘術を放った後は、基地で待ってくれているエレノアに任せよう。


(あんな大口叩いたけど、これが失敗したら、エレノアは再び【時戻り】をしないといけない)


術を放つ直前、僕はふと失敗したらどうしようという弱気な考えが浮かんだ。


(いや、弱気になってどうする。この戦争を終わらせられるのは僕しかいないんだ!)


僕は首を横に振り、杖を空へ掲げた。

空は雲一つない晴天で、戦争をしているにはもったいない日和だ。

この先で戦っている人々にも、家庭がある、家族がいる。

きっと帰りたい場所がある。


「体内にある魔力、溜め込んだ魔力よ! 僕は全てを次の魔法に捧げる!!」


僕は大声でそう唱えると、体内にあった魔力の器が全てひっくり返った感覚がする。

直後、体内が火であぶられたかのように熱くなる。

熱い、熱いと我慢していると、突然身体が軽くなった。

僕の杖の先には膨大な魔力がある。

魔術師を百人束ねても集められるか分からない量だった。

これが一つ目の秘術。

そして、僕は次の魔法を放つ。


「この場で戦う皆を――」


僕はこの膨大な魔力を火球を放つのではなく、別の魔法に捧げた。

それはカルスーン王国でも数人しか使えない、高度な魔法。

せいぜい壊れたものを直すことしか出来なかったけど、僕の先祖はその魔法の力を水晶に込めた。

先祖が出来るのであれば、僕だって――。


―― 魔法は攻撃魔法だけではない ――


頭の中に懐かしい声が響いてきた。

ローベルト・アレ・ソルテラ。父の声だ。

父は攻撃魔法が得意ではないと、ソルテラ家の落ちこぼれだと嘆いていた僕にいつもこう言って励ましてくれた。


―― 魔法は無限の可能性を秘め、時に奇跡を起こす ――


「帰りたい場所へ【時戻り】させよ!!」


僕は規格外の【時戻り】の魔法を使った。

これが僕の作戦。ソルテラ家の新たな武器”第三の秘術”である。

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