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琴寧
38
#織田信長
常陸之介寛浩
173
ーーーーー
それから、しばらくの時が流れていった。
「方円……聞いたか!!!」
父上が、勢いよく声をかけてくる。
「……なんでございましょう」
「晴……ではない、もう信玄だったな」
父上は、思い出したように言い直す。
「あやつ……村上に大負けしたぞ! 笑」
そして、楽しそうに声を上げた。
「上田原でぶつかって、あのバカ息子達と共に追放計画を実行していた板垣と甘利を、討死させたようじゃ!!!」
「ガハハ!!ざまあないのおっ!!」
そう言うと、父上は楽しそうに酒を飲み始めた。
「ほう……村上がね……。」
私は、静かに尋ねる。
「今の当主は、たしか村上義清殿でしたか……??」
「うむ……小笠原殿も村上殿の元へ、今お世話になっておるそうじゃ」
父上は、酒を口に運びながら続ける。
「定期的に、あの女中が情報を調べてきてくれるからのお……」
「もうしばらく……様子を見ます」
私は、少し考えてから答えた。
「……まだ、その時ではない気がするので……。」
「わかった……笑」
父上は、また豪快に笑った。
「ガハハ!!」
ーーーーー
「……ふむ」
私は再び庭に出て、悩み込んでいた。
村上義清。
小笠原長時。
そして、武田家に諏訪家。
今はまだ、動くべき時ではない。
そう考えていたところへ、女中がやってきた。
「あら……どうしたの?」
私が声をかけると、女中は深く頭を下げた。
「…………姫様に、お詫びせねばならぬことが……」
「……?」
ーーーーー
「お詫びしないといけないことって……?」
部屋へ戻ると、私は女中に尋ねた。
女中は、しばらく口を開けずにいたが、やがて震える声で話し始めた。
「っ……申し訳ございません、姫様」
「私は……ある夜に、信玄様の企てを、たまたま聞いて知っておりました」
「それなのに……私はあの時、何もできなかったのです!」
「そのせいで姫様は……姫様は……。」
女中は、悔しそうに顔を伏せる。
「それと……信繁様のことは、どうかお許し願えませぬか……?」
「最後の最後まで……止めておりましたので……。」
私は、静かに女中を見つめた。
「……それは、ならないわ」
「最終的に、あの男に従った以上……
次郎兄上達も同罪なの。」
わずかに目を伏せる。
「…………罪は、償ってもらうわ……!!」
その瞬間。
「ぐっ……!」
また、頭に痛みが走った。
「……また、頭……が……!!」
「姫様!?」
視界が揺れる。
そして――
バタッ……
「姫様……!!」
女中が慌てて駆け寄る。
「誰か!!!」
「また姫様がお倒れに!!」
ーーーーー
信虎は、今川義元様の部屋を訪ねていた。
「よもや……また、倒れるとは……」
婿である義元様が、心配そうに呟かれる。
「婿殿には、ご心配とご迷惑をかけ続けておりますな……」
信虎は、深く頭を下げる。
「ご迷惑などとは、とんでもない……」
義元様は、穏やかに答えられた。
「我が妻も、とても心配して気にしておりましたし……。」
「わしは……あのバカ息子達が、許せませぬ……!!」
信虎は、悔しそうに拳を握る。
「わしは、自分の行いゆえ仕方がありませぬが……」
「方円には、なんの罪もないというのに……。」
「舅殿……!」
義元は、信虎をただただ見つめ。
(流石に……心に来る……。)
(今のままのほうが、儲かるとはいえ……
身内には、もう少し優しくするかな……。)
(後悔してからでは遅いからの……ほほほほ……)
そこへ、やってきた太原雪斎殿が口を挟さんだ。
「拙僧、実は耳に挟んだことがありまして……」
「むっ……雪斎、いたのか」
義元様が驚いたように振り返る。
「はっ……たった今、来たところでございます」
雪斎は一礼し、続ける。
「その耳に挟んだことと言うのが……」
「追放したのは……姫君の才を恐れて、と聞いております!!!」
「なにっ……!!!」
信虎が、思わず声を上げた。
「ほう……才とな?」
義元様も、興味深そうに尋ねる。
「ええ……槍の才に優れているところを、たまたま見ていたようです。」
「……あの飯富虎昌を、試合とはいえ倒したのは誠でごさいますか?」
雪斎が信虎へと視線を向ける。
「その通りでござる……」
信虎は、静かに頷いた。
「追放される少し前でござる……」
「その後すぐ、信繁とも試合をしましたが……互角に渡り合っておりましたな……」
「信玄のやつ……見ておったとは!!!」
「ほほ……あの姫君がのぉ…」
義元様は、少し驚いたように呟かれる。
「だが、記憶が無い以上……」
「おそらくは、その才すらもう……」
「はっ……」
雪斎様も、静かに儂に頭を下げた。
「心から同情いたします」
「殿…あの姫君には、せめてなんの苦労もなく、穏やかに暮らせるようにいたしましょう。」
「うむ……」
義元様も頷かれる。
「もう少し姫らしい生活を送れるよう、すぐ手配いたす。」
「ありがたい……!!」
信虎の目から、涙がこぼれた。
ーーーーー
???
「目覚めよ!!! 方円」
「導かれた我が力を、貸してやろう……!!!」
「この” 正蛇” がお前の復讐を果たさせてやろう……」
「代償として、幼き頃の記憶は、既にいただいておるからな」
「まあ、流石に心が痛んだからの……」
「奪ったのは、全てではない……!」
「おそらく、頭が痛むのはそのせいだわ」
「すべて奪っても良かったのだが……笑」
「復讐の理由も消えてしまうと判断して、
残したものが少し悪さをしていたようだ……」
「あと、今話しているこの瞬間の記憶は、すべていただいていくぞ」
「ガハハハハ!!!」
ーーーーー
~そして、さらに時が流れた~
「方円……あの後、数日眠りこけるとは……」
父上は、心配そうに私を見つめていた。
「そのあとも……全く動かなかったの……」
「この数ヶ月、ほとんど寝て過ごしていた」
「ご心配をおかけしました……。」
私は、静かに頭を下げる。
「寝ている時……」
「……なにか、夢を見ていたような気がします……。」
「思い出せませぬが……」
「そうか……」
父上は、少し安心したように頷かれた。
「……無理して思い出さぬほうがよかろう」
「また倒れるやもしれぬ」
そして、ふと思い出したように続ける。
「それと……村上義清だが……。」
「また砥石城で、信玄を負かした笑」
「そこまでは良かったのだ…」
「また酒を楽しく、『ざまあないのお』と
酒を飲めていたのだが……。」
父上は、そこで表情を曇らせた。
「だが……そのあとすぐ、砥石城を奪われたようだ…。」
「……さらに新しい知恵者を、招いてな……!」
「屋敷で見たという、山本とかいうやつの仕業であろう……。そのようなやつ屋敷には以前おらなんだ。」
「気になったゆえ雪斎殿に聞いてみたが、山本勘助という男で、今軍師を務めているらしい。」
「さらに、その男が真田幸隆という男を武田家に招いたそうじゃ。」
「砥石を奪ったのはその真田らしい僅か500で落としたそうだ。」
「…………ほう……。」
私は、静かに呟く。
「やはり、村上だけでは手が足りませんか……」
「ですが……」
私は、ゆっくりと顔を上げた。
「どうやら、時が来たようですね!!」
「……方円???」
父上が、戸惑ったように私を見る。
「村上と小笠原に接触する口実ができました。」
「ほかの人物に動かれる前に、すぐ動くといたしましょう。」
「方円……???」
父上の声を背に、私は指先で槍の柄をなぞる。
「これで、ようやく果たせますよ。父上」
ゆっくりと顔を上げる。
(小笠原と村上を――)
一息置いて。
(そして諏訪を)
静かに、心の中で言い切る。
(正しく、戻せるでしょう)
(⌒ - ⌒)
私は――正蛇 方円。
正しく戻し、包み込む者なのだから。
コメント
1件
うわあ……重くて、でもすごく綺麗な話だね……🖤 方円の中に“正蛇”がいて、記憶を代償に力を貸してるっていう構造がもうヤバい。奪ったのは全てじゃないってところ、逆に怖いよ。復讐の理由をわざと残してるんだもん……。 罪は償わせるって言い切ったところ、めちゃくちゃ刺さった。眠り続けてたあとも、ちゃんと“次”を待ってたんだね。琴寧さんの世界観、もっと知りたいです。続き読みます🌙