テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
47
1,455
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
sideM
“それ”は、部屋の隅に座っていた。
もう暴れもしないし、笑いもしない。
ただ、そこにいる。
影みたいに。
消えたわけじゃない。
でも、あの時みたいに飲み込まれる感覚もない。
「……これで終わり?」
思わず呟く。
涼架は少しだけ首を振った。
「たぶん、まだ」
短い言葉。
でも、その意味はわかった。
“終わらせる”っていうのは、消えることじゃない。
ちゃんと、向き合うことだ。
⸻
sideR
部屋の空気は、落ち着いている。
でも、どこか歪んでいる。
“それ”はまだ、ここにある。
元貴の中に。
そして、僕の中にも。
「最後にさ」
静かに言う。
「もう一回、向き合おう」
逃げずに。
押し込めずに。
なかったことにせずに。
⸻
sideM
ゆっくり、“それ”の前に歩く。
足が少し震える。
でも、止まらない。
涼架も、隣にいる。
「……お前さ」
声をかける。
“それ”が、ゆっくり顔を上げる。
涼架の顔。
でも、もう怖くない。
「ずっと、いたよな」
小さく頷くように、影が揺れる。
「助けてくれたことも、あった」
認める。
あの時。
本当に限界だったとき。
あの声がなかったら、耐えられなかったかもしれない。
“それ”は、少しだけ柔らかく揺れた。
「でも」
息を吸う。
「もう、任せない」
はっきり言う。
逃げるためじゃなく。
進むために。
「一緒にいるならいい」
「でも、決めるのは俺だ」
⸻
sideR
元貴の言葉を聞いて、少しだけ驚く。
でも、すぐに納得する。
それでいい。
それが、一番強い形だ。
僕も、“それ”に向き直る。
「僕も同じ」
静かに言う。
「君がいたから、助かったこともある」
過去を否定しない。
全部、自分の一部だから。
「でも」
一歩、踏み出す。
「もう、支配はさせない」
⸻
その瞬間。
“それ”の輪郭が、ゆっくり揺れた。
消えそうで、消えない。
でも、確実に変わっていく。
⸻
sideM
“それ”が、初めて口を開いた。
小さく。
かすれるような声で。
「……じゃあ」
少しだけ、寂しそうに。
「いらないの?」
胸が、少しだけ痛む。
でも。
首を振った。
「違う」
ちゃんと言葉にする。
「いらないんじゃない」
一歩、近づく。
「もう、頼らないだけ」
⸻
sideR
その言葉を聞いた瞬間。
“それ”は、少しだけ笑った。
今までとは違う。
歪んでいない。
ただの、静かな笑い。
「……そっか」
その声は。
もう、僕でも元貴でもない。
“もう一人の誰か”みたいなものだった。
⸻
ゆっくりと。
“それ”の輪郭が、ほどけていく。
光でも、闇でもない。
ただ、空気に溶けるように。
部屋の中に、静かに広がって。
――消えた。
⸻
sideM
何もなくなった部屋。
さっきまで“何か”がいた場所が、妙に広く感じる。
「……終わった?」
小さく聞く。
涼架は少し考えてから、頷いた。
「うん」
それだけで、十分だった。
⸻
窓の外を見る。
ちゃんと朝が来ている。
前と同じ景色のはずなのに、少し違って見える。
たぶん。
自分が変わったからだ。
⸻
「……なあ」
涼架に声をかける。
「これからさ」
少し言葉に詰まる。
でも。
ちゃんと続ける。
「また、怖くなることあるよな」
正直な気持ち。
涼架は、すぐに頷いた。
「あるね、絶対」
即答だった。
思わず笑う。
「だよね」
⸻
少し間があって。
涼架が言う。
「でもさ」
こっちを見る。
「その時は、またドア開ければいい」
シンプルな言葉。
でも。
それでいいと思えた。
⸻
sideR
それから僕らは少しづつ学校へ行った
いまは帰り道の途中
元貴が、少しだけ笑った。
あの頃にはなかった表情。
それを見て、安心する。
「ねね」
軽く言う。
「帰り、どっか寄る?」
元貴は少し考えて。
「……コンビニ」
って言った。
「いいねぇ」
「なに買う〜?」
思わず笑う。
⸻
sideM
玄関に立つ。
あのドアの前。
昔は、境界線だった場所。
閉じるためのドア。
逃げるためのドア。
でも、今は違う。
ただの“通る場所”だ。
ドアノブに手をかける。
自然に。
何の迷いもなく。
開ける。
光が差し込む。
ドアの向こうには、涼架がいる。
「行くか」
「うん」
並んで、外に出る。
⸻
もう、“ドアの向こう”は怖くない。
そこは。
ただ、続いているだけの場所だから。