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このお話は完全フィクションです。実在する方とは一切関係ありません。
ご本人様にご迷惑がかかるような行為は絶対におやめください。
また拡散行為もおやめください。
こちらはBL表現を含んだknhb作品です。
18歳未満の方は閲覧禁止となっています。
死ネタ表現ありです。ラブラブですが不穏です。
マフィアkntに悪魔のhbrが拾われ仲が深まっていくという物語です。
節度を守ってお楽しみください。
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薄暗い路地を駆ける。たたきつけるように降る雨が服を濡らし肌に張り付く感触が酷く気持ちが悪かった。泥が散って汚れる靴も気にせず彼のそばに行きたい思いが体を突き動かす。早く、彼を見つけないと、もう一人にしないって誓ったから。早くっ!
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「…..はッ!」
目が覚めると全力で走った後と同じほど息が荒れていた。何かに追われていたような緊迫感が未だに引けなくて体から汗が噴き出る。けだるい体を起こし辺りを見渡すと知らないベッドの上に自分が寝そべっていたことに気がつき慌てて立ち上がった。
ここはどこだ?
天蓋のかかった人が二人余裕で寝転べる大きなベッドは土台が漆で塗られ深く濃い木独特の色をしており相当高価な物だとすぐ分かった。部屋には絵画や宝石が等間隔に並べられており寝室というよりは美術館のようだ。
「起きた?」
背後から男の声がし振り返ると光を透過する色素の薄い金髪を際立たせる真っ黒なスーツを着た男が俺の背後に立っていた。
いつからこの部屋に?驚く俺を置いてその男は手に持っていたカップの乗った銀のトレイをベッドサイドに置きすぐそばにあった低く小ぶりな一人掛けのヴィンテージソファに腰掛けた。
「僕は風楽奏斗、ここは僕の屋敷で君は昨日道に倒れていたから連れて帰った、誘拐とか怪しい物じゃないから安心してよ」
「そうやったんや、ありがと、俺は渡会雲雀、なんかお礼するからなんでも言ってよ」
「僕がしたくてやったことだ、お礼は要らないよ。でも聞きたいことはあるかな、雲雀はなんであんな道端で倒れてたの」
当たり前な質問だが言いづらいところを突かれつい押し黙る。さすがに一般人に俺は悪魔で力尽きて空から降ってきたんだなんて宣言しても信じてもらえるはずがない。
「えっと….覚えてない」
「嘘、答えるまでが長すぎるし話し出す前耳を触ったでしょ?偽ってる証拠が体に出てるよ」
鋭い指摘に息を呑む。合わせた瞳は深海のようで全てを見透かされている感覚に陥った。きっと何を言っても見破られるのだろう、俺は諦めて変装を解いた。
「お前が聞いたんだからな?信じろよ?」
俺がそう言うと周囲に突風が吹き全身を風が纏うと質素なズボンとTシャツからレザーパンツとしわ一つないワインレッドのシャツにジャケットを身に纏い背中から小ぶりだが黒く張りのあるコウモリのような羽を生やし鞭のような尻尾を歪ませ頭から生えた角を手で撫でる。
いつもの姿になって体は楽だが変装を解く瞬間をまじまじと見られたことが少し恥ずかしくてむず痒かった。
自分を隠すように前で腕を組み俯く俺を見た奏斗はソファから立ち上がり握りしめた俺の手を取りそっと撫でた。その優しい手つきに手を開くと長く鋭い爪が覗いた。
「かっこいいね」
俺をのぞき込む濁ったその瞳が俺には輝いて見えた。
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「なあ奏斗!今日はなにして遊ぶ?」
「ふふっ、雲雀も懲りないね~僕と遊んだってつまんないでしょ」
奏斗に助けられた日から俺は暇さえあれば奏斗の家に居候した。悪魔としての仕事はもちろんあるしなんせ鬼上司のアキラを無視したら業火に吊され炙り地獄が待っているため何度も魔界と人間界を行き来しながら奏斗に会いに来ていた。
奏斗は毎日仕事に追われていていつ訪れても机に向かい大量の紙を読んでは書いたり捨てたりして忙しそうにしていた。少しでも助けになりたい俺は断る奏斗を押し切り遊びと言う名のお手伝いを始めた。手伝いと言っても難しいことは分からないので奏斗が消して欲しいと言った紙を燃やしたり珈琲を入れたりだとか一瞬で終わる物ばかりでぶっちゃけ暇だ。
でも集中している奏斗を邪魔するのは嫌だから俺は部屋にある奏斗が保管する宝石を眺めて過ごすばかりだ。
今日もそうなのだろうと思い俺はいつものように奏斗のジュエリーボックスを片手に宙に寝そべろうとしたとき奏斗が俺を呼んだ。
「雲雀、実は今日プレゼントがあるんだ」
「え!!なになに!宝石?」
「もっといいものだよ、ちょっと取ってくるね」
部屋を出て行った奏斗の帰りを扉のすぐそばで待つ。奏斗からのプレゼントなんて初めてで何が来るんだろうという期待で鼻歌が漏れる。戻ってきた奏斗に綺麗な歌が廊下まで聞こえていたよとひっそり告げられたため恥ずかしくて尻尾を握り締めた。
真っ赤になる俺をその大きな手が一撫でし「僕は雲雀の歌声好きだよ」と囁かれれば嬉しさで勢いよく抱きつこうとするが片手で押し返された。
「ストップ、ケーキが崩れちゃうから」
「けーき?」
「そう、昨日たまたま見かけてね、悪魔と味覚が同じか分からないから何とも言えないけど毒味したときは美味しかったから雲雀も気に入ってくれると嬉しいな」
奏斗は持っていた小さな白い箱を開けた。取り出したケーキは真っ赤で艶のあるリンゴのような見た目をしていた。皿に移したケーキと銀の小さなフォークを渡され一口分切り分ける。中から淡い黄色を纏うスポンジと溢れ出る赤いソースは酸味を思い出させる酸っぱい匂いがした。それらをフォークに乗せ口に入れるとイチゴの甘酸っぱさが舌に広がる。
「うま!リンゴなのにイチゴの味する!」
「見た目はね、今は冬だからイチゴが旬なんだよ、気に入ってくれて何より」
「ありがとう、めっちゃ嬉しい」
俺が夢中でケーキを食べているといつの間にか奏斗は机に戻り仕事を再開していた。さっきまで俺を見て微笑んでくれていた奏斗がいなくなってしまったことが寂しくてケーキが乗った皿を強く握りしめる。
俺の方向いてくんないかな、なんか奏斗の気がそそる物、俺が出来ることでなんか、
俯いた視界に写る真っ赤なケーキを見て俺はいいことを思いついた。
「なあキッチン借りてい?」
「キッチン?いいけど、何か作るの?」
「おん、いいこと思いついた。ま、楽しみにしててよ!」
食べ終えた食器を片付けた俺は買い出しに行くため奏斗に出会った時と同じ服装に変装し羽と尻尾を隠して帽子を深く被り準備を整え行ってきます、と言うと気をつけてねと奏斗が送り出してくれた。
待ってろよ、とびっきりうまいもん作ってやるからな、いつもは飛んで移動する道のりを駆け足で走り抜けた。
*
「てっきりケーキが出てくるのかと思ったよ」
「んな、いきなりそんなもん作れるわけねーよ」
「でもカレーっていくらなんでも初歩的過ぎない?」
「….いらんなら食わんくていいよ」
「嘘!食べる、絶対食べる」
机に置いた湯気を出すできたてのカレーを下げようとする俺の手を必死につなぎ止める姿がなんだか可愛くてにやけながらも皿を奏斗の前に戻す。
スプーンを手に取った奏斗はいただきますと言って俺が作ったカレーを食べ始めた。
「カレーだ」
「ケーキじゃなくて悪かったな」
「今まで食べたカレーで一番美味しいよ」
奏斗が褒めてくれた。
その言葉が嬉しいけど今更無邪気に喜べなくてカレーに必死な奏斗から見えないよう大きな机の陰にしゃがんで微笑む。
密かに浮きだった心を弾ませていると後ろから「尻尾揺れてるよ」と指摘され黙って部屋を出た。
ほんま、気づいても言わんくたっていいじゃんね。
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「なんか楽しそうですね」
「….目取り替えたら?」
苦手な書類分けをさせられて気分は最高に悪いのにどこを見て楽しそうなんて言えるんだ?とアキラに疑問の目を向けてしまう。
「余計なお世話ですよ、今ではなくここ最近のあなたのことですよ、毎日鼻歌を歌いながらここを出て行くんですから何か面白い物でも見つけたんでしょう?」
確かに奏斗に会いに行くようになって毎日が楽しいがアキラに気づかれるほど浮かれていたとは思わなかった。
「まあちょっとな、そやアキラにプレゼントがあるんよ」
そう言って俺は昨日作ったケーキを一切れ皿にのせてアキラに渡した。
「もしかしてあなたが作ったんですか?」
「おん、そやで、結構自信作」
差し出したケーキを手に取ったアキラは一つため息をついてフォークをそれに突き立てた。
「分かってるとは思いますが人間にあまり肩入れしてはいけませんよ、私たち悪魔にとって人間は食料でしかありませんから」
文句を言いながらも俺が作ったケーキを食べ進めるアキラに適当に返事をし部屋を出る。書類はまだ半分残っているが甘い物の効果がアキラをなだめてくれると信じて今日も奏斗のところへ向かった。
*
雪がゆらゆらと落ちていく度に地面が白く染まっていく景色を眺めながら通い慣れた道を歩く。少し奥まったところにある奏斗の屋敷は自然がいっぱいで何かと心が落ち着いた。
そんなお気に入りの場所にお気に入りの人間がいる。こんなに幸せでいいろだろうかと思ってしまう程にはこの生活が気に入っていた。
しかしようやく着いたその家の鈴をいくら鳴らせど奏斗は出てこなかった。申し訳ないと思いつつ魔法で勝手に家に上がり書斎に訪れたがいつも座っている机にその姿はなかった。どこかに出かけたのだろうか、広い屋敷の中を何周もして奏斗を探したがどこにも見当たらなかった。
「どこ行ったんだよ…」
行き場がなくなった俺は書斎に戻る。ふと机を見ると赤く大きな葉が一枚落ちているのに気がついた。机に置かれた葉を手に取り匂いを嗅いだあとそれをたどりに俺は外へ飛び出した。
*
「よくここが分かったね」
「その葉っぱが部屋に落ちてたから匂いでたどってきた」
「やっぱり雲雀はすごいな、敵いそうにないよ。….怒らないからこっちへ来て」
雪が降り積もった無数の墓が建つ墓地で奏斗は綺麗に雪かきされたくさんのポインセチアで飾られたお墓の前に立っていた。真っ白な雪景色の中赤く色づくそのお墓の周りだけまるで別世界のようで近寄りがたく俺は少し離れた位置から奏斗を見ていた。結局は奏斗に気づかれて近寄るほかなかったのだが。
「死んじゃったの?」
「十年も前にね」
「家族?」
「もっと大事な人だよ」
真っ直ぐお墓を見つめるその横顔は儚く今にも消えてしまいそうで俺から飛んで行かないようその頬に手を添える。冷気に冷やされた奏斗の氷のように冷たい頬の体温がグローブを伝って感じた。
「また逢いたい?」
「逢えるものなら」
奏斗はこちらを向くことはなかった。ずっとお墓の先にいる誰かを見つめていて喋っているのは俺のはずなのに心は全く俺の方へは向いていなかった。
「じゃあ奏斗が生まれ変わった時、俺がその人に逢わせてあげる」
「そんなことしなくていいよ」
「なんで?逢いたいんでしょ?」
「生まれ変わったらもう他人だよ、同じ人じゃない」
「そんなの逢ってみないと分からないじゃん、また同じ関係に戻れるかもしれんし」
大事な人を見つめ続ける奏斗を横から抱きしめる。
「きっとその人もまた奏斗に逢いたいって思っとるよ」
「あいつは僕のこと恨んでるから」
「でも墓すっごく綺麗じゃん、奏斗がやったんでしょ?きっと奏斗の思い伝わってるよ、許してくれる」
抱きしめた体が温かくなり僅かに震えだしたため更に強く抱き込んだ。
「…..雲雀、逢いたいよ…またお前に」
「泣かんでよ、俺まで悲しくなるやん」
盗み見た奏斗は前を向いたままで俯きもせず静かに涙をこぼすだけだった。
*
ひとしきり泣いた奏斗は抱きつく俺をやんわりと離し帰ろうと言った。
広い墓地を歩く時奏斗は少しだけ墓に眠る大事な人について話し出した。無邪気な笑顔に鳥のような澄んだ歌声は僕にとっての自由そのものだったと。しかし喧嘩をした次の日には事故で帰らぬ人になってしまったそうだ。
僕が悪かったんだ、僕のせいなんだと呟く奏斗の表情は後悔や懺悔にまみれて生気が一つも感じられなかった。少しでもましになればと俺から繋いだ手は強くはないけど握り返され嬉しかった。
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それから俺はもっと奏斗といる時間を増やした、少しでも奏斗が寂しくないように仕事を早く終わらせて半日のところを1日に伸ばし、更に3日4日と奏斗の屋敷に泊まることだってあった。そんな俺を奏斗も優しく迎えてくれるからすっかり居心地が良くなって完全に住み着いている状態となってしまった。
何もしないで居座り続けるのはなんだか申し訳なくて料理とか掃除をやてみたりして飽きたら投げ出すなんてしょっちゅうだったけど奏斗は怒らなかった。だから調子に乗っていたのかも知れない。
*
興味本位であさったクローゼットからボロボロの服が出てきた。広げたときに落ちた紙切れには笑顔で写る奏斗と俺にそっくりなもう一人の男性。写真に写る服と全く同じ服を今手にしてることからきっと奏斗の服ではなく写真に写る彼の服なのだろう。俺はその服をよく観察し元あった場所に戻したあと魔法で写真の男性と同じ服を作り上げ着てみた。
元から俺の服であったかのような着心地にびっくりして鏡で自分を確認する。化粧や牙が写真の人物とは異なるが造形は全くと言っていいほど同一人物だ。
面白くなった俺は羽や尻尾を隠して人間に擬態し奏斗にこの姿を見て貰おうと書斎へ向かった。
書斎のドアを三回ノックすると中から奏斗の声が聞こえたため部屋に入る。
喜ぶかな、それともビックリする?笑ってくれたらいいな。
どんな反応をするのか楽しみで心臓が慌ただしく鼓動するのを感じた。
「見て!かなと…」
「ひば…な、なんでここに」
ガタッと倒れる椅子も気にせず奏斗がこっちに駆け寄ってくる。勢いよく捕まれた肩は痛いほど力を込められ顔が歪んだ。
「いっ、痛い、かなと」
「ひばりッ!会いたかった、ごめん俺が、全部俺が悪かった、だからもうどこにもいかないでッお願い、俺を置いて行かないで…」
強く抱きしめられたことで胸が押し潰され苦しい。押さえつけられた腕をどうにか持ち上げ奏斗の肩を押し返す。それでも離れない奏斗を無理矢理引き剥がそうと力を込め押し倒した反動で擬態が解け悪魔の姿に戻ってしまった。
「はぁ、はぁ、な、ひばり、どこ….なになんで」
「ごめん奏斗、クローゼットの服見てそれで擬態してみたくなって、それで…」
見たことない奏斗の荒れ方に戸惑いつつ咄嗟に謝り弁明する。俺が何度も瞬きを繰り返し気まづさに耐えきれなくなりそうになると奏斗はなにごとも無かったかのように立ち上がり俺に背を向けた。
「….もう二度としないで」
「かなと、どこ行くん?ね、待ってッ!」
「ついてくるなッ!」
立ち上がった奏斗は冷たく静かに俺を怒鳴り書斎から出て行ってしまった。遠くで玄関の扉が開く音がする。きっと外へ出て行ってしまったのだろう。
俺の鼓動だけが響く部屋が酷く寒くて窓を見る。僅かに開いたカーテンの隙間から覗いた空は真っ暗で吹雪が窓枠を軋ます音が部屋に響いていた。
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「なんで一人でやろうとすんだよ!」
「雲雀には関係ないでしょ、ほっといてよ」
「そうやって俺をのけ者にして、そんなに俺って頼りないの?」
「違う、そうじゃない」
「違わねーよ、お前隠し事ばっかじゃん」
「雲雀のためだから」
もういい。
そう突き放された言葉に胸が痛くなる。それでも雲雀には安全な場所にいて欲しかった。家業を継がなかっただけで縁が切れている訳ではない僕は何度も雲雀に黙って人を殺した。もうこんなことは止めよう、二人で自由になろうと誓った約束を何度も破ったのだ幻滅されて当然だと独り思った。
勘のいい雲雀はそんな僕の行動に前から気がついていたんだろう、黙って実家に向かおうとする僕を引き止め雲雀は辞めろと言ってきた。実家を裏切れば僕だけでない雲雀まで危険に晒されてしまう。そんなのは嫌だった。だからあの日僕を引き止める雲雀の手を払いのけ大雨の中僕は雲雀を残して出て行った。
翌日仕事を終え電源を落としていた携帯をつけると何十件にも及ぶ雲雀の連絡通知に罪悪感が募る。謝ろう、そう決意し電話をかけると帰ってきた声は警察ですと名乗る他人の声だった。
雨でスリップした車にはねられ昨晩のうちに亡くなったと告げられ見せられた死体は間違いなく雲雀だった。いつも綺麗にセットされている髪は雨で崩れ淡いピンクだった唇は絵の具のように真っ青だった。
警察に捨てないでくれとわがままを言い貰った雲雀の服は泥で汚れ事故の時に付いた血が取れず白いシャツに斑点を描いていた。大事そうに身につけていた懐中時計は表面が割れ秒針がむき出されていた。
家族と絶縁状態にある身寄りのない雲雀の対処に困っていた警察に全て僕の名義で処理しますと告げ火葬から自宅の撤去まで全て行った。唯一残った服は洗い時計は修理にだして全て元通りにしたら写真と一緒に箱に詰めクローゼットにしまった。自分から手離したくないと言っておきながら見れば彼を思い出して泣いてしまいそうだから。
きっと雲雀は身勝手な僕を許してはくれないだろう。雲雀はずっと僕を追いかけてくれていたのに突き放して失ってしまった。
彼と提案しあって出来たカフェはもう意味がなくなり早々に売り払って家業に戻った。
そうやって全て無かったことにしたかったんだ、自由になろうと誓い合ったことも楽しかった日々も出会ったことすらも、だから出会わなかった時選んでいただろう選択肢に今になって戻った。ただそれだけのことだ。
……でもあの日道端で倒れている君そっくりの別人に期待してしまったんだ。もしかしたら雲雀かもって、そんなわけないのに。連れて帰ってみれば悪魔だなんて非現実的な存在にそれでもいいじゃないかと雲雀に重ねたそいつを構ってしまった。
笑った顔も声も嘘をつく仕草も全部が一緒な悪魔に何度も惑わされそうになった。
あの雨の日は嘘だったんじゃないか、そう錯覚した。
しかし、あの頃と同じ服を着たそいつを見たら衝動が抑えられなくて雲雀を求めて抱きついてしまった。
帰ってきた、僕のために雲雀が帰ってきてくれたんだってそう思った。お前を置いて行ったこと、約束を破ったこと全部謝りたくて、許して欲しくて必死に抱き留めたけど結局は偽物に過ぎなくて、置いて行ったあのときと同じようにまた雲雀に似たそいつに感情任せに当たって突き放してしまった。
雪が積もったベンチに腰掛け降りしきる雪に頭を冷やして貰おうと空を仰ぐ。
これじゃあ何も昔と変わっていないじゃないか。
心底自分に呆れてしまう。また同じことを繰り返す前に帰らないと、そう分かっていても一度腰掛けた体は立ち上がろうとはしてくれなかった。
このまま雪に溶けてしまえたらいいのに。肩に積もった雪を見て思う。そうしたら僕も雲雀のところにいけるのにな、ゆっくりと瞼を閉じると雲雀の笑った顔が写った。
結局忘れられない。ずっと君を求めているからどんなにあがいても雲雀がずっと僕につきまとう。まるで呪いだ。しかしそこに雲雀がいるなら呪いでも幸せなのかも。
だんだんと薄れていく思考を手放そうとしたとき遠くから僕を呼ぶ大好きな声がした。
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手足が揺れる感覚で目が覚める。視界に写ったのは小さく光る明かりたちでまるで空から街を見下ろしているような景色だ。
……空?耳元でバサバサと羽が仰ぐ音に体に回された誰かの腕、地に着かない手足に体に当たる風は勢いがあり間違いなく自分は空を飛んでいた。
「起きた?奏斗ただでさえ重いんやからあばれんといてよ」
小さな羽を忙しなく動かし僕を抱えて羽ばたくそいつは悪魔の雲雀だった。
「なんで、ついてくるなって」
「いやこんな真冬にコートも着ずに外出たら死ぬやん、人間はもろいから」
「悪魔にとっては死なれた方がいいんじゃないの?」
「まあ食べる分にはね、でも悲しくないわけじゃない」
見上げた雲雀の顔はなんだか寂しそうだった。
「意外、悪魔って結構寄り添い方なんだね」
「みんなが思ってるほど恐ろしいことはしてないし、ほら付いたから後は自分で歩いて」
玄関の前に下ろされ家に入る。しかし冷え切って体が思うように動かない僕を見かねた雲雀が風呂へ促すため素直に従った。
風呂からあがり書斎に戻ると雲雀はジュエリーボックスを片手にいつものように浮かんで宝石を眺めていた。
「雲雀さっきは怒鳴って悪かった、取り乱してただけで気にしないでくれると嬉しい」
「俺も勝手なことしてごめん、奏斗喜ぶかなって思って変なことした」
「なんで喜ぶと思ったの?」
「だって逢いたかったんやろ?雲雀に」
その言葉に息を呑む、気づいていた?いつから?隠していたことを知られた焦りで手に汗が滲んだ。
「クローゼットの懐中時計に名前彫ってあったし写真見たら顔もそっくりで、もしかしたらそうなんかなって」
「隠すつもりはなかったよ、言い出す機会がなくて」
「いいって、言われてても俺がやることは多分変わらんやろうし」
ゆっくりと床に立った雲雀は宝石を棚に戻して僕に体を向けた。
「奏斗の言う通り生まれ変わったら別人だ、俺は悪魔になる前のことは覚えてないし奏斗の事も知らなかった、思い出せそうかって聞かれても無理だって答える」
その言葉に僕は俯いた。本当はちょと思っていたんだ、雲雀の生まれ変わりかもって、一緒にいたら昔を思い出してくれるかもって。
自分の浅はかな願いが潰えて落胆する。亡くなった雲雀を重ねてしまった悪魔に罪悪感で目を向けられなかった。
「でも奏斗に初めて会った日から今日までずっと奏斗のことばっか考えてる。まだ仕事してんのかな、とか飯食ったかな、とか。墓場で話した時亡くなったそいつに嫉妬もした。今いる俺の方を向いてくれたらいいのにって」
取られた手が持ち上げられ指先が雲雀の頬に当てられる。人肌の温度が伝って生きているのを感じた。
「これは間違いなく今の俺の気持ちだ、過去の俺に左右されてるとは思わない。だから何度生まれ変わっても奏斗に惹かれるんだと思うんだ、たとえ人じゃなくてもね」
僕を見つめる雲雀の縦長の瞳孔が鋭く射貫いて目が離せない。ふっくら艶のある唇から紡がれる言葉は僕の鼓動を揺さぶった。
「奏斗は?悪魔になった雲雀のことは好きになれない?」
「そんなことない!好きだよ、大好き…でもどうしても重ねてしまうんだ、違うって分かってても、昔の雲雀が忘れられない」
口に出すと何かが溢れてしまいそうで咄嗟目を覆った。しかし直ぐに雲雀がその手を絡めとった。
「奏斗、全部渡会雲雀なんだよ、人間だった俺も悪魔の俺も、記憶はないけどどれも俺なんだ、過去を忘れろなんて言わない、忘れられる俺が可哀想じゃん、無理に今だけを見ようとしないで」
雲雀が一歩僕と距離を縮める。触れあう手には指が絡み強く繋がれる。近づいた雲雀の陶器のように白い頬が僕の目尻に触れ耳元では甘い吐息がかすめた。
「だから俺の全てを愛してよ、昔も今もこれからも、どんな俺でも見つけて攫って好きって言って」
僕に寄りかかる雲雀を強く抱きしめてその肩口に濡れる頬を押し当てた。
「好き、ひばり、大好きッ…ずっとお前だけを愛してる」
「俺も奏斗のこと大好き、生まれ変わってもこの気持ちは変わらないから」
「うぅ…ありがとう、ひばキスしていい?」
「そんなん聞かずにやるのが男だろ」
「ぐすッ….ごめん、次は聞かない」
それもちょっと困るかも、と頬を掻く雲雀の頭を掴んで引き寄せた唇に触れるだけのキスを送った。
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奏斗に拾われてきた時に寝ていたベッドに二人でなだれ込むように沈む。奏斗に押し倒され何度も贈られるキスを零さないよう受け入れれば奏斗は満足そうに笑ってくれた。
離れた唇が首を伝う。いつの間にか外されていた首輪とシャツが捲られ見えた鎖骨に奏斗は柔く歯を立てた。
俺の頬や耳、腰を撫でる奏斗の手つきが焦れったくてこの先をせがむように体がくねるのを止められない。
「雲雀、尻尾が……」
目線を下に向けると自分の尻尾が奏斗の足に巻き付き無意識で自分の方に近付けようと収縮し引っ張っていた。
「やって……奏斗焦れったいんやもん、はよしてやぁ」
上体を起こした奏斗を逃しまいと腕を首に回し奏斗の耳に顔を寄せる。
「えっちなひばは嫌い?」
「えっ……」
困惑する奏斗を押し倒して俺はその体に跨った。変に引っかかったシャツを無造作に床へ投げ捨てればキツく締まった奏斗のネクタイへを解いてその胸板を服の上からなぞった。
広い胸元に引き締まった腹筋、男らしいその体に自分の体温が上がっていくのを感じる。
シャツのボタンを外しながら下へと滑らせる手がベルトに引っかかる。そのまま片手で器用に外し緩まったスボンへ手を入れる。
すると燃えるように熱くて硬いものが指先に触れた。
「んは、めっちゃ興奮しとるな」
その陰茎を包み込むように指を添えれば奏斗はくぐもった声を上げ顔を伏せた。
「奏斗、気持ちいい?」
「ふっ、うん、き、きもちいいよ」
言葉にしてくれたのが嬉しくて添い寝するように奏斗にくっつけた体をさらに擦り寄せその首元に顔を埋めた。もっと俺で感じて欲しい、気持ちよくなって欲しい。そう思った俺は奏斗の首筋にキスをしそのまま舌で優しく撫でた。
「舐めてあげよっか?」
耳元で甘く囁く。挑発するような物言いに手で握った熱がさらに大きくなるのを感じる。しかし上下に動かす俺の手を奏斗は優しく引き離し横から抱きしめる俺をベッドへそっとと転がした。
「お誘いは嬉しいけど今日はいいよ」
俺は少し落胆した。その断りがつまらないような悲しいような、言い表せない複雑な気持ちになって顔を隠すように目にかかった前髪を触る。
「エロいひば見てたら我慢できなくなった」
そう言って俺が中途半端に脱がせた服を奏斗は乱雑に脱ぎ捨てた。ふと顔を上げると俺の体を嬲るように向けられた視線が噎せ返るような熱さを孕んでいるのに漸く気が付いた。向けられるその好意が恥ずかしくて俺は自分を隠すように跨る奏斗から体を逸らした。腹の底で湧き上がる熱が次第に自分の体を蝕み腰が震える。喉元を通る息が艶めかしくなっていることに口元を抑えた手が触れたことで知った。
「雲雀」
自分の体が作り変わっていくような感覚に混乱していると奏斗が俺のベルトを外してズボンに手をかけていた。
腰上げて、そう意味の込められた仕草に大人しく従うといとも簡単に服を取り払われ一糸まとわぬ姿となった。
「雲雀も興奮してんじゃん」
下着を脱がされたことで顕になった上をむく俺の陰茎を見て奏斗は厭らしく笑った。
「恥ずかしくて真っ赤になってるひば、可愛い」
「……!うっさいっ」
完全に火がついてしまった奏斗は俺を揶揄いながら体に触れてきた。
まだ触れて見つめあっただけなのに熱に浮かされた俺の体が弓なりにしなるのを押さえつけるように胸や脇腹を撫で次第に内股へとその指が伝った時俺は小さく喘いだ。
「ふぅ、んっ、ねぇ、もういいから」
俺は自分の後ろに片手で指をあてがい誘うようにそこを広げた。
「でも慣らしてないし」
「魔法が使える悪魔にそんなん必要ない。気にせんでええから、早く奏斗の欲しい」
俺の体を心配して少し戸惑う奏斗を急かしながらその腰に足を回して引き寄せる。すると溜息をつきながら俺に覆いかぶさってきた。
「ほんと、雲雀には敵わない」
小さく呟き俺の頬へ軽くキスを落とすと俺をうつ伏せにひっくり返した。
「んえ?なんで……」
突然奏斗の顔が見えなくなってわけも分からないでいると奏斗が俺の背中を優しく撫でた。
「仰向けだと綺麗な羽が傷ついちゃう」
そう言って皮膚と羽の境目を奏斗の指が撫でる。普段自分でも触れることのないところを触られ背中がビクリと跳ねた。
「そんなこと気にしてるん?」
俺の問にはっきりとそうだと返され奏斗の心配性につくづく呆れながらそれも愛おしいと感じた。その優しさが嬉しいことには変わりないが俺は奏斗の顔を見ていたい。
振り返った俺は奏斗の首に腕を巻き付ければ羽をベッドに向けて奏斗と一緒に倒れ込んだ。
え?ちょっと、と情けない声をあげる奏斗の唇を自分のものと重ねて愛情を送る。
「奏斗になら傷つけられても痛くない、それより奏斗の顔が見えん方がよっぽど悲しい」
出会った頃よりも透き通り青空のように綺麗に輝く瞳を見つめて俺は奏斗にだけ聴こえるように呟く。
「奏斗の顔見て愛されてるって感じさせて?そんで、俺の恥ずかしいとこ、いっぱい目に焼き付けて」
その日互いに分け合った熱がお互いを溶かし混ざりあっていく感覚は生まれ変わっても忘れる事はないだろうと揺れる視界に映る奏斗を見ながら思った。
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「なぁなぁ、昔の俺ってどんな感じだった?」
「えー今とあんま変わんないかな、馬鹿だし、突拍子もないこと言うし。でも僕のお願いは結構聞いてくれてたな」
「はぁ?それじゃあ俺が馬鹿な上に言うことも聞かないクソガキになっちまうだろうが」
「間違ってないからいいんじゃない」
なんて失礼なことを言うんだコイツは。あまりの憎たらしさにその顔を睨みつける。
すると奏斗は腕に抱えた花束でこちらの視線を遮ってきた。
そうやっているといつの間にか目的の場所に着いていて奏斗は慣れた手つきでそのお墓の周りに落ちた埃や落ち葉を掃除していた。俺もそれに続くように持ってきた花や土産を並べる。
そうして漸く準備を終えた俺たちは二人揃ってそのお墓の前で手を合わせる。
と言っても俺には記憶も出会いも無いので実感が湧かず直ぐに話すことが無くなってしまう。
奏斗は俺が顔を上げてもずっと祈りを捧げていた。
しかしそこに前のような憂いは無かった。それが俺にとっては何よりも嬉しく思う。
「じゃあさ今日は奏斗のお願い何でも聞いたげる」
目を開き立ち上がった奏斗に俺は先程の話の続きをする。
「まだその話続いてたんだ。別に前の雲雀と同じになる必要ないってお前が言ったんじゃん」
「そうやけど、ええやんたまには」
何となくそう言う気分な日だってあってもいいだろう。俺は腕を組み少し先を歩く奏斗の隣を付いて歩く。
「って言われてもなー……あ!」
何かないのかとお願い事を煽る俺に困ったように首を傾げた奏斗は何かを思いついたのか弾けるように顔を上げた。
「羽触らせてよ」
「羽?」
奏斗が指さす先には俺の腰辺りから生える黒い小さな羽があった。
「別にいいけど、こんなんでいいの?」
俺は奏斗に向けるように羽を動かす。さらに触りやすいように自分の手で引っ張るが奏斗はそれを拒否するように手の平をこちらに向けてきた。
「今じゃない、夜ね」
「夜……」
その言葉に怒鳴り声を上げたのが墓地を抜けてからで良かったと心底思った。
終わり