振り返ったあたしは、その一瞬で青ざめる。
だって……リカルド様が真っ青な顔で転がってたんだもの!
「リカルド様! どうしたんですか!?」
駆け寄って必死に声をかけた。リカルド様の唇が動いたみたいに見えたけど、声が小さすぎて聞こえない。リカルド様の唇にギリギリまで耳を寄せたら、ようやっと蚊の鳴くような声が聞こえた。
「魔力を……分けてくれ……」
魔力!!!!
そんなもんいくらでも分けてあげるに決まってる!
「いくらでも貰ってください!」
あたしは、辛そうに横たわるリカルド様の体に、思いっきり覆い被さった。このまえ、触れてる面積が多い方が吸収効率がいいっぽいこと言ってたもんね。
さあ! 思う存分、吸収してちょうだい!
「すま……ない……」
こんな時まで律儀に詫びを入れてから、リカルド様は小さな声で詠唱する。さすがに照れてる余裕はなかったらしく、順調に詠唱は流れていき、それにつれてあたしの体からも魔力がグングン吸われていった。
ものの数秒で一気に魔力を吸われたけれど、恐ろしいことにお腹の底からまた新しい力が湧いてくるのも感じていて、自分の魔力の貯蔵量がどれがけあるのか見当もつかない。
リカルド様、遠慮せずにじゃんじゃん貰って大丈夫みたいですよ?
「もう、大丈夫だ」
意外としっかりしたリカルド様の声に安心して身をおこしたら、ほぼ同時にすんごい勢いでリカルド様が起き上がった。
「ありがとう、もう一度行ってくる」
「えっ、ちょっと待って……」
うわぁ、言ってる間にいっちゃったよ。さっきまであんなに真っ青だったのに、大丈夫かな。
でもまぁ、目も合わせずにそそくさと転移で姿を消しちゃったけど、耳が赤くなっているのをあたしは確かに見た。相変わらず可愛い。
とりあえず血の巡りは普通に戻ってたっぽいし、大丈夫かな?
なんてこっそり笑って、リカルド様が向かったと思われる山頂を仰ぎ見たあたしは、度肝を抜かれた。
なに、あれ。
高い高い山の切っ先に、どう見ても『ドラゴン』って形の影がある!!!!!
こんな麓からドラゴンだって判別できる大きさって、おかしくない!?
まさか……リカルド様って今、アレと戦ってるの!? 嘘でしょ!?
驚愕のあまり瞬きも忘れて見入っていたあたしに、さらなる衝撃が走る。
山の頂上を、いきなり目も眩むような閃光が覆う。まるで太陽がもうひとつ出来たのかと思うくらい、強烈で大きな光は、一気に収束して細くなり、弾丸のようにドラゴンを撃ち抜いた。
ドラゴンの壮絶な叫び声が、山に樹海に響き渡る。
リカルド様の魔法で体を打ち抜かれバランスを崩したんだろうドラゴンは、力なく墜落していく。
「あっ……」
落ちていくドラゴンの体が、何かに弾かれたように急に横にとんだ。ここからでは何があったのか見えやしないけれど、リカルド様が追加の魔法でも撃ったんだろうか。
驚きで目が離せない。瞬きすらできずに山上を見続けていたら、いきなり、ドラゴンの首が体から分断された。
「!!!!!!?」
えええ、嘘でしょ!? まさかリカルド様が切り落としたの? 剣で???
人間がそんなことできるの!?
あっけに取られていたあたしは、再び目を疑った。
えっ……ドラゴンの、頭が、消えた……?
「遅くなった」
「ひっ!?」
突然後ろから声をかけられて、あたしは文字通り飛び上がる。
「リカルド様? ……ひえええっ!!!?」
恐る恐る振り返って、もう一回、今度はより高く飛びあがったのは仕方ないだろう。だって、リカルド様ったら、ドラゴンの首を肩の上に担いでる……っ!
凄絶な最後を飾ったにふさわしい、叫んだような形相のまま死んだらしいドラゴンの首は、尋常じゃなく恐ろしい。しかもリカルド様の足元には、早速鮮血の血だまりができている。
直視できなくて、あたしは座り込んで目を覆った。
「ああ、驚かせてすまない。もう死んでいるから大丈夫だ」
「それは分かってますぅぅぅ」
さっき仕留めたところも見てたもの。単に視覚の暴力に耐えられなかっただけだ。倒れなかったあたしを誰か褒めて欲しい。
ていうかこの人、本当に一人でドラゴン、倒しちゃったよ。
「こ、こ、こ、怖いから……! ひとまずドラゴンの頭、あっちに置いてきてください〜」
ついに泣きが入ってしまった。せっかく仕留めたのに申し訳ないけど、怖すぎてまともに会話も出来ないもの。ごめんなさい、リカルド様。
「そうか、すまん」
そして性格のいいリカルド様は、文句も言わずにドラゴンの首と共にあたしから距離をとってくれた。怖くて見てはいないけど、足音でわかる。
「顔を向こうにむけて置いてきた。血も浄化したから問題ないと思うが」
「ありがとうございます……ごめんなさい、リカルド様」
「問題ない。ドラゴンは俺も初めて見たが、恐怖を感じるのは当たり前だ」
なんてこった。本当に優しい。あれ? そういえば。
「リ、リカルド様、ケガは?」
「特にない。さっきは魔力切れをおこしただけだ」
「うそ……ドラゴンを人間が一人で倒せるなんて。しかもケガすらなく」
もはや人外レベルなのでは。もうなんだか賞賛の言葉しか頭に浮かんでこない。
「すごい……ほんと、すごい。なんか感動……あっ、リカルド様おめでとうございます!!!」
思いっきり賞賛したら、リカルド様は照れたように微笑んだ。
「君のおかげだ」
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