「もー、どこまでいい人なんですかリカルド様! どう考えてもリカルド様の実力でしょ」
なぜかあたしにお礼を言うリカルド様にびっくりしてそう言ったら、リカルド様は静かに首を横に振った。
「それは違う。君がいなければ勝てなかった。本当に君のおかげだ」
「またぁ」
「実際にさっき、魔力切れで戻ってきただろう。君から譲って貰った魔力がなければ、あのドラゴンは倒せなかった」
「あ……」
「あそこで逃がしてしまえば、あのドラゴンは住処を他へ移したかも知れない。チャンスは多分あのとき限りだった」
一息に行って、リカルド様はあたしをまっすぐに見た。
「本当に君のおかげだ。君がパートナーで良かった」
「リカルド様……」
あたし、本当にリカルド様の役に立てていたのか。嬉しい……!
「流石に手強かったから、腹が減った。メシを食わせてくれないか?」
「はい! もちろん!」
「食って落ち着いたら、色んなものを撤収して、報告に戻ろう」
リカルド様の言葉に、ちょっと寂しくなってしまった。
そうかぁ、そうだよね。Aランクが狩れちゃったんだからもうここに用はないもんね。今日が最後になるんなら、ジャムだけじゃなくてお昼は豪華に、干し肉や野菜もたっぷり使ったサンドイッチを作っちゃおう。
寝かせておいたパン生地を木の枝に巻き付けて、たき火にあぶりながら畑の野菜を収穫する。
流石に葉物はほとんどないんだけど、チード芋の蔓はおひたしにできたし、いくつかの根菜の葉っぱはゆでたり揚げたりすることで美味しく食べられた。
そしてなによりお世話になったのが、このイール豆。若い実は生のままサラダにしても美味しかったし、食べ頃の膨らんだ実は主食としても重宝した。しかも蔓や葉まで生で美味しいんだから、本当に優秀な食材だ。サンドイッチの具材にしても、きっと瑞々しいおいしさを感じられるだろう。
「ユーリン、肉はこれくらいでいいだろうか」
私がパンとサラダの準備をしている間に、リカルド様はお肉を切り出してくれていたらしい。火渡り鳥のお肉はスープにしても美味しいから、手早くスープも作っちゃおうかな。
「充分です。でも、その大量のお肉、どうしましょうか」
「ああ、考えたんだが……学園に報告を済ませてからなら、あとは自由行動だからな。何度か転移で戻ってきて、運び出せばいいかと考えていた」
「なるほど! じゃあ、あたしも一緒に連れてきてくださいね。手分けしたほうが早いし」
「ああ、分かった。……ところで、さきほどから非常に食欲をそそられる香りがするんだが」
あたしから、香りの元へ目を移したリカルド様は、驚いたように目を見開いた。
「これは……パンか?」
「はい! 小麦を栽培するところから手作りですよ!」
「すごいな。まさか、こんな場所で焼きたてのパンが食べられるとは思わなかった」
おお、これは明らかに喜んでいる!
目尻が嬉しそうに下がっているリカルド様の顔を、あたしは脳裏に焼き付ける。最後にこんな嬉しそうな顔が見られるなんて、頑張って作ってホント良かったなぁ。
「もう焼きあがるんで、ちょっとだけ待っててくださいね」
もう保存食もとっとく必要ないし、チーズやバターも思いっきり使っていいしなぁ。きのことかの乾物系も使い切っちゃおうかな。リュックの中をちょいと漁って、使えそうな食材を色々と出していく。スープの中身もちょっぴり豪華になったかも。
焼き上がったばかりのパンと、ベリーのジャムを目の前に置くと、リカルド様の口元がほころぶ。きっと本当にパンもベリーも好きなんだろう。
「サンドイッチもありますけど、まずはベリーのジャムで食べてみてください。このパン、美味しいんですよ!」
なんせお父さん直伝のパンだもの!
いそいそとパンにジャムを塗り、嬉しそうに口に運ぶリカルド様に、スープを給じる。お肉と野菜を薄く切って、残りのパンに具材として挟んでサンドイッチを造っていたら、リカルド様が「美味い……!」と感心したように呟いた。
「こんな場所でよくこんなに口当たりのいいパンが作れたものだ。バターの香りも強いが……これは、生地に練り込んであるのか?」
「はい! お父さんがパン職人なんで、レシピを教えて貰ったんです」
「なるほど。しかし器用なものだ」
しきりに頷いては、少しずつ口に運んで大切そうに食べてくれている。まだまだあるから、もっと一気に食べていいのに。
「サンドイッチもできたんで、こっちもどうぞ。ドライフルーツ入りのもありますよ!」
「えらく豪勢だな」
「今日で最後ですから。お肉も焼くんで、食べれるだけ食べちゃいましょう!」
張り切るあたしに、リカルド様ははっきりと笑みを見せる。
「ありがとう。だが、せっかくの美味しい料理だ、作ってばかりいないでユーリンも一緒に食べよう。最後の食事は、君と一緒にゆっくりと食べたい」
まいった。
なんでだろう。なんだか急に胸がきゅうっと締まる感じがした。その感覚の正体が分からないまま、あたしはリカルド様に言われるままに席に着く。
あれが美味しい、これが美味しいって笑い合って。
リカルド様のドラゴンとの死闘のお話に興奮して。
あたしが作った火渡り鳥のコートと帽子を褒めて貰って。
もっともっとお話ししたくて一生懸命に話題をふったけれど、ついに沢山あったパンも食べきって食事が終わってしまおうとしている。
ああ、あたし、本当にもっとリカルド様と一緒に居たかったんだなぁ……って、自覚した時だった。
「!!!!?」
驚いた顔で、急にリカルド様が立ち上がった。
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