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朝。
まだ日が登りきっていない薄暗い早朝に、雪乃は目覚めた。
深く眠れず目が覚めてしまったのもあるが、早起きして少しでも勉強したかったのもある。
まだみんな寝ている中を静かに動き、外へと出る。
水道で顔を洗い、タオルで拭きながら大自然の音に包まれる。
ポケモンたちのさえずり。
風が木々を揺らす音。
日が登る前の涼しさが心地よく、目を閉じて深呼吸した。
そんな穏やかな朝に、
「チミィ!!」
相応しくない焦り声が響いた。
ガサガサと森の中から現れたのは、グルグル眼鏡。
何故か取り乱した様子でキョロキョロと辺りを見渡していた。
そして、
「………」
「………」
目が合い無言になる2人。
もう何度目かの邂逅に、呆れて何も言えなかった。
「朝からうるさいんですけど」
雪乃が口火を切る。
また憎まれ口を叩かれるのだろうと顔を拭きながら待っていたが、返事はなく。
どうしたんだと顔を向ければ、神妙な面持ちで立ち尽くしていた。
「…顔色悪いけどどうかした?」
「チミィが…」
「?」
「……チミィが、おらんくなった」
チミィとは、いつも一緒にいるチラーミィのことだろう。
いなくなった…?
「また昨日みたいに1人でどこかに行っちゃったんじゃないの?」
「違う、確かにフラフラっとどっか行くことはあるけど、今回は違うんや」
そう言いながら、持っていた紙の切れ端を見せられる。
『お前のポケモンは預かった。返して欲しかったら1人で探しに来い。日が登るまでに見つけられなかったら…』
トレーナーからしたら恐ろしい文章が、そこには綴られていた。
「…犯人の見当はついてるの?」
これは只事ではないと、目を細めチーノを見上げる。
そこにはいつもの余裕はなく、悔しそうに表情を歪める姿があった。
「…昨日俺のこと探しとった奴らや」
昨日…林の中でか。
確か3人くらいいたはず。
声は聞いたが顔は見ていない。
「森の中も探したけど、どこにもおらへん…」
ずっと探していたのだろう。
汗にまみれ、息を乱し、眉間に皺を寄せている。
ギュッと握りしめたその拳は、震えていた。
「……待ってて」
雪乃は持っていたタオルをチーノに押し付け、背を向け走り出す。
「おま…、どこ行くんや!」
「私が探す」
雪乃は振り返らず走り出し、森の中へと消えていった。
「……チミィ」
1人取り残されたチーノは、悔しそうに相棒の名前を呼んだ。