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桜の花びらが舞う4月、12歳の小雪は、かつて自分が「拾った」はずの、しかし今では自分を追い越して逞しく成長した「兄」である義勇と共に、学園の門をくぐりました。これは、血よりも濃い絆で結ばれた二人の、激動の三年間と、あまりにも切ない別れの記録です。
高校入学以来、義勇の生活のすべては「小雪を守ること」に捧げられました。
登下校の様子: 毎朝、義勇は小雪の玄関先で彼女を待ちます。登校路では、義勇は常に小雪の斜め後ろを歩きます。「義勇くん、隣を歩こうよ」と小雪が袖を引いても、義勇は「……不審者の死角を消すためだ」と、周囲を鋭い眼光で威嚇しながら答えました。 下校時、少しでも不審な車が通れば、義勇は咄嗟に小雪を背後に隠し、手を強く握りしめます。小雪は、その掌から伝わる、少し汗ばんだ、けれど熱いほどの過保護な愛に、いつも困ったように笑っていました。
授業中と休憩時間: 授業中、義勇は自分の教科書に目を向けながらも、意識の半分は隣の校舎の小雪の教室に向いていました。休み時間になれば、一目散に小雪のクラスへ。 「小雪、体調は? 喉が渇いていないか? 誰かに嫌なことは言われていないか?」 マシンガンのように問いかける義勇に、クラスメイトの無一郎は「義勇、小雪は赤ん坊じゃないよ」と呆れ、しのぶは「あらあら、重度のシスコンですね」と毒を吐きますが、義勇は一向に気にしません。彼にとって小雪は、二歳児だった自分を救ってくれた「光」そのものだったからです。
運動会: 高二の運動会。クラス対抗リレーでアンカーを任された小雪は、ゴール直前で転倒しました。膝の皿が見えるほどの深い裂傷。 それを見た義勇は、自分が走っていた競技を投げ出し、観客席の柵を飛び越えて小雪のもとへ。 「小雪! 痛むか? 意識をしっかり持て!」 「あだだ……。義勇くん、ただの擦り傷だよ……」 義勇は鼻血を出しながら(あまりのショックと心配で)、自分の制服のシャツを力任せに引き裂き、小雪の足に包帯代わりに巻き付けました。その必死すぎる姿に、実弥は「冨岡ァ! 自分のシャツをボロ布にする奴があるか!」と怒鳴りましたが、義勇は小雪を横抱き(お姫様抱っこ)にすると、そのまま保健室を通り越して一番近い救急病院まで走っていこうとしました。
宿泊学習と夜: 山奥での宿泊学習。小雪が夜、トイレに立とうとして暗闇で足を滑らせ、急斜面を滑落しました。 「小雪ッ!!」 叫んだのは、誰よりも早く異変に気づいた義勇でした。彼は迷わず自分も斜面を転がり落ち、小雪の身体を自分の胸の中に抱き込みました。 崖下の岩場で止まった時、義勇の右肩は脱臼し、脇腹には枝が深く刺さって鮮血が溢れていました。 「義勇くん……! 血が……、どうして、私なんかのために……」 「……お前が、……傷つかなければ、それでいい。……俺の身体など、……お前を守るための、盾に過ぎない……」 月明かりの下、血塗れの義勇が小雪の頭を優しく撫でる姿を、救助に来た炭治郎や禰豆子は涙を堪えながら見守りました。
高校生活最後の文化祭。小雪のクラスはカフェを開くことになり、小雪はメイド服に身を包んでいました。その可愛らしさに、義勇は壁の影から「……素晴らしい」と鼻血を垂らしながら、不審者さながらに彼女を凝視していました。
しかし、その時、古くなった天井の照明機具が火花を散らし、小雪の頭上へ落下。 「危ないっ!」 伊之助や善逸が叫ぶよりも早く、義勇が小雪を突き飛ばしました。 重い金属製の機具が、義勇の背中と頭部を直撃します。ガシャァンという鈍い音と共に、義勇の頭から血が噴き出し、白目を剥いて崩れ落ちました。
「義勇くん! 義勇くん!! 嫌だ、起きて!!」 小雪は自分のメイド服が赤く染まるのも構わず、義勇を抱きしめました。 「……こ……ゆき……。……怪我は、ないか……?」 意識が遠のく中、義勇が最初に発したのは、自分の痛みではなく妹の安否でした。鼻からも口からも血を流し、骨がズレるような音を立てながら、彼は小雪の頬に触れようとして、そのまま力尽きました。 救急車のサイレンが響く中、小雪は義勇の動かなくなった身体を抱き、狂ったように名前を呼び続けました。この事件は、全校生徒の記憶に刻まれる「愛の惨劇」となりました。
そして、運命の卒業式。 義勇は、その並外れた努力と、小雪から離れて自立しなければならないという悲壮な覚悟で、遠方の最難関大学に合格。小雪は地元の高校(あるいは大学)へ。二人が別々の道を歩む日が来ました。
最後の放課後: 誰もいない夕暮れの教室。義勇は、まだ包帯が痛々しい腕で、小雪を強く、折れるほど抱きしめました。 「義勇くん、行かないで……。私、一人じゃ歩けない。義勇くんがいないと、朝起きる理由も、笑う理由もなくなっちゃうよ……っ!」 「……。小雪。お前はもう、拾われた二歳児に守られるだけの少女じゃない。……。俺がいなくても、お前は太陽のように笑えるはずだ」
駅のホーム: 見送りに来た炭治郎、善逸、伊之助、禰豆子、アオイ、カナヲ。そして不器用ながらも花束を持ってきた実弥、しのぶ、蜜璃、小芭内、無一郎。 発車のベルが無情に響きます。
義勇が電車に乗り込み、ドアが閉まりました。 窓越しに目が合った瞬間、二人の三年間、そしてあの日、道端で出会った瞬間の記憶が溢れ出しました。
「義勇くん!! 義勇くん!! 待って、お願い!! 私、やっぱりダメだよ!! 行かないで、お兄ちゃん!! 私を置いていかないで――っ!!」
小雪は走り出した電車の窓を叩き、ホームを並走しました。 義勇もまた、窓に額を押し当て、顔をぐちゃぐちゃにして泣いていました。 「小雪――っ!! お前を愛してる!! 誰よりも、世界で一番……!! 幸せになれ!! 自分の足で歩け!! 俺はお前の兄だ、どこにいても、死んでもお前を守り続けるからな――っ!!」
速度を上げる電車。小雪はホームの端で膝を突き、崩れ落ちました。 「あぁぁぁあぁぁ!! 義勇くん……っ、義勇くん……!!」 声を上げて泣きじゃくる小雪の背中を、炭治郎が涙を流しながら支え、禰豆子が寄り添い、実弥は天を仰いで涙を堪えていました。
桜の花びらが、泣き叫ぶ少女の頭上に、残酷なほど美しく降り積もります。 それは、世界で一番愛し合う「兄妹」の、あまりにも清らかで、あまりにも痛々しい、永遠の愛の別れでした。
遠ざかる列車の音だけが、春の空に消えていきました。
コメント
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頑張って書きました コメお願いします!