コメント
0件
「っ…」
病室のドアに掛けた手が止まる。
なぜか、ドアを開けるという動作ができない。
きっとこれは、不安とか、複雑な感情が入り交じってるんだろう。
…昨日、おんりーが自分のことを覚えててくれなかったから。
また会っても、もしかしたら覚えてくれて無いかもしれない。
もう一度、おんりーの記憶から拒絶されてしまったら。
…きっと、ぼくは壊れてしまう。
とうして一人で来たんだろう。
ドズルさんについてきてもらえばよかった。
….ここで俺が逃げたら、おんりーはもう戻って来ないのかもしれない。
そう思うと、少しずつ、手が動く。
深呼吸をして、ドアを開ける。
「…おはよ、おんりー。」
「….おはよう、おらふくん。」
そこにはいつものおんりーがいた。
ベッドから出て、窓の外を眺めていた。
外にはただのどかな自然が広がるばかり。
「….っ、おんりー、僕のこと分かるん?」
「…うん。分かるよ。」
「…おんりぃっ…!」
思わず、飛び付いてしまった。
強く、強く抱き締める。
「おんり、おんりぃっ…!」
「…うん…俺はここにいるよ。…心配かけて、ごめんね。」
「…もう、どこにも行かんといてよ…!」
「…行かないよ。…ずっと、おらふくんのそばにいる。」
「…嘘じゃない?」
「嘘じゃないよ。」
「…もう黙ってぼくのしらんとこに行かん?」
「行かない。」
「っ…絶対だよ….もう、ひとりになりたくないよぉ…」
「…うん。絶対。」
ぽんぽんと、背中を優しく撫でられる。
絶対なんて言いきれるはずがないのに。
明日には自分のことも忘れてしまうかもしれないのに、
俺を、安心させるための言葉を言ってくれる。
不安なのは俺だけじゃないのに。
「…おらふくん。」
「…なに?」
「…おらふくんも約束してよ。俺から離れないって。」
「…っ!…するよ!絶対に、離してなんかあげない!」
「….ふふ。ありがと、安心した。」
ふにゃ、と表情を崩すおんりーを見る。
昨日の自己紹介のときに見せた笑顔とは違う、恋人の《おらふくん》に向けられた笑顔。
だれがこの笑顔をおんりーから取り上げられるものか。
もしも神様がいるなら、
こんな可愛い恋人を俺から取らないで下さい。
そのためになにが犠牲になったとしても。
next→ハッピーエンド
第8話→ちょいバッドエンドⅠ
第9話→ちょいバッドエンドII
なぜバッドエンドは2つも思い付いてしまうのか。