昼休み、典晶はイナリを連れて文也とグランドに出ると、ベンチに腰を掛けながら美穂子に連絡を入れた。
『もしもし~?』
気怠そうな声が電話口から聞こえてきた。
「俺だけど、大丈夫だったか?」
『うん。私は平気。少し驚いただけだから。だけど、友達が凄くショックを受けちゃって』
「友達って?」
『典晶も知ってるでしょう? 小学校から一緒だった、理亜ちゃん。彼女、凄く落ち込んじゃって、さっきまで理亜ちゃんの家に行って慰めてたんだ』
「理亜……、松坂理亜か」
松坂理亜の事は知っていた。典晶は余り親しくはないが、美穂子と一緒にいるところを何度も見かけたことがある。外見は可も無く不可も無く、お下げで眼鏡を掛けた控えめな少女、典晶の印象はそんな感じだった。
「いきなり幽霊は、びびるよな。隣にいる文也も、気を失ったくらいだし」
「それを言うなよ!」
文也は昼食のサンドイッチをイナリに分け合えながら苦笑いを浮かべる。
『典晶達は、幽霊から宝魂石って言うのを取るんでしょう? もしかして、あの首つり幽霊も何とかしようと思ってるの?』
「一応、何とかしようとは思う。俺じゃなくて、知り合いに頼むつもりだけど。危険だから近づくなって、念を押されているんだよ」
『そう……。なら大丈夫か……』
急に声のトーンが落ちて、美穂子は溜息をついた。
「本当に大丈夫か?」
『うん……、少し疲れちゃったみたい……。ゴメンね、なかなか宝魂石集め付き合えなくて。イナリちゃんにも、よろしく伝えておいて』
コンッ!
耳の良いイナリは美穂子の声が聞こえたのだろう。突然、大きな声を上げた。
『アハハハ。今度は私も付き合うからさ……。少し、休むね。なんだか、今日は疲れちゃった』
「おう、じゃあな」
少し元気のない美穂子を心配しながらも、典晶は電話を切った。
「思った以上に、やばい状況かもな」
「ああ。早いところ、那由多さんに凶霊を倒してもらわないとな」
典晶は校舎を振り返るが、こうして見る限り、古びた校舎にしか見えない。だが、あそこにはイナリでさえ手に負えない凶霊が彷徨っているのだ。
「那由多さんが来るまで、何事も無ければ良いけど」
那由多が来る土曜日まで、あと二日。典晶は何事もない事を祈りながら、少し遅めの昼食を始めた。