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ハルヒは、限界を自覚しないまま、確実に削れていった。
眠れない。
食べられない。
それでも授業は受け、ホスト部では完璧に振る舞う。
笑顔の角度。
言葉の選び方。
相手が求める“正解”。
それらを外さないことだけに、意識を集中させていた。
——考えなければ、楽だ。
自分の感情に触れなければ、
壊れていることにも気づかずに済む。
⸻
ある日の部室。
環の声が遠くで響いている。
「ハルヒ!今日も最高の——」
言葉の途中で、音が歪んだ。
視界が白くなり、
床が妙に近づく。
(ああ)
倒れる、という自覚すらなかった。
ただ、身体が言うことを聞かなくなった。
——ここまでか。
その考えだけが、
妙に静かだった。
⸻
次に意識が浮上したとき、
天井が見えた。
知らない場所。
消毒液の匂い。
自分の腕に触れる、誰かの手。
瞬間、理解が追いつかず、
胸の奥に強烈な恐怖が込み上げた。
「……っ、離して!」
反射的に身体が動いた。
誰かの手を振り払い、
起き上がろうとして、
また視界が揺れる。
「ハルヒ!待って!」
環の声。
その名前を聞いた途端、
感情が一気に溢れ出した。
「来ないで!!」
叫び声は、自分のものとは思えないほど荒れていた。
「見ないで!触らないで!
私、何も……何もできてないのに……!」
言葉が、支離滅裂になる。
頭の中で、
「もう大丈夫なふり」をしていた糸が、完全に切れた。
⸻
「落ち着け、ハルヒ」
低い声とともに、
モリ先輩が前に立つ。
無理に押さえつけない。
ただ、逃げ道だけを塞ぐ。
はにー先輩は震える声で呼び続ける。
「ハルちゃん……ハルちゃん……」
双子は冗談を言わない。
鏡夜は、ハルヒの目を真っ直ぐ見ていた。
「今、君は壊れている。
でも、壊れたまま一人にする気はない」
#クロスオーバー注意
644
その言葉に、
ハルヒの呼吸が乱れる。
「……助けてなんて、言ってない」
絞り出すような声。
「言えなかっただけだ」
即答だった。
⸻
環が、ゆっくりと近づく。
「ハルヒ。
君が何もできていないなんて、誰が決めた?」
声が震えている。
それでも、目を逸らさない。
「君は、全部一人で抱えて、
誰にも見せずに立っていた」
それは、
責める言葉じゃなかった。
——認める言葉だった。
ハルヒの肩が、がくりと落ちる。
「……怖かった」
初めて、
本当の理由が口からこぼれた。
「このまま、何も感じなくなるのが」
⸻
その場にいた誰も、
正論を言わなかった。
大丈夫とも、すぐ治るとも言わない。
ただ、
環が膝をついて目線を合わせ、
モリ先輩がそばに立ち、
はにー先輩が手を握り、
鏡夜が静かに告げた。
「君が倒れたのは、弱いからじゃない。
一人でやりすぎた結果だ」
その瞬間、
ハルヒの中で、最後に踏ん張っていた力が抜けた。
声も出ない。
涙も出ない。
ただ、
誰かに支えられたまま、
呼吸だけが少しずつ整っていく。
⸻
完全に助かったわけじゃない。
問題は、何も解決していない。
それでも。
壊れた瞬間を、誰かに見つけてもらえた。
それだけで、
“終わり”にはならなかった。