テラーノベル
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今日は、夕飯を壱月とふたりで準備した。なんでもしてもらうだけというのは、気が引けたからだ。
花斗は自分の椅子があるのがよほど嬉しいのか、ずっとそこに座っていた。ダイニングテーブルの上で、飛行機のおもちゃを行ったり来たりさせて遊んでいる。
「愛音、思ったより手際いいな」
隣で私よりよっぽど手際のいい壱月が言う。
「今まで花斗の分をつくってたからかな。花斗が不機嫌になる前に作らなきゃって思ってたから、時短が第一になったの」
「なるほど」
壱月はそう言いながら、コロッケを揚げていた。
この人はコロッケまで作ってしまうのか、なんて感心していると、ちょうど最後のひとつがあがったらしい。
油のじゅわじゅわという音が消え、代わりに香ばしいじゃがいもの匂いが漂ってくる。
「どうした? じっと見て」
「いや、美味しそうだなーって」
本心がぽろりと出てしまった。すると壱月はケラケラ笑って、揚げたてのそれをひとつ、紙に包んでこちらに向ける。
「食べる? 味見」
美味しそうな匂いに私は抗えるわけもなく、差し出されたそれにかぶりつく。
サクっ、ほろっ、じゅわぁ~。
「ん、美味ひい~」
すると、壱月は「だろう?」と得意げな笑みを浮かべる。
「愛音の味噌汁も美味そうだな」
「……食べる? 味見」
すると、壱月は「うん」と短く答え、腰を折ってこちらに顔を突き出し、口を大きく開いた。
え!? 味噌汁を!?
どうしたらよいだろうと少し考え、私は人参をひと切れ箸でつまんで、彼の口に放った。
「あっつ!」
「わ、ごめ……」
言いかけて、固まった。
いつからそこにいたのか、花斗と視線がぶつかったのだ。
「いつき、あーん、してた!」
それで、私の顔に急激に熱がのぼる。
なんてことを言うんだ、花斗は!
「ごほ、ごほっ!」
壱月も動揺したのか、噎せ込んでしむう。彼は涙目になりながら慌ててコップに水を入れ、ごくごくと飲み干した。
「だいじょうぶ?」
純粋な花斗の瞳に、壱月は親指を立てて無言で答える。
すると、花斗はにこっと笑った。
「いつき、ぼくといっしょ。ママのあーん、ぼくもすきだよ」
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花斗はキャッキャと喜んで、持っていた飛行機のおもちゃを掲げる。それからびゅーんとキッチンをひと走りして、ダイニングへ戻っていった。
「……なんか、ごめん」
「いや、平気だ」
壱月はだいぶ落ち着いたらしいが、再びコップに水を注いで飲み干す。
だが視線は前を向いたままで、こちらに合わせてくれようとはしなかった。
それでも、彼の頬がほんのり朱に染まっているのが見える。
……どうやら、壱月は私と同じ気持ちらしい。
私も、今どんな顔して壱月を見たらいいかわからない。そもそも、私もコロッケを壱月の手からパクって食べちゃったし……。
思い出したら頬が急に熱を上げた。
あー、もう私のバカ! なに思い出してるのよ!
胸の内で自分にツッコんで、ふう、と大きく息をつく。
「これ、盛りつけちゃうね」
「お、おう」
彼の声に、私は味噌汁をお椀に注ぎ、逃げるようにダイニングへそれを運んだ。
ダイニングでは、花斗が「コロッケ~コロッケ〜」と謎のコロッケの歌を歌いながら変なダンスを踊っていた。
壱月も、それに気づいたらしい。
「ははっ。花斗、なんだよそれ」
背後から、壱月の笑い声が聞こえる。
私は、なんだか三人の生活が楽しいと思ってしまった。
コメント
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みぅです🥀 第18話、読みました。 なんかもう…夕飯準備のシーンからずっと「あたたかいな」って思ってたんですけど、壱月くんがあーんをねだるところで一気に甘酸っぱくなって、花斗くんの「いつき、ぼくといっしょ!」に全部持っていかれました(笑) でも最後の「三人の生活が楽しいと思ってしまった」の一文が、重い世界観の中でとても尊くて、ちょっと切なくもなりました。 この穏やかさが、ずっと続きますようにって祈る気持ちです。 朝永ゆうり先生、本当に日常の一瞬を愛おしく描くのがお上手ですね。引き続きそっと読み続けますね🌙🤍