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今回はちーずもち様の企画に参加させていただきます🙇
関わりがないのですが、勝手に参加したことに関しては大目に見てください‥👉️👈️💦
青桃・バトエン
本当に地雷だったらごめんなさい😭
最後にはしょたの全然話が違う小説あげますので、バトエン苦手だったら、飛ばしていただいて結構です、!!
雨の匂いがした。
まだ降ってはいない。けれど、空はどこまでも鈍い灰色で、今にも世界全部を濡らしてしまいそうな顔をしていた。
そんな空を見上げながら、俺はビルの屋上に座っていた。
「……最悪な天気」
ぽつりと呟く。
誰に聞かせるでもない声は、風に攫われて消えた。
フェンスの向こうには、ネオンだらけの街が広がっている。夜になればもっと綺麗に見えるんだろうけど、今は夕方と夜の境目で、全部が中途半端だった。
俺みたいだな、って思った。
「おーい、ないこー!」
遠くから聞こえる声。
振り返らなくても分かる。
「まろ」
「なんやその顔。死にそうやで」
「実際、半分くらい死んでるし」
「縁起でもないこと言うなや」
カツ、カツ、と軽い足音。
まろは俺の隣まで来ると、フェンスに背中を預けた。
相変わらず無駄に背が高い。相変わらずうるさい。相変わらず、笑ってる。
それが少しだけ腹立たしかった。
「で? こんなとこ呼び出して何」
「別に。ただ会いたかってん」
「気持ち悪」
「ひどっ!」
まろがわざとらしく胸を押さえる。
そんな動きに、少しだけ笑いそうになった。
……負けた気がして、笑わなかったけど。
「ないこ、最近ずっと変やん」
「変じゃない」
「変や」
「変じゃない」
「いや変」
「しつこ」
俺が睨むと、まろは肩を竦めた。
「でもさぁ。お前、ほんまに無理して笑うよな」
「……」
その言葉に、喉が詰まった。
何も言い返せなかった。
まろって、こういうところが嫌いだ。
人の隠したい部分を簡単に見つける。
俺がずっと蓋してきたものを、平気で覗き込んでくる。
「別に」
「別に、ちゃうやろ」
「……」
「なんかあったん?」
優しい声だった。
だから余計に嫌だった。
俺は視線を逸らした。
「……関係ない」
「ある」
「ない」
「ある」
「オウム返しやめろ」
「ないこがちゃんと話すならやめたる」
面倒臭い。
本当に。
でも。
――嫌じゃなかった。
「……父親がさ」
「ん?」
「また家、壊した」
静かな声で言う。
まろは何も言わなかった。
「皿投げて。母さん泣いて。弟隠れて。俺が止めに入ったら殴られて」
慣れてる。
そう言おうとした。
でも、言葉が出なかった。
「……慣れてるから平気」
やっと絞り出した声は、自分でも驚くくらい掠れていた。
まろはしばらく黙っていた。
それから、ぽつりと。
「平気なわけあるか」
その言葉が、胸に刺さる。
「お前なぁ……もっと頼れや」
「頼ったところで何も変わんない」
「変わる」
「変わらない」
「変えるんや」
即答だった。
その真っ直ぐさに、目を逸らしたくなる。
「……無理だよ」
「無理ちゃう」
「無理なんだって」
思わず声が強くなる。
「何も知らないくせに」
空気が止まった。
言ってから後悔した。
最低だ。
まろは、何も悪くないのに。
「……ごめ」
「ええよ」
でも、まろは笑った。
いつものみたいに。
少しだけ困ったように。
「知らんから、聞いてるんやろ」
「……」
「ないこが苦しいなら、俺は知りたい」
その言葉が痛かった。
優しさって、時々暴力だ。
ずっと一人で抱えてきたものを、「半分持つで」って顔して近付いてくるから。
そんなの。
期待してしまう。
頼ってしまう。
――離れられなくなる。
「……なんで」
「ん?」
「なんでそこまで俺に構うの」
「好きやから」
「は?」
心臓が止まりかけた。
まろはケロッとした顔で続ける。
「友達としてな?」
「……殴るぞ」
「今ちょっと期待したやろ」
「死ね」
「あはは!」
ゲラゲラ笑う声が屋上に響く。
俺は深くため息を吐いた。
本当に調子狂う。
さっきまで、息をするのもしんどかったのに。
こいつといると、少しだけ楽になる。
「なぁ、ないこ」
「何」
「逃げようや」
「……は?」
「全部から」
まろは街を見下ろしながら言った。
「学校も。家も。うざい奴らも。全部」
「そんな簡単に」
「簡単やないよ」
まろは笑う。
「せやけど、無理でもない」
風が吹いた。
まろの髪が揺れる。
空はさらに暗くなっていた。
「人生ってさ」
まろが呟く。
「どうせ最後は終わるんやから」
「急に重」
「せやから、せめて最後くらい好きに生きたいねん」
「……」
「最高のフィナーレにしようぜ」
その言葉が、頭に残った。
まるで映画の台詞みたいだった。
臭くて、馬鹿っぽくて。
でも。
不思議なくらい、まろに似合ってた。
「……何それ」
「ええ言葉やろ」
「厨二病?」
「うるさいわ」
俺は小さく笑った。
久しぶりだった。
本当に、久しぶりに。
ちゃんと笑えた気がした。
その時だった。
スマホが震える。
画面を見る。
父親からだった。
――帰ってこい。
たったそれだけ。
なのに胃が縮む。
「……帰る」
立ち上がる。
すると、まろが俺の手首を掴んだ。
「帰らんでええ」
「……」
「今日は俺ん家来い」
「でも」
「大丈夫や」
その一言に。
涙が出そうになった。
でも泣きたくなくて、顔を逸らした。
「……迷惑」
「今更やろ」
「……」
「ほら、行くで」
まろは俺の腕を引っ張った。
強引で。
でも、温かかった。
まろの家は、小さなアパートだった。
「狭いやろー」
「……まあ」
「否定せんの傷付くわ」
玄関には適当に脱ぎ散らかされた靴。
机にはコンビニ飯。
生活感の塊みたいな部屋。
だけど。
不思議と落ち着いた。
「風呂入る?」
「あとでいい」
「ほな飯」
「食欲ない」
「却下」
まろは勝手にキッチンへ向かう。
冷蔵庫を開けて、「あー、卵しかねぇ」とか言ってる。
俺はぼんやりその背中を見ていた。
「オムライスでええ?」
「なんで卵しかないのにオムライス」
「気合い」
「万能すぎるだろその言葉」
少し焦げたオムライスが出てきた。
「いただきます」
「おう」
一口食べる。
「……まず」
「は!?」
「嘘」
「今絶対本気やったやろ!」
くだらない会話。
くだらない時間。
でも。
こんな普通が、俺にはなかった。
「……なぁ、まろ」
「んー?」
「ありがと」
まろは少しだけ目を丸くして。
それから笑った。
「どーいたしまして」
その笑顔を見た瞬間。
俺は思ってしまった。
――この時間が、ずっと続けばいいのに。
でも。
そう思った時にはもう遅かったんだ。
俺達の“フィナーレ”は。
もう、始まっていたから。
ーーーーーー
夜っていうのは、不思議だ。
昼間なら笑って流せることが、やけに胸に刺さる。
昼間なら「大丈夫」って言えたことが、急に無理になる。
まろの部屋の天井を見上げながら、俺は眠れずにいた。
カチ、カチ、と古い時計の音だけが聞こえる。
隣では、まろがソファに座ってスマホを見ていた。
暗い画面の光が横顔を照らしている。
……なんか、変だった。
ずっと。
屋上ではあんなに笑っていたくせに、部屋に戻ってからのまろは、どこか上の空だった。
「……まろ」
「んー?」
「何かあった?」
「別に?」
即答。
でも、その声は少しだけ硬かった。
「嘘」
「嘘ちゃう」
「いや嘘」
「なんでやねん」
いつものみたいに笑う。
けど。
目が笑ってなかった。
「……お前こそ、無理してんじゃん」
そう言うと、まろは一瞬だけ黙った。
スマホを伏せる。
「ないこ」
「何」
「もしさ」
「うん」
「俺が急におらんくなったらどうする?」
心臓が嫌な音を立てた。
「……は?」
「いや、例えばの話」
「そういうのやめろ」
「なんで?」
「笑えない」
俺が睨むと、まろは困ったように笑った。
「ごめん」
謝る声がやけに優しかった。
嫌な予感がした。
でも、その正体が分からなかった。
「……寝ろよ」
「おん」
そう言ったくせに、まろはなかなか寝ようとしなかった。
深夜二時。
俺は喉が渇いて目を覚ました。
部屋は暗い。
ソファを見る。
――まろがいなかった。
「……?」
起き上がる。
すると、ベランダから小さな声が聞こえた。
「……せやから、無理やって」
まろだった。
電話してる。
「もうやめてくれへん……?」
聞いたことない声だった。
弱々しくて。
今にも壊れそうな声。
「……っ」
相手が何か言ったらしい。
まろは唇を噛んだ。
「……分かった」
その一言で通話が切れる。
俺は咄嗟に布団へ戻った。
数秒後、窓が開く音。
まろが戻ってくる。
静かな足音。
そして。
「……ごめんな」
小さな声。
誰に向けた言葉だったのか、分からなかった。
翌日。
まろはいつも通りだった。
「ほら、朝飯」
「……焦げてる」
「味は一緒や」
「雑」
笑う。
でも、やっぱり変だった。
スマホが鳴るたび顔色が変わる。
通知を見るたびに、何かに怯えたみたいな目をする。
「……誰?」
「ん?」
「昨日電話してたやつ」
空気が止まった。
まろの箸が止まる。
「聞いてたん」
「少しだけ」
「盗み聞きやん」
「誤魔化すなよ」
俺が言うと、まろはゆっくり息を吐いた。
「……元カノ」
「は?」
「別れたんやけどなぁ」
まろは苦笑した。
けど、その笑顔は引き攣っていた。
「なんか、めっちゃ拗れて」
「何された」
「……」
「まろ」
名前を呼ぶ。
すると、まろは諦めたみたいに目を伏せた。
「写真」
「……写真?」
「色々撮られててん」
背筋が冷える。
「待って、それって」
「うん。脅されてる」
頭が真っ白になった。
「警察は!?」
「無理」
「なんで!」
「俺だけならよかったんやけど」
まろは笑った。
ひどく、疲れた顔で。
「ないこのことも知っとる」
「……え」
「“あの子にもバラすよ”って」
呼吸が止まりそうになる。
「学校にも、家にも、全部送るって」
「……」
「俺さ」
まろは俯いた。
「ないこだけは巻き込みたなかってん」
その言葉に、胸が痛くなった。
「馬鹿」
「せやな」
「なんで一人で抱え込むんだよ」
「……だって」
「俺、そんな頼りない?」
「ちゃう」
「じゃあ!」
気付けば叫んでいた。
「なんで言わないんだよ……!」
まろが目を見開く。
俺は唇を噛んだ。
悔しかった。
何も知らなかったことが。
隣にいたのに、気付けなかったことが。
「……ごめん」
また謝る。
こいつ、すぐ謝る。
悪いのはまろじゃないのに。
「会う約束してる」
まろがぽつりと言った。
「今日」
「……俺も行く」
「ダメ」
「行く」
「ないこ」
「絶対行く」
睨む。
すると、まろは少しだけ笑った。
「頑固」
「お前がな」
待ち合わせ場所は、港だった。
夕方。
空は赤く染まっていた。
潮の匂いがする。
そして。
「久しぶりぃ、いふぅ」
女が笑った。
長い髪。
派手なネイル。
綺麗なのに、目だけが冷たい。
「……要件は」
まろが低く言う。
女は俺を見た。
「あ、この子? 例の」
「黙れ」
「ふぅん」
舐めるみたいな視線。
気持ち悪い。
「で、どうする? 戻ってくれる?」
「無理や」
「じゃあ全部バラす」
女はスマホを揺らした。
「君達、終わりだね」
その瞬間。
まろが笑った。
「……そっか」
「え?」
「ならもう、ええわ」
嫌な予感。
まろがポケットに手を入れる。
「まろ?」
取り出したのは、小さな薬瓶だった。
女の顔色が変わる。
「は? 何それ」
「ないこ」
まろが俺を見る。
その目は、不思議なくらい穏やかだった。
「ごめんな」
「……何、して」
「俺、もう疲れてん」
世界が揺れた。
「待て」
「でも最後にな」
まろは笑う。
「ないこと一緒なら、悪ないって思ってもうた」
「やめろ」
「“最高のフィナーレ”やろ?」
「ふざけんな!!」
叫ぶ。
でも。
まろは薬を飲み込んだ。
「あ……」
頭が真っ白になる。
女が悲鳴を上げた。
「ちょ、ちょっと!? 何してんの!?」
まろの身体が揺れる。
俺は咄嗟に支えた。
「まろ!!」
「……ないこ」
弱々しい声。
震える手。
俺は泣きそうになりながら叫ぶ。
「救急車!!」
「いらん」
「いるに決まってんだろ!!」
「ないこ」
まろが笑った。
ひどく優しく。
「一人にせんで」
その言葉が。
胸を壊した。
俺は、知っていた。
まろがどれだけ苦しかったか。
どれだけ追い詰められてたか。
なのに。
助けられなかった。
「……っ」
女は震えながら後退っていた。
「わ、私……知らない……!」
逃げるように去っていく。
残されたのは俺達だけ。
赤い空。
冷たい風。
苦しそうに息をするまろ。
「……馬鹿」
涙が落ちる。
「なんで勝手に決めるんだよ」
「ごめ……」
「謝んな」
俺は薬瓶を見た。
まだ残ってる。
数秒、迷った。
本当に、数秒だけ。
でも。
俺にはもう、まろのいない未来が想像できなかった。
家に帰っても地獄。
学校に行っても息苦しい。
唯一、“生きたい”って思えた場所には、まろがいた。
「……ないこ」
「うるさい」
震える声で言う。
「置いてくなよ」
薬を口に入れる。
苦い。
吐きそうになる。
「……っ、は」
まろが泣きそうな顔をした。
「なんで」
「一人にしないって言ったろ」
視界が滲む。
身体が重い。
でも、不思議と怖くなかった。
まろがいるから。
それだけでよかった。
俺達は港に座り込んだ。
肩を寄せ合って。
まるで、普通の帰り道みたいに。
「……なぁ」
まろが呟く。
「ん」
「俺、ないことおる時間、好きやった」
「……俺も」
「もっと早く言えばよかった」
「何を」
まろは少しだけ笑った。
「好きやった」
涙が溢れた。
「……今更」
「せやな」
俺は笑った。
泣きながら。
「俺も好き」
風が吹く。
空はもう暗かった。
遠くで波の音がする。
まろの手が俺の手を握る。
冷たかった。
「なぁ、ないこ」
「何」
「最高のフィナーレやった?」
俺は少しだけ考えて。
そして、笑った。
「……最悪」
「あはは……」
まろが笑う。
弱々しく。
でも、幸せそうに。
俺達の視界はゆっくり暗くなっていった。
まるで舞台の幕が下りるみたいに。
最後に聞こえたのは。
まろの、小さな声だった。
「愛してる」
その言葉に返事をする前に。
世界は静かに終わった。
なんとも絶妙なバトエン((
ということで第二部、しょたいかせてもらいます‥!
「かーごめ、かごめっ、!」
「かーごめ、かごめっ!」
夕焼けに染まった公園で、子どもたちの歌声が響いていた。
その声は、どこか遠くから聞こえてくるみたいで。
なのに耳元で囁かれてるみたいにも聞こえて。
ぼくはブランコに座ったまま、その歌を聞いていた。
きぃ、きぃ、と鎖が鳴る。
春の終わり。
まだ少し冷たい風。
公園の砂場には誰もいなくて、鉄棒の影だけが長く伸びていた。
「ないこー!」
遠くから声がした。
振り返ると、まろが走ってくる。
ランドセルを揺らしながら、転びそうなくらい全力で。
「おまたせー!」
「おそいよ」
「しゃーないやん! お母さんにつかまっとってん!」
まろはそう言いながら、へへっと笑った。
前歯が一本抜けている。
ぼくはちょっとだけ笑った。
まろは昔から、太陽みたいなやつだった。
ずっと喋ってて、ずっと笑ってて、じっとしてなくて。
ぼくとは正反対。
「今日な! 秘密基地いこ!」
「また?」
「また!」
「この前、おじさんに怒られたじゃん」
「今日は見つからへんって!」
まろは自信満々に胸を張る。
その顔がおかしくて、ぼくはまた少し笑った。
まろは、ぼくが笑うと嬉しそうにする。
なんでだろう。
「ほら、いこ!」
ぐいっと手を引かれた。
小さい手。
少しあったかい。
ぼくらは公園の裏へ走っていく。
そこには古い神社があった。
誰も来ない神社。
鳥居は赤色が剥げていて、石段には苔が生えてる。
奥の社なんて、今にも崩れそうだった。
でもぼくらにとっては特別な場所だった。
「ここ、秘密基地な!」
まろが初めてここを見つけた日、そう言った。
ぼくは最初、ちょっと怖かった。
神社って静かすぎるから。
風の音とか。
木が揺れる音とか。
なんか、“誰かいる”みたいで。
「ないこ、またビビっとる?」
「……びびってない」
「うそやーん」
まろが笑う。
ぼくは唇を尖らせた。
神社の裏には、小さな空き地がある。
そこに古いタイヤとか木の板とかを集めて、ぼくらは勝手に秘密基地を作っていた。
今日もまろは楽しそうに木の棒を振り回している。
「敵襲ー!」
「わー」
「反応うっす!」
「だって敵いないもん」
「おるやろ! ここに!」
「まろしかいない」
「じゃあおれ敵役やる!」
「一人二役?」
「すごいやろ!」
まろはケラケラ笑った。
ぼくもつられて笑う。
その時だった。
からん。
鈴の音がした。
ぼくらは同時に動きを止めた。
神社の奥。
社の方から。
「……誰かいる?」
ぼくが小さく聞く。
まろは首を傾げた。
「猫ちゃう?」
でも。
違った。
ゆっくり。
社の奥から、白い服の女の人が出てきた。
長い黒髪。
顔が見えないくらい俯いている。
ぼくらは固まった。
女の人は何も言わない。
ただ立ってる。
風が吹く。
髪が揺れる。
その隙間から見えた口元が――笑っていた。
「……っ」
ぼくは息を呑んだ。
怖い。
怖い。
なのに、目が離せない。
まろが一歩前に出た。
「お姉さん、誰?」
その瞬間。
女の人が、ぴたりと動きを止めた。
そして。
「かーごめ、かごめ」
小さな声で歌い始めた。
ぞわっと背筋が冷える。
夕焼けが急に暗くなった気がした。
「かーごのなーかのとーりーは」
女の人はゆっくり顔を上げる。
真っ白だった。
目が。
真っ黒に塗りつぶしたみたいに。
「……まろ」
ぼくは震える声で呼んだ。
まろも笑ってなかった。
「うしろのしょうめん――」
その瞬間。
どんっ!!!
神社の奥で大きな音がした。
ぼくらは悲鳴を上げて走り出した。
石段を転がるみたいに降りる。
後ろなんか見れない。
見たらダメな気がした。
「ないこ! はやく!」
まろがぼくの手を掴む。
ぼくらはそのまま住宅街まで走った。
息が苦しい。
足が痛い。
でも止まれない。
ようやく公園まで戻ってきた時、ぼくらは同時に振り返った。
誰もいない。
神社も、いつもの静かなままだった。
「……なん、やったん」
まろが呟く。
ぼくは答えられなかった。
あれは人間じゃない。
そんな気がした。
その日は、二人とも早く帰った。
夜。
ぼくは眠れなかった。
窓の外で風が鳴ってる。
カーテンが揺れる。
時計を見る。
夜十一時。
お母さんはもう寝ていた。
ぼくは布団をぎゅっと握る。
怖い。
神社の女の人が頭から離れない。
あの歌。
真っ黒な目。
笑ってた口。
「……」
その時。
こんこん。
窓を叩く音がした。
ぼくは凍りつく。
こんこん。
もう一度。
二階の窓。
ありえない。
だって外にはベランダなんてない。
恐る恐る顔を上げる。
カーテンの向こうに。
人影が見えた。
「――っ!」
悲鳴を飲み込む。
こんこん。
こんこん。
窓を叩く。
小さい手みたいに。
ぼくは動けなかった。
心臓が痛いくらい速くなる。
すると。
「ないこー」
声がした。
聞き覚えのある声。
「おれやってー」
まろ?
ぼくは目を瞬いた。
カーテンを少し開ける。
すると。
本当にまろがいた。
木によじ登って窓に張り付いている。
「な、なにしてんの!?」
「しーっ!」
まろが慌てて口に指を当てる。
「大声出したら怒られる!」
「当たり前でしょ!」
ぼくは急いで窓を開けた。
まろはひょいっと部屋に入ってくる。
「ふー、危なかったぁ」
「危なくないよ!?」
「でも、おれ怖かってん」
その言葉で、ぼくは黙った。
まろは少し青い顔をしていた。
「……おれん家にも来た」
「え」
「歌、聞こえてん」
ぼくの背筋が凍る。
まろは震える声で言った。
「“うしろのしょうめんだあれ”って」
部屋が急に寒くなった気がした。
「ないこ、あれなんなん」
「……わかんない」
「でもさ」
まろはぎゅっと服を握る。
「なんか、呼ばれとる気ぃする」
その瞬間。
遠くから歌声が聞こえた。
「かーごめ、かごめ」
ぼくらは同時に顔を上げた。
窓の外。
夜の住宅街。
誰もいないはずなのに。
歌声だけが近づいてくる。
「かーごのなーかのとーりーは」
まろがぼくの腕を掴む。
冷たい。
震えてる。
「よあけのばんに」
歌が止まる。
しん、と静まり返る。
次の瞬間。
真後ろから声がした。
「うしろのしょうめん、だあれ?」
ぼくらはゆっくり振り返った。
ーーーーー
ぼくらの後ろに、女の人が立っていた。
「――っ!!」
悲鳴も出なかった。
いつ入ってきたのかわからない。
窓は閉まってる。
ドアも閉まってる。
なのに。
白い着物の女の人が、ぼくらのすぐ後ろに立っていた。
髪が長い。
顔が見えない。
でも。
口だけが、にぃっと笑っていた。
「うしろのしょうめん、だあれ?」
ぞわりと寒気が走る。
まろがぼくの腕を掴んだまま震えていた。
「な、ないこ……」
ぼくは動けなかった。
怖い。
頭の中が真っ白になる。
女の人が一歩、近づいた。
畳が軋む音がした。
ぎし。
ぎし。
ゆっくり。
逃げなきゃ。
そう思うのに、足が動かない。
「かーごめ、かごめ」
女の人がまた歌い始める。
「かーごのなーかのとーりーは」
その声は、変だった。
女の人の声だけじゃない。
たくさんの子どもの声が重なって聞こえる。
男の子。
女の子。
みんな笑いながら歌ってる。
「……いや」
ぼくは小さく呟いた。
怖い。
怖い。
「いついつでやる」
女の人の首が、ぐり、と曲がる。
ありえない方向に。
まろが息を呑んだ。
「つるとかめがすべった」
その瞬間。
ぱちん。
部屋の電気が消えた。
「きゃっ……!」
真っ暗。
何も見えない。
でも。
歌声だけが近い。
「うしろのしょうめん――」
耳元で囁かれる。
「だあれ?」
ぼくは反射的に叫んだ。
「いやあああっ!!」
その瞬間、まろがぼくの手を引いた。
「逃げるで!!」
ばたばたっと部屋を飛び出す。
廊下を走る。
階段を駆け下りる。
お母さんを起こさなきゃ。
そう思った。
でも。
一階には誰もいなかった。
テレビはついたまま。
湯呑みもある。
なのに。
家の中が静かすぎる。
「お、お母さん……?」
返事はない。
しんとしてる。
まるで、世界から音が消えたみたいに。
「ないこ……」
まろの声も震えていた。
その時。
玄関の外から。
「かーごめ、かごめ」
また歌声。
ぼくらは凍りつく。
家の外に、人影が見えた。
一人じゃない。
二人。
三人。
いっぱい。
子どもたちが立っていた。
みんな俯いてる。
ぼろぼろの服。
裸足。
そして。
全員、目が真っ黒だった。
「――っ」
ぼくは息を止める。
子どもたちはゆっくり顔を上げた。
にたぁ。
全員が笑う。
「うしろのしょうめん、だあれ?」
その瞬間。
どんどんどんどんっ!!
玄関を叩く音。
窓を叩く音。
壁を引っ掻く音。
家中が揺れる。
「いやっ……!」
ぼくは耳を塞いだ。
怖い。
怖い怖い怖い。
「ないこ!」
まろがぼくの肩を掴む。
「神社行くで!」
「え……?」
「たぶん、あそこや! あそこになんかある!」
ぼくは首を振った。
「やだ、行きたくない……!」
「でもここおったら死ぬ!」
その言葉で、ぼくは泣きそうになった。
六歳のぼくらに、“死ぬ”なんて言葉は重すぎた。
でも。
まろは真剣だった。
「おれ、ないこ死ぬん嫌や」
その声で。
ぼくは頷いた。
外へ飛び出す。
夜の住宅街は真っ暗だった。
街灯もついてない。
風だけが吹いてる。
後ろから歌声が追いかけてくる。
「かーごめ、かごめ」
ぼくらは必死に走った。
転びそうになりながら。
泣きながら。
神社へ向かう。
石段が見えた瞬間、まろが叫ぶ。
「あそこや!」
ぼくらは駆け上がった。
でも。
神社の空気は昼と全然違った。
暗い。
冷たい。
まるで息をしてるみたい。
社の前には、あの女の人が立っていた。
ぼくらを待っていたみたいに。
「……っ」
まろがぼくの前に立つ。
小さい背中。
震えてるのに。
ぼくを庇ってくれてる。
「お前、なんなん」
まろが叫ぶ。
女の人は答えない。
ただ。
すう、と腕を上げた。
すると。
社の扉が、ぎぃぃっと開いた。
中は真っ暗だった。
でも。
何かいる。
わかった。
暗闇の奥に。
何人も。
何十人も。
人がいる。
「……あ」
ぼくは声を漏らした。
その中に。
見覚えのある顔があった。
ぼく。
だった。
「え……」
小さいぼくが、社の奥に座ってる。
でも。
目が真っ黒。
にたにた笑ってる。
隣には、まろもいた。
「な、に……」
まろも青ざめる。
すると。
女の人が初めて口を開いた。
「遊びましょう」
しゃがれた声。
子どもみたいな笑い声が混ざる。
「かごめかごめを」
瞬間。
周りにいた子どもたちが、一斉にぼくらを囲んだ。
「っ!!」
逃げられない。
子どもたちは手を繋ぎ、ぐるぐる回り始める。
「かーごめ、かごめ」
歌声。
笑い声。
地面が揺れる。
ぼくらは円の真ん中に閉じ込められた。
「やめろっ!!」
まろが叫ぶ。
でも止まらない。
「かーごのなーかのとーりーは」
ぐるぐるぐるぐる。
世界が回る。
頭が痛い。
気持ち悪い。
ぼくは泣きそうになりながら、まろの手を握った。
すると。
まろが小さく言った。
「ないこ」
「……なに」
「目ぇ閉じんといて」
「え」
「後ろ、見たらあかん」
ぼくは震えた。
歌が続く。
「よあけのばんに」
ぐるぐる回る子どもたちの隙間から、女の人が近づいてくる。
ゆっくり。
ゆっくり。
「つるとかめがすべった」
女の人がぼくらのすぐ後ろで止まった。
気配がする。
冷たい。
息が。
首にかかる。
「うしろのしょうめん――」
ぼくはぎゅっと目を閉じそうになった。
その時。
まろが叫んだ。
「走れぇぇぇぇっ!!」
どんっ!!
まろがぼくを突き飛ばす。
円が崩れた。
ぼくは地面に転がる。
「まろ!?」
見ると。
まろが女の人に掴まれていた。
白い手。
細い指。
でも異様に長い。
まろの腕に絡みついてる。
「ないこ!! 逃げろ!!」
「いやだ!!」
ぼくは泣きながら立ち上がった。
でも。
足が動かない。
女の人がゆっくり顔を上げる。
真っ黒な目。
その奥に。
たくさんの子どもの顔が見えた。
泣いてる子。
笑ってる子。
みんな助けを求めてる。
「……っ」
怖い。
でも。
まろを置いていけない。
ぼくは震えながら、落ちていた木の棒を掴んだ。
「まろを、返せ!!」
叫びながら振り下ろす。
ばんっ!!
女の人の腕に当たった。
その瞬間。
ぎゃあああああああっ!!
耳を裂くような悲鳴。
空気が揺れる。
子どもたちの影が崩れた。
まろが地面に倒れる。
「まろ!!」
ぼくは駆け寄った。
すると。
社の奥から、黒い何かが溢れ出した。
どろどろした影。
無数の手。
「……にげ、ろ」
まろが掠れた声で言う。
「早く……!」
でも。
ぼくは首を振った。
「一緒に帰る!」
「……っ」
その時だった。
カラン。
鈴の音が響く。
風が吹いた。
社の上に掛かっていた古い鈴縄が切れ、真下へ落ちる。
どおんっ!!
鈴が社を潰した。
次の瞬間。
黒い影たちが悲鳴を上げながら消えていく。
女の人も。
子どもたちも。
全部。
夜の闇に溶けた。
静寂。
風の音だけが残る。
ぼくらはその場に座り込んだ。
はぁ、はぁ、と息をする。
しばらくして。
東の空が少し明るくなっていることに気づいた。
朝だった。
「……終わった?」
ぼくが聞く。
まろはぼんやり頷いた。
「……たぶん」
ぼくらは顔を見合わせた。
そして。
同時に泣き出した。
怖かった。
本当に。
死ぬかと思った。
まろは鼻をすすりながら笑う。
「ないこ、めっちゃ泣いとるやん」
「まろだって!」
「おれはかっこよく泣いとんねん!」
「なにそれぇ……!」
泣きながら笑った。
朝日が神社を照らす。
もう。
歌声は聞こえなかった。
でも。
帰ろうとした時。
ぼくはふと、後ろから視線を感じた。
振り返る。
誰もいない。
壊れた社だけ。
……なのに。
耳元で、かすかに声がした。
「みぃつけた」
ぼくは凍りついた。
癒やしだと思った人たちすいませんでしたっっ💦
最近ホラーに書くのハマってまして‥👉️👈️
この小説で、バトエン・ホラーにハマる人がいてくれたら嬉しいです!
企画参加ありがとうございました!✨️