テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
そして、私は、
「今夜、智之に電話して、ちゃんと『別れる!』って言うね」と言った。
「分かった」と匠。
「アイツのことだから、結果が出るまで待ってくれって言うだろうな」
「うん、そう言ってたし……でも、もう動画を撮られて言い逃れ出来ないんだから、あの|女《ひと》から一生逃げられないよ」
「だろうな、ホント馬鹿だよな」
もう智之のことは、どうでも良いと思っていた。
私の中で、どんどん憎悪が増していたのだ。
どうせ、戻ったとしても、又智之は、『断れなかった』と言って、同じようなことを繰り返すだろう。
それを我慢する人生など私には、もう耐えられないと思った。だから、戻るつもりはない。
今までも、色んな女性たちに声を掛けられて、調子に乗っていた智之。優しさを履き違えている。断わる優しさもあるのに……あの人には、それが分からない。だから、何でも受け入れてきた|顛末《てんまつ》がコレだ。
智之の奥さんになる人は、一生それを我慢しながら、生活しなきゃならない。
私は、そんな役目は御免だ! あの|女《ひと》に任せようと思った。私から奪ってでも智之を手に入れたかったのだから、それぐらい我慢しなきゃね。
別れる! 踏ん切りがついた。
匠のおかげだと思った。
結局、離れ難くて、ずっと2人で話していた。
すると、匠に、
「俺の恋バナは言わされたけど、綾の初恋の続きは? 幼稚園の時ってことしか聞いてないけど?」と言われた。
「う〜ん、だって幼稚園の時のことって、幼なかったから、そんなに鮮明に覚えてないんだよね」と私が言うと、
「綾は、東京の幼稚園?」と聞かれて、
「ううん、埼玉なの」と言うと、
「え? そうなのか?」と匠は、驚いている。
「うん、ちょうど父の仕事の都合で、親子3人だけで埼玉に住んでたことがあったから」と言うと、
「え? マジか?」と、又驚いている。
「で、又東京に戻って来たのが小学生になる頃だから、幼稚園の3年間は、埼玉に居たって母が言ってたなあ」と言うと、
「なんて言う幼稚園?」と聞いた。
「え〜〜? なんだっけ? あっ、白百合幼稚園だ!」と言うと、
「え? 嘘! 俺も白百合だぞ」と言う匠。
「え〜? ホントに? そんな偶然ある?」と言うと、
「いや、確かに白百合だった。え? 綾ん家って、青いアパートだったか?」と言う。
「あ〜そうそう、青い賃貸アパートだった。なんで青なの? って言った覚えがある! どうして分かったの?」と言うと……
「うわ〜〜! 超ビックリ!」と言っている匠。
「え、何、何? どういうこと?」と私の頭の中には、???マークがいっぱい並んでいた。
「お前さあ、男の子と遊んでなかったか?」と匠
「う〜ん、埼玉に居たのは、3歳の年少さんから、年長さんまでだから、正直あんまり覚えてないんだけど……あっ! でも、なんか《《たっくん》》って子と、よく遊んでたような気がする! その響きだけ覚えてるかも……」と言うと、
「うわ〜〜」と言ったまま固まっている匠。
「え? 何?」と、まだ気づかない私。
匠は、自分の鼻を右手の人差し指で差して、
「《《たっくん》》」と言っている。
「は〜? ふふふふ」と、匠が冗談を言っているのだと思って笑うと、
「いや、マジで!」と言う。
「なんで? 匠、神奈川出身じゃなかったっけ?」と聞くと、
「うん、埼玉から神奈川に引っ越したから、幼稚園までは、埼玉に居た」と言う。
「え? ホントに?」と、さすがに私も驚く。
「俺、匠だから、《《たっくん》》!」と言った。
「え〜〜〜〜〜〜!」と、私はようやく理解した。
「そうなるよなあ……」と笑っている匠。
「嘘でしょう! え、ちょっと待って! じゃあ、おままごとのお母さん役は、私?」と聞くと、
「うん」と笑っている匠。
「えっ! 幼稚園ごっこの先生役も?」と聞くと、
「うん」と微笑む。
「待って待って、結婚するって、ファーストキスの相手も、わ、た、し?」と聞くと、
「そうみたいだな。尻に敷かれてたの、俺!」
と笑っている。
「嘘でしょう?」と、驚きすぎて私は、口をポカーンと開けたままになっている。
そして、匠は、
「なんなら、たっくんは、あーちゃんからファーストキスをされたぞ!」と笑っている。
「嘘! 本当に? こんなことってある?」
「いや、俺もビックリだよ!」と言っている。
「帰ってから、お母さんに聞いてみよう。たっくんって覚えてる? って」
「うん、そうだな、絶対そうだから」と言う。
「ホントに? だとしたら、凄いね〜」と言うと、
「だからか……」と匠が言った。
「ん?」
「綾に初めて会った時、なんかわからないけど、初めてじゃないような気がしてた」と言う匠。
「そうなんだ。あっ! でも、私もさっき匠に抱きしめられた時、懐かしいと思った! なぜだろうって思ってたの」
「そっか、俺たちは、もう幼稚園の頃に出会ってたのか」と匠が言ったので、妙に納得してしまった。
そして、私は、さっき匠が言っていたことを思い出していた。
「ね〜ね〜さっきさあ、《《その》》女の子のこと、可愛くて好きだったんだよな〜って言ってなかった?」とニヤけながら聞くと、
「そんなこと言ってたか?」と笑っている匠。
「言ってたよ〜だって、初恋は、幼稚園の時って」
「なら、《《あーちゃん》》も幼稚園の時が初恋って」
「あ〜そうだよね、《《たっくん》》!」と匠を指差す。
「たっくんは、恥ずかしい」と右手で顔を隠している匠。
「ふふ、私、匠が初恋の相手だったんだ」
本当に驚いた。こんな偶然ってあるんだ!
女の子の方がしっかりしてるとか、匠が尻に敷かれてたとか、オマセな女の子って……全部自分がしたことなんだと思うと恥ずかしくなった。
匠の顔を見て、
「ふふふふっ」と笑い合った。
そして、「たっく〜ん」と言いながら、匠を抱きしめた。
「たっくんは、やめろ」と言いながら、ぎゅっと抱きしめてくれる。
だから、抱きしめられると落ち着くし安心するんだ。そして、懐かしい感じがしたのだ。
下から匠の顔を見上げた。
すると、チュッと又、キスが落ちて来た。
「さっきのが初めてじゃないぞ! ファーストキスは、21年も前だからな」と言った。
「ふふ、そうなんだね」
凄く驚いたけど、嬉しくて穏やかな気持ちになれた。
そして、匠は、私の頭を支えながら、もう一度、ゆっくりと、素敵なキスをくれた。
心地良いキス、気持ちいいキス
匠、上手だなあ〜と思ってしまった。
「さっき匠、モテなくはない! って言ってたけど、ホントに彼女は、居ないの?」
と聞いている自分がいる。
「うん、会社入ってからは居ないよ」と言う。
「選択して精査してるって……」
「あ〜学生の頃の友達が煩くて、女友達から俺の写真を見て紹介してくれって言われてるって」
「へ〜凄いじゃん! やっぱモテるんだね」と言うと、
「俺は綾にモテたかった」と言った。
また、きゅんとしてしまった。
恥ずかしくて、顔を匠の胸に埋める。
「ふふ、何照れてんだよ」と笑いながら、ぎゅっと抱きしめられる。
「だって、ずっと同期の友達だと思ってたから」
「だよな、だから俺も驚いた、『優しくしないで! 好きになっちゃうから』とか『もう好きになってるんだもん』って言われると思ってなかったから」
と言われると、余計に恥ずかしくなった。
「あ〜もう言わないでよ!」と言うと、
「ふふ、可愛い」と言いながら、額にキスをする。
「もう! だって、自分でもビックリしたんだもん」と言うと、
「そっか、綾、嬉しいよ」と言う匠。
そーっと、顔を上げて匠の顔を見る。
優しい笑顔で見つめられる。
「たっくん!」と呼ぶと、
「それは、やめろって」と照れている。
「ヤダ! 2人の時は、たっくんって呼ぼう」と笑うと、
「お仕置きが必要だな」と、また優しくて素敵なキスをする。
お仕置きなんかじゃない。とても満たされる心地良いキス。何度でもして欲しいキス。
ダメだ、もう匠のこと、こんなにも好きになっている。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!