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「今日頑張って言えるか?」と匠。
「うん、大丈夫! もう未練なんてない!」と言うと、
「そっか、俺はいつでも待ってるからな」と言ってくれた。
「うん、ありがとう、たっくん!」と言うと、
「ハハハッ、お前それギャグにしてるだろ」と笑う。
「そんなことないよ、素敵な愛称よ、精一杯親しみを込めて」
「じゃあ、綾は、あーちゃんか? あ、いややっぱ綾は、綾だよ」と、言っている。
「良いよ、どっちでも」と笑顔で言う。
そして、自分から匠にキスをした。
「こんなだった? ファーストキス」と言うと、
「ふふ、こんなに気持ち良くない。こっちの方が断然良い!」と、もう一度大人のキスをやり直される。
5歳だったたっくんは、大人になった。
26歳のキスは、とても素敵だ。
3歳だった私の記憶は、ほとんどなくて、ファーストキスなど全く覚えていないけど、24歳になっても、やっぱりたっくんが好きなんだと分かった。
これは運命だと思った。
匠は私にとって、ソウルメイトの1人だと思っていたが、そうではなく、ツインレイなのではないかと思った。
ソウルメイトは、前世から深い関わりを持つ特別な存在。恋人だけではなく、家族や友達、複数人居て魂のグループの一員だとか。
それに対して、ツインレイは、唯一無二の存在。この世にたった1人しか居ないと言われる魂の片割れだ。
ようやくそれに、気づけたんだと思った。
そして、今日は、色々あったし、夜には智之と話さなきゃいけない。
なので、名残惜しいけど、家に帰ることにした。
家の近くまで送ってもらった。
「じゃあな、頑張れよ」と言ってくれた匠。
「うん、大丈夫、頑張る!」
「うん」
「話したら、あとで電話するね」と言うと、
「うん、分かった。待ってる」と。
「うん、今日は、本当にありがとうございました」と、頭を下げると、
「ふふ、何だよ、改まって」と笑顔をくれる。
「ちゃんとお礼が言いたかったから」と言うと、
「そっか」とまた頭をヨシヨシされる。
「もう一回パワー頂戴!」と手を広げると、
「良し!」と、ぎゅっと抱きしめてくれる。
そして、チュッとしてくれた。
「ありがとう! じゃあ気をつけてね」
「おお、じゃああとで!」と、
「うん」と、手を振り車を降りた。
匠のマンションは、ココから20分もかからない。
──あのたっくんが、こんなに近くに居たなんて……
匠は、運転席の窓を開けて、
「家どっち? 入って! 見てるから」と言われたが、
「そこを曲がったらすぐだから、私が見送りたい」と言った。
「分かった! じゃあ帰り気をつけろよ」と智之と同じことを言うんだと思った。家まで30秒ほどなのに……
私の頭をポンポンとして、ハイタッチをして、車は動き出した。手を振る。
見えなくなるまで匠の車を見送った。
そして、我に返って、
──あ〜お母さんに何て言おう
と思いながら、私は角を曲がって家の方へ向かうと、前から来る人に、
「綾!」と呼ばれた。
「え?」
暗闇で見えにくかったが、智之だった。
「こんな所で何してるの?」と聞くと、
「綾のこと待ってた」と言う。
「待ってたって、何? 私のことほったらかして帰ったくせに!」と言うと、
「え、ずっと海に居たのか?」と言う智之。
「ずっとじゃないけど……」
「ごめん、ホントにごめん」と謝る。
「何がごめん? ちょうど良かった! 電話しようと思ってたから」と言うと、
「え? そうなのか? じゃあ、ちょっとどこかで話さないか?」と言う智之。
家の前で話していると、人目もあるので、
「でもお店には、行かないよ! 車で話そう!」と言うと、
「分かった」と、智之の車が停めてある場所までついて行った。
近くのパーキングに停められた智之の車に乗った。
──もうこの車に乗るのもコレが最後だ。
ニコニコしながら乗ってたあの頃と、今は全く違って見える景色。
そして、
「今日は、ホントにごめん」と言う智之。
「今日?」と聞き返すと、
「あ、いや、全部ごめん。俺が悪かった」と言った。
──何が全部よ! 謝って済む問題?
と、思ったがもうどうでも良いと冷めている私は、
そんなことすら話すのも面倒だった。
「もう良いから。トモ! 別れよう!」と言った。
「え? ちょっと待ってよ綾」と焦っている。
「これ以上、何を待てって言うの?」と聞くと、
「鑑定結果が出るまで……」と言ったので、
「待って何かが変わるの? どうせ私が傷つくだけじゃない? もうあなたは、あの|女《ひと》から一生逃げられないのよ!」と言うと、俯いて黙りこんだ。
「あなたは、それだけのことをしたの! もう自覚があるんでしょ? 責任を取って結婚してあげなさいよ! あの|女《ひと》の望み通り」と言うと、
「それしか、もう道はないのかなあ?」と言った。
──知るか!
と思ったが、それすらももう話したくない。
「もう良い? 今までありがとう! さようなら」と言うと、
「待って、綾!」と、智之は、私の腕を掴んだ。
ジッとその手を見つめた。
「さっきは、この手を離したくせに!」と、智之を睨みつけると、
「ごめん、どうしていいか分からなかったから」
と言った。
「もう、どうにもならないの! あなたが私じゃなく、あの|女《ひと》を選んだのよ!」と言った。
結婚までしなくても、認知で良くない? って私が言った時、何も答えてくれなかった。
もうすでに、あの|女《ひと》と結婚して、子どもを育てなきゃって決めてたからだと思った。
「もうあなたは、私なんか必要ないのよ」と言うと、
「綾……ごめん……」と泣いている。
智之の涙を初めて見た。
──私の方が泣きたいよ……
このまま一緒に居たら、ほだされてしまう。
『元気でね』と言いかけて、どうせ会社では又きっと顔を合わせるから、それは分かる。
「じゃあね、さよなら」と言って、私は車から降りてドアを閉めた。
──終わった